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喪失
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「早く帰ってゆっくり休んでくださいよ・可愛い奥さんが待ってるじゃないですか」

「何を言ってるんだい、まったく」

わたしはそのとき、勇次とともにわらいましたが、背中にはびっしりと汗をかいていました。


--------------------


わたしが幼稚園へ娘を迎えに行き、先生の話から、妻への疑惑を深めたその夜のことです。

ちくちくと刺すような不安と、爆発しそうな憤りを抱えながらも、わたしは妻を問い詰めることは出来ませんでした。

何も喋る気になれず、鬱々とした顔で風呂に入り、食事をとりました。

妻は、もともと口数の少ない女ですが、その日はわたしの不機嫌に気づいていたためか、ことさら無口でした。

ところが、寝る前になって、妻が突然、


「明日は、昼からちょっと外へ出てもいいでしょうか」と言いました。

明日は水曜なので、店番はわたしと妻で務める日です。

「どうして? どこかへ行くのか?」

「古いお友達と会おうかと・・・」

なんとなく歯切れの悪い妻の口調です。

妻を見つめるわたしの顔は、筋肉が強張ったようでした。

(あいつに会いに行くんじゃないのか・・・!)

わたしは思わずそう叫びだしてしまうところでした。しかし、そんな胸中のおもいを押し殺して、

「いいよ。店番はおれがするから、ゆっくりしておいで」

そう言いました。

そのとき、わたしはひとつの決意をしていました。


「幼稚園のお迎えの時刻までには帰ってきます」

そう行って妻が店を出たのは昼の一時をまわった時刻のことでした。

わたしは普段と変わらない様子で妻を見送り、妻の姿が見えなくなると、すぐに店を閉めました。

そして、わたしは妻のあとを、見られないように慎重につけていきました。

妻はわたしに行くと言っていた駅前とはまるで違う方向へ歩いていきます。

十五分ほど歩いた後、妻はある古ぼけたアパートに入っていきました。

前夜、わたしは勇次の履歴書を取り出して、彼の現住所をメモして置いたのですが、確認するまでもなく、そこは勇次の住むアパートでした。

しばらく、わたしは呆然とそのアパートの前で立ち尽くしていました。

が、こうしてばかりもいられないとおもい、震える手で前夜つけたメモから勇次の部屋番号を確認した後、わたしは中へ入りました。

胸中は不安と絶望、そして怒りでパニック状態でした。

これからもしも浮気の現場を押さえたとして、わたしはどう行動すべきだろうか。

勇次を殴り、妻を罵倒し・・・その先は? 

