誤解の代償
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馬鹿な男だったよ。浮気をされてもしょうが無いと言う事か。
まあ、こんな所で話していても変に思われる。中に入れ。」
その時、気付いたのですが、妻が少し大きめのバッグを持っていました。自分の鈍さに呆れるばかりです。
部屋に入った妻は、周りを舐めるように見渡しました。当然ですが彼女の残り香が有ります。
「綺麗にしてるのね。男の一人暮らしとは思えないわ。
結構上手くやってる様ね。それだもの、電話も掛けて来ない筈ね。
でもね、このまま貴方の思う様には行かせないわ。
これから本当の事を話すから聞いてくれる?」
「ああ、好きにしろ。聞いてから判断させてもらう。ただ、もう騙されないからな。適当な事は言うな。」
--------------------
妻は何故この様に、堂々と落ち着きはらって居るのでしょう?何かに覚悟を決めた女はこれ程、度胸を決められるものなのでしょうか?
「貴方、私の事を知ってる?」
椅子に坐るなり、妻は私に問い掛けて来ました。
「それは長い間一緒に居るんだから知ってるつもりだが。」
「それがもう知らない証拠なのよ。私の事なんか、結局何も分かっていないのよ。」
妻の性格を知っているつもりが、気付かないうちに浮気をされていた訳ですから、そう言われてもしょうが無いのかも知れません。
「俺は・・・・」
妻は私が気付いていたけれども、あえて見ぬ振りをしていた部分に踏み込む話しをし始めました。
「貴方は若い時から、私に母親役を求めたわ。
その内に娘が生まれて本当の母親になって幸せだった。
そんな時も貴方はまだ私に母親を求めた。
二人の母親でずーっと、女では無かった気がしてた。
若い時は それでも良かったのよ。お互いに情熱が有ったものね。
それが、あの子が手を離れ、貴方も相変わらずだったけれど、別々に暮らす様になって、気持ちの中にポッカリ穴が開いたで様で・・。女は何歳になっても女な・・・。
寂しいと言うのか、虚しいと言うのか、何と行って良いのか分からない焦りの様なものを抱えて生活していたわ。
そんな時に、あの人が女を感じさせてくれたのよ。
だから私は・・・・」
「だから私は何なんだ?」
「言い訳にはならないけれど、女でいたいと思った。満たされない部分を、あの人が埋めてくれた。
一時は確かに貴方より愛してると思った時も有る。ほんの一時はね。
でもね、貴方を愛している事に代わりは無かった。貴方が不倫相手で、あの人が亭主だったらとうに別れているわ。
貴方はそれ位、魅力が有るの。だって昔から結構モテたじゃない。
特に貴方に踏み込まれた時に、貴方は男で私は女だって実感したわ。」
「あの時お前は、俺が浮気をしたから復讐するつもりで不倫したと言ったが嘘だったよな。何故そんな嘘を言った?」
「・・それはあの人の考えなの。本当にあの時は、貴方も女が出来たと思っていた。
その事を話すと『お互い様だから、ご主人も余り強くは出られ無い筈だ。』って。
だから貴方が踏み込んできた時にあんな態度に出たのよ。
でも、あの人の誤算は、私が貴方が かなり強いと言っていなかった事。お互いの家庭の事は出来るだけ話さない様にしていたから。
コテンパンにやられて、強気に出るどころか反対に振るえ上がっちゃって。それからは、貴方を恐れていたわ。
でもあの時、私の胸が熱くなったのは本当よ。」
確かに私は早くに母を無くして、妻に母親役を求めていました。結婚してからは安心感からか、その傾向が強まったのにも気付いていました。
また、長い夫婦生活は妻の言う通り、若い時の情熱は色褪せ、刺激の無い生活になっていたのも事実でしょう。妻を女と見てい無かったのも真実だったののかも知れません。
でも、情熱は無くなっていても、生活を続けていた者同士にしか分からない夫婦の歴史が有り、その事が、自分勝手な考え方かもしれませんが、誰にも割り込ませない情になっていると信じていました。
妻にしても同じ気持ちだと思い込んでいましたが、一人の女で有る事を求めていたようです。
女性と言うものに、男の考え方を押し付け、それでも絶対について来るものと信じていたのは、私の大きな誤解だったのでしょうか?
