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誤解の代償
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私はホテルに戻ろうかと思いましたが、妻がそれを許してはくれませんでした。

夕食を食べると、やはり馴染んだ味は、外食では味わえないものです。それでも、余り箸は進みません。


そんな時、妻の携帯が鳴りました。

相手を確認して慌てて切った様なので、私は携帯を取り上げ履歴を見てみても、番号だけで誰からかは分かりませんが、見当は付きます。

妻の携帯からリダイヤルしてみると、

「どうして切るんだ?旦那が居るのか?」

やはりあの男でした。


「俺だよ。亭主だよ。こんな時間に掛けてくれば、俺が居るのは当たり前だろう。それとも、出て行って帰らないとでも、聞いていたか?」

私が出た事に驚いたのか、男は何も言わずに切ってしまいました。

「昨日も逢ったのか?こんな時間に電話を掛けて来るのは おかしいじゃないか。俺が居ないと知って居たんだろう?」


「・・・ええ。昨日電話が有って。」


「それで逢ったのか?そうなんだろう?もう何も言わないから、本当の事を言ってくれ。」


男と女が、禁断の愛に心を染めてしまえば、簡単には後戻り出来ない事でしょう。私だって、そんな経験をしてしまえば、どうなるか分かりません。

私達夫婦が元に戻る事は、2度と無いだろうと思いました。


「いいえ、逢ったりしていない。

あの人のマンションに行ったのは、まだ続いているからじゃ無いの。

確かに、何度も電話は有ったわ。もう奥さんと別れるから、一緒にならないかって言われたわ。

あんまり何度も来るから、会ってはっきり断ろうと思って行っただけで何も無かった。
それを貴方が知っていたとは思わなかった。

嘘をついて行ったのは悪かったと思います。

でも、どんな理由が有っても、二人で会うとは言えなかった。

疑われても仕方がないけど・・・。ごめんなさい。」


真剣な表情で訴える妻の言う事は、本当の事なのかも知れませんが、そうで無いのかもしれません。

1年前で有れば、信じる事が出来たのかも知れません。でも今は、鵜呑みには出来なくなっています。

信じ合える事は、夫婦にとって最小限の必要事項で有る筈です。それが崩れてしまった以上、もう夫婦でいる必要は無いのでしょう。


この時、私の中に彼女の存在が有ったのは言うまでも有りません。

それが どんな結末を迎えるのかは、この時は考えてもみませんでした。ただ、夫婦としての歴史よりも、今の平静を求めていました。

--------------------

その夜、妻は私を求めて来ました。

答える気持ちは無かったのですが、このところ女性と関係を持っていなかったので、身体が反応してしまい応じてしまいましたが、それは彼女と そんな関係になった時の予行演習の様なもので、暫らく妻にはした事が無いセックスをしました。

縛ったり、バイブを使ったりはしません。

その代わり、散々焦らしてみました。

妻は思った通りに乱れ、男とのセックスを想像させるものでした。


朝、何か気持ちに変化を感じていました。妻への感情に大きな転機を迎えた様です。

昨夜の妻との事には、男の影が付き纏っていました。

今迄感じていた怒りや、嫉妬の様なものは、夫婦としての関係が有ってのもので、解消してしまえば、何も惑わされる事も無くなる筈です。

まあ、そう言っても、直ぐに割り切れるものでは有りませんが、時間と共に気持ちに整理がつくものと、理解出来たつもりになったのは、今回の事で、精神的に少し進歩したからなのかも知れません。


「暫らく離れて暮らそう。その間は、お互いに干渉するのは止めようや。

お前もあいつに逢いたかったら好きにしたら良い。

それで自分の気持ちに正直になった時に、本当の事を話してくれ。

今は、何を聞いても信じる気になれない。」


「私の事を、もう嫌いになった?もう顔を見るのもいや?」


「そんな事も無いけれど、一寸前まで顔を合わせる事も無かった。

今更一緒に居なくても どうって事は無いだろう?

