春日からの返信も妻に引き込まれるように真剣になっていきます。
春日の結論は、このまま放っておいても良くなることはない。
妻と私は、本当の夫婦のセックスの良さに気づくことはないというものでした。
妻と春日が始めて関係を持ったのは4月始めです。
関係を持ったその日、妻は延々と夫を裏切ったことについての悔恨を綴っています。
春日がそれに、やや閉口しながらも妻を必死でなだめる様子が伝わって来ます。
妻が始めて絶頂を感じたのは6月です。
妻は、その喜びもメールで伝えていますが、
その大半は、これで私に満足してもらえる女になれたというものです。
春日は、それに対して、まだ安心しないほうが良い。
男とは、もっと複雑なものだとたしなめています。
男の予想通り、妻が私と久しぶりにセックスをした昨年の7月、
春日との行為で感じたエクスタシーを感じることが出来なかったとがっかりした妻のメールがあります。
その後、妻がパニックになったようなメールが続きます。
6月の春日との行為でケジラミを移されたことが分かったのです。
春日は、妻との関係の傍ら、風俗にも通っていたようで、自分の不覚を平謝りに謝っています。
ケジラミを私に移したかもしれないと恐慌に陥っている妻を、
きっと風俗から移されたと考えるだろうと春日は必死に宥めています。
さらに「ケジラミの治療」ということで悪乗りした7月15日の行為
(春日の誕生日で妻が始めて剃毛され、さらにアヌスを責められた日です)
のことを詫びるメールが続きます。
妻が、弾けたような喜びのメールを春日に送ったのは、
私との行為で始めてエクスタシーを感じた10月のことです。
私の身体の上で女の悦びを極め、
ともに絶頂を感じたこと、結婚以来始めて本当の夫婦だと感じた幸福を春日に伝え、
これもすべて春日のおかげだと感謝しています。
春日はやや苦笑しながらも妻を祝福し、自分から卒業する日も近いことを告げています。
妻の春日へのメールには、春日への愛を表すものは何一つありませんでした。
そこにあるものは私に対する片思いに似た激しい愛情。
私と身も心も一つになりたい、そのためなら何でもするという熱情だけでした。
12月4日から5日にかけての旅行はいわば妻の「卒業試験」だったようです。
春日に開発され、女として完全に自信を持った妻は、
そのお礼としてさらに12月24日に、全身にリボンをかけた自分を春日に捧げます。
それで2人の関係は終わったようで、その後のメールのやり取りは一切ありません。
***
メールを全部読んだ私は、複雑な気持ちになって考え込んでいました。
メールを見る限り、妻は春日に対する愛情はないようです。
私についての惚気のような表現はありますが、
春日への愛情表現はありません。
春日も妻に対してはメールの上では生徒に対する先生のようでした。
私は、妻の自分に対する愛が失われていない、
少なくとも私よりも春日を愛した訳ではないということを知って安堵していることに気づきました。
そう、私はまだ本音では妻を失いたくはなかったのです。
ですが、どうしても納得出来ないことがあります。
それは妻と春日のメールでのやり取りと、
実際にビデオや写真で撮られた2人の姿のギャップです。
ビデオや写真での2人の姿は、私には愛し合っているように見えました。
メールでのやり取りが、いかにそうではないと言っていても、簡単には信じられません。
私は翌日、会社には医者に立ち寄ると連絡して春日に会うことにしました。
今回は、会社の近くの喫茶店は避け、駅の近くの公園に春日を呼び出しました。
朝の公園は人も少なく、周囲に話を聞かれる心配がありません。
春日はほぼ時間どおりに、中年太りの身体を揺すりながらやって来ました。
「どうも、わざわざ近くまで来ていただいて申し訳ありません。
本来なら私の方が出向かなければならないところですのに」
春日は深々と頭を下げます。あくまで低姿勢です。
「いえ、会社に行く途中ですから」
私はうなずき、本題に入ります。
「メールは全部読ませていただきました」
「そうですか」
「確かにあそこからは、妻はあなたに対する気持ちはないようだし、あなたも同様だと読める」
「はい」
「春日さん」
私は春日の目を真正面から見据えました。
「あなたは、本当に妻を愛していなかったのですか?」
「えっ」
春日の目にわずかな動揺が走りました。
「ですから……それは」
「本当のことを言ってください」
「……」
私の追求に春日はうつむきました。
「……愛していました」
春日は小さな声で答えました。
「私は結婚に失敗して以来、色んな女をとっかえひっかえして遊んで来たのは本当です。
出来るだけきれいに遊んで来たつもりですし、人妻に手を出して修羅場になったこともありますが、
きちんと慰謝料を払ってなんとかおさめて来ました。
前にも話しましたがこれは私の性癖のようなもので、治らないと思っていました」
「旦那との性生活に悩んでいる何人かの人妻の相談にのって、
実地指導付きのセックスカウンセリングまがいのことをやったのも事実です。
私としては人助けをしているような気分になっていました。
そんな人妻の中に奥さんの友人がいて、始めはその人経由で奥さんの相談を受けました」
小夜子さんのことだろうか、と私はふと考えました。
「だから奥さんとの関係も、最初は、それまでの人妻たちと全く変わることはなかったです。
