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妻の喫煙
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「お帰りなさい。」
「ただいま。」


「お風呂は?、ご飯は食べますか。」
「風呂入るよ。」


「ご飯用意しておきますか。」
「頼む。」


風呂に入りながら、自問自答を始めました。妻が浮気をしたとしても、
私も同じ事をしてしまった。妻に浮気されたからという理由で、そ
れが許されるのか。この二日間で私は、妻と同じ立場に立ってしまっ
た。妻は私の不貞を知らない、また私も妻が不貞をした確証を掴ん
ではいない。その段階で私は、自分の立場を優位にしようという自
己保身の行動を取ろうと考え始めていたのかも知れない。


夕食が済むと、私は片づけが済んだら寝室に来るように妻に告げる
と、2階に上がり子供部屋を覗いた後、寝室で妻の来るのを待った。
ほどなくして妻が寝室にやってきました。これから何が起こるか分
からない恐怖感に慄くかのように、少しうな垂れながら。


「何か話ですか。」


私は、自分の不貞は妻にはばれていない、妻の不貞は確実であるこ
とを自分に言い聞かせ、話を切り出した。


「お前、何か俺に隠してないか?」
「何のことですか?」


「何か隠していないかと聞いている、同じことは言わないぞ。」
「突然そう言われても。」


私は、出窓からガラムを手に取り、ベッドの上に放り出した。少し
顔色の変わった妻は、タバコについて喋り始めた。


「ごめんなさい、隠すつもりは無かったの、でも貴方が、タバコを
吸うのを嫌うかと思って。」


「だからといって、隠れて吸わなくてもいいだろ!」


「ごめんなさい、早く言えばよかったです、タバコを吸うことは許
してもらえます?」


「吸うなとは言っていないだろう。」


ちょっと口調が荒くなってきた私に対して。
「貴方が嫌なら止めます。」


少し間をおいて、妻が私に質問します。
「何時気づいたんですか?」
「前にベッドの下に灰皿を隠していたこと有るよな。」
「はい。」


その時妻は、少し安心したような顔をしたように私は思えた。
「ごめんなさい、貴方が嫌なら本当に止めますから。」
「それはそれでいい。」


これからが本題です、私の心臓は鼓動を早めて行き、言葉も上ずっ
てきました。
「他にはないか?」


妻の顔が青ざめていくのが手に取るように分かりました。この時私
は、今まで心の何処かで99パーセント確実と思ってはいましたが、
妻の反応を見て100セントの確信に変えて行き、自分のことなど
すっかり棚に挙げ、妻に対する詰問を開始しました。


「他にもあるだろう?」
「他にはありません。」



妻は震えていました、目には涙を浮かべ始めています。今までベッ
ド端に立っていた妻は左手をベッドにつき、よろける様に、ベッド
に座り込みました。後ろ向きになった妻の顔は見えませんが、肩が
振るえ始めているのは分かりました。その姿を見たとき、私の中に
罪悪感のような物が少し頭をもたげた。


「嘘は止めよう、まだ俺に隠していることが有るだろう。」
「・・・・」


「それなら、俺の方から言おうか?」
「何をですか?」


妻は、声を荒げてそういうと、両手で顔を多い前かがみになってしまった。
「麻美、お前男がいるだろ!」
「何でそんなこと言うの!」


逆切れに近い口調で言う妻に対して、私の罪悪感は吹っ飛び、立ち
上がると、クローゼットの中から妻のバック取り出し、そのバック
を妻に目掛け投げつけました。床に落ちたバックを妻は胸に抱きか
かえ、私に背お向けました。


「バック開けてみろ!」
「嫌です!」
「開けろって言ってるんだ!」
「・・・」


妻は、後ろを向いたまま、首を横に振るばかりです。怒り心頭に達
した私は、妻に駆け寄り、取られまいと必死になる妻から無理やり
バックを取り上げると、内ポケットから例の3つを出すと、ベッド
の上に投げつけた。


「タバコは、分かった。でもこの高級ライターは何だ?俺は、買って
やった覚えは無い。そのポケベルは何のためにある?、お前が何で
俺に隠れて、そんな物持つんだ?説明しろ!」


「他人の者を勝手に見るなんて酷い!」


「お前がそんなことを言えた立場か!」


一度は私を睨み付けた妻ですが、あまりの私の形相に床に座り込み
泣き出しました。その時ドアを叩く音がして、静かに開きそこには、
儀父母か立っていました。


「大きな声を出して、どうかしたの?」
「義父さん、義母さん何でもありませんから。」


とりあえずその場を取り繕って、儀父母を自室に帰しました。



暫くの間妻は泣くばかりで、話そうとしません。
タバコを買ってくると言い残しね私は寝室を出ました。
タバコが無かったわけではありません。その場の重苦しい空気から、
しばしの間逃げ出したかったのです。近くのコンビニでタバコを買
い、遠回りして家へ帰り寝室に入ると妻がいません。


慌てて寝室のドアを開け妻を捜そうとしたとき、子供部屋から声が
聞こえました。ドアを開けると妻が床に座り込み、ごめんなさい、
ごめんなさい、何度も子供達に向かって頭を下げていました。


