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水遣り
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「心を預けていた?私、そんな顔をしていたのですね。

長い間、不倫をしていても、貴方は何も言ってくれなかった。

気がついているのに、何も言ってくれないのだと、もう私には関心がないのだと、そう思っていました」


「勝手な事を言うな。俺は気がついていなかった。証拠もないのに聞けるわけがないだろ」

「あの時、貴方が大阪に来てくれた時、ほっとしました、これで終われると。嬉しかった、まだ貴方に気にかけて頂いていると」


これで終われるとほっとした妻も、後で録画の事を思い出します。もし、佐伯にそれをばら撒かれても、その時は私と別れて、何処か別の土地で暮らそうと思ったのです。


「それで、もう会社には居場所が無いと言ったのか」

「そうかも知れません」

「会社は辞めても、この家からは出て行かなかった」

「初めは、別れて頂こうと思いました。でも、やっぱり貴方の傍に居たかった。メールされても、貴方が許して下さるなら、貴方と暮らしたかった」

「自分の都合ばかり言ってるな、お前は。俺の事など何も考えてない」


此処まで話しても妻は涙を見せません。妻の決心が本当なら、妻もそれ相応に覚悟を決めた事になります。

しかし、妻の言っている事は自分に都合のいい事ばかりです。不倫している妻に気がついて責めて欲しかった。後になって言える事です。

録画の件も、それは存在しないと解ったから言える事です。私には そんな風に思えるのです。


「綺麗事言っているが、今日また佐伯に抱かれたわけだ、お前の体が疼いてな」

「違います。抱かれてなんかいません」

抱かれていない事は妻の体を見て解っています。それでも私は言わずにはいられないのです。


「どうして行ったんだ」
「一度は会わなくては、決別の為に一度は、と思っていました」

あれだけの快楽を与えてくれた佐伯です。会えば また抱いて欲しくなるに決まっている、私はそう思っていました。

妻の思いは逆だったのです。佐伯と会っても自分の気持ちは変わらない、その確信が欲しかったのです。

佐伯が来る前に離婚届に名を書き印を押します。メモを書きますが、離婚届をの後には文字が続きません。


「どうして離婚届けを書いた」

「もし佐伯に抱かれたら 私はそれまでの女です。もう貴方の元には帰れません」

--------------------

佐伯が来て、妻は佐伯の車に乗ります。バッグにはある物をしのばせています。


「ご亭主には抱かれているのか」

「・・・・・」

「そうか、ご亭主とは別居だな。自分で慰めていたのか?淫乱な洋子は我慢出来ないからな」

「そんなそんな事していません」


車の中での佐伯の言葉は それ一点に集中しています。信号で停まると妻の乳房、太腿を撫ぜようとしますが、妻はその手を払います。


「そうか、洋子も久しぶりで恥ずかしいのか」

「・・・・・」

「マンションに着いたらたっぷり可愛がってやるからな」


マンションに着き、部屋に入ると佐伯はいきなり妻を押し倒します。

ブラウスを強引に脱がせます。ボタンが2つ外れます。ブラを取り乳房を引き出します。

「やめて下さい。私はこんな事しに来たのではありません」


佐伯は聞いていません。スカートを脱がせにかかります。男の力には適いません。ショーツ一枚になり、妻の裸身が晒されます。

佐伯もトランクス一枚です。


「ほう、今日はオバサンパンツか。俺に抱かれたくないのか」

「抱かれたくなんかありません」

「今にたまらなくさせてやる」


佐伯は口づけしようとします。妻は顔を背け、口を硬く結びます。佐伯は舌でこじ開けようとしても、妻の口の中には届きません。

それでも佐伯の手は執拗に妻の乳房を、女陰を捉えようとしています。妻は手で足で それを払いのけるのです。


「もうやめて」

もみあいが暫く続きます。力が尽きた妻の抵抗も力がなくなってしまいます。

佐伯はショーツごしに女陰を揉みしだきます。足を羽交い絞めにして女陰の匂いを嗅いでいます。

「洋子のここはいつもいい匂いだな」


暫く、唇での責めが続きます。妻の足を自分の足で押さえ、また手でいたぶります。

妻は、私が佐伯の股間を蹴り上げた事を思い出します。

足は佐伯の足で押さえられ自由になりません。手で思い切り男根を掴みます。

「えっ」

妻は驚くのです。佐伯の男根には力がありません。

佐伯は勘違いするのです。妻の手が許したしるしだと。

「洋子も我慢が出来なくなったか。ほらパンツを脱がしてやるからな」

数十分にも及ぶ佐伯の責めで妻も感じ始めていました。

「こんなに濡れてるぞ。なにが、もうやめてだ」
佐伯はショーツを脱がそうと、その時です。

妻は頭の横にあるバッグの中からある物を取り出し、自分の太腿に突き立てるのです。

ある物は、鋏だったのです。

鋏は妻の太腿の皮を破り肉に突き刺さり、血が流れ出てきます。


佐伯もさすがに驚き、行為を諦めるのです。部屋にある塗り薬と絆創膏を妻に渡します。

妻はそれで傷の手当をします。佐伯は茫然と眺めています。


「悪かった、もうしない」

「・・・・・」

「俺は来週から大阪の平社員だ。洋子ともう一度だけでもと思った」


脱がされた服を身につけながら、妻はそれを聞いています。


「さっき解っただろう。俺はご主人に蹴られてから駄目になった」

「・・・・・」

「洋子となら出来ると思った。しかし・・・」

「俺と居た時は楽しかったと言ってくれ、良かったと言ってくれ」

「言えません」


打ちひしがれた佐伯を後に妻は帰って来たのです。

--------------------

自分の気持ちを確かめる為とは言え、妻は大芝居を打ったのです。

私への贖罪と これからの貞節の印を刻んだのです。

思えば睡眠誘導剤を飲んだ時から、その芝居が始まっていたのかも知れません。

私は妻の膝元に歩み寄ります。

「傷を見せなさい」

絆創膏を剥がしますと、固まった血糊の薄皮も剥がれます。そこからまた血が流れ出るのです。

それは妻の血の思いの涙なのです。私は思わず妻の血を舐めます、流れ出る血を吸い取るのです。

私の首筋に熱いものが落ちてきます。見上げますと妻は泣いています。

「有難う、貴方」

許したわけではありません。妻の心情を思うと、せめて血を舐めてあげたかったのです。

しかし、抱きしめる事は出来ません。

「今日はこれで戻る。明日朝また来る」

--------------------

このまま家に居た方がいいのかも知れません。

しかし、過去の事、今日の事、もう一度アパートで考える事にします。

許そうと思っても、浮かんでくるのは10月17日の妻の痴態、変わってしまった妻の女陰、着けていた下着。そこから連想できる佐伯との絡み。

打ち消しても打ち消しても出てきます。

佐伯のものが機能を果たしていても、妻は受け入れなかっただろうか?

佐伯は もう来週には大阪へ発ちます。

しかし、佐伯が居なくなっても、あれだけ変わってしまった妻は他に男を求めないだろうか?

きっかけがあれば又、他の男に走ってしまうのでは?

ふと自分の気持ちに気がつきます。

妻との別れを考えていないのです。

妻と暮らした場合の心配事ばかり考えています。

娘の明子の事もあります。明子は私たち夫婦の出来事は知りません。このまま知らせずに済ませたい。


>>次のページへ続く
 
 


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