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別れた妻







これは果たして「愛妻談」の部類に入るかどうか疑問ですが、私の話を聞いてください。

聞いていただくだけで胸につかえているものが少しは楽になるかもしれませんから・・・。



実は、私は、バツイチの身で、4年くらい前にドタバタの末に再婚しました。

というのは、よくある話ですが、私が勤務先の女性、彼女は妻より十才近く年下ですが、その彼女とできてしまい、ズルズルと関係を続けるうちに、彼女が妊娠しちゃったんです。

それで、彼女が結婚を強く求めてきたんです。

それで、あるとき、とうとう彼女が私の家にやってきて、私のいる前で妻に直談判を求めたんですよ。

いやあ、ほんとに、これもよくある話ですが、でもやっぱり私にとっては地獄以外の何ものでもなかったです。

でも、妻は思いのほか冷静で、実はこれが一番怖いのですが、まあとにかく十才近くも年下の女相手に取り乱すのも大人気ないと思ったのか、相手の言うことを表情一つ変えず聞いていました。

ただ、彼女が、妻と私の間に子供がないことを指摘した上に、自分の中には私の子がいると誇らしげに言ったときだけは、ちょっと顔色が変わり、横目で私に「ほんとなの。」と詰問しました。

私が、「ああ、すまん。」とうなだれると、「あなたは、どうしたいの。」と私に聞きます。

すると、彼女が「そんなこときまってるじゃないですか、○○さんは私と結婚を・・。」と言いながら割り込んでくるのに対して、「あなたには聞いていません。夫に聞いているのです。」とピシャリと言うと、彼女は不満そうに口を尖がらせてプイッと横を向きました。


妻は、私に向き直り、再度「どうなの?」と聞きます。

私がモゴモゴ言ってると、妻は「わかりました。」と言って席を立ち、彼女に向かって「どうぞ、お帰りください。お話はわかりました。後は夫婦の問題ですから。」と言いました。

彼女は、まだ何か言いたそうにしていましたが、妻にせき立てられるようにして帰されました。

その日は、妻は何事もなかったかのようにいつもどおり家事をし、そして私たちはそれぞれのベッドで寝ました。

私が話をしよう妻を呼びましたが、寝たふりをしていたのかほんとうに眠っていたのかわかりませんが、妻は黙ったままでした。


次の日、私が帰宅してみるとダイニング・テーブルに書置きがあり、「しばらく実家に帰っています。それからのことは、こちらから連絡します。」と書いてありました。

それから一月くらいして妻の印鑑が押された離婚届けが送られてきて、それからほどなく私は今の妻と再婚したわけです。

--------------------

それからの一年は、新しい生活のスタート、妻の出産、育児とバタバタとあわただしい中にも幸せな日々が過ぎていきましたが、一人になったときには、ふっと前妻のことを思い出したりもしていました。

というのも、私たちは、いや少なくとも私は憎しみ合ったり嫌いになって別れたわけではありませんから。

もっとも妻の方は、最後の気持ちがどうだったのか私には知るすべもありません。

突然、実家に帰ったかと思うと、一枚の紙切れだけが届いただけですから。

ひょっとしたら、無責任で身勝手な私を心底憎んでいたのかもしれません。

でも、私のほうは、どちらかというと自分でもはっきりとしないうちに進んでいく事態についていけないまま、気がついたら妻と別れていたというのが実感ですし、妻に何か不満があったわけでも、ましてや憎んでいたわけでもありませんでした。


まあ、今の妻の若い肉体に私の男の性が溺れてしまったということです。

といっても、前妻とのセックスに不満があったわけでもありません。

むしろ、前妻とのセックスも、最初の頃は今の妻とよりもある意味で濃密だった気がします。

ただ、ご馳走でも同じものを毎日食べるとちょっと飽きがきてしまうのと同じようなものだったのでしょう。


今の妻と生活を始めて特に感じたのは、精神的な成熟度がぜんぜん違うということです。

もちろん、今の妻も私によく尽くしてくれるし、愛してくれているのはわかります。

でも、前の妻と比べてしまうと、それはやっぱりまっすぐではあるものの、どこか幼さがあって、私は精神的には常に妻の兄か父親のように保護者的な立場になってしまいます。


一方、前妻と私の関係は、ときには私がそういう役割をこなすこともありますが、ときには反対に妻が私の姉か母親といったら言い過ぎかもしれませんが、とにかく安心して包まれることができる・・・、そんな存在でもありました。


