逆転
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浅い眠りでしたが、起きるともう昼近くで、ゆっくりとベッドを抜け出しました。
居間で見るでもなくテレビを見つめてる妻がいます。
私の姿に気付き断ったのに昼食を取るかと聞いて来ましたが、返事はやはりNOです。
しかし、今の私の姿を彼女は どう見ているのでしょうか。
パジャマ代わりに着ているよれたスウェットに寝癖の付いた髪の毛。
仕事場で颯爽としている岸部を見ている妻には、さぞ魅力のないことでしょう。
でも、男なんて家の中では こんなものでしょう?
あの男だってたいした変わりがないと思うのですが、何か気が引けます。
「昨日は悪かったな。少し飲みすぎたよ」
「私こそ御免なさい。急だったので・・・・」
「いいんだ。あれでよかった。夫婦と言えども心の絆を無くした者同士が戯れるものじゃないよな。本当に酔っていた」
次に来る私の言葉を断たんとするように妻が声を発します。
「ねぇ、皆で温泉にでも行かない?前のように家族っていいなって思いたい」
さすがに私も、この唐突な言葉に眠気も吹っ飛びました。
しばらく間を置いてやっと声がでます。
「話があるって言ってたのは、その事か?」
「・・・・・・・・・・」
「普通さぁ、家族っていいものなんだよ。思いたいんじゃなくて普通にいいものなんだ。
お前はどう思っているのか知らないが俺はそう思うんだ。
そりゃあ不平不満もあるだろうさ。それでも掛け替えがないのが家族なんだろう。
それについては俺も悪かった。俺の事しか考えていなかったものな・・・・
その反省は、次の人生に生かしたいと思ってる・・・・別れよう・・・・勝手でごめんな」
虚ろに見つめていた瞳が潤みだしています。
男と女の別れには修羅場が付き物なのでしょうが私は苦手なのです。
その場にしゃがみこみ両手で顔を覆う姿に、ジェットコースターに乗った時のように胃が悶えてしまいます。
妻の頭を撫ぜて、その場に立ちすくむのですが、本当はこの場から逃げたい気持ちでいっぱいなんです。
「・・・私が貴方にした仕打ちを思えば、そう言われてもしょうがない・・・
でも・・私は皆でここにいたい・・・
少し時間をちょうだい・・・心の準備が・・・」
女はずるいよな。こんな時は泣けばいいんだものな。泣かれる男は たまったものじゃないよ。
「心の準備か。確かにな・・・大変なら俺がしばらく家を空ける。けじめを付けるなら早いほうがいい」
だいたい準備って何があるのでしょう。
自分の生活設計か?男との今後の事なのか?
生活なら当初は、私が援助してもいいのですが、男との事は関知するものではありません。
これほど長く続いた関係を直ぐに断ち切れるものではないと、この年まで生きた私には分かります。
身体の関係を結んだ男と女は、心の契りも出来てくるものでしょう。
「なるべく早くけじめを付けてくれ」
「・・・・子供達は?何て言えばいいの?」
「もう大人だよ。俺から話すさ。その後はあの子達が決めればいい」
妻はしゃがんだまま立とうとしません。肩が小刻みに震えているのは、まだ泣いているのでしょう。
彼女の気持ちを信じるなら、このままの生活もあるのかもしれない。
でも、私は後戻りはしません。どうであれ俺は男だ!そう叫びたい。
これから、まだまだやらねばならない事も山積みですし、一歩も後戻りは出来ません。
この一連の現実は、自分自身にも責任があったのでしょう。しかし、妻と男との関係は長すぎるし、その期間が贖罪であると思う事にしました。
