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水遣り
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妻が泊まるホテルは佐伯が常宿にしているシティーホテル。

佐伯と女性スタッフ2名がホテルレストランで待っています。

チェックインを済ませただけでバッグを持ったままレストランに向かいます。

--------------------

夕食が終わり彼女達が帰った後、食後のコーヒーを飲みながら佐伯は妻に話しかけます。

「君の目で見てもらって良かった。さすが農学修士さんだ」

必要のないところで妻を持ち上げます。妻の気を引きたいのです。

「ところで、君に見てもらいたいものがある」

あくまで、仕事口調です。

「駅前通りにアンテナショップの建設計画があるのは、君も知っているな。建設場所を決めるのに駅前近辺の人の流れを調査した。君にもそれを見てもらい、意見を聞かせて欲しい」


「私、そんなもの見せ頂いても何も解らないと思います。素人ですし」


「分析意見は専門家から勿論聞く。君は良い農産物を供給する側の立場でもあるし、主婦として購買側の立場でもある訳だ。貴重な意見になる筈だ」


佐伯の理論は間違ってはいません。妻は押し切られた形で納得します。

「解りました。申し訳ないですが、なるべく短時間で済ませて下さい」

「勿論そうする。君の意見は直ぐでなくていい。後日聞かせてくれればいい」

「それで、どちらで?」

「僕の部屋には事務室が付属している。そこにPCと資料ファイルがある」

妻は事務口調に安心して、佐伯について行きます。

佐伯の部屋の前に来て、妻の部屋が隣である事に気付きます。

佐伯の部屋には通常のベッドルームの他に3畳程度の事務スペースが、独立した部屋として付属しています。
廊下側からもベッドルーム側からも出入りできます。

佐伯の後について廊下側から入ります。

「一通り見るのに30分もかからないだろう。見終わったら、休んでくれていい。感想は明日の朝食の時間にでも聞かせてくれ」

テーブルを前にし、椅子を並べて二人でPCの画面に見入ります。

先ずはビデオの流れをさあーっと見せます。

不自然にならない程度になるべく早く進めます。Uホテルを最初に見せるのは如何にも不自然です。3番目に見せます。

問題の場面に来ました。

「あっ、今のところ、もう一度見せて下さい」

佐伯は ほくそ笑みます。

妻は、私と松下さんがホテルの玄関を出入りする場面に気がついたのです。

「どの部分かな?」

「ほんの少し前のホテルの玄関の部分です」


「何かあったのか?」

「いえ、少し気になる事があるものですから」

佐伯はビデオを後退させます。

「ここです。ここに夫に良く似た人が映っているんです」

妻は私が松下さんとホテルに入る場面と出てくる場面を佐伯に言います。

佐伯は呟きます。

「女性と一緒のようだな。しかし少し確認しづらいな。」

あまり長くは見せたくありません。オリジナルビデオの時間の改竄は出来ません。長く見させて、妻に本当の時間を知らせたくないのです。

佐伯は妻にわざと小さな画面で見せています。

「このPCのソフトでは これ以上画面を大きく出来ない。拡大プリントしてみよう」

本当はそんな事はありません。見たい部分を幾らでも拡大できます。

撮影したビデオは業務用です。解像度は高く、拡大しても画面は鮮明な筈です。PCの知識の無い妻は簡単に信じてしまいます。

これ以上画面を見せたくない佐伯は、PCを別の場所に移し、妻からは見えないようにプリンターをセットします。

以前用意した改竄プリントをあたかも今プリントしたように妻の目の前のテーブルに並べます。

2枚で充分です。11:32のものと14:23のもの。

『間違い無いわ。夫と松下さんだわ。11時32分に入って14時23分に出てきている』

妻は長い間写真を見つめています。

3時間の間何をしているのか、食事にしては長すぎる、打ち合わせをわざわざホテルですることもない。

