誤解の代償
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「もう遅い。男と別れようが別れまいが、そんな事は もうどうでも良いんだ。さっきも言ったが、俺も前に進む事にしたよ。
今は、お前との生活をなるべくなら思い出したくも無いのが正直な心境だ。それでも思い出すだろう。俺も辛いんだよ。
こんな事になって、こんなにプライドを傷付けられたのも、お前達のした事だ。
言い分は聞いたが、それでも俺の責任は、小さなものだと思っている。
さあ、帰ってくれ。俺にこれ以上言わせるな!お互いに嫌な思いをするだけだ。」
私は時間が気になっていました。
今日は、何の約束もしていませんでしたが、彼女が来てくれるとすれば もうそろそろです。
「煙草を買ってくる。その間に帰ってくれ。直ぐに戻るから、鍵は掛けなくても良いから。」
私は何気なく携帯を持ち外へ出ました。急いで煙草の自販機の方へ歩きながら電話を入れると、彼女がスーパーで買い物をしてくれている所でした。
「済まない。あいつが来ているんだ。直ぐ帰すから時間を潰していてくれ。帰ったら連絡する。ごめん。」
マンションに帰ると、まだ妻がいました。
--------------------
私は妻への愛情が、急速に冷めて行っているのを、ある程度前から気付いていました。
男との浮気が発覚した時には、本能的に奪い返そうと思い、強い怒りや色々な感情に駆られ、妻への愛情を感じましたが、マンションを借りて離れていると、何か どうでも良い様な感覚を覚えました。
彼女との事が そう思わせたのかも知れませんが、元々の私の性格から来る様な気もします。
要するに、1度汚れてしまったものを、受け入れる心の大きさが無いのだと思います。
汚れた妻は、本心はどうであれ 元の鞘へ帰りたがっている以上、私のやるべき仕事は終ったのです。
だからと言って この女を、その辺を歩いている人間と同じかと言えば、やはり違いますが、そんな事を言っていても仕方が有りません。
考えてみれば単身赴任中に理由はどうであれ、勝手な事をして来なくなり、私を汚いような物でも見る様な、目付きで見ていた女と一緒に暮らす訳には行きません。
また、その事がばれると嘘で固め、終いには支離滅裂な事を言い出し、ましてや、男に教えられた通りに私に言っていた事を許せる訳も有りません。
妻は、本当の事を話すと言って来たにも関わらず、このていたらくです。
「まだ居たのか。帰るようにと言っておいた筈だけどな。」
妻は、私を睨み付ける様な目で見詰めていましたが、表情は穏やかなものでした。
「誰か来るの?彼女でしょう?私は良いのよ。会って話しをしたいわ。」
「そうか。それも良いだろう。じゃあ、お前もあいつを呼べ。携帯にまだ登録して有るだろう?」
「別れてしまったのに、そんな事出来る訳無いじゃない。変に誤解されたくも無いし。」
「出来ないのだろう?また嘘がばれるからな。」
「そんな事無いわよ。」
「良く言うよな。お前は浮気がばれた時に、あいつとは終ったと言って、随分俺に良くしてくれた。
危うく信じそうになったよ。でも、続いていたんだよな?其処までしておいて、もう別れたと言ったって、はいそうですかと思うか?
何を考えているんだか、全く分からないよ。
なあ志保、信じ合え無い夫婦が一緒に暮らして幸せなのかな?どう思う?俺はそんなのは嫌だな。」
「いずれ信じてくれる様になれると思う。だって、私その位努力するつもりよ。」
「お前が努力するのは当たり前だ。それを見ている俺は何を努力する?
何故 俺が努力しなければならない?