離婚願望が強かったくせに、いざと言う時に躊躇してしまった。
情けないとも思いましたが、いくら気持ちが醒めてると言えども今までの夫婦の歴史があります。当然に情がまったくないわけではないのです。
でもいいです。お互いの幸せなんて言いません。これからは、私と子供達の幸せだけを考えて行きます。
ましてこれから、どう努力しても彼女との生活は苦痛でしかないと思えるのです。
不倫されたのは当然面白くはありませんが、本当はそれほど堪えてもいない自分がいるのは、愛などはもうないと悟っているのです。
私と子供達が幸せなのが、彼女のためだと思いましょう。
『さようなら。ありがとうね』
心の中で妻に声をかけましが、やっぱり私も涙が出そうです。
何度も何度も期待していた時が近づいたのに、私の心の中は複雑で困ります。
「今は話す気分じゃないだろう?悪いけど少し出てくる。話したい事がまとまったら夜にでも、また話し合おう」
不動産屋にでも行って、家賃がどのくらいするのか見てこようか。また金がかかるな。
ふらりと家を出て近くの不動産屋の前の張り出しを見ると、思っていた以上に高いものです。
その中で、何とか手頃な物件がないかと探すと、それなりにあるものですね。
1ルームでトイレとお風呂があれば、どうにか不自由はしないと思います。今の家庭は非常事態なのですから、贅沢は言ってられませんでしょう。
何軒かの店で こんなものかなと納得した物件を見つけました。現地に行って見たわけではありませんが、そんな事はどうでもいいのです。少しでも早く行動に出たい。そこそこ家から近くて、なるべく安ければ助かるのです。
それについては俺も悪かった。俺の事しか考えていなかったものな・・・・
その反省は、次の人生に生かしたいと思ってる・・・・別れよう・・・・勝手でごめんな」
虚ろに見つめていた瞳が潤みだしています。
男と女の別れには修羅場が付き物なのでしょうが私は苦手なのです。
その場にしゃがみこみ両手で顔を覆う姿に、ジェットコースターに乗った時のように胃が悶えてしまいます。
妻の頭を撫ぜて、その場に立ちすくむのですが、本当はこの場から逃げたい気持ちでいっぱいなんです。
「・・・私が貴方にした仕打ちを思えば、そう言われてもしょうがない・・・
でも・・私は皆でここにいたい・・・
少し時間をちょうだい・・・心の準備が・・・」
女はずるいよな。こんな時は泣けばいいんだものな。泣かれる男は たまったものじゃないよ。
「心の準備か。確かにな・・・大変なら俺がしばらく家を空ける。けじめを付けるなら早いほうがいい」
だいたい準備って何があるのでしょう。
自分の生活設計か?男との今後の事なのか?
生活なら当初は、私が援助してもいいのですが、男との事は関知するものではありません。
これほど長く続いた関係を直ぐに断ち切れるものではないと、この年まで生きた私には分かります。
身体の関係を結んだ男と女は、心の契りも出来てくるものでしょう。
「なるべく早くけじめを付けてくれ」
「・・・・子供達は?何て言えばいいの?」
「もう大人だよ。俺から話すさ。その後はあの子達が決めればいい」
妻はしゃがんだまま立とうとしません。肩が小刻みに震えているのは、まだ泣いているのでしょう。
彼女の気持ちを信じるなら、このままの生活もあるのかもしれない。
でも、私は後戻りはしません。どうであれ俺は男だ!そう叫びたい。
これから、まだまだやらねばならない事も山積みですし、一歩も後戻りは出来ません。