「そうか。お前の気持ちは分かった。そう言う事にしておこう。
俺にも至らない所が有ったのかもしれないな。
だがな、それだから許されると言う事ではないよな?
それに、まだあの男と続いているんだろう?」
「いいえ。貴方がどう思っているのかは分からないけれど、もう何も無いわ。」
「じゃあ、何故あの日あそこに行った?お前のしてきた事を考えたら何も無かったとは、誰も思えないだろう?」
「あの人は、左遷させられるそうよ。
あの時は自暴自棄になって・・・。何をするのか分からない位に取り乱していて どうにもならなかったの。
でも、貴方に知れると、変に疑われると思って嘘をついてしまったの。悪い事をしたと思っているわ。
信じてと言うのは無理なのは分かっているけど本当の事なのよ。」
「確かに無理が有るな。そもそも あの男の事を何も思っていないなら、自暴自棄に成ろうがなるまいが、何の関係も無い筈だ。
それでも行くと言う事は、お前の心の中にあいつを思う気持ちが有るからだろう?
熱い時間を過して、俺の事は何もかも忘れてしまった。あの時の、お前の目は今も忘れない。
不思議なもので、そんな時は、何とかお前の気持ちを、俺に向けさせたいと思ったよ。
二人の母親でずーっと、女では無かった気がしてた。
若い時は それでも良かったのよ。お互いに情熱が有ったものね。
それが、あの子が手を離れ、貴方も相変わらずだったけれど、別々に暮らす様になって、気持ちの中にポッカリ穴が開いたで様で・・。女は何歳になっても女な・・・。
寂しいと言うのか、虚しいと言うのか、何と行って良いのか分からない焦りの様なものを抱えて生活していたわ。
そんな時に、あの人が女を感じさせてくれたのよ。
だから私は・・・・」
「だから私は何なんだ?」
「言い訳にはならないけれど、女でいたいと思った。満たされない部分を、あの人が埋めてくれた。
一時は確かに貴方より愛してると思った時も有る。ほんの一時はね。
でもね、貴方を愛している事に代わりは無かった。貴方が不倫相手で、あの人が亭主だったらとうに別れているわ。
貴方はそれ位、魅力が有るの。だって昔から結構モテたじゃない。
特に貴方に踏み込まれた時に、貴方は男で私は女だって実感したわ。」
「あの時お前は、俺が浮気をしたから復讐するつもりで不倫したと言ったが嘘だったよな。何故そんな嘘を言った?」
「・・それはあの人の考えなの。本当にあの時は、貴方も女が出来たと思っていた。
その事を話すと『お互い様だから、ご主人も余り強くは出られ無い筈だ。』って。
だから貴方が踏み込んできた時にあんな態度に出たのよ。
でも、あの人の誤算は、私が貴方が かなり強いと言っていなかった事。お互いの家庭の事は出来るだけ話さない様にしていたから。
コテンパンにやられて、強気に出るどころか反対に振るえ上がっちゃって。それからは、貴方を恐れていたわ。
でもあの時、私の胸が熱くなったのは本当よ。」
確かに私は早くに母を無くして、妻に母親役を求めていました。結婚してからは安心感からか、その傾向が強まったのにも気付いていました。
また、長い夫婦生活は妻の言う通り、若い時の情熱は色褪せ、刺激の無い生活になっていたのも事実でしょう。妻を女と見てい無かったのも真実だったののかも知れません。
でも、情熱は無くなっていても、生活を続けていた者同士にしか分からない夫婦の歴史が有り、その事が、自分勝手な考え方かもしれませんが、誰にも割り込ませない情になっていると信じていました。
妻にしても同じ気持ちだと思い込んでいましたが、一人の女で有る事を求めていたようです。
女性と言うものに、男の考え方を押し付け、それでも絶対について来るものと信じていたのは、私の大きな誤解だったのでしょうか?
