20年に及ぶ初恋の話を聞いてほしい
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34 :名も無き被検体774号+:2014/01/22(水) 22:25:31.31 ID:tv9Fid6x0
中学の二年余りで、俺の自意識はとことん肥大化し切っていた。
好きな子を振り向かせるためにあらゆる努力を重ねた。
いつの間にか、人目を引くことを目的化していた。
人前に立てば、目立つ結果を残せば、あの子の視界にもう一度自分が入る、おそらく無意識だったのだけど、ひたすらそのために努力を重ねた。
部活である程度は満足のいく結果を残せたが、目前には高校受験が迫っていた。俺の成績は200人中80番程度のところだった。
その子の成績は10番前後、近隣の進学校に行くだろうと予想された。
35 :名も無き被検体774号+:2014/01/22(水) 22:28:26.75 ID:tv9Fid6x0
ちょうど部活を引退した頃、市立図書館が新装された。
俺は部活引退の翌週からその図書館に通い始め、誰とも話さず毎日22時まで一人でひたすら勉強を続けた。
次の定期試験、成績は急上昇した。
その子の気を引きたくて仕方が無い俺は、自分の席次を吹聴して回った。
その翌日から、図書館に俺の学校の俺の学年の生徒数十名が押し掛ける事態となった。その内の一人に例のあの子がいた。
37 :名も無き被検体774号+:2014/01/22(水) 22:34:21.31 ID:tv9Fid6x0
俺の地元は厳寒の冬を迎える。
11月に押しかけた数十名の多くは、12月になると姿を消していた。
22時の閉館時間まで、保護者の承諾のもとで外で友達とたむろっていたかっただけだったのだろう。
俺はそれでもひたすら一人で勉強を続けた。
図書館には10名ほどだけが毎日顔を出すようになっていた。
この頃から、自転車通学の3,4人で、あくまで偶然の体を装って帰宅することが出てきた。
彼女の家と俺の家は自転車で5分ほどの距離だったが、一緒に帰ろうだなんて気恥ずかしくて言えたものではなかった。
ただ、帰路では概ね二人きりになった。外気温で0度の冬で二人きりになる数分が至福だった。
38 :名も無き被検体774号+:2014/01/22(水) 22:39:55.35 ID:tv9Fid6x0
自転車での帰路で小雨が降ってきた日、俺しか傘を持っておらず、「使えや」とだけその傘を渡した。
その子は、「いや、××が風邪引くやん」と受け取らなかった。
俺は格好つけて「鍛え方が違うんじゃ」などと言ってみせたが、結局その子が「だったら二人で濡れて帰ろう」と言って、大袈裟に騒ぎながら帰宅した。
新品のMDは壊れ、俺は馬鹿だが風邪を引いた。
親にひたすら叱責されたが、とても楽しかった。
中学の二年余りで、俺の自意識はとことん肥大化し切っていた。
好きな子を振り向かせるためにあらゆる努力を重ねた。
いつの間にか、人目を引くことを目的化していた。
人前に立てば、目立つ結果を残せば、あの子の視界にもう一度自分が入る、おそらく無意識だったのだけど、ひたすらそのために努力を重ねた。
部活である程度は満足のいく結果を残せたが、目前には高校受験が迫っていた。俺の成績は200人中80番程度のところだった。
その子の成績は10番前後、近隣の進学校に行くだろうと予想された。
35 :名も無き被検体774号+:2014/01/22(水) 22:28:26.75 ID:tv9Fid6x0
ちょうど部活を引退した頃、市立図書館が新装された。
俺は部活引退の翌週からその図書館に通い始め、誰とも話さず毎日22時まで一人でひたすら勉強を続けた。
次の定期試験、成績は急上昇した。
その子の気を引きたくて仕方が無い俺は、自分の席次を吹聴して回った。
その翌日から、図書館に俺の学校の俺の学年の生徒数十名が押し掛ける事態となった。その内の一人に例のあの子がいた。
37 :名も無き被検体774号+:2014/01/22(水) 22:34:21.31 ID:tv9Fid6x0
俺の地元は厳寒の冬を迎える。
11月に押しかけた数十名の多くは、12月になると姿を消していた。