それは努力では無く我慢だ。」
「・・・・其処まで言うの?分かったわ。確かに私がした事は許されるとは思っていない。
どうで有れ、あの人との事に溺れてしまったのは事実だし・・・。
でも・・・、分かって欲しい。」
「何を分かれと言うんだ?」
寂しい怒りが気持ちの中に沸き上がりました。
『志保、僕はお前と一緒になれて、本当に嬉しかった。疑った事だって無かった。幸せな思い出も一杯有るんだよ。愛していた。でも、もう良いんだ。もう、駄目なんだ。もう遅いんだ。』
心の中の私は、そんな事を呟きました。
「全てを分かって欲しい。私の全て。貴方が見様としなかった部分も。」
「それは無理だ。俺にだってお前の知らない部分は有る。他人の事を全て理解するなんて所詮無理な事だ。」
「貴方とは他人じゃ無いわ!分かろうとすれば分かってくれる筈よ!」
「いや他人だ。夫婦だって他人だよ。だから分かろうと思っても分かり得無い所は有るんだよ。その方が良い事だって一杯有るんだと思う。」
「・・・貴方。」
妻は何かを言いたそうでしたが、聞いた所でどうなる訳でも無いのです。
「さあ、もう行け。これから何か用事がある時は、ちゃんと出るから携帯に連絡してからにしてくれ。これからの事も、話し合わなければならない事も有るしな。」
「そうね。今日はそうする。だから、ちゃんと電話に出てね。お願いよ。」
「ああ、分かった。それから、娘は元気か?連絡は有るのか?
俺も電話でもすれば良いんだが、何か掛けづらくてな。連絡が有ったら、宜しく言っておいてくれ。
気持ちに余裕が出来たら、会いたいな。」
立ち上がりかけた妻に、そう声を掛けました。今迄の、夫婦の思いが蘇ったのでしょうか?
「・・・貴方御免なさい。本当に御免なさい!私悪い女ね。御免なさい・・・。」
妻は、本当の事を話すと言って来たにも関わらず、このていたらくです。
「まだ居たのか。帰るようにと言っておいた筈だけどな。」
妻は、私を睨み付ける様な目で見詰めていましたが、表情は穏やかなものでした。
「誰か来るの?彼女でしょう?私は良いのよ。会って話しをしたいわ。」
「そうか。それも良いだろう。じゃあ、お前もあいつを呼べ。携帯にまだ登録して有るだろう?」
「別れてしまったのに、そんな事出来る訳無いじゃない。変に誤解されたくも無いし。」
「出来ないのだろう?また嘘がばれるからな。」
「そんな事無いわよ。」
「良く言うよな。お前は浮気がばれた時に、あいつとは終ったと言って、随分俺に良くしてくれた。
危うく信じそうになったよ。でも、続いていたんだよな?其処までしておいて、もう別れたと言ったって、はいそうですかと思うか?
何を考えているんだか、全く分からないよ。
なあ志保、信じ合え無い夫婦が一緒に暮らして幸せなのかな?どう思う?俺はそんなのは嫌だな。」
「いずれ信じてくれる様になれると思う。だって、私その位努力するつもりよ。」
「お前が努力するのは当たり前だ。それを見ている俺は何を努力する?
何故 俺が努力しなければならない?
それは努力では無く我慢だ。」
「・・・・其処まで言うの?分かったわ。確かに私がした事は許されるとは思っていない。
どうで有れ、あの人との事に溺れてしまったのは事実だし・・・。
でも・・・、分かって欲しい。」
「何を分かれと言うんだ?」
寂しい怒りが気持ちの中に沸き上がりました。
『志保、僕はお前と一緒になれて、本当に嬉しかった。疑った事だって無かった。幸せな思い出も一杯有るんだよ。愛していた。でも、もう良いんだ。もう、駄目なんだ。もう遅いんだ。』
心の中の私は、そんな事を呟きました。
「全てを分かって欲しい。私の全て。貴方が見様としなかった部分も。」
「それは無理だ。俺にだってお前の知らない部分は有る。他人の事を全て理解するなんて所詮無理な事だ。」
「貴方とは他人じゃ無いわ!分かろうとすれば分かってくれる筈よ!」
「いや他人だ。夫婦だって他人だよ。だから分かろうと思っても分かり得無い所は有るんだよ。その方が良い事だって一杯有るんだと思う。」
「・・・貴方。」
妻は何かを言いたそうでしたが、聞いた所でどうなる訳でも無いのです。
「さあ、もう行け。これから何か用事がある時は、ちゃんと出るから携帯に連絡してからにしてくれ。これからの事も、話し合わなければならない事も有るしな。」
「そうね。今日はそうする。だから、ちゃんと電話に出てね。お願いよ。」
「ああ、分かった。それから、娘は元気か?連絡は有るのか?
