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誤解の代償
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そんな私の部下は、たまったものでは無かったでしょうが、彼女だけは何の文句も言わずに付いて来てくれましたが、

「さすがに次長がいると、職場の雰囲気が違いますね。皆ピリピリしちゃっていますよ。私は仕事をしているって実感していますが、他の人達は かなりきつそうです。」

「そうか。自分の事で精一杯で そこまで気が付かなかった。悪い事をしてしまったね。少し気配りが足りなかった。」

「いいえ。そんな事は有りません。」

彼女には、私のそんな行動に、何かを感じている様でした。

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それから まもなくの昼休みに、男の奥さんから電話が掛かって来ました。

「私達正式に離婚する事に致しました。

その事でお電話掛けさせて頂ましたが、主人と別居する理由になった浮気相手は、ご主人の奥様でした。

あの人が離婚する時に全て話してくれました。」


「えっ!それは どう言う事ですか?家の奴とは別居してから関係を持ったのでは無かったですか?」


私は、愕然としました。

これまで妻の言っていた事は、全て嘘だった事になってしまいます。

「あのう、宜しかったら、仕事が終ってからお会い出来ないでしょうか?詳しく聞かせて貰いたいのですが。」

仕事が終ってから、奥さんに指定した喫茶店に向かいました。

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喫茶店に入ると、奥さんは既に来ていました。

「お待たせして申し訳有りません。早々ですが、どう言う事なのか話して貰えるでしょうか。」

「ええ、分かりました。」

奥さんの話では、妻の言っていた不倫の時期よりも、更に4ヶ月前から男と関係を持っていた事になります。

当時、浮気が発覚した時に男は、相手の事は一切口を割らなかったそうです。
それが怒りを大きくしてしまい、別居に迄なってしまったのは、何となく理解出来ます。

「でも今回は、ご主人にばれてから、何か熱病にでも罹った様で、私とまた暮らす様になってからも、気もそぞろで・・・。

離婚は、主人の方から言い出しました。その時に、私に全てを話してくれました。

・・・奥さんの事を愛してしまったから、もうお前とは一緒には暮らせないって・・・。

何かそちらに、ご迷惑の掛かる様な事は、していませんでしょうか?」


「いいえ、私の知る限りでは。何か言ってましたか?それとも、もう何か行動に?」


「何もしていないと思います。あの人、ご主人の事を、恐れている様でしたから。

でも、あの様子では何時まで我慢出来るのか・・・。

その時は、思う様にして下さって結構ですから。」


もう長年生活を共にして来た相手に、未練は無いのでしょうか?私の前に居る女性は本心は分かりませんが、吹っ切れた感じがします。

私も妻と分かれた後に、この様に振舞えるのかどうか。やはり男よりも女の方が、タフなのかも知れません。

「これから、どうなさるのですか?失礼な話、生活費等の方は大丈夫なのですか?」


「それは何とか。家を売ったお金と、今迄の貯えから出してくれるそうですから。

ただ、子供にもお金が掛かりますので、何か仕事を探そうとは思っています。」


「その時に、お役に立てる事が有れば、何でも言って下さい。」


別れ際に、自分の住所と、男の住む事になるマンションの場所を教えてくれました。

奥さんの話に、強いショックを受けましたが、妻には暫らくの間 伏せておく事にしました。

当然次の日に離婚届けを用意しました。

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私は妻の行動に注意深くなりましたが、別に変わった所は有りません。