妻の考えはある一点に凝縮されるのです。

「何を思案顔しているんだ?」

「いえ、何でもありません」

「僕にも見せてもらえるか?」

佐伯は今初めて見たように話します。

「この男性はご主人だな、一度あったので覚えている。この女性は?」

「仕事に来て頂いている松下さんです」

「それなら、二人で食事に来たのだろう。君は ご主人がよく このホテルで昼飯を食べるって言っていたじゃないか。何を心配しているんだね?」

「でも、3時間は長すぎます」

「その後、打ち合わせか何かあったかも知れない」

自分で仕組んでおきながら、妻を心配しているが如く諭します。

「有り得ません。主人の会社はすぐ近くです。打ち合わせなら会社へ戻ると思います」

「では何だと思う」

『この人は、松下さんは どうしてこんなに嬉しそうな顔をしているの?』
妻は松下さんに嫉妬しているのです。

「多分・・・・」

夫が外出しない場合、二人は四六時中一緒にいるのです。

佐伯は又、心優しい上司を演じます。

「コーヒーか紅茶でも飲んで、少し落ち着けばいい。どっちがいい?」

「はい、では紅茶を頂けますか?」

「こっちの部屋に来なさい」

--------------------

夫ではない男のホテルのベッドルームに二人きり。妻には初めての経験です。

高級な部屋なのでしょう、二人掛けのソファーとテーブルを挟んで一人掛けのソファーが二つ。

佐伯は二人掛けのソファーに座るよう妻を手招きします。テーブルには紅茶。

「気付けに少しブランデーを入れておいた」

入れたのはブランデーだけではありません。カプセルの半分程度の媚薬も入れています。

喉が渇いていたのでしょうか、妻は一気に飲み干します。

妻は一点を見つめたままです。

佐伯も無言です。


10分くらい経ったでしょうか。

「ここは23階だ。大阪の夜景でも眺めてはどうかな」

佐伯は妻を窓際に誘います。ボーっとした頭のまま、窓際に歩み寄ります。

暫く夜景を眺めています。いつの間にか横に立っている佐伯にも気がつきません。

佐伯は妻の肩を抱き、髪を優しく撫ぜます。妻は嫌がりません、いえ、今は誰かに優しくされるのが心地良いのです。

「ご主人は誠実な人だ。君が考えているような事はないだろう」

「でも、解りません。松下さんが あんなに嬉しそうな顔をしていました」

二人が一緒に居た時間より、女の顔の表情が胸をつくのです。

「そんなものか」

ブランデーを飲んで20分、佐伯は気は熟したと思ったのでしょう。妻の頤に手を添え、自分の方に顔を向け口づけします。唇と唇の合わせるだけの口づけです。

「私、私」

妻は佐伯に体を預けます。

抱擁された妻は乳首に女陰に快感の疼きが走るのを覚えます。

佐伯に このまま抱かれたい、でも愛している夫を裏切れない。

二つの思いがせめぎ合います。

そんな時、佐伯の一言が背中を押します。

「君がご主人の事をそう思っているなら、君も一度だけ同じ事をすればいい。気持ちが軽くなるかも知れない」

そんな理屈はありません。しかし妻は この言葉で夫への気持ちを摩り替えるのです。

『私が抱かれるのは圭一さんが悪いんだわ』

「シャワーを使わせて下さい」

半日の作業で体は汗に塗れています。このまま抱かれたくはありません。

「そこに予備のバスローブがある。それを使えばいい」

女性用なのでしょう、小さめのものを見つけました。

「何を怪訝な顔をしている。この部屋はキングサイズダブルだ。それ位の用意はある」

妻のそのバスローブを持ってバスロームに入ります。シャワーが終わった後迷います。

持ってきたショーツはバタフライとT-バック、普通のものはありません。

『やっぱり、こんなものは履けない』

これを身に着けると変わってしまうかも知れないと思うのです。今までの自分ではなくなってしまうと。


>>次のページへ続く
 
 


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