そういうわけで、前妻との離婚の後、今の妻と新たな生活を始めてからも、前妻のことをすっきりと忘れることができたわけではありませんでした。

もちろん、今の妻の前では、そのようなことはおくびにも出しませんから、多分、前妻のことをすっきりと忘れてくれていると思っているのでしょう。

でも、何かの拍子で前妻との生活のときに使っていた物が出てきたりする度に、前妻のことを密かに思い出していました。

--------------------

そんな前妻が、再婚したということを私が知ったのは、私たちの新婚生活が始まって三年くらいたってからでしょうか、私の母からその話を聞きました。

「おまえが知ってどうこうなるもんじゃないけど・・・。」と前置きしながら、母はそのことを私に教えてくれました。


母は、前妻ととても仲がよく、私が前妻と別れたら親子の縁を切るとまで言っていましたが、結局離婚を持ち出したのは前妻の方だったので、そういうことにはなりませんでしたが。

母は何度も妻の実家に電話して説得したようですが、結局妻の決意は固く、翻りませんでした。

でも、最後まで母と前妻はいい仲でしたし、今でもときどき会って話をしたりしていたようで、そのときに知ったそうです。

でも、そのことを知っても、しばらくは私に教えてくれず、結局、私が知ったのは前妻が再婚してから二年近くがたってからでした。



その話を母から聞いたときの気持ちは、正直に告白しますと、落胆以外の何ものでもありませんでした。

なんといい加減なことを言っているのだとお叱りを受けそうですが、事実そうでしたから仕方がありません。

電話を切った私は、なんか体全体から力が抜けてしまったようにがっくりして、妻に、「今日はちょっと仕事があるから、先に寝てて。」と言って、自分の部屋で一人ウィスキーを飲みながら明け方近くまで物思いに耽っていました。

結局、私は、そのまま机で寝込んでしまって、朝になってそれを見つけた妻が「なによ、仕事と思ったら飲んでたんじゃないのよ。」と呆れた顔をしていました。


その言いようのない喪失感はしばらく続き、そして意識の表層から姿を消したように思えるようになった後も、時折ふっとした拍子に静かに頭をもたげてきて私をじわりと苦しめました。

一緒に酒を飲んでいた後輩から、

「最近の○○さん、なんか哀しそうな顔してますよ。あんな若い奥さんもらってるのに、バチがあたりますよ、まったく。」と笑いながら言われたこともありました。

でも、その実、私はそんな顔をしていたのだと思います。

若々しく今の妻との、すくなくとも他人にはそう見える、幸せいっぱいの生活の裏で、私の中にぽっかりと開いてしまった喪失感はゆっくりと着実に広がっていくようでした。

仕事と偽って夜自分の部屋にこもり、妻に隠れて昔の前妻の写真を見ながら物思いに耽ることも多くなりました。

--------------------

あるとき、とうとう私は一目、そして一目だけ前妻の姿を見に行こうと決め、母から前妻の住所を聞きだしました。

母は「なぜ、そんなものを知りたがるんだよ。」と言います。

「いや、ちょっと、あいつのものが見つかったので届けてやろうと思ってさ。」と誤魔化すと、母は「そんなの送ればいいじゃないの。」と言っていましたが、結局は教えてくれました。