「そうか。お前の気持ちは分かった。そう言う事にしておこう。
俺にも至らない所が有ったのかもしれないな。
だがな、それだから許されると言う事ではないよな?
それに、まだあの男と続いているんだろう?」
「いいえ。貴方がどう思っているのかは分からないけれど、もう何も無いわ。」
「じゃあ、何故あの日あそこに行った?お前のしてきた事を考えたら何も無かったとは、誰も思えないだろう?」
「あの人は、左遷させられるそうよ。
あの時は自暴自棄になって・・・。何をするのか分からない位に取り乱していて どうにもならなかったの。
でも、貴方に知れると、変に疑われると思って嘘をついてしまったの。悪い事をしたと思っているわ。
信じてと言うのは無理なのは分かっているけど本当の事なのよ。」
「確かに無理が有るな。そもそも あの男の事を何も思っていないなら、自暴自棄に成ろうがなるまいが、何の関係も無い筈だ。
それでも行くと言う事は、お前の心の中にあいつを思う気持ちが有るからだろう?
熱い時間を過して、俺の事は何もかも忘れてしまった。あの時の、お前の目は今も忘れない。
不思議なもので、そんな時は、何とかお前の気持ちを、俺に向けさせたいと思ったよ。
だけど今は、そんな事どうでも良くなってしまった。何よりも、信じられ無い事が辛い。
そんな夫婦は、ざらに有るのかも知れないけれど、俺が求める関係では無いんだよ。
まして、お前の痴態を見てしまった以上、俺の許容範囲をとうに越えてしまっているんだ。
志保、俺も至らない所は有ったと思う。こんな事になるまでは、本当に良くやってくれた。感謝しているよ。
でもな、これで終わりにしようや。俺にも、次の人生が有るんだ。」
妻に未練が無いと言ったら、完全に吹っ切れた訳では無いのでしょうが、もう、後戻りは出来ない事も、この歳ですから分かってはいるのです。
--------------------
お互いの沈黙の時間が随分長く感じられました。
その時の妻の態度は、落ち着き払ったものの様に感じました。
「終わりにはならないわ。私は確かに貴方を裏切ったわよ。でも貴方は?何も知らないと思ったら大きな間違いよ。
ちゃんと分かっているの。あの人と、何も無いなんて言わせないわ。
きっと、あの時から続いているのでしょう?いや、もっと前からなのよね?
今更言ってもしょうが無いかも知れないけれど、私ばかり責められる事も無いと思うのよ。どうかしら?」
「武士の情けと言う言葉を知っているか?情けを掛けたつもりだったが・・・。
あれから何回男の所に行った?
お前、何が何やら分からなくなっている様だ。
言ってる事が、無茶苦茶だと思わないか?良く考えてみろよ。
矛盾を責められ無いうちに我を通すのはやめておけ。」
「何が矛盾が有るのかしら?何を言いたいのよ?」
この時になって、自分の言い訳に無理が有る事に気付いたのでしょう。苛々とした感情があからさまに感じ取れました。
「俺が、男の所に行った事を知ったのは、何時だった?墓穴を掘ったな。」
私がふんぎりを付けた瞬間だったかもしれません。
「男との関係は続けたい。でも、夫婦生活も続けたい。理想だよな。俺もそんな立場なら、そう思うかもな。
だけど、俺にはそんな図太さは無いな。・・・お前、何時からそんな女になった?
俺が知らなかっただけで、初めからそうだったのか?そんな事は無かったよな?
俺達は何をやって来たのだろう?
・・・もう、良いだろう?俺を自由にしてくれ。お前だって、自由になれるんだ。
これ以上、俺を傷付けるな。黙って帰ってくれ。」
この時、流した妻の涙は、今までとは違い、別れを決意している私にも、訴え掛けて来るものが有りましたが、抱き締めたり、優しい言葉を掛けたりする気持ちにはなれませんでした。
それでも帰ろうとはしません。
大きめのバッグの中には、見慣れた妻のパジャマや、化粧道具等が入っていましたが、それらを出させる事はさせませんでした。
「貴方の気持ちはもっともね。逆の立場なら、私も当然そう言うでしょうね。
でも、これで終わりはいや。もうどうにもならないのかしら?