「子供が起きるだろ、向こうへ行こう。」






弱々しく立ち上がる妻、寝室に戻った妻はようやく、意を決したよ
うに話始めました。やはり、相手は栗本です。
長きに渡って私を欺いていた事など、ガラムが好きになった理由等
聞かなければ良かったと思う内容の話が続きました。
妻は子供達の為に離婚だけはしないで欲しい、その一点に関しては
目を見開き真剣眼差して私に訴え掛けていました。
私が暴力を振るうことなく、妻の話を聞くことが出来たのも、由香
里との事があったからだと思います。


人間というのは我がままなもの、私を含め自分に有利な言動をする
物です。辻褄の合わない行動を取ったり、辛い目に合えば楽な方へ
直ぐ靡く、後先を考えず行動を取ったりすることも多々あり、感情
に左右され安い生き物であることは身を持って感じさせられました。
また、人間の学習能力は時に欲望に負け、同じ過ちを起こしてしまう。





妻の話した事は、私にはとうてい理解出来ませんでした。
栗本はやはり猛烈なアタックをして来たようです。
初めは取り合わなかった妻も、帰り際に会社の近くで偶然遭ったり
しているうちに、(偶然を装って待ち構えていたのでしょう)、お
茶から始まり、そのうち例の蔵へ行くことになったそうです。


初めは好きでも無い人だし、お茶の相手ぐらいと思っていたのが、
女性としての魅力を再三に渡り褒められているうちに、妻も有頂天
なってしまったらしいです。その時私は妻の行動があまりにも軽率
なのに腹が立って来て、妻を問い詰めました。


私「そんなしょっちゅう誘われていたのか?」
妻「初めは、月に一度か2週間に一度ぐらい、その内週に一回位遭
うようになった。」


私「週に一度位会う様に成ったのは何時からなんだ?」
妻「初めてお茶に誘われてから、半年位してからだと思う。」


私「お茶だけにしても、半年も亭主以外の男とお茶を飲むことに抵
抗は無かったのか、その後に来るものが想像できなかったのか?」


妻「今思えば、軽率だったと思います。」



私「違うだろ、最初からお前の中に何か期待する物があったから、
誘われるままにしていたんだろ。」


妻「最初からそんなつもりは無かった。」



私「嘘を言うな、だったら何故そんな関係になるまで、一度も私に
話さなかったんだ。お前の気持ちの中に後ろめたさがあったからだ
ろ。その関係を私に知られたくないからだよな!」


妻は言葉を失い、私の吐き捨てるような言葉に、ただ下を向いてい
るばかり、その姿は茫然自失といったようにも見えたが、私にとっ
ては、言い逃れを必死に考えているようにも見え、妻への罵倒にも
近い追求は暫し続いていきました。



私はどんな言葉を妻に浴びせ掛けたのだろう、何時しか自分自身が
涙声になっているのに気付き、それを隠すかのように目に入ったガ
ラムを一本取ると、震える手で火をつけて深呼吸するように深く吸
い込んだ。目眩を少し感じながら冷静な自分が戻る間、寝室は静ま
りかえっていた。タバコを吸い終えた私は、妻に栗本との肉体関係
について質問した。


私「何時からセックスしてた。」
妻「半年位前からだと思う。」


私「何回位栗本に抱かれた?」
妻「解らない。」


私「解らない位抱かれたのか。」
妻「・・・」


私「俺が知らないと思って、やりまくってたのか?」
妻「そんなにしょっちゅうはいてません。」
私「じゃ、何回なんだ?」


答えの帰ってこないもどかしさに、また私の声は荒々しさを増して
いました。瞬間妻は、体を硬直させ私の目に視線を合わせ10回位
と答えました。


私「10回じゃ、辻褄が合わないだろ、週に一回は会っていたの
に?」


妻「生理の時も有ったし、会うだけで直ぐ帰る事も有ったから、そ
れ位しかしてない。」


私「それ位しかだ、何回であろうがお前のしたことは、絶対にして
はいけない裏切り行為だ。」


妻「ごめんなさい。」





妻は、突っ伏して泣き崩れた。私と言えば、自分で回数を問いただし
ておきながら、行為そのものを攻めていて支離滅裂の感が否めませ
んでした。そして確信に迫ろうと、内容を変えていきました。





私「栗本とのセックスがそんなに良いのか?」
妻「・・・」


私「そんなに俺とのセックスが詰まらなかったか?
  それとも俺のことがそんなに嫌いか。」


妻「貴方のこと嫌いになった訳ではないです。」


私「嫌いじゃないのに他の男とセックスできるのか?
  お前は何時からそんな淫乱女になった。」


妻「ごめんなさい。」
私「もう謝って済む問題じゃない。」


その時の私は、事の前後は有ったにしても、妻と同じ立場であるこ
とに気付いてはいましたが、妻の浮気が無ければ、私は浮気をしてい
なかった、そう自分を弁護する気持ちが頭の中を支配していました。



>>次のページへ続く




 

 

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