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ひとりで読めない山の怖い話いろいろ
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198 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/01/08(火) 22:27:23.47 ID:DVIBnR9G0
その中の一人が、「自分は医術の心得がある、診察してやろう」と申し出た。

見れば、ボタ山で働いているとは思えない立派な紳士だった。

誰かの知人なのだろうか。


彼は、「これは酷いヤケドだが、私は幸いヤケドの治療法に長じている。今夜のうちに術を施せばAさんはすぐ治る」と言った。

女房に否応が言えるはずもない。


やがて紳士による治療が、薄暗がりの中で始まった。

治療は荒っぽいものだった。

紳士は、「ヤケドには、焼けこげた皮膚を取り除いてやるのが一番の治療法だ」と説明し、Aさんの身体を包んでいる包帯を取り除けると、やがてAさんの皮膚を無造作に剥ぎ取り始めた。


炭鉱夫仲間でも屈強な身体付きで知られたAさんも、これは堪らない。

Aさんはあまりの苦痛に絶叫し、「いっそ殺してくれ」と泣き叫んだ。


女房はおろおろする以外なにも出来ない。

あまりの凄まじさに、自分も耳を塞いで泣き叫び始めた。

紳士は「ここが辛抱じゃ。すぐ楽にしてやる」と声を掛けながら、眉ひとつ動かさず作業を続ける。


どれぐらい時間がたったか。

いつしかAさんの絶叫は治まっており、静寂が戻っている。

紳士は女房に、「心配かけたがもう大丈夫。すぐに元気になるよ」と声を掛け、席を立った。


女房は何度も何度も頭をさげながら、表まで紳士を見送った。

遠い空がうっすら明るくなっている。もうすぐ夜明けだ。



200 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/01/08(火) 22:28:45.26 ID:DVIBnR9G0
部屋に戻ると、さっきまで狭い部屋から溢れ出る程大勢いた見舞客が、ひとりも居なくなっている。

女房は不思議に思うより、不快に感じた。


帰るのだったら、一言くらい挨拶してくれても良いじゃ無いか。

疲れきった女房は、Aさんの枕元に腰を下ろし少し休もうと思ったが、Aさんの顔色をみて驚愕した。

夜明けの日差しの中で見るAさんの顔色。

それはまるでロウのようだった。

女房はAさんに取りすがって、再び号泣するしかなかった。



騒ぎを聞きつけた隣人に連れてこられた医者は、Aさんを見るなり女房を怒鳴りつけた。

「誰が患者をいじった!」

Aさんを包む包帯の巻き方は、明らかに素人のものだった。

包帯を取り除けた医者は、Aさんの身体から目を背けた。

無惨に生皮を剥ぎ取られた遺体がそこにあった。


あまりの奇怪な事件に警察が呼ばれ、半狂乱の女房から何とか事情を聞き出した。

だが、その夜現れた男達も、例の紳士も、ボタ山はおろか近隣の町村にも、該当者はいなかったと云う。

話を聞いたある人が、「それはキツネの仕業だろう」と言ったそうだ。


キツネにとって、人間の瘡蓋や火傷瘡は霊薬になるとされ、ある地方では、『火傷や瘡蓋のある者が山にはいるとキツネにだまされる』という言い伝えがあると云う。

女房は目の悪い女で、日頃から泣き腫らしたような瞼の持ち主だったという。キツネはそれに付け込んだのだろうか。


残念ながら、女房がその後どうなったかまでは、この伝奇の採集者は伝えていない。




 
カテゴリー:不思議・怖い話  |  タグ:オカルト・ホラー,
 


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