確かに、あれからも続いていた。あんなに貴方を傷付けたのにね。
謝って済む事では無いけれども、ヅルヅルと引きずってしまった。
・・・一つ嘘を言うと それがばれない様に、又嘘をつかなければならない。
そんな事をしているうちに、醜い女になってしまったのね。ごめんなさい・・・。
それでも今は本当にあの人とは別れたわ。
やっぱり、貴方の方が好き。愛しているわ。
だから、このまま別れるのはいや。」
>>次のページへ続く
そんな夫婦は、ざらに有るのかも知れないけれど、俺が求める関係では無いんだよ。
まして、お前の痴態を見てしまった以上、俺の許容範囲をとうに越えてしまっているんだ。
志保、俺も至らない所は有ったと思う。こんな事になるまでは、本当に良くやってくれた。感謝しているよ。
でもな、これで終わりにしようや。俺にも、次の人生が有るんだ。」
妻に未練が無いと言ったら、完全に吹っ切れた訳では無いのでしょうが、もう、後戻りは出来ない事も、この歳ですから分かってはいるのです。
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お互いの沈黙の時間が随分長く感じられました。
その時の妻の態度は、落ち着き払ったものの様に感じました。
「終わりにはならないわ。私は確かに貴方を裏切ったわよ。でも貴方は?何も知らないと思ったら大きな間違いよ。
ちゃんと分かっているの。あの人と、何も無いなんて言わせないわ。
きっと、あの時から続いているのでしょう?いや、もっと前からなのよね?
今更言ってもしょうが無いかも知れないけれど、私ばかり責められる事も無いと思うのよ。どうかしら?」
「武士の情けと言う言葉を知っているか?情けを掛けたつもりだったが・・・。
あれから何回男の所に行った?
お前、何が何やら分からなくなっている様だ。
言ってる事が、無茶苦茶だと思わないか?良く考えてみろよ。
矛盾を責められ無いうちに我を通すのはやめておけ。」
「何が矛盾が有るのかしら?何を言いたいのよ?」
この時になって、自分の言い訳に無理が有る事に気付いたのでしょう。苛々とした感情があからさまに感じ取れました。
「俺が、男の所に行った事を知ったのは、何時だった?墓穴を掘ったな。」
私がふんぎりを付けた瞬間だったかもしれません。
「男との関係は続けたい。でも、夫婦生活も続けたい。理想だよな。俺もそんな立場なら、そう思うかもな。
だけど、俺にはそんな図太さは無いな。・・・お前、何時からそんな女になった?
俺が知らなかっただけで、初めからそうだったのか?そんな事は無かったよな?
俺達は何をやって来たのだろう?
・・・もう、良いだろう?俺を自由にしてくれ。お前だって、自由になれるんだ。
これ以上、俺を傷付けるな。黙って帰ってくれ。」
この時、流した妻の涙は、今までとは違い、別れを決意している私にも、訴え掛けて来るものが有りましたが、抱き締めたり、優しい言葉を掛けたりする気持ちにはなれませんでした。
それでも帰ろうとはしません。
大きめのバッグの中には、見慣れた妻のパジャマや、化粧道具等が入っていましたが、それらを出させる事はさせませんでした。
「貴方の気持ちはもっともね。逆の立場なら、私も当然そう言うでしょうね。
でも、これで終わりはいや。もうどうにもならないのかしら?
確かに、あれからも続いていた。あんなに貴方を傷付けたのにね。
謝って済む事では無いけれども、ヅルヅルと引きずってしまった。
・・・一つ嘘を言うと それがばれない様に、又嘘をつかなければならない。
そんな事をしているうちに、醜い女になってしまったのね。ごめんなさい・・・。
それでも今は本当にあの人とは別れたわ。
やっぱり、貴方の方が好き。愛しているわ。
だから、このまま別れるのはいや。」
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