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戦争の体験談を語るわ
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233 :祐希 ◆.0dKn/WD26 :2010/05/21(金) 02:48:24.18 ID:c1y0p92o
メルヴィナがサニャを、俺がソニアの手を引きながらガムシャラに走った。

そしたら、後ろの方から乾いた音が何回か聞こえたんだ。

パパン、パパンだったかな。

それと同時に、さっきまで叫んでいたカミーユの声が聞こえなくなった。

俺は、まさかと思って、立ち止まりそうになったんだ。引き返さなきゃって。


そしたら、メルヴィナが

「止まっちゃ駄目!」って言ったんだ。

引き返したら、カミーユの行動が無駄になるってね。


息が続く限り走ったと思う。

それでも、移動した距離は1キロにも満たなかっただろうけれど。

肩で息をしながら、もう大丈夫だね。って言い合った。



235 :祐希 ◆.0dKn/WD26 :2010/05/21(金) 02:49:03.92 ID:c1y0p92o
そこからは歩いて山の下まで行ってさ、夜になるまでカミーユを待ったんだ。

だけど、結局カミーユは来なかった。


薄々皆気づいていたよ。

あの音がしたときに、カミーユは殺されちゃったんだって。

でも、信じられなかった。

もしかしたらって思ってさ。

口にする事が出来なかったんだ。


気づいたら、皆涙流しててさ、人が死ぬって事は まだ そんなに深く理解できる年ではなかったけど、それでも涙が一杯出てきたんだ。

カミーユがさ、サニャの事が好きだってのは気づいてた。

それに、サニャもカミーユが好きっていうのは知ってたんだよ。俺は。


だけど、怖くて止められなかった。

カミーユが引き付けてくれれば、助かるかもしれないって思って。



237 :祐希 ◆.0dKn/WD26 :2010/05/21(金) 02:51:46.24 ID:c1y0p92o
泣きながら、サニャに「ごめん。ごめん。」って何度も謝った。俺が殺したようなもんじゃないか。

そしたら、サニャはさ、自分だって悲しいはずなのに、無理して笑顔作って、「祐希は悪くないよ。」って言うんだ。



太陽が沈んで、辺りが暗くなった頃、夜の山に子どもだけだと危ないからといって、山から出て道をあてもなく歩いた。

何でこんな事になってしまったんだろうとか考えながらさ。

沢山の星が綺麗に輝いてるのにさ、下は地獄だって思ったよ。



1・2時間くらいかな。

それくらい歩いてたと思う。

いきなり草むらから音がして、何人かの大人が出てきたんだ。

またスルツキかと思って、びっくりして逃げようとしたんだ。

だけど、ソニア達のヒジャブを見たからか、俺達がボシュニャチだとわかったみたいでさ、ボシュニャチの大人がこっちに来なさいって言ってくれたんだ。

あ、俺は日本人だけどね。



239 :祐希 ◆.0dKn/WD26 :2010/05/21(金) 02:54:02.73 ID:c1y0p92o
その人たちは、街で起きたことを教えてくれてさ、これからフォーチャへ向かって、それからゴラジュデに向かうから一緒に来なさいって言ってくれた。

ソニアやサニャは家に帰りたいって言ったんだ。

だけど、街にはスルツキの民兵や軍が来てボシュニャチやフルヴァツキの人たちを連れて行ってしまったから、行っちゃ駄目だって。

首都のサラエヴォでも戦争が始まったって言っててさ。

俺達は黙ってついていくしかなかった。



240 :祐希 ◆.0dKn/WD26 :2010/05/21(金) 02:56:06.37 ID:c1y0p92o
ライトを着けないで、街の反対側の山から向かったんだ。

車の中でさ、俺はまた泣きながら、カミーユに親切にしてもらったのに、俺は…って泣き言を言ってたんだ。


そしたら、サニャが俺の背中を擦りながらさ、

「カミーユが小さい頃に死んじゃったお兄さんが祐希とそっくりだったんだよ。

初めて会った日にカミーユは嬉しそうに話してて、友達になりたいって。

大丈夫だよ。

カミーユは怒ってないし、悲しんでもいないよ。

安心して。」

って。



245 :祐希 ◆.0dKn/WD26 :2010/05/21(金) 03:01:31.53 ID:c1y0p92o
そんな感じの事を言われたんだ。


その時、俺が眺めていた時に何で話しかけてくれたのかとか、何で休み時間に教室に来てくれたり、一緒に沢山遊んでくれたり、優しくしてくれたりしたのかとか、不思議に思っていたことが繋がってさ…。

好きだった子が死んじゃって、俺よりも長く一緒に過ごしてた子が死んじゃったっていうのに、メソメソしている俺を慰めてくれてるサニャを見てさ。

あの時 俺が勇気を出して行ってればって。俺が行けば良かったって後悔した。

それと同時に、カミーユとの約束、サニャを今度は俺が守らなきゃって。

何かあったらカミーユのようにしてでも守らなきゃって誓ったんだ。

まさか、これからさらに悲惨な未来が待っているとは、想像もしていなかったよ。


車で舗装された道の近くまで来たところで、大人たちが ここから先は歩いて向かうって言ったんだ。

俺達は、何で歩いていくの?まだ遠いよって言ったんだけどさ、フォーチャへ向かう道は ここしかなかったんだ。

サラエヴォでは、スルツキ(セルビア人)の警察や軍が都市を包囲して戦いが始まっててさ、この道にもスルプスカの軍がいるかもしれないから、歩いて山を越えることになったんだ。

