誤-他の道場生徒もにこやかに話をしていた。
正-他の道場生ともにこやかに話をしていた。
今から思い起こしても、自分の余りの能天気振りに地団駄踏む思い
がする。
俺は、最善の道をとるならば、Sさんと別れて、Mちゃんを大切に
しながら受験に全力を傾けるべきではなかったか。
仮に合格できなくても、合格できても、全力を尽くした充実感があ
ったろうし、良い意味での別の人生が開けていただろう。
Sさんと別れなかったのは、Sさんが綺麗だったからだ。
男子クルーが、Sさんの話をするのを、俺はしばしば聞いた。
「あの胸に顔を埋めてみたい」「そうだよな、色気あるよな」等々
俺がSさんを自由にしていることを皆知らない。Sさんの乱れた姿、
身体の隅々を俺は知っている。云々。そこには愚かな優越感があった。
俺は浅はかだった。
恋愛をして、同時に不倫をして、日本一難しい試験に合格しようなど、
できないことは少し考えれば分かることだ。
自分の自由になる肉体、そんなものはない。自由にしたならば、
必ず何か見返りが出て行くことは、今になって分かる。
上手にやっている人間もいると思うが、それでも精神の迫力は薄まり、
消えてゆく。これは恐ろしいことだと、今は分かる。
模擬試験の成績は、波が激しかった。どん底に落ちてみたり、
合格圏をクリアしてみたり。
これは勉強不足に原因がある。知識が体系化されていないため、
当たり外れが激しいのだ。
そこを先輩に指摘されながら、俺は何とか机にかじりついた。
Mちゃんは俺の状況を理解してくれており、時々手紙をくれるだけ
だった。
語り合う時間も惜しいだろうから、ということだ。優しい子だった。
合格を祈っていると、手紙の最後にいつも結んであった。
Sさんは、そうでなかった。電話をかけてくる。会いたいという。
うるさいので、受験一月前に一度会った。
しばらくとりとめもない話をして、その後ホテルに入った。
俺はバイトに入っておらず、金がないので、ホテル代は彼女に払っ
てもらった。
ホテルでは、おれはSさんに襲いかかった。もちろん、丁寧に優し
く扱ったが、心の中では彼女に襲いかかりレイプするイメージだった。
「勝手なことばかり言って、俺の状況を全く分かってないじゃないか。
今俺は大切な時期なんだ・・・」と心の中では思いつつ。
Sさんは、「会いたかったの、抱いて欲しかったの」と言いつつ、
俺の頭をうめき声を上げながら抱きしめた。
俺は彼女を犯すようにして、3回射精した。3回目には激しい疲労
感が俺を襲い、腹の辺りがむかむかした。
「私を愛してる?」
「ああ」
「本当に?」
俺は頷いたが、内心の嫌悪感を押さえるのに苦労した。
受験が近づいた。俺は一日10時間以上勉強した。
が、実質はそれほどでもなかった。
頭に、別のことがいつもあったからだ。Mちゃんのこと、
Sさんとの関係が泥沼になりそうな気配を感じること。
夢中になって勉強してるときは良いが、ふと我に返ると、
いつの間にかそんな事を考えていた。
受験が済んだ。合格発表まで、時間がある。きちんとしている受験
生は、ここで手を抜かない。
が、俺はMちゃんとデートしたりし始めた。つくづく自分を馬鹿だ
と思う。