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伝説の風俗島
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だから僕も、脱ぐしかなかった。
授業で習った綺麗な飛び込みの姿勢。
マコトの「せーの」で、僕らは一斉に飛び込んだ。
灼けついた全身に、袖から出ていた両腕に、ジーパンごと熱されていたふとももに、日差しを集めすぎた黒い頭頂に、海の水は死ぬほど染みて心地好かった。
海面から顔を出して息を吐く。ボートの黄色が目に入る。
すぐにマコトの姿を目で追った。ボートにしがみついていた。僕もすぐボートに手をかける。
そのまま島の方向を見定め、二人同じ方向につかまり、バタ足を始めた。
いままでよりも全然、進んでいる感じがあった。いままで一人ずつの力でしか漕げなかったボートを、いまは二人の力で漕いでいる。
隣でマコトが こっちを見るのが分かる。照れ臭いから僕は前だけを見ている。
マコトがまた前を向いた。ちょっと右の方が先に進んでしまっている気がして、僕も負けずに足を動かす。
楽しかった。二人とも笑っていた。
やがて それも疲れで次第に落ち着いてきた頃。港の様子が見えてきた。
港に、人がいた。
僕らが着いたのは細いコンクリートの桟橋が一本延びただけの砂浜。
昆布の打ち上げられた海岸から五メートル程奥のところで胸くらいの高さのコンクリートになっていて、そこから奥が島だった。
明らかに僕の親父より年上のくたびれたおっさんが、くわえ煙草で そのコンクリートの段に座っていた。
上陸した僕らを見てにやにや笑っていた。後ろを向いて手招きしたので、建物が並ぶ方から人が集まってきた。
建物の一つには、黄色い看板にピンクのネオンで、ストレートにカタカナ三文字の女性器名称が書いてあった。
そんなことに気をとられている隙に、浜に立ったずぶ濡れの僕らは、十人近い女の人に囲まれていた。
もちろん裸じゃなかったし、ましてや べっぴんさんなんかじゃ絶対なかった。
島の臭いは昆布の臭いで、決して僕が言ったハチミツでも、マコトが言ったマーマレードでもなかった。
「坊やどうしたの」
ジャミラみたいなオバサンが口を裂けさせながら言う。
「ずぶ濡れじゃない」
ピグモンがスカートを揺らしながら覗き込む。大胆に開いた胸元からおふくろのケツみたいなものが見えた。
「坊主、泳いでヤりに来たんか」
くわえ煙草のおっちゃんが煙草を外して豪快に笑った。エロい気分なんて、全部ジャミラに食われてしまっていた。
「うちの店来なよ。二人まとめて面倒見てあげる」
ウルトラの母みたいな髪型をしたカネゴンが口を釣り上げる。
隣でふと、マコトが何か呟いた。一度目は小さくて聞き取れなかったが、すぐにもう一度同じ言葉を呟いた。
「遊んでたら流された」
マコトは足下の砂粒だけを見ていた。
やがて それも疲れで次第に落ち着いてきた頃。港の様子が見えてきた。
港に、人がいた。
僕らが着いたのは細いコンクリートの桟橋が一本延びただけの砂浜。
昆布の打ち上げられた海岸から五メートル程奥のところで胸くらいの高さのコンクリートになっていて、そこから奥が島だった。
明らかに僕の親父より年上のくたびれたおっさんが、くわえ煙草で そのコンクリートの段に座っていた。
上陸した僕らを見てにやにや笑っていた。後ろを向いて手招きしたので、建物が並ぶ方から人が集まってきた。
建物の一つには、黄色い看板にピンクのネオンで、ストレートにカタカナ三文字の女性器名称が書いてあった。
そんなことに気をとられている隙に、浜に立ったずぶ濡れの僕らは、十人近い女の人に囲まれていた。
もちろん裸じゃなかったし、ましてや べっぴんさんなんかじゃ絶対なかった。
島の臭いは昆布の臭いで、決して僕が言ったハチミツでも、マコトが言ったマーマレードでもなかった。
「坊やどうしたの」
ジャミラみたいなオバサンが口を裂けさせながら言う。
「ずぶ濡れじゃない」
ピグモンがスカートを揺らしながら覗き込む。大胆に開いた胸元からおふくろのケツみたいなものが見えた。
「坊主、泳いでヤりに来たんか」
