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水遣り
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佳子さんは それで感じ満足もしていたのです。

しかし、コンプレックスを持っている佐伯は悩んだ末、佳子さんに無断で手術を受けてしまうのです。

「手術から回復して、どうだと言わんばかりに私に見せるのです」

それは正視に耐えるものでは無かったそうです。

大きくはなりました、しかし出来の悪い大人のオモチャのようにゴツゴツしたグロテスクな物だったそうです。

「こんな恐ろしい物、おぞましい物、見る事も出来なかったわ」

それ以後、佳子さんはセックス拒否症になり、夫婦はセックスレスになったのです。

「佐伯の性欲は強い方だったと思います。我慢出来なくなったのでしょうね、それと新しい物を試したかったのでしょう。浮気を繰り返すようになったの」

「それで離婚を?」

「いいえ、違います」

佳子さんは佐伯の浮気は自分のせいだと言います、自分が拒否したせいだと。だから我慢できたと。

「何人目かの相手が妊娠したの。人妻だったわ。ご主人に知られて離婚、貧しい生活のようでした」


その人妻は、認知は出来ないまでも、我が子だと認めて欲しい、若干の養育費を貰えないでしょうかと佐伯にお願いしたのです。

その事は、佳子さんの知る所となりました。

「私は了承したの。もし彼女が望むなら 子供を養子として引き取ってもいいと」


佐伯夫婦には子供が居なかったのです。

佐伯の相手の人妻が妊娠した事実だけでも、佳子さんには相当ショックだったでしょう。にも関わらず彼女は養育費、更には相手が望めば子供を養子にして引き取るまでの決意をしたのです。


彼女が3度目に家に来た時の事です。

「佐伯は彼女に言ったの。”この子は本当におれの子供か?俺以外にも男は居たんだろう?”って」

彼女は ”酷い”の一言を残して、泣きながら帰ったそうです。

「気になって住所を頼りに彼女を訪ねたわ。だけど彼女は居なかった。その後も随分探したけど、見つからなかった」

佳子さんは溜息をつきます。その当時を思い出しているのでしょう。


「佐伯の人格を見たような気がしたわ。それからはもう駄目、佐伯のする事、何を見ても、何を聞いても、もうこの人とは一緒に暮らせないと思ったの」

「そうですか。そんな事まで話して頂いて。でも私の妻はそんな佐伯に溺れてしまった」

「宮下さん、佐伯は女を玩具としか見ていない、そんな男なの。もう一度奥さんをしっかり見てあげて」


佳子さんは強い人でした。夫の裏切りを何度も許し、相手の女性にも労りを示すのです。

しかし、夫の人間性を知った時、決別を告げます。

会って直ぐに感じた凛とした表情は その生き方を映しているのでしょう。

お礼を述べ中条家を後にします。

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佐伯の会社に向かう途中考えます。

所長が早く中条さんに会えと言った訳を。

佐伯の人間性を私に解らせたかったからでしょうか?それもあるでしょう。

それよりも佳子さんさんの強さと優しさを見せたかったのでしょう。

しかし、私はあんなに強くはなれません、優しくもなれません。

今の私には、如何に佐伯と妻に復讐してやるか、思い知らせてやるか、それしか頭の中にはありません。

それにしても、佳子さんと妻は違いすぎます。

その当時、夫であった佐伯のものをグロテスクだと受け入れられなかった佳子さん、喜んで縋りついてしまった私の妻。

妻の中の女が解りません。

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佐伯の会社の前に着きます。

この時間には、佐伯が社内に居る事は確認してあります。

受付で佐伯を呼出、応接に案内されます。

思いに任せて ここまで着ましたが、話すべき事を何も用意していない事に気がつきます。

いや、考えても自分でも どうして良いか解らないのです。

『まあいい。今日は事実を突きつけるだけだ』

暫く待つと佐伯が応接に現れます。

「宮下さん、申し訳ない。昨晩は見苦しい所をお見せしました」

当然、妻から興信所の件は佐伯に連絡があったものと思っていました。

妻が連絡していないのか、それとも佐伯が惚けているのか。


「別に見苦しくは無い。あんた達二人にとっては当然の事だろう」

「は、仰ている意味が良く解りませんが」

「腕を組むぐらいは、愛し合ってる二人にとって当たり前の行為だと言っているんだ」

「益々、解りません」

「惚けるんじゃない。随分前からのようだな」

報告書を佐伯の前に放り投げます。

「これは?」

「表紙に書いてあるだろう。興信所のレポートだ」


佐伯は どうしてこんな物が此処にあるのか不思議そうに眺めています。

「中を見たらどうなんだ。先週一週間の物だが、3回も会っているんだな。随分、洋子にご執心のようだな」

此処まできても、私はまだ数に拘っています。

佐伯の膝と手が小さく震え出します。

「こんな物嘘だ。でっち上げだ」

「洋子を呼んで3人で話し合ってみるか」

「いや、それは」

「まあいい、兎に角今日は これを届けに来ただけだ。俺もあんた達をどうしようかまだ考えていない。勿論それ相応の事はして貰うつもりだ。あんたも良く考えておくんだな」

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言う事だけ言って佐伯の会社を出ましたが、私は これからどうすれば良いのか全く見当がつきません。

佐伯には慰謝料で済ませる積もりはありません、徹底的に社会的に葬ってやる。

その場合、私の事も妻の事も社会に晒されるでしょう。

私は一人で仕事をしてる身です。仕事に影響が出るとは思えません。

妻が社会に晒されようと自業自得です。私が気にしているのは妻と別れられるかどうか その一点です。

『出て行けと言えば、間違いなく妻は佐伯のマンションに行く。それは耐えられない』

妻がどうなろうと自業自得と思っている私、妻と別れたくない私、私の思いは矛盾だらけです。

『妻の顔を見れば自然と言葉が出るだろう』

そう言う思いで玄関に入ります。

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もう4時です。家を出てから7時間経ちます。

テーブルを見ますと、白く小さい物が置いております。その脇にメモがあります。

”貴方御免なさい。部長から渡された携帯です”

とだけ書かれています。

携帯はハンマーのような硬いもので打ち壊されています。佐伯との決別の印のように見えるのです。


妻が居ません。

玄関を入る時、鍵が掛かっていたのかどうか覚えていません。

一階のバス、トイレを見ますが居ません。

出て行ったのでしょうか。

居てくれと言う思いで二階に上がります。寝室のドアを開けます。

ベッドに妻が寝ています。

洋子と声を掛けても返事がありません。

軽く頬を叩きます。妻は起きません

布団の上掛けを剥がします。

下着、私が投げつけた下着だけの姿で横たわっています。


何度が揺すり、頬を叩くと妻は目を覚まします。

「あっ、貴方、御免なさい」

白い唇、白い頬、空ろな目、妻の表情が尋常で無い事に気がつきます。

あり合わせのの服を着せ病院へ連れて行きます。

車の中でも妻は眠ったままです。


病院に着き、妻が大量に睡眠誘導剤を飲んでいる事を知らされます。

入院加療が必要との事、手続きを済ませ家に帰ります。


何の話もしないまま、妻は入院してしまいました。

まさか入院中の妻と話をする訳には行きません。

入院した妻が哀れと思うより、いらいら感が募ります。

明日は金曜日、2日も休み会社の仕事も溜まっています。

妻と佐伯の事は休みにじっくり考える事にします。


>>次のページへ続く
 
 


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