その住所は私のところからだと、電車を乗り換えて行けば30分ちょっとくらいで行ける場所にありました。

前妻が思いのほか、近いところに住んでいるのを知って、意外な感じがしました。


次の日、私は「きょうはちょっと朝の会議があるから。」と早く家を出ると、その住所に向かいました。

疑うことを知らない妻は、いつもどおり玄関口まで見送りに来て、これもいつもどおり軽くキスすると私は家を出ました。

そして駅に向かうといつもと反対のホームで待ちました。

知り合いに見咎められるのも嫌なので、ホームの端の目立たないところに立って待ち、到着した電車にそそくさと乗り込みました。


前妻の家は、駅から15分くらいのところの新興住宅街の一角にありました。

『こんなとこに来てどうしようっていうんだ・・・』と自問しながらも、一目前妻に会いたいという気持ちと

「いったいいまさら何しにきたの。」と惨めに叱責されるのを恐れる気持ちとが交錯するなか、四つ角の電柱の影に隠れるようにして、でもあまり怪しまれないようにして立っていました。


すると、驚いたことに、前妻の住む家の玄関ドアが空き、中から男が出てきました。もちろん今の夫でしょう。

そして、その後ろから前妻の懐かしい姿が現れました。

私は、はっとして影に隠れ、そっと様子を窺いました。

前妻は髪を短くしてボーイッシュな感じになっていて、それがまた前妻と過ごした時と今との間の時の経過を感じさせました。

夫が振り返って妻に一言、二言何か言ったみたいでしたが、夫は出て行き、前妻はそれを見送ってからパタンとドアを閉めました。

私が前妻の姿を見たのは、たったそれだけでした。



夫が去ってしばらくして、私はその家の前までいき、よほど玄関ベルを押そうかと何度か迷いましたが、結局思いとどまってそこを離れ、出社しました。

「今さらどんな顔をして会うつもりなんだよ。それに会ってどうしようって言うんだ、まったく。」

駅に向かって歩きながら、私は自分に毒づきました。



私は、前妻の家まで行ってしまったことを後悔しました。

というのも一目だけと思って行って、いざその姿を見てしまうと、今度はその姿が頭から離れなくなりました。

既にお話ししたように前妻は髪を短くしていました。

私と一緒だったときはずっと髪はセミロングでしたから、そんな姿は初めて見ましたが、そんな妻の姿は遠目にも色っぽく感じられました。

その頃は、たしか三十三だったと思いますが、まるで体全体から成熟した女のフェロモンが漂いだしているような感じでした。


私は、自分の机の奥から隠し持っていた妻の写真を取り出し、昼間垣間見た妻の姿と重ね合わせました。

そして、妻との交わりの甘い感触が実感を伴って蘇り、我慢しきれなくなった私の手はペニスに伸びて自慰を始めていました。

手を動かしながら私は昔、前妻と一緒だった頃、彼女に手でしてもらったことを思い出しました。

前妻の乳首を口に含み豊かな胸に顔をうずめた私の股間に彼女が手を伸ばし、まるで自慰を手伝ってもらうみたいな変な気持ちでしたが、とても安らいだ気持ちで射精をしたのをおぼえています。

そうです、前妻との関係を一言で言うなら、それは私にとって安らぎだったのだと思います。彼女は、私にとって安心と安らぎそのものだったのです。

セックスの最中でさえ私はそれを感じていました。


一度だけと自分に誓ったことでしたが、結局、それからも、私は朝の会議と妻に偽って前妻の家を訪れました。

そして、角に隠れて前妻が夫を見送る姿を遠くから覗き見て、夫が去りドアが閉まった後に、家の前までいってグズグズして結局はそこを離れる、ということをふがいなく繰り返していました。

そして、その夜は、決まったように前妻の写真を見ながら自慰に耽りました。

妻が二人目を妊娠していたのが幸いでした。

そうでもなければ、私は妻とのセックスに応じることができるかどうか自信がありませんでしたから。

ほんとに不思議です。

前妻とは交際を始めたばかりの頃、それこそ激しく燃え盛るようなセックスをしていましたが、やがてそれは炎よりは温かみを与えるような安らいだものと変わり、それは離婚の直前までそうだったのに、今、私は妻のことを思い出しながら、燃え上がる炎を抑えきれずに自慰をしているのですから。


--------------------


その日も私は、前妻を一目見ようと、朝、彼女の家へ向かいました。

『ほんとに俺は何をやってるんだろう・・・。』と自分でも呆れるくらい情けない気分でした。


私は、いつものように妻が夫を見送る姿を遠くから見つめ、そしてドアが閉まった家の前を一、二度行ったりきたりして、やっぱり立ち去ろうとしたとき、私の携帯が鳴りました。私がドキッとして電話に出ると、

