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私が初恋をつらぬいた話
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16 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 14:40:54.45 ID:+beSXCVE0
自覚をすると この状況がとっても恥ずかしく感じる。

けれど それ以上に先生が横に居るのがとても嬉しい。


このままこんな時間がずっと続くといいな…そんな事を考えていると、授業終了のチャイムが鳴った。

「さて、そろそろ戻らないと」

先生はそう言うと立ち上がり、小さく背伸びをした。

その瞬間、先ほどまでの心地よさはサっと消えうせて、私は一気に現実に引き戻された。

ここで さようならをしたら、次はいつ先生に会えるのかな…?そう考えるとまた胸が締め付けられる。

「じゃあ、また…」

ニコっと笑って先生は小さく手を振った。


校舎に戻って行く先生を見ていたら物凄いもどかしさに襲われて、私は気がついたら先生を呼び止めていた。

???っとした顔で振り返る先生に、急いで駆け寄る。

「あの……」

「どうしました??」

ドキドキしながら話しかけ、頭の中で一生懸命先生との接点を探す。先生との時間を作るには、今の私にはコレしかない。

「……歌を私に教えてください。」

先生は驚いた顔をした。



17 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 14:43:05.92 ID:+beSXCVE0
「歌?中学校に音楽部ってありませんでしたっけ?」

「あります。けど…」

「だったら僕に教わるより、中学校で教わった方がいいn…」

言いかける先生の言葉を遮る様に、私は話を続けた。

「…私、自分の歌を初めて褒めてくれた先生に教わりたいんです。もっともっと上手になって、自分に自信を持ちたい。」

先生は上を向いてしばらく考え込むと、何かを思いついたようにまたニコっとこちらを見た。

「わかりました、校長先生に事情を話して、音楽室を使っても良いか聞いてみましょうか。ちょっと待ってて下さい。」

そう言うと先生は、小走りに校舎に戻って行った。



先生が校舎に入るのを見届けると、精一杯張っていた緊張が解けて、その場に どっとしゃがみこんだ。

今更になって後悔が押し寄せてきて、心臓のドキドキが激しくなる。

自分は凄く迷惑な事をお願いしてしまったんじゃないか…

迷惑だったけど優しい人だから、断る口実を探してるんじゃないか…

そんな考えが沸いては消え、沸いては消えして、心臓のドキドキはいつしかギュッとした締め付けに変わっていた。




18 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 14:43:57.54 ID:L9GcuA1Wi
やばい先生に惚れそう


19 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 14:46:04.62 ID:+beSXCVE0
何回か深呼吸をして少し落ち着くと、私はまた非常階段に戻り、腰をかけた。


断られた時に少しでも大丈夫なように、今のうちに心の準備をしておこう…

そんなネガティブな考えで悶々としていると、先生は思ったより早く戻ってきた。


「校長先生に許可貰えましたよ、二つ返事でOKでした。さて、これからどういう予定を立てましょう?」

先生はニコっと笑う。

私はと言うと 思いがけない返事にビックリして、ほんの少しの間だけ固まってしまっていた。

「渚さん?」

「あ、え、はい、あ、ありがとうございます!」

そんな私の様子を見てプッと噴きだした先生は、まだ半分笑った顔のまま話を続けた。


「下校時間以降、職員会議の日や行事の時以外なら、音楽室を使っても構わないそうです。」

「は、はい。」

「さすがに毎日と言う訳にはいかないので、週に1.2回でどうでしょう?」

「は、はい。」

「じゃあ毎週火曜日って事にして、その週に都合が付けば金曜日もって事でいいですか?」

「は、はい。」

先生は堪え切れなくなったように、今度はアハハと声を出して笑った。

「さっきから はい しか言ってないけれど、コレで本当に大丈夫ですか?」

「は、はい!大丈夫です!…あの…先生は大丈夫ですか?いいんですか?」

「大丈夫じゃなかったら断ってます。担当してるクラスも無いし、暇だから平気です。」

先生がニコっとして頷く。

そこでやっとホっとした私は、さっきとは一変、とたんに夢心地になった。

「じゃあ来週…はもう夏休みか。火曜日はちょっと忙しいから、来週だけは金曜日、時間は15時からでいいかな?」

「はい、わかりました。」

「一応、学生服で来てくださいね。正装でくると言うことで。」

「わかりました。」

「じゃあもう戻らないと。また来週、渚さん。」



21 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 14:49:38.40 ID:+beSXCVE0
それからの毎日は、本当に楽しいものだった。

