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記憶を消せる女の子の話

 

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4 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)15:38:22 ID:F5o(主)
記憶を消す能力がある、といえば誰もがそれを持つ私を羨ましがるに違いない。

現に花の女子高生の私はこの能力を最大限に有効活用している。

いや友好活用と言った方が良いかもしれない。

悪用することなくただただ平和的に使っているのだ。

具体的に何に使っているかと言うと、遅刻したときに先生とクラスのみんなの私に関する記憶、つまり「遅刻した私を見た記憶」を消して遅刻をなかったことにすることとか。

他にもいろいろあるんだけど、どれにも共通しているのは「平和的で誰も傷つけない」という部分だ。




5 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)15:39:49 ID:F5o(主)
一般的に遅刻はいけないものだけど、誰も迷惑していない。

だからこれは平和的な利用法なのだ。私は間違っていない。

そんなことより、もっと平和的な利用法がある、

なぜ人が持つ嫌な記憶を消してやらないんだ? 

消せば人を悲しみから救えるだろう? 

と誰かは言うかもしれない。




6 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)15:40:49 ID:F5o(主)
しかし、は万能ではない。

私の記憶を消せる能力は「他人が持つ私に関する記憶」しか消せないのだ。

私が関係していない記憶は消せない。

むしろ消せるのは他人の記憶にある私が及ぼした影響と私の存在だけ。






8 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)15:43:01 ID:F5o(主)
今でこそ、私は他人の記憶を思い描く通りに範囲選択して切り取りできるのだが、昔はひどかった。

小学生のとき、私は友達の女の子と喧嘩をした。

配慮の無い言葉を怒りのまま浴びせてしまったのである。


その夜、私は後悔して泣いた。あの言葉を忘れて欲しいと願った。

翌日学校に行くと、その友達は私のことを綺麗さっぱり忘れていた。

喧嘩したからってその対応は酷すぎるよ、と思って私はその子に感情をありのまま載せた言葉をかけた。

泣いていたかもしれない。子供だから理解の追いつかないことには、なんで? と言わないと気が収まらなかったのだろう。




9 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)15:45:37 ID:F5o(主)
もちろん、その子は本当に私のことを忘れているので議論は平行線だった。

どんどん大きくなる声に野次馬が集まってくる。

私とその女の子が口論している理由を理解した彼らは

「は? 忘れてるってなんだよ。みんなこいつのこと覚えてるよ。お前頭おかしいんじゃねーの」

「喧嘩したからってそれはひどいだろ」

「馬鹿は本当に頭おかしかったんだなー」と口々に言い始める。





10 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)15:47:21 ID:F5o(主)
その言葉を聞いて私はようやく、先のことを考えられるくらい冷静になった。

この騒ぎのあと、この子はどうなるのだろう。

皆の集中砲火を浴びて果てには いじめられてしまうかもしれない。

この子は算数の出来が一番悪く、クラスのみんなからからかわれていた。

私との口論が、この子をいじめるきっかけづくりになってしまう。それは絶対嫌だった。





12 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)15:48:43 ID:F5o(主)
この子は、本当は良い子なのだ。

目立たないけどちゃんと自分の考えを持っていて、ダメなことはダメだと言える。

けれどまっすぐすぎて何のけない言葉を重く捉えて傷ついてしまう、真面目な女の子なのだ。

その子は泣き始める。みんなひどいよ、私は悪くないよ。

嗚咽に交じってか細い声が聞こえてくる。





13 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)15:50:09 ID:F5o(主)
その光景を見て、私は強く思った。

みんな私のことを忘れてしまえばいい。そうすればこの子はいじめられない。

指と指を絡み合わせて、私は願った。





14 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)15:53:57 ID:F5o(主)
やりすぎた。という思いが真っ先に私を覆った。

あの子は
「あれ、なんで私泣いてるの?」と言う。

そしてその言葉を契機として野次馬の男子たちも

「なんで俺ここに居るんだ」

「さっきまで俺はなにをしてたっけ」

「どうしてこいつ、泣いている?」

と、まるで夢でも見ていたかのように言い出した。







15 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)15:56:20 ID:F5o(主)
困惑はざわめきになって教室に広がる。

野次馬の男子たちは、なにが起きたかを知るためにクラスの人たちに声を掛けた。

誰も彼もが知らないと答える。ついに野次馬は私を見る。

目が合った瞬間、彼は見てはいけないものを見た、という風に青ざめた顔をした。

「お前……誰だよ」




16 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)15:59:55 ID:F5o(主)
私は泣いていた。走っていた。どこへ向かうあてもなかったけれど、どこか遠くへ行きたと思った。

教室を抜け出す。学校を抜け出す。

意味が解らなかった。何が起きたか理解できなかった。でもそれは私の願望だった。

私は心の底では「自分がクラスの人の記憶を消したこと」と「クラスの人はもう私のことを覚えていないこと」を分かっていた。





22 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)21:20:38 ID:F5o(主)
私は走るのをやめて、ゆっくりと歩き始める。

すると、涙も徐々におさまってきた。

なにも考えず走っていたが、なんだか見覚えのある場所についていたようだ。

河川公園。懐かしい。

でも、この懐かしいという思いがなぜこみ上げてくるか来るかは分からない。

私はここで何をしたんだっけ?




23 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)21:23:00 ID:F5o(主)
ふらふらと川に向かって歩いていく。転んだ。泣きたくなった。

立ち上がる気力もなくて、私は体操座りをした。

悲しいとき、私は体操座りをする傾向にあるらしい。





24 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)21:25:58 ID:F5o(主)
溢れた涙が青空をぼやかす。両手で涙を拭うと、空で太陽が虹色の輪を纏っていた。

綺麗だった。また涙が頬を流れた。

どうして私はこう、どうしようもなく嫌なときに限ってどうしようもなく美しい景色ばかりを目にするんだろう。





25 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)21:27:51 ID:F5o(主)
それからの私の人生は想像に難くない。

クラスの全員にきれいさっぱり忘れられた私は「いないもの」として扱われるようになった。

当然だ。むしろ、みんなに気を遣われて、優しく迎え入れられるよりか落ち着いた。

もし、みんながそうしてくれたら、私は「そんな優しい人たちの記憶から消えてしまった」ことを悲しんで、また泣いてしまうだろうから。






>>次のページへ続く
 
カテゴリー:読み物  |  タグ:青春,
 


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