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水遣り
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穏便な処置に一番反対したのは専務です。自分の妹と将来の会社を佐伯に託そうとしたのです。それだけ怒りが大きいのでしょう。


結局、落ち着いた処置は、佐伯の住んでいるマンションを処分し会社に入金する。

佐伯の預金は掴みようがありません。預金は手をつけない事になります。

即時解雇したのでは今後 佐伯の生きていく術がなくなるだろうと、大阪の関連会社に職を与えます。

肩書きの無い平社員です。

それが嫌なら勝手にしろと言う事です。


マンションが売れ次第、この処置が実行されるようです。それまでに大阪に行くのかどうか決めろと言う事です。


この処置が私と妻にどう言う影響を与えるのかアパートに帰り考えています。

『奴は金がなくなる。一番の打撃は今、金を払わせる事だ』

『金が無くなれば、妻にもう連絡を取る事もないだろう』

『専務の妹とは結婚出来なくなってしまった。その上に金もなくなる』

『奴は自棄になるかも知れない』


自棄になった佐伯は妻にまた手を出してくるかも知れない、そんな思いが頭をかすめます。

まさか妻が受ける事はないだろう、妻が拒否すればすむ事だ。

結論を出します。

「佐伯、明日金を取りに行く。用意しておけ、5時半に行くからな」

「解った」

佐伯はすんなり答えます。佐伯は会社から自分の処置を聞いている筈です。

不思議な気持ちで その答えを聞いたのです。

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明くる日、佐伯のマンションに行きますと、銀行の紙袋がテーブルの上に置かれています。

「あんたも俺の処置を聞いただろう。200万しか用意できない、残りの300万はこのマンションが売れてからだ」

「預金は手をつけられなかった筈だ。それにマンションの代金は全額会社に取られるだろう」

「会社も慰謝料の件は了承してくれた。マンションの代金から払っていいと、会社も経理も了解してくれた」

冗談ではありません。これでは佐伯と会社がいい子になってしまいます。

この時間なら、まだ会社に人が残っていると思い、電話をします。

受付が出て、経理に繋いでもらいます。

「宮下と申しますが、経理部長をお願いします」

「どう言うご用件でしょうか?部長は もう帰宅させて頂きました」

「慰謝料の300万、佐伯のマンションの代金から払って頂く必要はありません」

「何の事を言われているのか、解りかねますが」

電話に出た職員の方には あずかり知らぬ事でしょう。

「とにかく経理部長にでも、役員の方にでも、そうお伝え下さい」

「ちょっとお待ち下さい」

その職員の返事を待たず電話を置きます。

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佐伯は、私の行動に唖然としています。

「佐伯、そう言う事だ。お前の会社からのお情けは要らない」

「しかし、俺には払える金がない。あんたも知っている通り大阪の平社員か、さもなくば職なしだ」

「俺の知った事ではない。お前から払ってもらう」

私は公正証書のコピーに200万本日受領した旨を書き、押印して佐伯に投げつけます。

「お前が何処で働こうとも追いかけて行く。給料から天引きにしてでもな」

「解ったよ。好きなようにするんだな。俺にはもう失うものは何もない」

佐伯は開き直ったようです。

「俺と洋子の事を聞きたくないか」

「洋子と言うなと言っただろ。それに そんな物は聞きたくない」


「じゃあ、俺が勝手に喋ろう。あんたは実にへただったんだな」

「うるさい」


「洋子のオマンコは新品みたいだったよ、あんたが20年も使ってもな」

「・・・・・」


「前から俺の事を好きだったんじゃないか。最初の飯でもう釣れた」

「クリトリスなんか凄い感じ方だ、ちょっと擦っただけで直ぐいってしまう。

チンポも最初は舐め方さえ知らなかったが、ちょっと仕込むと涎を垂らして咥えてきたぞ。

ザーメンも美味そうに飲んだしな」


「うるさい、黙れ。薬まで使いやがって」


もう聞いてはいられません。思わず佐伯の腹に拳を打ち込みます。拳を打ち込まれた佐伯の腹よりも私の胸の方が痛いのです。

「お前とはもう終わった事だ」

「離婚するのか?」

「お前には関係ない」


200万をポケットに仕舞い、踵を返して帰ります。

--------------------
アパートに帰り考えます。

自棄になるかも知れない佐伯と、そして医者の言葉が浮かびます。

”妻は少しのきっかけで性衝動が起こる”、それと自棄になった佐伯を組み合わせれば。


私は賭けに出る事にしました。暫く家には戻らない。

佐伯の誘いに妻がのるようなら、それまでです。潔く離婚しよう。

拒否すれば、長い時間がかかるかも知れませんが、妻を受け入れてみようと。


妻の居る家に向かいます。

妻はキッチンに居ました。夕食の用意をしているようです。

「あっ、貴方お帰りなさい」

見ると二人分の量です。


「毎日作っているのか?」

「はい」

「俺の分は作らなくていい。ここでは食べないと言ってあるだろ」


妻の心情を解らなければいけないのでしょう。それが私には出来ません。

「佐伯の200万だ。俺は要らない。お前が稼いだ金だ、お前が使え」


駄目です。話合おうと思って来ても、妻の顔を見ると出てくる言葉は別のものです。

金はテーブルの上に放り投げられたままです。


「会社はどうした?」

「もう行けません。退職願を郵送しておきました」

「そうだな、佐伯も居なくなるし、言ってもしょうがないからな」

「違います。私の居場所は もうありません」

「お前がした事だ」


「俺は暫く戻らない。このままアパートで暮らす。朝と夜は一度此処に寄る。昼も家の電話で確認する。買い物に行く時は携帯に電話する。見張る必要があるからな」

「酷い。見張るだなんて」


行かないで下さいと泣く妻を背にアパートに戻ります。

賭けに出る、きれいな事を言っておきながら、妻を前にすると このざまです。醜い男です。

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それから毎日、朝、夜家にに寄り妻が居る事を確認します。

昼の電話にも妻が出ます。

電話の向こうから妻が何か言いたそうにしている雰囲気が伝わりますが、私は無視しています。

夜家に寄れば、妻の顔は私に何かを訴えています。

私は妻に声を掛けません。

一瞥するだけで直ぐ家を後にします。

妻が居る事を確認するだけなのです。

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7日目の時の事です。

夜9時に家に寄りますと灯りはついていますが、妻が居ません。しかし妻の車は車庫にあります。

歩いて行けるところへ言ったのか。

佐伯のマンションまで女の足で歩けば40分ほどかかります。

夜遅くに歩いて行くのも考えられない。暫く待っても帰ってこないのです。


>>次のページへ続く
 
 


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