毎週先生と会える日が待ち遠しくて、一週間があっという間に過ぎていく。

複式呼吸の練習、高い声・低い声の出し方、細い声・太い声の出し方…

まぁ本当に ただのボイストレーニングなんだけど、それでも徐々に自分の歌声が良くなって行くのが実感できて、更に楽しかった。

最初の動機こそ不純なものだったが、私は歌を歌うという事が どんどん好きになって行き、また、先生への思いも どんどん大きくなっていった。


恋をして少しは身なりを気にするようになり、クネクネだった髪にはストレートパーマをかけた。

眉毛も整えるようになり、身長が少しだけ伸びたおかげか、体重も徐々に減っていった。


中一の冬休みが終わる頃には、自然と良く笑うようになり、友達もできた。

小学生時代には想像も出来ないくらい、私は明るい普通の女の子になっていた。

このままずーっと この日常が続いて欲しいな…

私は生まれて初めて、心穏やかな充実した学生生活を送っていた。




23 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 14:52:59.51 ID:+beSXCVE0
当たり前だけど、先生とは何も進展がなく過ぎていき、中学2年が終わる春休みの少し前。

いつものように発声練習をして一息休憩を入れていた時、先生が少し残念そうに、でもニコニコしながら呟いた。

「多分、今年は移動になると思います。」

穏やかに流れていた日常が、ピタっと止まる音がした。

「移動って…違う学校に行くって事ですよね?」

「そうですね、そういう事です。本当は公表があるまで言っちゃいけない決まりなんですが…」

「…どこに移動になるんですか?近くの学校?」

「いや、京都です。」

京都…学生の私には、あまりにも遠い距離だった。

「渚さんとは こう…少し特殊な形で関わってましたし、今後の予定もあるでしょうから、先にお話しておいた方がいいと思いまして…」

「そう…ですか…」

「急な事でごめんなさい。でも折角練習を続けてきたし、これからは中学校の音楽の先生n…」


その後、先生は何か色々話していたけれど、私の耳にはまったく入ってこなかった。

先生が生活の一部になっていた私にとっては、まさに沈んで行く船に乗っている気分。

先生が遠くに行ってしまう…

その事で頭が一杯になり、その日の残りのレッスンはずっと上の空だった。



25 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 14:54:18.14 ID:L9GcuA1Wi
まさかの異動か(。-_-。)


27 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 14:55:51.55 ID:+beSXCVE0
最後になるレッスンの日。

今まで待ち遠しかった火曜日が、今までで一番来て欲しくない日になっていた。

いつものように音楽室に入る。

先生は珍しく、まだ音楽室には来ていなかった。


ふと、ピアノの後ろにあるカラーボックスに違和感を感じて目をやる。

今まで先生の私物がぎっしりと詰まっていたカラーボックスは、綺麗に片付けられていた。

あぁ、本当に居なくなっちゃうんだ…

そう実感した瞬間、涙が勝手に溢れて来た。

嗚咽するでもなく、ただただ涙だけがポロポロと溢れ出てくる。

泣いてる顔なんて見られたくない…早く泣き止まないと…そう思えば思うほど、意志とは裏腹に涙が止まらなくなっていく。


なんとか泣き止む為に深呼吸を繰り返していると、音楽室のドアが開く音がした。

「待たせてすみません、ちょっと忙しくて…」

泣いて真っ赤になった目が、先生の目と合う。

先生のビックリした顔を見て、私は何故か恥ずかしくなり下を向いた。

先生はそっと扉を閉めると、いつものようにピアノの椅子に座る。


例え様の無い不思議な沈黙が、ただただ重苦しかった。




>>次のページへ続く
 
 


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