逆転
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私はまた面倒を避けて通ったのでしょう。
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浅い眠りの中で夢を見ました。
夢の中で岸部の奥さんと話していましたが、相手の顔が見えません。
話の内容も記憶していませんが、何かボソボソト話していました。
これは、私の潜在意識が奥さんに会った方がいいと言っているのだと思えるのです。
だるい身体をベッドから抜け出させ、洗面台に向かうと妻が何か話したそうな視線を向けてきましたが、私は無言で その横を通り抜けました。
顔を洗い台所に目を向けると、その背中が寂しそうです。何を思い私は、決して口にしない朝食の準備をしているのでしょうか?
私にある程度の責任があったとしても、行動を起こしたのは妻です。その背中に何の同情の念も起きません。
身支度を整えると、接点を持たないように玄関へと急ぎました。
慌てて妻が私の背中に声をかけて来ましたが無視です。
昨夜の男と同じ煙草を吸い、同じ呼び出し音の携帯を持つ女の心に苛立ちが収まらないのですが、そんな自分にも腹が立ちます。
別れを希望しているのなら、そんな事はどうでもいいのに。私は本当に別れを希望していたのか?
自分の気持ちさえ掌握出来ていないのに苦笑してしまいました。
妻と顔を合わせる事を拒否して出社したので、当然、早い時間に着いてしまいましたが、この静かなオフィスに落ち着きを取り戻します。
そんな気分にしたっている時に、同期の友人が声をかけて来ました。
余程、自分の世界に入り込んでいたのでしょう。
声を掛けられるまで、友人が入って来たのにも気づかない私でした。
「朝から元気がないな。まぁ、しょうがないか。今夜飲みに行くぞ」
『しょうがないか』と言った意味も分からずに、岸部の奥さんにコンタクトを取る事に気が行っている私は、断りの声を出す前に思いもしない彼の言葉に唖然とします。
「千秋からある程度の話は聞いたよ。今夜行くぞ」
呆然と見上げる私に、友は優しく微笑みその場を後にして行きました。
家庭内の実情は他人に知られたくはありません。しかし、思い詰めている時には話が別なようです。自分だけで全て抱えるのは辛いものです。それだけ自信を持てない私なのでしょう。
この時、肩の重荷が少し軽くなる感じを覚えた私でした。
生きていると色々な雑念が湧き起こるものるものですが、悲しいかな仕事をしている時だけは忘れていられるのです。
その日も友との待ち合わせの時間まで、ほんの一瞬だったように記憶しています。
残業も程々に同僚との待ち合わせ場所に向かいました。
その店はいつも通りの賑わいで、奴を目で探すと、カウンターでもう日本酒を一杯やっています。
「待ったか?」
私の声にニタリと笑い、
「待った、待った」
その受け答えが私を楽にさせるもので、ほっとしてしまうのです。
お互いに馬鹿話をしながらも、本題を切り出すタイミングを計っていました。
こいつは何気なく話を本題に乗せてきました。
「・・・大変なようだな。武勇伝は千秋から聞いた。お前、やんちゃな所は昔と変わっていないんだな」
「やんちゃって何よ。俺もおとなしいものだぜ。もう年だからな」
どんな行動を言われているのか分からない私は、曖昧な返事を返しました。
「う〜〜ん。雅ちゃんの職場に乗り込んだって。たいした度胸だ。俺なら出来ないな」
ごく自然に話し掛けてきます。
「そんな事まで知っているのか・・・・
俺も少し頭に血が上っちゃてな。思い出すと心臓がバクバクするよ。
挙句の果てに相手の奥さんに電話も掛けたよ。何か女みたいで嫌になっちまう」
友はやはり私達夫婦の出来事を知っているようです。もう格好付ける何ものもありません。
「雅ちゃんの相手は岸部だって?それが以外だったよ。
まさか、お前がそんな目に会うなんてな。
・・・・あの会社は、それなりの信用がある。
それでも二代目の評判は良くないな。
先代は人望も厚かったそうだから、ここまでの会社になったのに、ぼんぼんは甘いからな」
「岸部を知ってるのか?」
意外な言葉でした。
「何度かうちの会社に来てるぜ。俺は仕入れが専門だから来るたびに会ってるよ。
うちと取引をしたっがているのに、お前の女房に手を付けたら元も子もないな。
もう少し、まともな男だと思ったのに」
話によると、二代目社長の人柄と、その方針からも得意先の反感を買い、業績は芳しくなくなって来ているとの事。
それでも、先代の顔で何とか表面上の体裁は保たれていますが、それだって、何時までもは続くはずがありません。
そこで、当社に納入し世間的な信用を付けると言う手段に打って出たようですが、流石に同僚は調べ上げていました。
「少し苛めてやるか」
そう言ってニヤリと笑った彼が、どんな方法を考えているのかは分かりません。
「なあ、女の悩みは女で解決するさ。今夜は昔を思い出して遊ぼうや」
良い酔い方をしていたのも手伝い、その後、あまり高くないクラブ等、何軒か梯子をし店の女の子に声を掛けましたが全て失敗。
「千秋からある程度の話は聞いたよ。今夜行くぞ」
呆然と見上げる私に、友は優しく微笑みその場を後にして行きました。
