記憶を消せる女の子の話
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42 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:04:36 ID:F5o(主)
死んじゃってもいいんじゃないかな、という思いは相当な頻度でやってきた。
人生の一番難しいところは、なにがあっても簡単には死ねないこと、だと思うが、私は簡単に死ねる。
私に関する記憶を全て消しさえすれば、誰も私の死に心を痛めない。
人が死ぬのを躊躇している理由は、様々な思い出に自分をがんじがらめに縛り付けられているからだ。
自分の生に価値があると思えてしまうほどの思い出がその人にはあって、もし死んだら悲しむ人もいる。
ああ、羨ましいな、と思う。
44 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:10:30 ID:F5o(主)
私にもそんな人がいてくれたらいいのにな。
ひょっとして父は、もし私が死んだら悲しんでくれるのかな?
そんな淡い期待を抱いて、今も私は生きている。
でも母は、友達がいないかわいそうな娘、から解放されて元気になるのかもしれない。
そう思うと複雑だった。
45 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:16:28 ID:F5o(主)
惰性で生きていて、ずっと決まりきったことをしていると頭はおかしくなってしまう。
私もその例に漏れず、高校一年生のときにがたが来てしまった。
46 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:22:49 ID:F5o(主)
どうせ後で記憶を消せば問題ないだろう、ということで、私は学校生活でやってみたかったことをやり始めた。
授業中に先生へ質問してみるとか、授業中に思いっきり寝てみるとか、そんなことを。
真面目な私は立派にぐれたのである。
47 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:30:09 ID:F5o(主)
でも、それは今思うと平和的で誰も傷つけない友好的な記憶の消し方だ。
悪用してはいないんだけど、自分悪いことしてるんだぜ感が起伏のない日常を刺激したことには違いない。
少なくとも生きている心地がした。
48 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:34:50 ID:F5o(主)
そんなことをしているうちに、私の真面目な生徒の部分は色を落としていった。
結果的に、誰にも迷惑かけなければ、それは平和的で友好的なんだ、と素で思うようになった。
その考えは遅刻のもみ消しを自分に許す理屈になった。
死んじゃってもいいんじゃないかな、という思いは相当な頻度でやってきた。
人生の一番難しいところは、なにがあっても簡単には死ねないこと、だと思うが、私は簡単に死ねる。
私に関する記憶を全て消しさえすれば、誰も私の死に心を痛めない。
人が死ぬのを躊躇している理由は、様々な思い出に自分をがんじがらめに縛り付けられているからだ。
自分の生に価値があると思えてしまうほどの思い出がその人にはあって、もし死んだら悲しむ人もいる。
ああ、羨ましいな、と思う。
44 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:10:30 ID:F5o(主)
私にもそんな人がいてくれたらいいのにな。
ひょっとして父は、もし私が死んだら悲しんでくれるのかな?
そんな淡い期待を抱いて、今も私は生きている。
でも母は、友達がいないかわいそうな娘、から解放されて元気になるのかもしれない。
そう思うと複雑だった。
45 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:16:28 ID:F5o(主)
惰性で生きていて、ずっと決まりきったことをしていると頭はおかしくなってしまう。
私もその例に漏れず、高校一年生のときにがたが来てしまった。
46 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:22:49 ID:F5o(主)
どうせ後で記憶を消せば問題ないだろう、ということで、私は学校生活でやってみたかったことをやり始めた。
授業中に先生へ質問してみるとか、授業中に思いっきり寝てみるとか、そんなことを。
真面目な私は立派にぐれたのである。
47 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:30:09 ID:F5o(主)
でも、それは今思うと平和的で誰も傷つけない友好的な記憶の消し方だ。
悪用してはいないんだけど、自分悪いことしてるんだぜ感が起伏のない日常を刺激したことには違いない。
少なくとも生きている心地がした。
48 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:34:50 ID:F5o(主)
そんなことをしているうちに、私の真面目な生徒の部分は色を落としていった。
結果的に、誰にも迷惑かけなければ、それは平和的で友好的なんだ、と素で思うようになった。
その考えは遅刻のもみ消しを自分に許す理屈になった。
49 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:39:33 ID:F5o(主)
その理屈で現在、私は授業中なのに屋上にいる。
青空に近いこの場所は、ハロ現象を観測するにうってつけだ。
しかも誰も来ない。これほどまでに私を落ち着かせる場所もなかなかない。
50 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:44:10 ID:F5o(主)
この場所を発見して約一年経った。
給水塔あたりに腰を掛けてお昼ご飯をもぐもぐ食べていると、屋上の扉がぎぎぎと開く。
私以外にここを来るのは用務員の先生くらいだ。
用務員さんに見つかったら、また記憶を消さなければならない。
51 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:48:09 ID:F5o(主)
せめて隠れようと、焼きそばパンを持ち給水塔の裏に移動した。
ばたんと扉が閉まる。用務員の先生ならば見回ってすぐ帰るはずだ。
足音が近づく。なんだか怖くて耳をふさいだ。二分心のなかで数えたところで、耳から両手を離す。
52 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:51:12 ID:F5o(主)
まだ音がしていた。でも見回る際の足音ではない。かちゃかちゃと箸を扱う音だった。
予想してない展開で心臓の鼓動が早まった。
用務員の先生じゃない?
