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突然の海外赴任
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それとも、それでも良いから、何が何でも智子さんを自分のものにしたいと思っただろうか?」
母の言う事も分かるのですが、身体が拒否している今、何を言われても無理なものは無理なのです。
「相手がどう思っていようと、俺は愛しているでは駄目なのか?
智子さんと話していて、支店長の事も愛したかも知れないが、今は、おまえだけを愛している様に私は感じる。
凄く強い愛を感じる。反省した智子さんを、今の智子さんを見られないのか?」
「お袋の言いたい事は分かる気もするが、これは裏切られた人間で無いと分からない。お袋と親父のように、愛し愛されてやってきた人間には分からない。」
「そうかい。これは一生おまえ達には言わずに、お墓の中まで持って行こうと思っていたが、昔私もお爺さんに裏切られた事が有る。」
母の告白はショックでした。
私は、物心がついてからずっと、我が家は かかあ殿下で 父はいつも母の後ろで笑っている、大人しい人間だと思っていました。
父は酒も呑めず、タバコも吸わない真面目で大人しい人間だと思っていました。
ところが信じられない事に、昔は大酒呑みでヘビースモーカー。
何か気に食わないことが有れば母に手を上げ、外でもすぐに他人を殴るような、荒くれ者だったそうです。
その上、絶えず女の影が有り、その事を言えば暴れるので、母はいつも泣き寝入りでした。
母の話しに、私は動揺を隠し切れませんでしたが、
「・・・・でもそれは・・・・智子の浮気とは・・・・。」
「まさか、男の浮気は甲斐性で、女の浮気は裏切りだなんて言わないだろうね?」
「そんな事は言わないけれど・・・・・・・・・・。いつから親父は あの様に変わった?」
私は母の話しに、固唾を飲んで聞き入っていました。
母は、ずっと父の浮気には目を瞑っていましたが、ある時、どうしても許すことの出来ない浮気を知り、気が付くと私を背負い、兄の手を引いて橋の上に立っていたそうです。
そのまま川に飛び込もうとした時、兄が泣き出し躊躇していると、私達を探し回っていた父が見つけて駆け寄り、
「俺が悪かった。死なないでくれ。おまえ達を死なせる訳にはいかない。おまえ達が死ぬぐらいなら俺が死ぬ。」
そう言うが早いか、川に飛び込んでしまいました。
幸い死に切れずに何とか岸へ泳ぎ着いたのですが、父は その日を境に一滴も酒を呑まなくなり、タバコも完全にやめて、ずっと母には気を使って来たそうです。
父は、酒とタバコを止める事で母に対して、改心した自分を分かって欲しかったのだと思います。
「お袋は、よく忘れる事が出来たな。どうやったら忘れる事が出来た?」
「忘れる事なんて出来ないさ。最初の頃は何とか忘れようとしたけれど、努力しても忘れられるものでも無いし、忘れようとする事をやめたら、逆に気が楽になったよ。
今でも たまに相手にも会うし、未だにその頃の事を夢に見る事も有る。」
「今でも相手に会う?」
「ああ、ここまで話したから全て話してしまうが、相手は妹の良子だよ。他の浮気は我慢出来ても、この浮気だけは許せなかった。」
「えっ、良子叔母さん?」
私は母の辛さを知りました。
私の数倍は辛かったと思います。
もしも妻の相手が私の兄だったなら、私はどうなっていたか分かりません。
「教えてくれ。どうやって2人を許した?」
「おまえには偉そうな事を言ったが、まだ許してはいないのかも知れない。
ただ、それは あの頃のあの人を許していないだけで、今のお爺さんは遠に許している。
あの頃とは違う人だと思っている。」
「お袋は幸せか?」
「ああ、幸せだね。
死ななくて良かった、あの時 別れなくて良かったと心底思っている。
あの頃のお爺さんは今でも嫌いだけれど、その後のお爺さんは大好きさ。
息子の前で惚気るのも嫌だが、川に飛び込んだ後のお爺さんを愛している。」
「まさか、男の浮気は甲斐性で、女の浮気は裏切りだなんて言わないだろうね?」
「そんな事は言わないけれど・・・・・・・・・・。いつから親父は あの様に変わった?」
私は母の話しに、固唾を飲んで聞き入っていました。