家庭内の実情は他人に知られたくはありません。しかし、思い詰めている時には話が別なようです。自分だけで全て抱えるのは辛いものです。それだけ自信を持てない私なのでしょう。
この時、肩の重荷が少し軽くなる感じを覚えた私でした。
生きていると色々な雑念が湧き起こるものるものですが、悲しいかな仕事をしている時だけは忘れていられるのです。
その日も友との待ち合わせの時間まで、ほんの一瞬だったように記憶しています。
残業も程々に同僚との待ち合わせ場所に向かいました。
その店はいつも通りの賑わいで、奴を目で探すと、カウンターでもう日本酒を一杯やっています。
「待ったか?」
私の声にニタリと笑い、
「待った、待った」
その受け答えが私を楽にさせるもので、ほっとしてしまうのです。
お互いに馬鹿話をしながらも、本題を切り出すタイミングを計っていました。
こいつは何気なく話を本題に乗せてきました。
「・・・大変なようだな。武勇伝は千秋から聞いた。お前、やんちゃな所は昔と変わっていないんだな」
「やんちゃって何よ。俺もおとなしいものだぜ。もう年だからな」
どんな行動を言われているのか分からない私は、曖昧な返事を返しました。
「う〜〜ん。雅ちゃんの職場に乗り込んだって。たいした度胸だ。俺なら出来ないな」
ごく自然に話し掛けてきます。
「そんな事まで知っているのか・・・・
俺も少し頭に血が上っちゃてな。思い出すと心臓がバクバクするよ。
挙句の果てに相手の奥さんに電話も掛けたよ。何か女みたいで嫌になっちまう」
友はやはり私達夫婦の出来事を知っているようです。もう格好付ける何ものもありません。
「雅ちゃんの相手は岸部だって?それが以外だったよ。
まさか、お前がそんな目に会うなんてな。
・・・・あの会社は、それなりの信用がある。
それでも二代目の評判は良くないな。
先代は人望も厚かったそうだから、ここまでの会社になったのに、ぼんぼんは甘いからな」
「岸部を知ってるのか?」
意外な言葉でした。
「何度かうちの会社に来てるぜ。俺は仕入れが専門だから来るたびに会ってるよ。
うちと取引をしたっがているのに、お前の女房に手を付けたら元も子もないな。
もう少し、まともな男だと思ったのに」
話によると、二代目社長の人柄と、その方針からも得意先の反感を買い、業績は芳しくなくなって来ているとの事。
それでも、先代の顔で何とか表面上の体裁は保たれていますが、それだって、何時までもは続くはずがありません。
そこで、当社に納入し世間的な信用を付けると言う手段に打って出たようですが、流石に同僚は調べ上げていました。
「少し苛めてやるか」
そう言ってニヤリと笑った彼が、どんな方法を考えているのかは分かりません。
「なあ、女の悩みは女で解決するさ。今夜は昔を思い出して遊ぼうや」
良い酔い方をしていたのも手伝い、その後、あまり高くないクラブ等、何軒か梯子をし店の女の子に声を掛けましたが全て失敗。
まあ、おいそれと持ち帰りの出来る年でもないし、身分でもないのでしょう。
それでも久し振りに楽しい夜を送れた事に、友に感謝です。
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かなり遅い時間の帰宅だったと思いますが、妻は起きて帰りを待っていました。
酔った頭の中には、女の子と何も出来なかった悶々とした感情があったのでしょう。
『女の悩みは女で解決』同僚のその言葉が『妻の悩みは妻で解決するさ』そんなふうに頭の中を駆け巡り、会話を求めているのも構わずに強引に寝室に連れ込みます。
荒々しく服を剥ぎ取られ少し抵抗をしましたが、諦めたようです。
しかし、その夜の彼女は、私の行為が終わるまで何の反応も示さないよう、じっと耐えているように感じました。
そんな態度に程よい酔いも急に覚め、虚しさが襲うのを抑えられません。
「悪かった。どうにかしてたな」
身体から離れ背を向けると、その気持ちを察したのでしょう。
「私こそごめんなさい」
私の背中を何度かさすり、静かに寝室から出て行きました。
妻の後姿を見る事もなく、私は背を向けたままです。
彼女と歩んだ人生で、後姿をまともに見た事があったのかな。
責任は一人だけに押し付けるものでも、背負うものでもないのでしょうね。
もしも時間を巻き戻せるなら、二人が信頼しあえる家庭を築く努力が出来るのかな?そう、自分に問い掛けてみます。
・・・・答えは出てるよな・・・・
妻の不倫を盾に取り、それを責めて離婚に持ち込もうなんて姑息な真似はやめましょう。
それは妻のためでも家族のためでもなく、私自身のためにです。
惰性で生きて行くのはやめ、これからは自分の意志を第一に生きて行こう。
人生が終わる時に、後悔がないように。
--------------------
妻の声に起こされ時計を見ると、もういつもの起床時間をとうに過ぎています。
横に懐かしい優しい笑顔があります。
こんな妻の顔を見るのは何時いらいでしょうか。
そんな事に気付くのは、しばらく後なのですが。
「やばい。遅刻する」
私は飛び起きました。
「貴方、今日は休みじゃないの?」
そうでした。だから昨日は しこたま飲んだのでした。それに気付いた私は、また掛け布団に潜り直しました。
布団の中で夜の出来事が頭をもたげるのです。
妻の相手が岸部だったら、どんなふうに受け入れたのだろうか?