22時の閉館時間まで、保護者の承諾のもとで外で友達とたむろっていたかっただけだったのだろう。
俺はそれでもひたすら一人で勉強を続けた。
図書館には10名ほどだけが毎日顔を出すようになっていた。
この頃から、自転車通学の3,4人で、あくまで偶然の体を装って帰宅することが出てきた。
彼女の家と俺の家は自転車で5分ほどの距離だったが、一緒に帰ろうだなんて気恥ずかしくて言えたものではなかった。
ただ、帰路では概ね二人きりになった。外気温で0度の冬で二人きりになる数分が至福だった。
38 :名も無き被検体774号+:2014/01/22(水) 22:39:55.35 ID:tv9Fid6x0
自転車での帰路で小雨が降ってきた日、俺しか傘を持っておらず、「使えや」とだけその傘を渡した。
その子は、「いや、××が風邪引くやん」と受け取らなかった。
俺は格好つけて「鍛え方が違うんじゃ」などと言ってみせたが、結局その子が「だったら二人で濡れて帰ろう」と言って、大袈裟に騒ぎながら帰宅した。
新品のMDは壊れ、俺は馬鹿だが風邪を引いた。
親にひたすら叱責されたが、とても楽しかった。
39 :名も無き被検体774号+:2014/01/22(水) 22:43:29.67 ID:tv9Fid6x0
受験も翌月に迫ったある日の閉館時刻、顔見知りを超えて連帯感を共有していた図書館メンツが、出口に集まっていた。
なぜか俺だけ最後に出口に着いたとき、一人の子が「それじゃ、△△を送って行ってあげてね」とウインクして言い残し、みな解散していった。
よく分からなかったが、初めて二人きりで、30分ほど帰路を行くことになった。
状況が飲み込めず喜ぶ間もなかったが、とことん鈍感だった俺は特に何も考えずに、二人で帰路についた。
40 :名も無き被検体774号+:2014/01/22(水) 22:44:34.92 ID:tv9Fid6x0
帰路の半ば、俺たちは変わらず他愛も無い話をしていたと思う。
信号待ちのため交差点で停まったとき、不意に聞かれた。
「ねぇ、好きな人いないん?」
41 :名も無き被検体774号+:2014/01/22(水) 22:45:20.72 ID:T9xZpbs20
なんだろう涙出てきそうな…
42 :名も無き被検体774号+:2014/01/22(水) 22:48:39.01 ID:tv9Fid6x0
「お前に関係ないだろ」
もちろん好きな人はいたし、好きで仕方がなかった。初めて顔を合わせてから12年が経過していた。
もうなぜ好きになったかも思い出せなかった。
何が好きなのかも分からなかった。
よくある幼馴染の「いつも隣にいた」というのとも違う。空白の期間もある。
別に結婚しようだとか言ったことも無いし、二人きりで出掛けたことも無い。
だからこそ、真正面から向き合うことも、背負うことも、叶わなかったんだと思う。
43 :名も無き被検体774号+:2014/01/22(水) 22:51:09.01 ID:tv9Fid6x0
その子は、ふぅん、とだけ言って、いつもと変わらない調子で話を続けた。
受験前日まで、時折何人かで一緒に帰るような関係が続いた。
ウインクして気を遣ってくれた(と今ならようやく分かる)子が、メールで二人はお似合いだと何度も言ってくれた。
俺は結局その意味も分からず、何より勇気が微塵とて無く、何も進めることが出来なかった。
受験の結果としては、二人揃って無事同じ高校に合格した。
45 :名も無き被検体774号+:2014/01/22(水) 22:53:59.66 ID:tv9Fid6x0
卒業式のあと、俺は仲の良い連中とカラオケに向かった。
結局告白することもされることも無く、とは言え高校に進んでも同じような日々が続くだろうと思っていた。
カラオケには既に幾つもの同級生グループが入店していた。
俺は何曲か歌ったあと、友人たちに見栄を張るために、カラオケのトイレで第二ボタンをはずして自分のポケットに入れた。
47 :名も無き被検体774号+:2014/01/22(水) 22:57:36.74 ID:tv9Fid6x0
トイレから出て部屋に向かうときに、ちょうど例の彼女たちの女の子グループが入店してきた。その子は俺を見つけて手を振ってきた。