この一連の現実は、自分自身にも責任があったのでしょう。しかし、妻と男との関係は長すぎるし、その期間が贖罪であると思う事にしました。
離婚願望が強かったくせに、いざと言う時に躊躇してしまった。
情けないとも思いましたが、いくら気持ちが醒めてると言えども今までの夫婦の歴史があります。当然に情がまったくないわけではないのです。
でもいいです。お互いの幸せなんて言いません。これからは、私と子供達の幸せだけを考えて行きます。
ましてこれから、どう努力しても彼女との生活は苦痛でしかないと思えるのです。
不倫されたのは当然面白くはありませんが、本当はそれほど堪えてもいない自分がいるのは、愛などはもうないと悟っているのです。
私と子供達が幸せなのが、彼女のためだと思いましょう。
『さようなら。ありがとうね』
心の中で妻に声をかけましが、やっぱり私も涙が出そうです。
何度も何度も期待していた時が近づいたのに、私の心の中は複雑で困ります。
「今は話す気分じゃないだろう?悪いけど少し出てくる。話したい事がまとまったら夜にでも、また話し合おう」
不動産屋にでも行って、家賃がどのくらいするのか見てこようか。また金がかかるな。
ふらりと家を出て近くの不動産屋の前の張り出しを見ると、思っていた以上に高いものです。
その中で、何とか手頃な物件がないかと探すと、それなりにあるものですね。
1ルームでトイレとお風呂があれば、どうにか不自由はしないと思います。今の家庭は非常事態なのですから、贅沢は言ってられませんでしょう。
何軒かの店で こんなものかなと納得した物件を見つけました。現地に行って見たわけではありませんが、そんな事はどうでもいいのです。少しでも早く行動に出たい。そこそこ家から近くて、なるべく安ければ助かるのです。
店の中に入り思い切って手付金を払いましたが、恥ずかしい話し5000円だけです。手持ちがそれだしかないのですから情けない限りです。
夕方近く家に戻ると、居間から娘達の華やいだ声が聞こえてきます。
私の帰宅に気が付いた長女が笑顔で話し掛けてきましたが、そこに妻の姿はありません。
「お帰りなさい。お母さんと会わなかった?探しに行くとか言って出て行ったわよ」
私が何処へ行くのかも知らないで、どう探すと言うのか。また探しに来て何をしようと思っているのか。
私には分かりませんが、携帯と言う便利な物があるのにと、思ったとたんに持たずに出たのに気付きました。
部屋に行き携帯の着信履歴を確認すると、確かに妻からのものが何通もあります。
居間では まだ話が弾んでいるようで、私が入ると長女が笑いながら話を振ってきました。
「ねぇ、ねぇ、お父さん。この子、彼氏が出来たんだって」
「あ〜ぁ!お姉ちゃん!内緒だって言ったのにぃ!」
その話を聞いた私の視線が少し険しかったのか、長女は からかってきました。
「あれぇ、お父さん妬いてるの?」
そうなんです。次女の彼氏に敵意を感じたのです。
その感情は妻が男と関係を持った以上に嫉妬したのでした。
妻への感情よりも娘への嫉妬心が強いのは どんなもんなんでしょう?世のお父さん達はどうですか?
「そっそんな事ないよ。そうか、青春してるのか」
冷静になった時に、自分のそんな時代に思いを馳せますと、私にもそんな時があった。
でも流れに任せて、その場その場で適当に生きてきただけで、本当に心から人を愛した事があったのか?
あの時の彼女らは今、どうしてるのか。
私はこの人でなければ駄目なんだと思って結ばれたのか?