私はおそるおそる音の鳴る方を覗いてみた
53 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:53:44 ID:F5o(主)
男子が一人でご飯を食べていた。
ぼっち飯かな? まぁ私もぼっち飯だけど四年間くらい。
なんだか親近感が湧いたので、じっと彼を観察してみる
54 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)00:01:27 ID:cBh(主)
色白で、なんかやる気のない人だ。眉より伸びた前髪が一層やる気のなさを表している。
それでも端正な顔立ちで、女子の間で人気爆発、とはならないけれど、かっこいい部類には入るだろう。
そのやる気のなさに私はすっかり安心してしまい、話しかけることにした。
話し終わった後で記憶は消せば大丈夫だ。
どんな話しかけ方をしてもいいと思うと、気が楽だった。
56 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)00:07:17 ID:cBh(主)
「やーいやーい、君はぼっち飯なの?」
挑戦的な言葉をかけてしまった。私のキャラでは絶対にない。ただ人と会話をしてなさすぎてテンションがおかしくなっているだけだ。
この少年の第一印象からして、こういう話しかけ方は一番うっとうしがられるはず。ちょっと後悔。
57 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)00:12:45 ID:cBh(主)
「お前もぼっち飯だろうが。その食いかけの焼きそばパン、食い方汚過ぎて食欲失せるから早く食ってくれ」
売り言葉に買い言葉というやつだ。男子は私を見上げるようにして、デリカシーの欠片もない言葉をかけた。
急いで焼きそばパンをほおばる。私はむかっと来ていた。
58 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)00:15:24 ID:cBh(主)
どんなひどい言葉をかけてやろうか。何を言ってもいいのだ。
私は記憶を消せるから無敵なのである。こんな無礼な男に情けは必要ない。
焼きそばパンをごくりと飲み込み、満を持して言葉をかけた。
「私は女子だよ!」
自分でも驚いた。
60 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)00:21:49 ID:cBh(主)
男子は無気力にけらけらと笑い、箸の先を私に向ける。
「女子ならせめて口の周りについてる青のりとソースをなんとかしろ」
言ってやったぜみたいな顔をされた。こいつ、思ったより嫌な奴だ。
ポケットからティッシュを取り出して口を拭く。
「どう!?」
私は喋り方というのを忘れているらしい。
61 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)00:30:37 ID:cBh(主)
「まぁぎりぎり女子だな」
ため息交じりに男子は言った。
「ぐぬぬ……」
私は本当に喋る機能が退化してしまったらしい。siriのほうがまともなコミュニケーションをとれると思う。
それでも、なんかこの男を見てると悔しくなって、言葉を発さずにはいられない。
「名前は!」
頼むから一文節以上の言葉を紡いで私の脳。
62 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)00:38:38 ID:cBh(主)
「なんで単語だけで会話になると思ってんのかな……俺はイシハラだ」
やる気なさそうに彼は、イシハラくんは答えた。
「ふーん」
私は腕を組んで頷く。
「何に納得したのかわからんが」
「やっぱり地味な苗字だなーって」
「俺が地味だとでも言いたいの? つーか、お前の名前は……まぁ別にいいや」
イシハラくんは後ろ髪を掻いて、やるきなさそうに食べ終わった弁当を片付け始めた。
63 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)00:44:01 ID:cBh(主)
「私の名前には興味ないってことね? 自分の名前だけ言いたがるんだ」
「お前が聞いてきたから答えただけだろうが……」
「ぐ……」
その通りだった。ちょっと会話成立してるかな、と思った自分が恥ずかしい。
「じゃあお前の名前、当ててやろうか?」
「興味深いわね」
会話が成立した。
64 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)00:55:50 ID:cBh(主)
「アカリ、だろ」
「なんで知ってるの……? まさか苗字は知らないでしょ」
「名前知ってて苗字知らないとかなかなかないぞ。センケだろ?」
「……正解」
イシハラくんの記憶に、私は居たんだ。
なんで覚えてくれているかはわからないけれど、嬉しかった。
こんなこと、何年間も味わっていなかったから。
気を抜くと泣いちゃいそうになるくらい、嬉しかった。
71 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)19:57:03 ID:cBh(主)
この高校生活でも、中学生のときと変わらない「名前だけの存在」だ。