しかし、男が妻を愛していると言っている以上、何か行動を起こす筈だと言う確信めいたものが有りました。


その日は意外と早くやって来ました。

仕事中 携帯に妻から連絡が有り、

“今日は会社の人と食事をして帰るから遅くなる”と言って来ました。

『やっぱり、思った通りになるのかな?』

あの日以来、何が有っても断っているようで、遅く帰る事は有りませんでした。それが遅くなると言う事は、何か有っても おかしく無いと思いました。

別にショックも受けず、私は打たれ強くなっているのかもしれません。


仕事が終って家に戻り、妻が男のマンションに行ってるとは限りませんが、一応車を出して確かめてみる事にしました。

マンションに着く、と妻の車が停まっています。

この場所を、私が知っている事は、妻も男も知らないと思います。

暫らく車の中で待ちましたが、妻は出て来ません。

私は男の部屋が何処か迄は知りませんし、オートロックのマンションの中には入れず、かと言って、このまま待つのも馬鹿らしくなり、家に帰る事にしました。


妻が戻って来たのは、それから3時間位後でしたが、リビングに入って来ても、私にまともに視線を合わせようとはしませんでした。

「お帰り。楽しんで来たか?」

「ええ、遅くなって御免なさい。急に誘われたものだから、食事の用意もしないで。」

「いや良いんだ。楽しめたなら良かったじゃないか。遠慮する事は無いよ。これからも、誘われたら行くと良いさ。僕は明日早いから もう寝るよ。」

私が立ち上がると、「ありがとう。」と言って浴室に入って行きました。


朝私は、妻に封筒を手渡し、

「これ後で記入しておいてくれ。」
「ええ、何か急ぐものなの?今書きましょうか?」


「急ぐけれど、今じゃなくて良いよ。書いたら携帯に連絡してくれ。」

妻は怪訝そうな表情で見ていましたが、私は急いで玄関を出ました。


その時、「貴方!貴方!ちょっと待って!」

妻の悲鳴の様な声が聞こえましたが、走って その場を離れ、携帯にも妻から呼び出しが有りましたが無視しました。


職場に都合で少し遅れると伝え、私は、男の会社に急ぎました。

会社に着くと受付に男の部所を聞き、待ち合わせているからと嘘を言ってエレベーターに乗り、今日の仕事の準備で慌しい部所に入って行きました。

男は、私に気付いた様で慌てて出て来ましたが、迷わずに上司と思われる机の前に立ちました。

机の上のネームプレートに部長と有ります。


「突然失礼しますが、田中課長の事で、お話が有ります。」

男は、血の気の引いた顔で、私の後ろに立っています。

部長は ただならぬ様子を察知したのか、別室に案内してくれました。

「田中に何か有りましたでしょうか?」

私の名刺を見ながら部長は、前の椅子に恰幅の良い身体を沈めました。

私は田中の書いた念書を見せ、妻と今も続いているであろう事を伝えました。

「・・・そんな事が有ったとは全く気付きませんでした。困った事をしてくれたものだ。

言い訳をするのでは有りませんが、当社は、社内恋愛にも ある程度は厳しい所が有りまして。

それがこんな事を・・・。困った事をしてくれた。

処罰は会社規定と照らし合わせて取らせて頂きます。馬鹿な事をしてくれたものです。

私が責任を持って対処しますので、今日の所はこれでご勘弁願えないでしょうか?」


「宜しくお願い致します。」


後味の良いものでは有りませんでしたが、私が今 出来る事をした積もりです。

会社に行っから今日は有給休暇を取る事にして、昼頃に家に戻り妻が居ないのを確認して、取り合えず必要なスーツや下着等を旅行鞄に詰めした。

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私は、ビジネスホテルを探して、チェックインし、これからの事を考えていましたが、取り合えず不動産屋へ行って、手頃な部屋を探す事にしました。

いざ探して貰うと、なかなか金額等の事も有り、見付からないものです。


その日は諦めてホテルに戻り、買ってきた弁当を食べていると、携帯に妻からの連絡が有りました。

何度も有ったのを無視していましたが、今度は出てみると、

「貴方あれは、どう言う事なの?今日帰ったら良く話し合って下さい。私はサインは出来ません。帰りは何時位になりますか?」

随分と興奮した声で、捲し立てて来ました。

「何を言ってるんだ。俺が何も知らないとでも思っているのか?自分の胸に手を当てて考えて見ろ!」

それだけ言うと、私は携帯を切りました。

それからも何度も携帯に着信が有りましたが、出ませんでした。

まだ離婚届に記入をしていないでしょう。

今は無視する事にして、妻の出方を見る事にしました。

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服を着たままベッドに横になると、不倫現場を目撃してしまってからの事が思い浮かび、別の事を考え様としても、頭から離れません。

離婚を決意してからは、平静でいられる様な気持ちになっていたのですが、やはり無理なのでしょう。


今回は、私が浮気をしていると、妻が誤解してこんな事になってしまったと、言い訳をしていましたが、それは嘘でした。

それならば、何故こんな事になったのか?


>>次のページへ続く
 
 


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