母は、ずっと父の浮気には目を瞑っていましたが、ある時、どうしても許すことの出来ない浮気を知り、気が付くと私を背負い、兄の手を引いて橋の上に立っていたそうです。
そのまま川に飛び込もうとした時、兄が泣き出し躊躇していると、私達を探し回っていた父が見つけて駆け寄り、
「俺が悪かった。死なないでくれ。おまえ達を死なせる訳にはいかない。おまえ達が死ぬぐらいなら俺が死ぬ。」
そう言うが早いか、川に飛び込んでしまいました。
幸い死に切れずに何とか岸へ泳ぎ着いたのですが、父は その日を境に一滴も酒を呑まなくなり、タバコも完全にやめて、ずっと母には気を使って来たそうです。
父は、酒とタバコを止める事で母に対して、改心した自分を分かって欲しかったのだと思います。
「お袋は、よく忘れる事が出来たな。どうやったら忘れる事が出来た?」
「忘れる事なんて出来ないさ。最初の頃は何とか忘れようとしたけれど、努力しても忘れられるものでも無いし、忘れようとする事をやめたら、逆に気が楽になったよ。
今でも たまに相手にも会うし、未だにその頃の事を夢に見る事も有る。」
「今でも相手に会う?」
「ああ、ここまで話したから全て話してしまうが、相手は妹の良子だよ。他の浮気は我慢出来ても、この浮気だけは許せなかった。」
「えっ、良子叔母さん?」
私は母の辛さを知りました。
私の数倍は辛かったと思います。
もしも妻の相手が私の兄だったなら、私はどうなっていたか分かりません。
「教えてくれ。どうやって2人を許した?」
「おまえには偉そうな事を言ったが、まだ許してはいないのかも知れない。
ただ、それは あの頃のあの人を許していないだけで、今のお爺さんは遠に許している。
あの頃とは違う人だと思っている。」
「お袋は幸せか?」
「ああ、幸せだね。
死ななくて良かった、あの時 別れなくて良かったと心底思っている。
あの頃のお爺さんは今でも嫌いだけれど、その後のお爺さんは大好きさ。
息子の前で惚気るのも嫌だが、川に飛び込んだ後のお爺さんを愛している。」
私は、母の車を借りてコンビニへ行き、同級生に無理を言って妻を解雇してもらい、実家に戻ると
娘は、ピアノのレッスンに、釣りから帰った父が連れて行ってくれていて、暫らくすると 妻が帰って来ました。
「あなた・・・・・・・・・。」
私の顔を見るなり、妻の目には涙が溜まり、
「お帰りなさい、ご苦労様でした。・・・・・・・・いつ戻られたのですか?」
そう言い終ると、溢れた涙が頬を伝っていました。
「今日帰って来た。2人だけで話が有るから家に帰ろう。」
娘の事は母に頼み、妻と2人で家に帰ると向かい合って座りました。
妻を見ていると、稲垣の所には行かずに頑張って来た、袖口が油で汚れた色褪せたTシャツを着て、終始俯いている妻を愛おしく感じます。
「頑張っていたそうだな。いくら溜まった?」
「お義父さんやお義母さんはいらないと言って下さったけれど、少しですが生活費も払わせてもらっていたので、まだ百万ぐらいしか溜まっていません。
あなたに借りた五十万を返すと、残り五十万しか有りません。
車を勝手に借りていたけれど、あなたが帰って来たから返さないと。
工場やコンビニに行くのに車がいるから、五十万で車を買うと・・・・・・・。」
「奥さんに慰謝料をいくら払うつもりでいる?」
「お金では償えないけれど、百万では余りにも少ないから、あと二百万受け取ってもらおうと思います。」
「貯金の半分は智子の物だから、それを使えば良かったのに。」
「それは、全て放棄するという約束だったから。」
「2人に借金が有っては大変だから、明日二百万下ろして振り込んで来い。後は俺に一億と二百万払え。」
「ありがとう。でもあなたへの一億は このままではとても払えません。でも、頑張って払えるだけ払って行きますから、それで許して下さい。」
「いや、全額払ってもらう。一億と二百万払ってもらう。」
「ごめんなさい・・・・・それは無理です。」
「いや必ず払ってもらう。ずっと俺と一緒にいて、俺に尽くせ。
一年二百万で雇ってやるから、今から51年間、俺の側にいて尽くせ。
その前に俺が死んでも、おまえは必ずあと51年生きて、俺に尽くせ。
絶対に俺よりも先に死ぬな。
その為にも、もう無理をせずに体を大事にしろ。
それまで離婚届は預かっておく。」
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