「これ・・あの次の日良ちゃん誕生日だったでしょ?
あの時渡しそびれちゃったから・・・」
千春と別れた翌日は、確かに私の誕生日だった。
「こんな事の為にわざわざここまで来たのか?」
酷く残酷な事を言ってるのは解っていた。
再び千春がうつむいた。
「入れよ」
千春にとっては初めての部屋だ。
中に入ると千春はその場に座りながら部屋の周りを見回していた。
この部屋には千春との思い出の品は何も置いてない。
写真はもちろん、千春のコップや、千春の歯ブラシ。
千春に選んでもらったクッションも、
上京した当時に実家から持ってきたセンスの無い座布団に変わっていた。
あれから間もなく千春は以前勤めていた会社を辞めたという。
高平との事はこの時あえて聞かなかった。
「良ちゃんは元気だった?」
「ああ。新しい彼女が出来た。」
千春に嘘をついた。
「そう・・・どんな人?」
「そうだな・・・千春とは違うタイプだな。
でも好きなんだ。だから・・解るよな?」
これで千春が帰ってくれると思った。
しかし、千春の返答は私にとって予想外だった。
「私は2番でもいい・・2番目でいいから・・」
「お前とは別れただろう?もうそういう事言うな。」
「私は別れるなんて言ってない。
別れるって言ったのは良ちゃんだけ。」
「黙れ」
「でも一緒に居れるなら2番でいい・・だから・・」
「俺はそういう付き合い方はできない。俺はお前と違う。」
「私は良ちゃんの事一度だって2番だなんて思ったこと無い!!」
「ふざけるなっ!!!」
珍しく大声を上げた。
千春が驚いてとっさに目をつぶった。
「高平とはどうなった?」
自分でも一番思い出したくない名前を口にした。
しかし、一番気になる事だった。
「その名前は言わないで・・」
「会っているのか?」
「会ってない!あれから一度も会ってないよ!信じて!」
「別れたと言う意味か?まあ今となっちゃあどうでもいいよ。」
千春がうつむいた。傷ついてる筈だ。
しかし早くこの部屋から出て行ってもらいたかった。
そうしないと千春を押し倒してしまいそうだった。
そして以前の自分に戻ってしまいそうだった。
追い討ちをかけるように私はさらに千春を傷つける。
自分でも信じられない程、残酷な言葉を投げつけた。
「千春・・・」
千春が顔を上げる。
「高平の前でした事を俺の目の前でもやって見ろ。」
千春が驚いた顔をした。そしてすぐにうつむいた。
「俺の前では出来ないか千春?やっぱり俺じゃ駄目か?」
千春はしばらくうつむいたままだった。
ひざの上でこぶしを握り締めていた。
その拳の上に涙が落ちていた。
千春が涙を拭いた。
そして千春はゆっくりとブラウスのボタンを外していった・・