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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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60 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 11:42:09.39 ID:1+Q4FLW+.net
「じゃ、なぜあなたは自殺するの?」
レイの質問は振り出しに戻った。
「あなたは正しくない人たちに正しくない扱いを受けて、その上、正しくない終わりを選ぶの?」
「そんなこと言われても……」
ほかに何ができるってんだ。そう思うと、敗北感がこみ上げた。あれほど誇らしく崇高に思えた自殺が、負け犬のすることにしか思えなくなった。
いや、ハイな感覚でそれを見ないふりしてただけで、本当は俺も知ってたはずだった。
自殺は、この辛い現実から逃げ出す手段なんだって。俺はそれを選んだんじゃなく、選ばざるを得なくなっただけなんだって。
61 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 12:03:33.32 ID:1+Q4FLW+.net
「俺は、生きる価値のない人間なんだ」
それは深く考えて出た言葉じゃなかった。けど、自分のことを どんぴしゃで表した言葉だと思った。
俺は生きる価値のない人間だ。繰り返すと、自分が真っ暗な穴に落ちてくような気分がした。よくわからんが、概念化ってやつかな?
ある現象があるとして、それを言葉で定義した瞬間、理解できるようになる、みたいな。
生きる価値がない。俺は自分をそう定義すると同時に、本当に価値がないと思い込んじまったんだ。
62 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 12:14:46.01 ID:1+Q4FLW+.net
「俺は、最初から価値のない人間だったんだ。だから、あいつらが俺をいじめたとしても、それは仕方ないことだったんだ。
だって、俺に価値はないから。キモくて最底辺のクソだから。そうだ、俺はクソなんだよ。
だから死ぬんだ。こんなクソが生きてたら、みんなが迷惑だからさ!」
これでもかってくらい自分を貶めると、心臓が痛んだ。
けど、その痛みは快感でもあった。この期に及んで新しい性癖が開花したのかと思うくらい。
でも、その快感はレイの一言で吐き気に変わった。
「自殺の次は、自己憐憫?忙しそうね」
「じゃ、なぜあなたは自殺するの?」
レイの質問は振り出しに戻った。
「あなたは正しくない人たちに正しくない扱いを受けて、その上、正しくない終わりを選ぶの?」
「そんなこと言われても……」
ほかに何ができるってんだ。そう思うと、敗北感がこみ上げた。あれほど誇らしく崇高に思えた自殺が、負け犬のすることにしか思えなくなった。
いや、ハイな感覚でそれを見ないふりしてただけで、本当は俺も知ってたはずだった。
自殺は、この辛い現実から逃げ出す手段なんだって。俺はそれを選んだんじゃなく、選ばざるを得なくなっただけなんだって。
61 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 12:03:33.32 ID:1+Q4FLW+.net
「俺は、生きる価値のない人間なんだ」
それは深く考えて出た言葉じゃなかった。けど、自分のことを どんぴしゃで表した言葉だと思った。
俺は生きる価値のない人間だ。繰り返すと、自分が真っ暗な穴に落ちてくような気分がした。よくわからんが、概念化ってやつかな?
ある現象があるとして、それを言葉で定義した瞬間、理解できるようになる、みたいな。
生きる価値がない。俺は自分をそう定義すると同時に、本当に価値がないと思い込んじまったんだ。
62 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 12:14:46.01 ID:1+Q4FLW+.net
「俺は、最初から価値のない人間だったんだ。だから、あいつらが俺をいじめたとしても、それは仕方ないことだったんだ。
だって、俺に価値はないから。キモくて最底辺のクソだから。そうだ、俺はクソなんだよ。
だから死ぬんだ。こんなクソが生きてたら、みんなが迷惑だからさ!」
これでもかってくらい自分を貶めると、心臓が痛んだ。
けど、その痛みは快感でもあった。この期に及んで新しい性癖が開花したのかと思うくらい。
でも、その快感はレイの一言で吐き気に変わった。
「自殺の次は、自己憐憫?忙しそうね」
63 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 12:25:04.85 ID:1+Q4FLW+.net
何だよ、その言い方!俺は思った。でも、思っただけだった。
いまや俺の中は、虫のサナギ並みにぐちゃぐちゃだった。何にも形を成してないどころか、核もない、どろどろの液体だ。
チョウみたいな きれいなものになれるなんて これっぽっちも思ってないが、少なくともこの状態から抜け出すにはレイの力が必要だ。
……いや、というより、必要だと思い込んでいた。
俺はとにかく、レイに放置されたら どうなるかなんて想像もしたくなかったんだ。
64 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 12:29:49.39 ID:1+Q4FLW+.net
「数学は得意?」
レイは唐突な質問をした。
「いや、全然……」
そう答えると、レイは文字で笑った。
「だと思った。私は得意よ。順番に正しく考えれば、絶対に正しい答えが出るから」