これで妻との生活も終わってしまうのだろうか。

家族はどうなってしまうのだろうか。

わたしの胸はそんなもやもやした考えではちきれそうだした。

興奮と緊張で壊れそうになりながら勇次の部屋の前まできたわたしは、次の瞬間に凍りつきました。

妻の声が聞こえたのです。

それも寝室でしか聞いたことのない、喘ぎ声です。

高く、細く、そしてしだいに興奮を強めながら、妻は啼いていました。

わたしは思わず、勇次の部屋のドアに手をかけました。

鍵はかかっていませんでした。

わたしはそろそろと部屋へ忍び込みました。

狭いアパートの一室です。

居間兼寝室は戸が開き放しでした。



妻がいました。

素裸で、四つん這いの格好で、ひっそりと中を窺うわたしに尻を向けています。

その尻に、これもまた全裸の勇次がとりつき、腰を激しく妻の尻に打ちつけています。

わたしはそれまでAVなど、ほとんど見たことがなく、したがって他人の性交を見た経験がありませんでした。

初めて見た妻と勇次のそれは、衝撃的でした。

勇次の腰が驚くほどの勢いで、妻の尻にぶつかるたび、ばこん、ばこん、と大きな音がします。

妻の、年増らしく、むっちりと肉ののった腹から尻にかけてが跳ねるように震え、

「あっ・・ああっ・・・」

と、妻が啼きます。

勇次の若い身体はよく締まっていて、スタミナがありそうでした。

室内は暑く、ふたりとも肌にびっしょりと汗をかきながら、わたしが入ってきたのにも気づかないほど、セックスに夢中になっていました。


その瞬間のわたしの気持ちを後になって考えてみると、それは深い哀しみでした。

もちろん、最愛の妻を奪われた哀しみもそうなのですが、それ以上に自分の老いが哀しかった。

いま、眼前で繰り広げられている妻と勇次の痴態。

それは強烈に<若さ>を放射していました。

勇次とわたしは親子ほど年が違います。

妻だって、わたしより一回りも若い。

どうもうまく言えませんが、妻と勇次のセックスを覗き見て、わたしが受けた哀しみは、老いた自分の手の届かない世界に妻が行ってしまったことへの哀しみだったように、いまになって感じるのです。

「そんなに大声出したら、近所に聞こえちゃうよ」

妻を責めながら、勇次がそんなことを言いました。

その口調は当然のことながら、雇用主の妻に対するものではありません。

「あっ、あっ、こ、こえ、でちゃいます・・」

「仕方ないな」

勇次は妻の秘所から自分のものを引き抜くと、軽々と妻を抱き上げました。

いわゆる駅弁スタイルというのでしょうか、子供が抱っこされるような格好でしがみついた妻に、勇次は立ったまま再び挿入します。

股間を大きく割り開かされ、M字になった足を勇次の背中へ絡みつかせた妻。

勇次はわたしに背を向けて立っていましたが、妻はそれとは逆向きです。

見つかるのをおそれて、わたしは半開きの戸からそっと顔を放しました。

いったい自分は何をしているんだろう。そうおもいました。

浮気の現場を押さえ、あまつさえ、妻たちは性交の最中なのです。夫なら、当然、怒鳴りこんでいく場面です。

しかし、わたしは、怒りよりもむしろ、とめどない喪失感に打ちのめされてしまっていたのです。


「んんっ」

妻がくぐもったような声で、また啼きました。

わたしはまたふたりをそっと覗き見ます。

勇次が、妻の口に舌を差し入れ、ディープ・キスをしていました。

妻は眉根を寄せ、苦しそうな表情で必死にそれにこたえています。

勇次が妻の身体を小刻みに上下動させています。

その上下動がしだいに早く、激しくなり、それにつれて、妻の表情にも苦悶とそれに悦びの入り混じった、わたしがそれまで見たことのない表情になっていきます。

妻が首を振って、勇次の舌を逃れました。

そのとき、妻の口からよだれがとろりと垂れたことを覚えています。

「あ、も、もうだめ・・・わたし、いきます・・いってしまいます」

息も絶え絶えに妻がそう告げます。



その瞬間でした。

わたしは弾かれたように、ふたりのいる部屋へ飛び込んでいきました。

「ひいぃー!」

そのとき、妻のあげた悲鳴はいまでも忘れられません。

妻は水揚げされた鯉のように跳ね回り、勇次から逃れると、床に突っ伏して、自分の衣服で顔を覆っています。

勇次もわたしにきづいた瞬間は驚愕し、しばし呆然としたようでした。

しかし、何を言っていいものやら分からず、口中でもがもが言いながら、睨みつけるだけのわたしを見て、勇次は落ち着きを取り戻したようでした。

そればかりか、勇次はにやにや笑いさえいました。

すでに平素の好青年ぶりはどこかへ行ってしまったようです。


「どうして分かったの?」

そんなことを聞いてきました。

わたしは答えず、さらに勇次の顔を睨み続けました。

「まあいいや。見たんだろ、いまのおれたちのセックス。なら分かるはずだ。おれたちの熱々ぶりがね」

「寛子はわたしの妻だ!」

わたしがやっと言えたのは、その一言だけでした。

それまですすり泣いていた寛子は、それを聞いて号泣し始めました。

「ごめんなさい・・あなた・・・ごめんなさい」

わたしは泣き伏して謝る妻の姿を見つめていました。不意に涙がぽろぽろと頬を伝っていくのを感じました。


>>次のページへ続く
 
カテゴリー:大人の話題  |  タグ:浮気・不倫, 寝取られ, SM_調教,
 


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