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記憶を消せる女の子の話
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46 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:22:49 ID:F5o(主)
どうせ後で記憶を消せば問題ないだろう、ということで、私は学校生活でやってみたかったことをやり始めた。

授業中に先生へ質問してみるとか、授業中に思いっきり寝てみるとか、そんなことを。

真面目な私は立派にぐれたのである。





47 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:30:09 ID:F5o(主)
でも、それは今思うと平和的で誰も傷つけない友好的な記憶の消し方だ。

悪用してはいないんだけど、自分悪いことしてるんだぜ感が起伏のない日常を刺激したことには違いない。

少なくとも生きている心地がした。





48 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:34:50 ID:F5o(主)
そんなことをしているうちに、私の真面目な生徒の部分は色を落としていった。

結果的に、誰にも迷惑かけなければ、それは平和的で友好的なんだ、と素で思うようになった。

その考えは遅刻のもみ消しを自分に許す理屈になった。





49 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:39:33 ID:F5o(主)
その理屈で現在、私は授業中なのに屋上にいる。

青空に近いこの場所は、ハロ現象を観測するにうってつけだ。

しかも誰も来ない。これほどまでに私を落ち着かせる場所もなかなかない。







50 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:44:10 ID:F5o(主)
この場所を発見して約一年経った。

給水塔あたりに腰を掛けてお昼ご飯をもぐもぐ食べていると、屋上の扉がぎぎぎと開く。

私以外にここを来るのは用務員の先生くらいだ。

用務員さんに見つかったら、また記憶を消さなければならない。





51 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:48:09 ID:F5o(主)
せめて隠れようと、焼きそばパンを持ち給水塔の裏に移動した。

ばたんと扉が閉まる。用務員の先生ならば見回ってすぐ帰るはずだ。

足音が近づく。なんだか怖くて耳をふさいだ。二分心のなかで数えたところで、耳から両手を離す。





52 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:51:12 ID:F5o(主)
まだ音がしていた。でも見回る際の足音ではない。かちゃかちゃと箸を扱う音だった。

予想してない展開で心臓の鼓動が早まった。

用務員の先生じゃない?

私はおそるおそる音の鳴る方を覗いてみた





53 :名無しさん@おーぷん :2017/02/24(金)23:53:44 ID:F5o(主)
男子が一人でご飯を食べていた。

ぼっち飯かな? まぁ私もぼっち飯だけど四年間くらい。

なんだか親近感が湧いたので、じっと彼を観察してみる





54 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)00:01:27 ID:cBh(主)
色白で、なんかやる気のない人だ。眉より伸びた前髪が一層やる気のなさを表している。

それでも端正な顔立ちで、女子の間で人気爆発、とはならないけれど、かっこいい部類には入るだろう。

そのやる気のなさに私はすっかり安心してしまい、話しかけることにした。

話し終わった後で記憶は消せば大丈夫だ。

どんな話しかけ方をしてもいいと思うと、気が楽だった。




56 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)00:07:17 ID:cBh(主)
「やーいやーい、君はぼっち飯なの?」

挑戦的な言葉をかけてしまった。私のキャラでは絶対にない。ただ人と会話をしてなさすぎてテンションがおかしくなっているだけだ。

この少年の第一印象からして、こういう話しかけ方は一番うっとうしがられるはず。ちょっと後悔。






57 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)00:12:45 ID:cBh(主)
「お前もぼっち飯だろうが。その食いかけの焼きそばパン、食い方汚過ぎて食欲失せるから早く食ってくれ」

売り言葉に買い言葉というやつだ。男子は私を見上げるようにして、デリカシーの欠片もない言葉をかけた。

急いで焼きそばパンをほおばる。私はむかっと来ていた。







58 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)00:15:24 ID:cBh(主)
どんなひどい言葉をかけてやろうか。何を言ってもいいのだ。

私は記憶を消せるから無敵なのである。こんな無礼な男に情けは必要ない。

焼きそばパンをごくりと飲み込み、満を持して言葉をかけた。

「私は女子だよ!」

自分でも驚いた。




60 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)00:21:49 ID:cBh(主)
男子は無気力にけらけらと笑い、箸の先を私に向ける。

「女子ならせめて口の周りについてる青のりとソースをなんとかしろ」

言ってやったぜみたいな顔をされた。こいつ、思ったより嫌な奴だ。

ポケットからティッシュを取り出して口を拭く。

「どう!?」

私は喋り方というのを忘れているらしい。




61 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)00:30:37 ID:cBh(主)
「まぁぎりぎり女子だな」

ため息交じりに男子は言った。

「ぐぬぬ……」

私は本当に喋る機能が退化してしまったらしい。siriのほうがまともなコミュニケーションをとれると思う。

それでも、なんかこの男を見てると悔しくなって、言葉を発さずにはいられない。

「名前は!」

頼むから一文節以上の言葉を紡いで私の脳。




62 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)00:38:38 ID:cBh(主)
「なんで単語だけで会話になると思ってんのかな……俺はイシハラだ」

やる気なさそうに彼は、イシハラくんは答えた。

「ふーん」

私は腕を組んで頷く。

「何に納得したのかわからんが」

「やっぱり地味な苗字だなーって」

「俺が地味だとでも言いたいの? つーか、お前の名前は……まぁ別にいいや」

イシハラくんは後ろ髪を掻いて、やるきなさそうに食べ終わった弁当を片付け始めた。




63 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)00:44:01 ID:cBh(主)
「私の名前には興味ないってことね? 自分の名前だけ言いたがるんだ」

「お前が聞いてきたから答えただけだろうが……」

「ぐ……」

その通りだった。ちょっと会話成立してるかな、と思った自分が恥ずかしい。

「じゃあお前の名前、当ててやろうか?」

「興味深いわね」

会話が成立した。




64 :名無しさん@おーぷん :2017/02/25(土)00:55:50 ID:cBh(主)
「アカリ、だろ」

「なんで知ってるの……? まさか苗字は知らないでしょ」

「名前知ってて苗字知らないとかなかなかないぞ。センケだろ?」

「……正解」

イシハラくんの記憶に、私は居たんだ。

なんで覚えてくれているかはわからないけれど、嬉しかった。

こんなこと、何年間も味わっていなかったから。

気を抜くと泣いちゃいそうになるくらい、嬉しかった。





>>次のページへ続く
 
カテゴリー:読み物  |  タグ:青春,
 


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