あの時は、お前がそれを望んだ訳だしな。」


「何時まで?」


「分からないな。ただ今回は、お前の気持ちでは無く、俺が決めさせてもらうよ。」

妻は俯いていましたが、何も言いませんでした。

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職場では、相変わらず何だかんだと仕事に追われ、忙しい思いをしましたが、その方が余計な事を考える余裕も無く、かえって助かりました。

仕事帰りに、彼女を誘って食事がてら一杯飲みに行きましたが、度胸が無く それ以上の事は有りませんでしたが、

何処か手頃な部屋が無いものかと言うと、知り合いに不動産屋がいるとの事で、間も無くマンションが見付かりました。

引っ越す前には、地方の娘に別居する事を伝えましたが、「そうなの。何か有ったの?」と言うだけで、クールなものでしたが、流石に引越しの当日には、家に帰って来ていました。


「お父さん、どうしちゃたの?お母さんと何か有った?このまま、別れるって事は無いよね?また、帰って来るよね?」

娘なりに心配していたのでしょう。

当然ですが、別居の理由は話しませんでした。

少しの荷物をトラックに積み込む間、妻は寝室から出て来ませんでしたが、家を出ようとした時には、玄関に来て、

「私、待ってるから。」
と、一言だけ言いましたが、目には薄っすらと涙を溜めていました。

--------------------

離婚届は まだ出していませんが、事実上は離婚した様なものと思っていました。

色々な事が頭の中を駆け巡り、まだ整理された訳では有りませんが、彼女が ちょくちょく部屋に来て食事の用意をしてくれ、そんな時は、全てを忘れる事が出来ます。

何度かめに来てくれた時に、

「今日は、泊まっていかないか?明日は休みだし、何処かにドライブに行こう。」

私は彼女の気持ちを、分かっていました。

それでも、自分から誘うふんぎりが着かずにいましたが、思い切って誘ってしまいました。

「泊まってもいいんですか?奥様の事は もう忘れられましたか?」

「ごめん。そんなに簡単な事では無い様だ。でも、もう元に戻る事は無いと思っている。」

彼女は寂しそうな瞳を向けていましたが、泊まる決心をした様でした。

まだベッドを買っていなかったので、布団を2枚敷並べてきました。

彼女は抵抗が有るのか、なかなか寝室に行こうとはしません。


「私、次長から離れら無くなってしまう。それでも良いですか?」

「・・・そのつもりでいる。僕も前に進まなければならない。君さえ良かったらの事だけれど。」

私は彼女を抱き寄せ、唇を重ねました。


彼女を抱いてみると、その身体は年齢よりも若く、反応も予想以上に激しいものでした。

この前、妻にやった様に、焦らしたりは出来ませんでしたが、敏感な所に舌を這わせると、腰を浮かせ、シーツを鷲づかみにして、私を求めて来ました。

「もう駄目!お願いだから来て下さい。」

腰を深く沈めると、私の腰に手を回し、しがみ付いて来ました。

「恥ずかしい。恥ずかしい・・・。アーー、いきそう!アーー、もう駄目!いくー、いくー」

その声で、私も限界に達してしまいました。


「凄く感じてしまいました。・・・恥ずかしかった。でも、こうなる事が、私の夢でした。嬉しい。本当に嬉しい。」

彼女のいじらしさに、私は強く抱き締め、また唇を合わせました。


朝、目を覚ますと彼女が朝食の用意をしてくれていましたが、その後姿に私は妻を重ねてしまい、愕然としてしまいました。

思い起こせば彼女には妻に共通する面影が有り、その部分に引かれていた事を思い出します。

このまま彼女と付き合っても、妻の面影を追い求めるだけで、幸せに出来るのかどうか、不安を感じてしまいました。

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妻からは何度も携帯や職場の電話に連絡が有りましたが、家に帰る事は有りませんでした。

私は何処に住んでいるかも教えていません。

家を出て4ヶ月程経った頃、マンションに帰ると部屋の前に妻が立っていました。

「どうしてここが分かった?」

「うん。この前、貴方をつけちゃた。綺麗な人と一緒だったじゃない。少し妬けたわよ。」


「それはご苦労な事で。それで何か用か?」


「冷たいのね。貴方が言ってた、正直な気持ちを話しに来たのよ。中に入れてくれる?」


彼女が来るか知れないので、中には入れたく有りませんでした。

「何処か違う所で話そう。俺にも都合が有る。」


「あら、彼女でも来るのかしら?私はそれでも良いのよ。どうで有れ、貴方の妻は私ですから。」


「勝手な事を言うな。お前に とやかく言う権利が有るか?

それにしても勝手な女だったんだな。俺は今迄、お前の表面しか見ていなかったのか。


>>次のページへ続く
 
 


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