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私が初恋をつらぬいた話
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222 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 19:19:44.53 ID:+beSXCVE0
「あぁもう…泣き虫なんだから……」

先生は優しくそう言って立ち上がり、私をぎゅうっと抱きしめた。

「ごめんなさいぃ…」

抱きしめられると、もっと申し訳なくなってくる。

「だから大丈夫だってば。ほら、泣かないで。お願いだから。」

先生は困ったように笑う。それでも私の涙は止まらなかった。

「大切な人を守るためなら、手の1本や2本、どうって事ないじゃないですか。渚さんだって、そう思うでしょ?」


先生は ちょっと照れくさそうにそう言った。

私は その言葉で更に胸が苦しくなって、立っていられなくなった。

先生は「おっと…」と言いながら、私を支えるように一緒に座り込んだ。


223 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 19:22:19.07 ID:+beSXCVE0
あぁ先生が困ってる…泣き止まなきゃ……もう何で涙が止まってくれないの…

泣きながらも どこか冷静な頭の片隅で、私はずっとそんな事を考えていた。

「……ほら…こっち向いて。」

優しくそう言われて、嗚咽を堪えながら先生を見つめる。

先生は優しく微笑むと、フッと顔を近づけた。

先生の唇が、私の唇に軽く触れる。

私の頭は、途端に真っ白になった。

息をする事も忘れて、私は自然に目を閉じた。

先生の顔が、スーっと離れる。

私は思い出したように、そっと息を吐いた。

薄っすらと目を開けて、先生を見る。

「…泣き止んだ。」

先生は私と目が合うと、ニコッと微笑んだ。



「…せんせい…」

私がやっとで呟くと、先生は恥ずかしそうにクスっと笑った。

「その…先生って呼ぶの、そろそろやめにしませんか?」

私は少し困った顔をした。

少しだけ考えて、先生に小さな声で聞き返す。

「……じゃあ何て呼べばいいですか?」

先生もちょっと困った顔をしながら笑った。

暫らくぼーっと何処かを見て黙り込んでいたが、またフッと笑うと まっすぐ私を見つめた。

「んー………わからない…」

そう言いながら、ゆっくりと顔を近づけてくる。

私はまた、目を閉じた。


224 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 19:25:32.80 ID:+beSXCVE0
その日、私は初めて先生と一緒にベッドに横になった。

先生は やらしい事は一切せず、ただ向き合った私を抱きしめているだけだった。

安心感と暖かさで心は すごく安らいでいたのに、私はなかなか眠ることが出来ず「先生…」と小さく声をかけた。

「…なんですか?」

先生も起きていたようで、すぐに返事が返ってきた。

「先生と〇〇さんは…どういう知り合いなんですか?」

「このタイミングでそれを聞きますか。」

先生はプッ吹き出した。

「……あれは嘘です。」

驚いて先生を見上げる。

「まぁ…名前と何をしてる人か位は知っていましたけど。」

「何で嘘ついたんですか。」

私が少し怒った様に言うと、先生は苦笑いした。

「…まぁ、もういいじゃないですか。」

先生は困ったように笑いながらそう言うと、私をグッと抱き寄せた。

「でも…」

「いいからもう寝ましょ。これ以上このままで起きてたら僕、貴女に何するか解りませんよ?」

私は急に恥ずかしくなって、布団の中に顔を埋めた。

「…もうこれからは、貴女に怖い思いも、辛い思いも、絶対にさせませんから。」

先生は私の頭を、私が寝付くまで ずーっとずーっと優しく撫で続けていた。




225 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 19:28:48.14 ID:+beSXCVE0
それから……。



地元では予想通り噂になったけれど、私は先生と一緒に暮らし続け、先生の転勤にも付いて行った。

最初こそ仕事を探したものの、先生の職業柄移動が多く、すぐに辞めてしまう事を考えて先生と話し合った結果、私は職探しを止めた。


先生の傍で、穏やかな日々を過ごす。

私が20歳になると、先生は「結婚…してみませんか?」と私に言った。

私は喜んで「ハイ」と返事をした。


結婚式はせず入籍だけ済ませ、二人だけで記念写真を撮った後、私達は新婚旅行がてら短い旅行をした。

そこでやっと先生は、初めて私を女性として抱いた。


籍を入れて一年後。

33歳になった先生は教師を辞めて私の故郷に程近い場所に家を買い、そこでピアノ教室を開いた。


丁度その頃、あの日以来会っていなかった母から連絡が届いた。

全てを一度リセットした母は、今は知り合いの伝で小さな事務所の事務員をしているらしい。

久しぶりの電話越しの母の声は、昔とは違って随分と落ち着き、そして凄く幸せそうだった。

私も先生と結婚したことを告げると、母は電話越しに泣いていた。

それからは ちょくちょく、母とは今も電話で連絡を取り合っている。


226 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 19:32:01.91 ID:+beSXCVE0
私は未だに先生の事を「先生」と呼んでいる。

先生は相変わらずニコニコしていて、私達の会話は昔から変わらず敬語のまま。

夫婦で敬語なんて変…と友人達は笑うけれど、これは多分、もう一生直らないだろう。

先生と出会ってから、気がつけばもう十数年。

長い長い時間をかけて、本当に大事な人と結ばれ日々を過ごしている今、私はふと自分の人生を振り返り、幸せを噛み締めている。


227 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 19:34:48.68 ID:+beSXCVE0
書き溜めていたのは以上です。

急に尻つぼみに終わってしまって、申し訳ありません。

最近の事を書こうとすると、何故か指が止まってしまい、文章にはとても出来ませんでした。

長い時間、私の拙い思い出話にお付き合いいただき、ありがとうございました。


228 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 19:35:39.77 ID:L9GcuA1Wi
つらいこともあったけど今幸せか


ボロボロ


229 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 19:36:49.33 ID:ZOSge41I0
おつかれさまでした!



230 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 19:37:06.01 ID:LUqPOmqkP
乙!

質問いいかな?

どうして書く気になったのか教えてほしい

いや、オチ?で子どもが出来たとか入籍したとか、そういうんじゃなかったから

どうして書くつもりになったのかなって思って


232 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 19:39:57.93 ID:+beSXCVE0
>>230
どうして書く気になったのか…そう言われると上手く説明が付きませんが、ある日ふと、小学生にピアノを教えている主人を見ていて、何故だか自分の昔の事を思い出したのです。

あんなこともあった…こんなこともあった…

そう色々考えているうちに、自然と昔を振り返りながら、少しずつ書き始めていました。


233 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 19:40:17.14 ID:QDHvM6y80

今も幸せなんだね

一番偉いのは常に先生に対しては事実を伝えていたところ

何処か一つのタイミングがずれていたら、こうはならなかったよね


234 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 19:43:27.70 ID:+beSXCVE0
>>233
はい。

あの時 少しでもタイミングがずれていたら、私の人生は母と同じような事になっていたかもしれません。



>>次のページへ続く
 
カテゴリー:人生・生活  |  タグ:すっきりした話, これはすごい, 胸キュン,
 


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