「いつからストーカーになったの?」と懐かしい前妻の声です。

「あ、いや、そういうわけじゃないんだ、ごめん。」と慌てて私は謝りました。

「今、開けるから一目につかないように、そっと入ってくれる?」と彼女。

「わ、わかった。」と私はしどろもどろに答えました。


間を空けず玄関ドアが開き、前妻が影から手招きするので、そっと私は隙間から中にすべり込みました。

「ここで、といいたいところだけど、かわいそうだから上がって。コーヒーでいい?」

「あ、すまない。」

そういいながら私は靴を脱ぎ、妻についてリビングに入りました。

そこには、私の知らない彼女と今の夫との生活の香りがありました。



「いい家だね。」窓越しに小さな庭を眺めながら私は言いました。

「ありがとう。でも、個人的にはね、あなたと住んでたあの家の方が気に入ってるんだけどね。」

コーヒーを入れていた彼女がこっちを見て言いました。

「あの寝室の出窓、あれ好きだったんだ。いろいろ好きな物を飾ったりしてね。」

それを聞いて、私は、彼女が出窓のところに、さまざまなディスプレーを意匠をこらして飾るのが好きだったのを思い出しました。

「そういえば、いつも綺麗に飾ってたよね、クリスマスとかには。」

「好きだったからね。」

今の妻は、その手のことには、あまり興味がないらしく、ポプリか何かを置いたままです。


「ところでどうしてわかったの。俺がいるって。」

「ばかねえ、こういうところよ、すぐ噂になるわ。」

前妻がトレイにコーヒーを載せて運びながら言った。

「はす向かいの奥さんがね、『お気をつけて。なにか男が角に隠れてお宅の方を一生懸命見てるようでしたわよ。』って言ってたの。

それから外に出るときはちょっと注意していたの。

そしたら、この前、見たのよ、その男を。自分の目を疑ったわ。」

と言って彼女はクスクスと笑います。

「そしたら、今日もいるから、どうしようか迷ったけど、あなたの携帯に電話をしたのよ。」

そうか、まだ俺の携帯番号を控えていてくれてたのか・・・。と、私は妙に嬉しい気持ちになりました。


「で、どうしたの。まさか前妻の不幸な姿を確かめに来たっていうんじゃないでしょうね。」と、彼女はコーヒーを口に運びながら悪戯っぽく言いました。


「冗談きついなあ。そのことは本当に今でも心から済まないって思ってる、このとおり。」

そう言って私は膝に手をついて頭を深々と下げました。


「もういいわよ、済んだことなんだから。」

妻は、遠くを見るような目をして私の方を見てそう言いました。


「あ、そういえば会社の方はいいの?」

妻が気がついてそう言いました。


「あ、そうだ。電話しなきゃ。」

別れても彼女は昔のままだった。昔から彼女はいつもそうやって私の周りのいろいろなことに気を配ってくれているのでした


私は、会社の部下に

「ちょっと病院に寄ってくるので、遅くなる。時間がわかったらまた電話する。」と電話を入れ、コーヒーの残りを口に運びました。


「ところで、奥さんとはうまくいってるの?」彼女が私に聞きました。

「あ、ああ、うん。」


それから私達は、お互いのこれまでの話をしました。

私と今の妻との話は、彼女も知っていることでしたが、彼女と今の夫との馴れ初め、そして結婚の話は、私が初めて聞く話で、聞きながら私の心はせつなく疼き続けました。

それによれば、今の夫は彼女の会社の得意先の会社の人で、彼女が仕事の関係で何度か出入りするうちに食事に誘われ、そして交際を進めるうちにプロポーズされたということでした。


「安心を絵に描いたような人なんだけどね、結婚したら仕事も辞めてくれっていうし。でもね、ああいうことがあったからかしら、そういう平凡で安心な人に惹かれたのかもね。」

彼女がうっすらと微笑みながら私にそう言いました。


「ほんとうにゴメン。」



>>次のページへ続く




 

 

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