身体は私よりも馴染んでいる相手です。それなりに燃えたのかもしれません。
そんな考えで素直になれないのは、嫉妬なのかもしれないと思うと不思議だなと思うのです。
「もう少し寝かせてくれ。二日酔いなんだ」
「分かったわ。朝食は何か食べたいものあるかしら?」
「何もいらない。腹が減ったら何処かで食うから気にするな」
もう食べないと決めた以上は断るのです。絶対に食べません。それが妻への、ささやかな抵抗になるんじゃないのかと思うのです。
私の気持ちが通じたのか寂しげな笑顔で私を見つめながら、掛け布団を直してくれました。
「俺が起きたら話がある。約束があるならキャンセルしてくれ」
強い口調ではありませんが、意思のある口調で伝えました。
「分かってます。私も話があるの」
穏やかな中にも意思を持つ語り掛けです。
>>次のページへ続く
それでも久し振りに楽しい夜を送れた事に、友に感謝です。
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かなり遅い時間の帰宅だったと思いますが、妻は起きて帰りを待っていました。
酔った頭の中には、女の子と何も出来なかった悶々とした感情があったのでしょう。
『女の悩みは女で解決』同僚のその言葉が『妻の悩みは妻で解決するさ』そんなふうに頭の中を駆け巡り、会話を求めているのも構わずに強引に寝室に連れ込みます。
荒々しく服を剥ぎ取られ少し抵抗をしましたが、諦めたようです。
しかし、その夜の彼女は、私の行為が終わるまで何の反応も示さないよう、じっと耐えているように感じました。
そんな態度に程よい酔いも急に覚め、虚しさが襲うのを抑えられません。
「悪かった。どうにかしてたな」
身体から離れ背を向けると、その気持ちを察したのでしょう。
「私こそごめんなさい」
私の背中を何度かさすり、静かに寝室から出て行きました。
妻の後姿を見る事もなく、私は背を向けたままです。
彼女と歩んだ人生で、後姿をまともに見た事があったのかな。
責任は一人だけに押し付けるものでも、背負うものでもないのでしょうね。
もしも時間を巻き戻せるなら、二人が信頼しあえる家庭を築く努力が出来るのかな?そう、自分に問い掛けてみます。
・・・・答えは出てるよな・・・・
妻の不倫を盾に取り、それを責めて離婚に持ち込もうなんて姑息な真似はやめましょう。
それは妻のためでも家族のためでもなく、私自身のためにです。
惰性で生きて行くのはやめ、これからは自分の意志を第一に生きて行こう。
人生が終わる時に、後悔がないように。
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妻の声に起こされ時計を見ると、もういつもの起床時間をとうに過ぎています。
横に懐かしい優しい笑顔があります。
こんな妻の顔を見るのは何時いらいでしょうか。
そんな事に気付くのは、しばらく後なのですが。
「やばい。遅刻する」
私は飛び起きました。
「貴方、今日は休みじゃないの?」
そうでした。だから昨日は しこたま飲んだのでした。それに気付いた私は、また掛け布団に潜り直しました。
布団の中で夜の出来事が頭をもたげるのです。
妻の相手が岸部だったら、どんなふうに受け入れたのだろうか?
身体は私よりも馴染んでいる相手です。それなりに燃えたのかもしれません。
そんな考えで素直になれないのは、嫉妬なのかもしれないと思うと不思議だなと思うのです。
「もう少し寝かせてくれ。二日酔いなんだ」
「分かったわ。朝食は何か食べたいものあるかしら?」
「何もいらない。腹が減ったら何処かで食うから気にするな」
もう食べないと決めた以上は断るのです。絶対に食べません。それが妻への、ささやかな抵抗になるんじゃないのかと思うのです。
私の気持ちが通じたのか寂しげな笑顔で私を見つめながら、掛け布団を直してくれました。
「俺が起きたら話がある。約束があるならキャンセルしてくれ」
強い口調ではありませんが、意思のある口調で伝えました。
「分かってます。私も話があるの」
穏やかな中にも意思を持つ語り掛けです。
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