しかし、中学のころよりもっと印象は薄くなっているはず。
高校一年になり、学校生活でやってみたかったことをやる度にあらゆる人の私に関する記憶を消してきた。
積極的に記憶を消す能力を使ってしまっているのである。
高校以前と以後で私の記憶を消す能力の使い方は大きく変わった。
73 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)20:12:00 ID:cBh(主)
小学校から中学校の間はしぶしぶといった風に、降りかかる火の粉を払う程度、つまり受動的に記憶を消してきた。
自ら積極的に記憶を消そうという意思はないから、記憶を消す回数も少なく、クラスメイトの頭の片隅に「授業を真面目に受けている影の薄い人」
程度には認識されていたと思う。
しかし、高校生活は真逆だ。
遅刻のもみ消しや、授業を抜けて屋上に行くやなんやらで積極的に記憶を消している。
そのため、記憶を消す回数は中学の時に比べて10倍くらい上昇しているのだ。
毎時間サボっているというわけでもないけど、「授業を真面目に受けている影の薄い人」
という認識もクラスメイトにはされていないと思う。
74 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)20:20:38 ID:cBh(主)
「あいつの名前なんだっけ……たしかセなんとかだよな」とひそひそ囁かれる具合だ。
頭文字程度の認識しかされていない。
これで、中学と同じ「名前だけの存在」に変わりはない。と言うのは誇張だったかもしれない。
77 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)20:35:11 ID:cBh(主)
だから、そんな私のフルネームを言える人がいるなんて、思いもしなかった。
でも、どこかで期待していたから、こんなにも胸がきゅうと締め付けられて、目頭が熱くなるのだろう。
意識していないとわんわんと大声で泣いてしまいそうになる。
だから私はイシハラくんと会話を続けて、泣きたい気持ちを押し込めようと試みた。
78 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)20:41:11 ID:cBh(主)
「なん……で、私の名前、憶えてて…くれてるの?」
「いや、なんで泣いてんだよ」
「泣いてないっ!」
「いやどう見ても泣いてる」
私の試みは失敗していた。視界がぼやけている。イシハラくんの顔がよく見えない。
声はどうしても震えてしまって、このままだと嗚咽に変わってしまいそうだった。
80 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)20:51:28 ID:cBh(主)
泣いているのがバレてしまったのなら、もう遠慮なく泣いてしまってもいいのかな。
泣くのは、小学生のあの時以来だ。あの日以来どんなに辛くても涙はでなかった。
ああ、私は嬉しいんだ。
肩を揺らして泣く。溢れる涙は何度拭ったところで止まらなかった。
81 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)21:02:39 ID:cBh(主)
「お前、よく泣くよな」
慰める気もないイシハラ君はごろんと仰向けに寝て、青空を眺めている。
それが私にとってどれほど優しい行為なのか、彼はわかっているのだろうか。
後で、イシハラくんの記憶の中にいる「泣いた私」を消そう。
82 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)21:09:19 ID:cBh(主)
そうすれば、私は思う存分、幸せという幸せを味わい尽くすまで泣いていられる。
満足したところでイシハラ君の記憶を消して、「屋上で出会った普通の女の子」としてもう一度自己紹介するんだ。
クラスメイトにはできなかった、特別な自己紹介をしよう。
私の好きな本とか、音楽とかを笑顔で饒舌に完璧に伝えよう。
だから今はそのために思いっきり泣く。
83 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)21:14:26 ID:cBh(主)
リアルにわんわんと泣く女子高生にさすがにうろたえて来たのか、イシハラくんは
「おい、アカリさん」と遠慮がちに声をかけてきた。
ひょっとして慰めてくれるのだろうか。
彼には似合わないけれど、聞いてやるのもやぶさかではない。
84 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)21:23:42 ID:cBh(主)
泣きながら言葉を待つ。涙を拭くついでに、イシハラくんをちらちらと見る。
イシハラくんはポケットからスマホを取り出して、私に向けた。
「写真はだめ!」
「いや、撮らねえよ……。時間確認してるだけだ。つーか泣いてる焼きそばパン女撮ってなんになるんだ」
「うぐ……」
「あと少しで授業始まるけど、いつまで泣いてるつもり?」
「気が済むまで」
「そうかよ」
彼はそうぶっきらぼうに呟いて、スマホを学生鞄に放った。
「俺も気が済むまでここにいる」
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