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水遣り
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『何か用事か、それとも佐伯のところか?』

妻の携帯に電話します。電源が切られています。

『間違い無い。佐伯のところだ』

佐伯のマンションの売却は決まりましたが、引渡しが済んでいない為 佐伯はまだマンションに居住しています。

電話しようと思えば出来ます、行こうと思えばいけます。

只、このマンションはセキュリティーの厳しいのです。私が佐伯の部屋まで辿り付けるとは思えません。

佐伯に電話をしても本当の事を言うとは思えません。

やはり待つしかないのです。

12時まで待つ事にします。12時を過ぎれば私はアパートに引き返す事にします。

そのまま離婚しようと考えます。

では12時前に帰ってきたら、どうするのか?

妻が何時に家を出たのか解りませんが、佐伯のところへ言ったのだとすれば、今はもう11時です。

タクシーを利用していれば、抱かれる為の時間は充分あります。

その時はどうすればいいのか、やはり離婚か?

『やはり駄目か。妻は そう言う女だったんだ』


キッチンを眺めます。炊飯器が目に留まります。炊き上がってからの経過時間が2時間を示しています。

タイマーを使っていなければ、炊き上がるまで50分かかるとして、3時間前には家を出たことになります。

歩いていっても抱かれる時間はある事になります。

なにか痕跡はないかと、リビングを眺め回します。

サイドボードの上に200万が入った銀行の封筒が置かれています。

いつもなら妻は こんな大金をこんな場所に置いておく事はありません。
手に取りますと、その中には金と共に小さな封筒が入っていました。


その封筒の中には離婚届けが入っています。妻の署名と捺印がしてあります。

離婚届の他にメモがあります。

(佐伯が今日来ました。もし帰らない時は、この離婚届けを・・・・)


離婚届けを、のその後は書かれていません。文字は涙に滲んでいました。

『妻に何があったのだ。佐伯の部屋に何があっても行かなくてはならない』

私が玄関を飛び出したその時です。家の前に車が停まります。

--------------------

タクシーです。妻が帰ってきたのです。

顔は蒼白、髪が乱れ、ブラウスのボタンが2つありません。

しかし、その表情には曇りがありません。


「こんな時間まで、何をしていた」

「佐伯のマンションに行きました」


「どうして携帯の電源を切っていた。また部長様に言われたのか」

「いいえ、決めたのです。終わるまでは電話を受けないと」

「終わるまで?佐伯に抱いてもらうのが終わるまでか」

「・・・・・」

「見てやる、こっちへ来い」


スカートとショーツを一気に脱がせます。足を割り女陰を見ます。

若干濡れてはいますが、男根を受け入れた形跡は無いようです。

太腿には大きな絆創膏が貼られています。

「してはいないようだな。しかし この傷はどうしたんだ」

妻は これには答えません。


「貴方が出て行ってから、佐伯から毎日、何回も電話がありました」


佐伯は私の会社帰りの後をつけ、私がアパート暮らしをしている事を知ったようです。

携帯にも何度も何度も電話があったのです。

勿論、妻は出ません。

家の電話にも佐伯は かけてきます。

「貴方からの電話かも知れないと思うと、出ないわけにはいきませんでした」

抱いてやるから来い、一人暮らしで体が疼いているだろう、慰めてやるから来い、大阪へ一緒に行こう。

佐伯は執拗に誘っていたのです。

「断り続けました」

妻が断り続けていた為、車を乗りつけ家に来るようになったのです。

俺を家の中に入れろと繰返し言っていたのです。

聞き入れられないとクラクションを何度も何度も鳴らすのです。

「私、怖かった」

妻は夜になるのが怖かったのです。

佐伯に何をされるか解らない、近所にも知れてしまう。そんな事を私は考えていました。

それもあるのでしょうが、妻の言った怖いの意味は別のところにあったのです。

佐伯の訪問は何度か繰り返されます。その内妻は耐えられなくなってしまいます。

「今度来たら、マンションへ行こうと決めました」
家に上げる事は絶対に出来ない。そう思ったのです。

「一人になって考えるのは貴方の事ばかりです。貴方を愛していた、今でも愛している。それなのに」

妻は独り言のように喋ります。

「正社員のお祝いで食事を頂いた時、帰りにリムジンで送られた時、私は夢見心地でした。こんなにまでして頂いてと」


「そこで、お前はもう許してしまった」

「抱かれはしてません。でも同じ事ですね」

「期待があったのかも知れません」

「薬を使われた」

「薬のせいだけではありません。私にも原因があったのだと思います」


私の性技だけでは満足していなかったのです。色々なメディアで知った性の喜び、自分の体で知りたかったのです。自分の性欲の強さに気づき驚いたのです。

「貴方に試して欲しいと何度も言おうと思った、でも言えなかった」

妻は私と同じだったのです。同じ思いを抱いていたのです。


「佐伯はきっかけでした。佐伯でなくても同じだったかも知れません」

「佐伯に何度誘われても、最後までは許せませんでした」

「貴方の事を思うのです。最後までは出来ないと」

「同じ事だろう。最後まで行こうが行くまいが」

「違います。女にとっては大きな違いです。それを許すと心まで預ける事になってしまいます」

「お前は心まで預けてしまったと言うのだな」

「解りません。でも違うと思います」

「今、お前が言ったじゃないか、体を許す事は心を預ける事だと」

「そうですね。佐伯が特別な存在だと思ったのかも知れません」

「お前の言う事は全て矛盾している。さっき佐伯でなくともと言っただろう」

「解りません、私の体が・・・」

本当のところは妻自身にも解らないのでしょう。後から言う事は全て理屈です、言い訳です。起きてしまった事に気がついた時に考える言い訳なのです。


「写真で私の中の鍵が外れてしまったのです」

「嘘の写真でな。どうして俺に聞かなかった」

「聞くべきだったと思います。でもあの時は聞こうとは思いませんでした」

「いい言い訳が出来たわけだ」

「違います。でも そうかも知れません」

「はっきり言ったらどうなんだ、これで佐伯に抱いてもらえると」

「多分・・・・」

「多分、何なんだ」

「自分を許すものが欲しかったのです」

「結局、お前は抱かれたかったと言うことだ」


性に積極的ではなかった私、自分の性欲に気づいた妻。妻は自分の欲求をぶつける相手を私ではなく、佐伯を選んでしまったのです。

それから4ヶ月余りも続いてしまったのです。


「4ヶ月間、たっぷり楽しんだと言うわけだ」

「苦しんでもいました。夜眠れませんでした」

眠れなくなった妻は睡眠誘導剤を処方してもらったのです。


「白々しい事を言うな。ばれなければ、もっと続けるつもりだったんだろ この写真を見ろ。これが苦しんでいる顔か。心を預けた顔だ」

報告書の写真をぶつけます。


>>次のページへ続く
 
 


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