ただ、何度かメールをやり取りしているうちに、奥さんが他の人妻と全然違うことが分かりました」
「他の人妻は、旦那とのセックスの問題を解決すると言いながら、
実際は私とのセックスについても興味津々でした。
旦那も遊んでいるのだから、私もこの機会に楽しんで見たいという気持ちが見え見えでした。
ですが、奥さんについては全くそういうことがなく、
私からそういった話題を振っても、のってくることはありませんでした」
確かにメールでの妻の対応はそうでした。
「しかし、妻は私も風俗で遊んでいるのだからお互い様だといっていたぞ」
「それは私が言っていたことをそのまま言っているだけで、本心ではないと思います。
奥さんはご主人が風俗にはまることそのものが自分のせいだといって、深く悩んでいました」
私は昨日、妻がテーブルにこぼした涙のことを思い出していました。
「私は、次第に、奥さんを自分のものにしたいという欲求にとらわれ始めました。
それでエクスタシーを得るために必要なプロセスだと説得して奥さんに私の名を呼ばせて、
愛していると言わせているうちに、
奥さんも本当は私を愛してくれているのではないかと錯覚し始めました。
しかし、それとは逆に、奥さんがご主人との行為でエクスタシーを感じるようになってからは、
奥さんは私との行為の中でも、時々感極まってご主人の名前を呼ぶようになりました」
「そんなことは……ビデオには……」
「後で見るとつらくなるので編集して全部カットしています。その場面をお見せしても良いですよ」
春日は寂しそうに言いました。
「どんどん奥さんの気持ちが離れて行く——
いえ、始めから私のところにはなかったかもしれないのですが——
そう思った私は、卒業旅行だと言って奥さんを温泉に連れ出すことにしました。
少々のことでご主人に対する気持ちが揺れないかテストすると適当な理由を付け、
2日間春日紀美子としてふるまえという私の言葉を奥さんは疑いもしませんでした。
私にはなんとかこの2日で、奥さんに最高の快楽を経験させることによって、
奥さんを自分のものに出来ないかと考えていました」
「近くの公園で露出させたのは?」
「最初に、そこまで経験させることでショックを与えようとしたのです。
奥さんはもちろん抵抗しましたが、なんとか説得しました。
もちろん周囲に人がいないことを十分確認して撮影しましたが、
あれは悪乗りだったと思います。申し訳ありません」
春日は頭を下げました。
「旅行の初日とその夜で、私はありとあらゆるテクニックを駆使して、
奥さんを自分のものにしようと思いました。
しかし、ついにそれは果たせませんでした」
「そんなことはないだろう。妻は春日紀美子として振る舞い、春日紀美子として……」
何度もイッていたぞ、という言葉を私は呑み込みました。
「あれは編集です」
「何?」
「旅館での夜、奥さんがその……イク場面を集めたもの、あれは編集なんです」
「編集なのは分かっている。実際は一晩かかったのだろうからな」
「違うんです。いや、それも編集ですが、奥さんがイク時に叫んでいる声、それが編集、いや合成なんです」
「どういうことだ」
私は春日が言っていることの意味が分かりませんでした。
「最初の1、2回は別にして、奥さんは訳が分からなくなってくるとイク時にご主人の名前を呼ばれました」
「えっ」
「私はそれが口惜しくて、後で本当の声の上に、私の妻である春日紀美子としてイク、と叫ぶ声を重ねました」
「本当か」
「ちょっと見たり聞いたりするだけでは分かりません。
私はビデオの編集にかけてはプロ並ですからね。
でも、専門家が見ればたちどころに合成や編集だとわかります」
「……」
「他にもビデオには、いろいろな箇所に編集が施されています。
要するにあれは奥さんの本当の姿ではなく、私の願望が混じったものです」
「私は若いころから、ずっと色々な女性遍歴を重ねて来ました。
結婚に付いてはあきらめていたつもりでした。
でも、この年になってこれからもこんな生活を続けるのか、
年老いて一人になったらどうするのかと思うと急に焦りと、
恐怖のようなものを感じるようになりました」
「紀美子さんに出会い、理想の妻というのはまさにこんな人かと思いました。
セックスについては奥手でしたが、開発して行くうちに素晴らしい肉体をもっていることも分かりました。
まさに名器といって良いと思います」
「ご主人のご指摘どおりです。私は奥さんを愛していました。
自分のものにしたいと思いました。
でも、それが無理だと分かった以上、未練がましく追いかけるつもりはありません」
「教えて欲しいことがある」
「なんでしょう?」
「あんた、女の前では関西弁を隠すのか?」
「そんなことはありません。これが地ですし、女を口説く時は、むしろ関西弁の方が便利です」
「なら、どうして妻の前では関西弁を抑えていた?」
「それは簡単です。ご主人が標準語でしゃべるからです。奥さんからの希望でした」
「あと一つ聞いても良いか」
「はい」
「妻の……その、お尻の処女を奪ったのか」
「奪っていません」
春日は、即答しました。
「しかし……妻はビデオで、あんたに捧げると」
「あれは言葉だけのことです。奥さんはご主人に許していない箇所を、私に許すことはありませんでした」
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