俺はいつも通り素っ気ない様子で片手で合図した。俺の胸元のボタンを確認したように思えた。寂しそうな顔をしていた。全て記憶違いかもしれない。
それから高校に入るまでの数週間は、塾での祝賀会で顔を見た程度で、一切の連絡を取らなかった。
48 :名も無き被検体774号+:2014/01/22(水) 23:01:02.42 ID:tv9Fid6x0
高校の入学式で、お互いの親を交えて4人で立ち話をして以来、クラスが違ったこともあって、ほとんど話す機会は無くなった。
受験のために図書館に通う必要もなくなった。
俺はまた毎日ひたすら部活に励んだ。顔を見たくて仕方が無かったが、話したいことも、連絡する理由も見当たらなかった。山ほどあったはずなのに。
夏休み前のある日、他の男と仲良く帰る後ろ姿を見た。
俺がその後ろ姿を見間違えるワケがなかった。俺は愕然とした。
しばらくして、彼女から告白したとのことを聞いた。もうどうでも良くなった。
50 :名も無き被検体774号+:2014/01/22(水) 23:05:11.37 ID:tv9Fid6x0
高校2年の中間試験前、たまたま図書館で再会した。
再会したとは言っても、学校行事なり何なりで俺は必死に人前に出ようとしていたので、視界には入っていたはずだった。
俺も廊下や体育館で意味もなくその姿を探していたと思う。
ただ、向こうには彼氏がいて、俺には彼女がいた。
その話に及んだとき、俺は不思議と不快ではなかったし、相手もいい笑顔をしていた。
51 :名も無き被検体774号+:2014/01/22(水) 23:10:04.20 ID:tv9Fid6x0
高校3年でまた同じクラスになった。
成績は、無意味に高いところまで到達していた。思考力が付いていた。
俺は気付いていた。小5,小6のとき、中2,中3のときに俺たちが同じクラスにならなかったのは、不純異性交遊沙汰を避けたい学校側の配慮だったということに。
逆算すると、俺達は学校の大人たちから見てもそれほど親しい間柄に見えていて、そして今は もうそうではないのだと。
高校生活は、部活に生徒会に受験勉強に、十分に充実していた。
だが、その子と話すことも無くなっていた。
受験直前期に職員室の前で鉢合わせして、太りすぎだろ、と冗談を言って、そのまま卒業した。
大学受験を無事終えて、俺は東京、彼女は関西の大学に進学した。
52 :名も無き被検体774号+:2014/01/22(水) 23:13:27.52 ID:tv9Fid6x0
年末年始と盆ぐらいは帰省していた。
mixiが流行し始め、またお互いの近況を知ることになった。
成人式で顔を見たが、特に話すことも無く、話し掛けることもしなかった。
ただ、そんなに多くの人と付き合った訳じゃないが、一人になったときに思い出すのはいつも同じ顔だった。
54 :名も無き被検体774号+:2014/01/22(水) 23:20:37.07 ID:tv9Fid6x0
どういう流れだったかは忘れたが、年末に二人で飲みに行くことになった。
酒を飲み過ぎて何を話したかも覚えていない。
その後も何度か二人で飲みに行った。
別に下心があった訳じゃない。
だが近況はSNSの類で分かる。自分でもよく分からなかった。
数年ぶりに、いやどうかすれば中学生以来に二人で話す機会は、新鮮ですらあった。
コンパスの使い方を教えてもらったこと、同窓会で俺がひどく泥酔したこと、俺が好きだと言っていたアーティストのこと、向こうも俺についてのことをよく覚えていた。
俺もその子について覚えていることを話した。二人でよく笑った。
だがそれも、何度か会う内に気が付いてしまった。それが一致していないこと。視点が違う。俺が覚えていることを向こうは覚えていない。
向こうが覚えていることを、俺は覚えていない。最初はその差が面白かった。だたその内に自分の覚えていることの方が余程量が多く、そして細かいことが痛感された。
それまでの自分の全てを否定された心持ちになった。
>>次のページへ続く
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