65 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 12:37:24.00 ID:1+Q4FLW+.net
「どういう意味?」
「これは問題」「あなたは問題を抱えている」「私はそれを正しく解く手伝いがしたいだけ」
「どうして? 君には何の得もないだろ」
「そうね」
「なら、どうして」
「別に必要ないなら構わないから、そう言って」「すぐに消えるから」
そう言われてしまうと、俺は何も言えなかった。
66 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 13:00:24.66 ID:1+Q4FLW+.net
「なら、考える時間をあげる」
黙った俺の隙を突くように、レイは言った。
「また明日。同じ時間に」
「ちょっと待って」
俺は慌ててタイピングしたが、レイが応えることはなかった。
俺の台詞を最後に画面は動かなくなった。
チャット画面を残したまま、俺はベッドにダイブした。
いつもなら漫画に埋もれてるはずの そこがきれいな理由を思い出しかけたが、それよりも断然眠気が勝った。
窓の外はすっかり明るくなっていた。小学生の甲高い声が路地に響いてうるさかった。けど、頭から毛布を被ると、光りも声も全部消えた。
レイは一体何者なんだろう。
俺は眠りに引き込まれながら、そんなことを考えた。
チャットアイコンのあの無表情キャラ、その背後には必ず現実の人間がいるはずだ。そんなことくらい馬鹿な俺にもわかってる。
けど、すでにレイはあの無表情キャラとして俺の中に存在している。動いている。まるでアニメキャラが そのまま飛び出してきたみたいに。三次元の法律や常識に縛られない、突拍子もない感覚を携えて。
そんなはずはない。そう思っても、俺はそんな想像を打ち消すことができなかった。
68 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 03:04:37.66 ID:MmTYItc1.net
次の朝……ではなく夜。
俺はいつもより早く目が覚めた。
それでも十分睡眠は取れたはずだったが、何だか眠った気がしなかった。
眠ってる間中、俺は夢を見ていた。
立ってる地面に ずぶずぶと飲み込まれていく夢だ。
誰かが ひっきりなしに俺を罵倒してる夢だ。
逃げたいのに身体が重く、少しも動くことができない夢だ。
「なぜ あなたは自殺するの」
そう聞き続けるレイの声が聞こえ続け、
「俺はクズでクソなんだ」
答え続ける俺がいた。
69 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 03:13:47.99 ID:MmTYItc1.net
点けっぱなしにしていたパソコンは、勝手にスリープモードに入っていて、マウスに触れると不機嫌そうな音を立てて立ち上がった。
画面には昨日の会話が並んでいた。
俺は読み返すでもなく、それを ぼうっと眺めた。
それから ぼんやり考えた。
レイの言うとおり、俺は問題を抱えている。それも生死にかかわる、とびっきりのやつを。
そしてレイの言い方を借りれば、俺はそれを「解決」しようとあがいてた。
で、出した答えが・・・・・・片付けもせずに垂れたままの、この首つりひもだ。
70 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 03:19:22.75 ID:MmTYItc1.net
つまり、自殺。
俺が死んじまえば、それで全部が終わりだ。
苦しいことも、悲しいことも、死は全部断ち切ってくれる。
それは、俺が起こすことのできる唯一のアクションだ。
俺が、世界を切り離すんだ。何もできないクズでも、精一杯やれば これくらいできるんだ。
そんな「答え」」に行き着いたから。
71 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 03:25:03.89 ID:MmTYItc1.net
けど、そう考えられたのは、あの一種ラリッたような感覚でいられたからだった。
自殺なんて誰でもできることじゃない。それを俺はやり遂げるんだ! なんて、テンションが上がっちまったからだった。
きっと、あのままのテンションを維持できたなら、俺は昨日死んでいただろう。
首にヒモが食い込み、苦しさに思わずあがいたとしても、俺は今死んでる! って興奮に包まれたまま、死んでっただろう。
72 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 03:29:59.56 ID:MmTYItc1.net
けど、そうはならなかった。
レイが画面に現れたから。
「なぜ死ぬの」
そう聞いてくれたから。
ぽーん
そのとき、昨日と同じ音がして、画面に新しい文字が現れた。
「問題を正しく解いてみる気になった?」
相変わらず、冷めた口調のレイだった。
73 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 03:36:40.81 ID:MmTYItc1.net
俺はすぐには答えずに、一度、深呼吸をした。
それから、横目でぶら下がったヒモを見た。
壁をぶち抜いて結ばれたそれは、部屋の中で異様だった。
確かに俺が結んで垂らしたものだったけど、まるで別の誰かが用意したものみたいだった。
そして、そう見えるのはきっと、あの変な感覚が消えたからだった。
そうすると、俺はもう認めざるを得なかった。
あの変な感覚で見ないふりしてきた、死にたくないって感情を。死への恐怖を。
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