とはいっても、実際に山中を登って下ってというわけではなくて、道から数百メートルはなれた木々の中を歩いていったんだけどね。

まだ夜で周りは真っ暗でさ、すぐ目の前もよく見えなかったんだ。

月明かりだとか、星空だとかで案外見えるんじゃないかって気もしてたんだけど、木々に覆われた中では光が枝や葉に遮られてしまって、本当に暗かった。

周りは風で揺らされた枝や葉がこすれる音とか、時折鳥か何かの声がしたりして、とても不気味だった。

それでも、例え怖かったとしても、進まなきゃいけなかったんだ。

サラエヴォに向かうのは危険なんだ。

だから俺達に残された道は、ゴラジュデしかなかったんだよ。


幼い俺達にとって、夜寝ないで歩き続けるって言うのは、想像以上に辛いものだった。

家族が どうなったかわからないし、俺も父さんがサラエヴォでどうなったか、生きているのか、それとも俺がカリノヴィクを脱出した後に戻ってこれたのか、心配してないか、色々と不安だった。

不安という一言では伝えきれないほど、頭の中では色んな事が ごちゃごちゃと渦巻いていたように思う。

体力的にも、限界は近づいてきていて、足は重いし、足元も良く見えなくておぼつかない。

時折、ガサガサと音がするだけで皆が伏せてさ、常に周りを警戒しながら歩いてた。

真っ暗でよく見えないお化け屋敷の中を延々と歩くようなものかな。

いや、起伏に富んでいて、足元が悪く、そして見つかったら殺されるかもしれないという不安が追加されているけれどさ。


もう歩きたくなかった。

大人におんぶしてもらえたら、どんなに楽だろうって何度も思ったよ。

でも、俺達は言い出せなかったんだ。

なぜなら、俺達よりも小さい子が歩いてるんだよ。俺達よりも辛いはずなのに歩いてるんだ。

だから耐えるしかなかったんだ。

とはいえ、徒歩で山中を歩くのは時間がかかる。



空が赤くなり、少しずつ夜が明けてきた頃だったと思う。

フォチャ途中にあるミジュヴィナという街のすぐ近くまで来ていたんだ。

内心、やっと休めると安心したよ。


だけど、周りがどんどん明けてくるに連れて、その考えが甘かった事に気づかされたんだ。

小さな街なのだけれど、そこからは黒い煙が立ち上っていた。

誰も口には出さなかったけれど、カリノヴィクと同じ状況になったというのは明白だった。



255 :祐希 ◆.0dKn/WD26 :2010/05/21(金) 03:08:50.90 ID:c1y0p92o
しかし、このままフォーチャに向かうのは不可能だったんだ。

俺達のグループは、大人数名に子ども数名、そしてまだ1歳ほどの赤ちゃんまでいたんだよ。

まだ4月とはいえ、喉はカラカラに渇いていたし、お腹もすいていた。

赤ちゃんに至っては、もう元気がなくて ぐったりしていたんだ。


だから、一人の男性が街に行って、食料とかを調達してくることになった。

もしスルツキ(セルビア人)に見つかったら殺されてしまうのではないか?といった疑問もあったけれど、彼はスルツキ(セルビア人)とボシュニャチ(ボスニア人)のハーフだったから、大丈夫だよといって出かけていった。


待っている時間はとても長く感じた。

もし帰ってこなかったら このままフォーチャに向かうしかない。

そして、向かったとしても、このミジュヴィナと同じ状況になっているかもしれない。


未来が見えなかった。

希望の光が見えなかったんだ。

幼い俺ですら その状況なのだから、大人たちは もっと深刻に感じたいたかもしれない。

まだ肌寒い季節なのに、そういった変な興奮状態からか、体は火照っていたように思う。

恐らくは、疲労の為に体が熱くなっていたのかもしれないけれどね。



ごめん。もう無理だ。

スレで人を煽るのは大丈夫だったのに、煽られると、思っていた以上に辛いんだな。

あー、もう正直無理だ。

父さんに原稿託して終わらせる事にするよ。


これは妄想でした。

不謹慎な作り話してしまって申し訳ありませんでした。

これでいいよね。


ただ、もし良かったらユーゴ紛争について調べてみてください。

そして関心を抱いてくれたのであれば、どうか彼らの力になってあげてください。

それが出来るのは、バルカン半島の民族感情だとか宗教だとか、利害だとかと あまり関係のない第三者、日本・日本人だと個人的に思うんだ。


皆に押し付けてしまって申し訳ないけれど、どうかよろしくお願いします。

子ども達が安心して暮らして、そして笑って大人になれるような世界を、彼らにもどうか見せてあげて欲しいのです。

それでは、おやすみなさい。



>>次のページへ続く
 
 


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