くわえ煙草のおっちゃんが煙草を外して豪快に笑った。エロい気分なんて、全部ジャミラに食われてしまっていた。
「うちの店来なよ。二人まとめて面倒見てあげる」
ウルトラの母みたいな髪型をしたカネゴンが口を釣り上げる。
隣でふと、マコトが何か呟いた。一度目は小さくて聞き取れなかったが、すぐにもう一度同じ言葉を呟いた。
「遊んでたら流された」
マコトは足下の砂粒だけを見ていた。
ジャミラが「そうなの?」と言い、カネゴンは「いいからさ」と言い、おっさんは ただ笑って、マコトは壊れたオモチャみたいに「流された」と呟いていた。少し泣いていた。
海の上では たまに大きくなっていたマコトのジーパンの股間は、海水で貼り付いて心なしかえぐれているようにさえ見えた。
結局おっさんが話を付けてくれて、僕らはゴムボートを紐で結び、帰りはモーターボートで帰った。
おっさんは道中、カネゴンとジャミラの源氏名と店の名前を教えてくれたけど、マコトも僕も ただおっさんが喋るのに任せていた。
二人とも全然聞いてなかった。
マコトと僕はふと同時に振り向いた。
島は小さくなっていって、あの三文字も もう読めないくらい小さかった。
ボートは ほんの数分で着いた。
おっさんが消えた海岸でゴムボートの空気を抜きながら、マコトは僕にこんなことを言った。
「よかったよ、あんな怪獣みたいなオバサンに、俺らの大切な童貞を奪われなくて」
それからマコトは、あそこに そのままいたら どんなバケモノが出てきたか、どんな病気をうつされていたか、僕らがどれだけ正しい選択をしたかを、エロ本で得た知識を総動員して、明るい声でずっと話してくれていた。
ジーパンは乾いてきて、えぐれていた股間も元に戻っていた。
ボートの空気が全部抜けて、僕らの夏は終わった。
あれから三年。マコトは そのまま地元に残って親の跡を継いだ。
僕は東京に出て大学生になり、歌舞伎町の風俗で童貞を捨てた。
夏休み、僕は里帰りして、マコトと酒を飲んだ。
その話をするとマコトは心底悔しがった。根掘り葉掘り聞きたがったが、全部は言わなかった。
マコトは「今度その店、俺にも紹介してくれよ」と本気で言っていた。「東京来たらな」とだけ答えた。
頭は もう坊主じゃないけれど、その時のマコトの目は、教室の窓からあの島を見つめていた、純な十三歳の、あの時の瞳だった。
海の上では たまに大きくなっていたマコトのジーパンの股間は、海水で貼り付いて心なしかえぐれているようにさえ見えた。
結局おっさんが話を付けてくれて、僕らはゴムボートを紐で結び、帰りはモーターボートで帰った。
おっさんは道中、カネゴンとジャミラの源氏名と店の名前を教えてくれたけど、マコトも僕も ただおっさんが喋るのに任せていた。
二人とも全然聞いてなかった。
マコトと僕はふと同時に振り向いた。
島は小さくなっていって、あの三文字も もう読めないくらい小さかった。
ボートは ほんの数分で着いた。
おっさんが消えた海岸でゴムボートの空気を抜きながら、マコトは僕にこんなことを言った。
「よかったよ、あんな怪獣みたいなオバサンに、俺らの大切な童貞を奪われなくて」
それからマコトは、あそこに そのままいたら どんなバケモノが出てきたか、どんな病気をうつされていたか、僕らがどれだけ正しい選択をしたかを、エロ本で得た知識を総動員して、明るい声でずっと話してくれていた。
ジーパンは乾いてきて、えぐれていた股間も元に戻っていた。
ボートの空気が全部抜けて、僕らの夏は終わった。
あれから三年。マコトは そのまま地元に残って親の跡を継いだ。
僕は東京に出て大学生になり、歌舞伎町の風俗で童貞を捨てた。
夏休み、僕は里帰りして、マコトと酒を飲んだ。
その話をするとマコトは心底悔しがった。根掘り葉掘り聞きたがったが、全部は言わなかった。
マコトは「今度その店、俺にも紹介してくれよ」と本気で言っていた。「東京来たらな」とだけ答えた。
頭は もう坊主じゃないけれど、その時のマコトの目は、教室の窓からあの島を見つめていた、純な十三歳の、あの時の瞳だった。
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