親父は子だくさんの当時としては珍しい一人息子。祖母が溺愛して育てた。
母親はアホで、母親と姉に頼り切り。
つまりどちらも経済観念が全くなく、欲しいモノは買うというヤツだ。
親父は公務員だったのでその町では結構な給料をもらっていた。
でもお袋は適当に金を使う。
親父も欲しいモノがあったら買う…だった。
幼い時はよく分かっていなかったが、長男だった俺はそのうちすごい不安になった。
だって新しい家電製品がでたらすぐウチにある。
友達の家にもないのに。
お袋も店に行っては「安い!」と言って大量買いして、結局腐らせるということばかりだった。
母親の姉は工場で働いていた。伯父も工場で働いていて、子供はいなかった。
それで俺や俺の兄弟達をもの凄く可愛がってくれていた。
ところがある日気がついた。
金が無くなったら、お袋は姉に金を貰っていたんだ。
いくら子供がいないといっても工場で働いているんだ。ボーナスだってない。
小学生だったが嫌な気持ちになった。
当時、自家用車がそろそろ普及していたころだ。
親父は車が欲しいと喚きだし、ディーラーを呼んだ。中古車だったが買うことにした。
成約してセールスマンが車を持ってきた日、伯母夫婦がやってきた。
なんだろうと思ったら、伯父が札束を出した。
…表向きは借りたという事だったが、数十年後伯父に聞いたら「返してなんかもらっていない」と言われた。
俺の家の生活はずっとそんなだったんだ。
餓鬼だった俺の知らないところで、一体どれだけ伯父伯母から金を貰っていたのか考えると、鳥肌が立った。
18歳で地方駅弁大学に入学した俺は、やっと家族から離れられて気ままに学生生活を楽しんでいた。
…あれは大学三年だった。
家から電話が来た。
父親の祖母ちゃんが同居しいたんだが、なんの事かよくわからん話だった。
帰省して尋ねても祖母ちゃんは口をにごす。
でもお袋の様子がおかしい。
親父はその頃、役所の中で窓際に座らされてストレスがたまっていたらしい。
モノは買う、ギャンブルはする(餓鬼の頃から賭博が好きだったらしい)で弟妹達はつらい思いをしていたらしい。
1週間くらいの帰省じゃよくわからなくて…って言うか知りたくなかった。
餓鬼の頃から親の喧嘩を止めに入っていたのはトラウマだ。
殴り合いの喧嘩を何とか止めなきゃと思ってチビの小学生が2人の間に飛び込むんだ。
だって弟達は泣いているだけだし、俺がやらなきゃどうしようもなかった。
そして俺は就職した。
もちろん田舎じゃなくてそこそこでかい都市だ。
慣れない仕事でなんとかやっていたが、そこへとんでもない電話が来た。
慌てて帰ったら「離婚騒動」になっていた。
お袋がサラ金から金をかりていたのが理由だ。
この歳になって分かるんだが、多重債務者って犯罪者と似たようなもので、絶対に本当の事は言わないんだ。
親父にも正確な借金は言わない。多分本人も正確な金額は分からなかったんだろう。
親父に責められて白状した金額は3千万円だった。
言葉もなかった。親父は怒り狂うしまだ高校生、中学生だった兄弟は泣くし。
祖母さんはおろおろするだけ。
そんなになるまでばれなかったのは、祖母さんが督促状を全部親父に隠していたからだった。
でも三千万円…親父は何とかしようと思ったが、世間知らずの田舎の公務員だ。
でも、県庁にいた昔の先輩が知恵を貸してくれて、今じゃ違法だろうが、別な名目で金を借りてきた。
でもそれだけでは済まなかったんだ。