惰性の人生が産む結果は初めから見えていたのかも知れませんね。だけど、御見合い結婚で幸せな人生を送っている御夫婦もいらっしゃる。
私は心から愛して、この人のためならどんな犠牲もいとわない。そんな気持ちで結婚と言う人生の一大事に立ち向かうべきだったのです。
そのへんが、大いに欠けた未熟者だったと、素直に認めざるおえないですね。
「広く浅く沢山の男友達と付き合って、この人と思うのを探したらいいよ」
良いアドバイスなのかは分かりませんが、一応は、親として何かを言いたいと口から出た言葉です。
「いやよ、そんなの!彼は素敵なの!」
次女はむきになって言い返してきました。
はい、はい、好きにしてちょうだい。今時の子に何を言っても聞かないでしょう。
そんなこんなで賑やかな雰囲気に任せて、私の決意を子供達に伝えます。
「あのな、お父さんと、お母さん、しばらく別々に暮らそうと思うんだ」
「・・・・・・・・・・・」
雰囲気が一変してしまいました。
妻の取った行動を、この子達は知っています。
私達夫婦に起こりえる事態だとも感じていたのだろうと思いますが、それでもショックなのでしょう。
「少しだけ?また一緒に暮らすんでしょう?」
長女が次女の気持ちも伝えてきました。
「・・・それはないと思う・・・」
色んな事を伝えたいと思うのですが、それだけ言うのが精一杯です。
そんな時に妻が帰ってきました。
私と子供達の話の内容は分かっていないのでしょうが、微妙な雰囲気には気付いたようです。
>>次のページへ続く
夕方近く家に戻ると、居間から娘達の華やいだ声が聞こえてきます。
私の帰宅に気が付いた長女が笑顔で話し掛けてきましたが、そこに妻の姿はありません。
「お帰りなさい。お母さんと会わなかった?探しに行くとか言って出て行ったわよ」
私が何処へ行くのかも知らないで、どう探すと言うのか。また探しに来て何をしようと思っているのか。
私には分かりませんが、携帯と言う便利な物があるのにと、思ったとたんに持たずに出たのに気付きました。
部屋に行き携帯の着信履歴を確認すると、確かに妻からのものが何通もあります。
居間では まだ話が弾んでいるようで、私が入ると長女が笑いながら話を振ってきました。
「ねぇ、ねぇ、お父さん。この子、彼氏が出来たんだって」
「あ〜ぁ!お姉ちゃん!内緒だって言ったのにぃ!」
その話を聞いた私の視線が少し険しかったのか、長女は からかってきました。
「あれぇ、お父さん妬いてるの?」
そうなんです。次女の彼氏に敵意を感じたのです。
その感情は妻が男と関係を持った以上に嫉妬したのでした。
妻への感情よりも娘への嫉妬心が強いのは どんなもんなんでしょう?世のお父さん達はどうですか?
「そっそんな事ないよ。そうか、青春してるのか」
冷静になった時に、自分のそんな時代に思いを馳せますと、私にもそんな時があった。
でも流れに任せて、その場その場で適当に生きてきただけで、本当に心から人を愛した事があったのか?
あの時の彼女らは今、どうしてるのか。
私はこの人でなければ駄目なんだと思って結ばれたのか?
惰性の人生が産む結果は初めから見えていたのかも知れませんね。だけど、御見合い結婚で幸せな人生を送っている御夫婦もいらっしゃる。
私は心から愛して、この人のためならどんな犠牲もいとわない。そんな気持ちで結婚と言う人生の一大事に立ち向かうべきだったのです。
そのへんが、大いに欠けた未熟者だったと、素直に認めざるおえないですね。
「広く浅く沢山の男友達と付き合って、この人と思うのを探したらいいよ」
良いアドバイスなのかは分かりませんが、一応は、親として何かを言いたいと口から出た言葉です。
「いやよ、そんなの!彼は素敵なの!」
次女はむきになって言い返してきました。
はい、はい、好きにしてちょうだい。今時の子に何を言っても聞かないでしょう。
そんなこんなで賑やかな雰囲気に任せて、私の決意を子供達に伝えます。
「あのな、お父さんと、お母さん、しばらく別々に暮らそうと思うんだ」
「・・・・・・・・・・・」
雰囲気が一変してしまいました。
妻の取った行動を、この子達は知っています。
私達夫婦に起こりえる事態だとも感じていたのだろうと思いますが、それでもショックなのでしょう。
「少しだけ?また一緒に暮らすんでしょう?」
長女が次女の気持ちも伝えてきました。
「・・・それはないと思う・・・」
色んな事を伝えたいと思うのですが、それだけ言うのが精一杯です。
そんな時に妻が帰ってきました。
私と子供達の話の内容は分かっていないのでしょうが、微妙な雰囲気には気付いたようです。
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