俺も電話でもすれば良いんだが、何か掛けづらくてな。連絡が有ったら、宜しく言っておいてくれ。
気持ちに余裕が出来たら、会いたいな。」
立ち上がりかけた妻に、そう声を掛けました。今迄の、夫婦の思いが蘇ったのでしょうか?
「・・・貴方御免なさい。本当に御免なさい!私悪い女ね。御免なさい・・・。」
涙をタップリと溜め、私に抱き付いて来た妻を、強く抱き締めていました。
何故そうさせたのか、割り切ったつもりでも、長い間の二人の絆が そんな行動に走らせたのか、今でも自分の気持ちを理解出来ません。
妻が帰った後には、身体も気持ちも力が抜けてしまい、彼女に連絡するのも億劫になってしまいました。
ぼぉーとしていると電話が鳴りました。彼女からです。
「御免、御免。連絡が遅れた。帰ったから もう来ても良いよ。」
少し経ってから部屋のチャイムが鳴りました。
「奥様、私達の事何か言っておられましたか?」
やはり気になるのか、入って来ての一言目がそれでした。
「うん。それなりに君との事は知っていた。」
「そうですか。それで次長、お認めになったのですか?」
「いや、曖昧に誤魔化して於いたけれど、知っていると思うよ。君と一緒に居る所を見た様だしね。何かまずい事でも有るのかい?」
「いいえ。そんな事は有りませんが、次長はそれで良いのですか?まだ奥様の事を思っていらしゃるのでは無いですか?それなら、はっきりと言って下さい。」
「・・・・すまない。何の感情も無いと言ったら嘘になる。でも、元に戻ろうとは思っていない。今は、君だけを見るようにしている。」
「それは、努力していると言う事ですか?」
私は、次に出す言葉に詰まりました。
彼女の不安が痛いほど伝わって来ました。
--------------------
『それは、努力していると言う事ですか?』
彼女の言葉は、私が先程、妻に
『俺が何を努力する?何故努力しなければならない?』
そう言った気持ちと同じ辛い言葉な筈です。
何て可哀想な事を言ってしまったのか、思いやりの無さを物凄く後悔しました。
「深い意味は無いんだ。それより今度、友達に紹介するよ。僕の気持ちは決まっているつもりだ。」
何とか気持ちを伝えたく、前から考えていた事を言いました。
「無理しなくても良いんですよ。
私はこう見えても結構タフなんです。
奥様との事がそんなに簡単なものだとは思っていませんから。」
少し前に妻を抱き締めた腕で、今度は、彼女を抱き締めてしまいました。
私は佐野に連絡を取り、彼女に会わせる日時を設定しましたが、当日、彼女の部下がトラブルを起こしてしまい、やや遅れて来る事になってしまいました。
「色々大変だったな。あの時、余計な事をしてしまったと後悔していたんだ。
でも、まさか志保ちゃんが、あれからもお前を裏切り続けるとは思わなかった。
悪い事をした。でもショックだったよ。」
「気にするな。俺が決めた事だ。」
二人でそんな話しをしている所へ彼女が来ました。
「遅くなって申し訳有りませんでした。」
走って来たのか、息が上がっています。
「どうだった?先方は納得してくれたか?大変だったろう?」
「いいえ、それ程でも有りませんでした。先方も納得してくれましたし。」
「流石だな。ご苦労様。ああ、こいつが大学時代からの友達で佐野だ。」
「よろしく佐野です。噂には聞いてました。これかもよろしくお願いします。」
>>次のページへ続く
何故そうさせたのか、割り切ったつもりでも、長い間の二人の絆が そんな行動に走らせたのか、今でも自分の気持ちを理解出来ません。
妻が帰った後には、身体も気持ちも力が抜けてしまい、彼女に連絡するのも億劫になってしまいました。
ぼぉーとしていると電話が鳴りました。彼女からです。
「御免、御免。連絡が遅れた。帰ったから もう来ても良いよ。」
少し経ってから部屋のチャイムが鳴りました。
「奥様、私達の事何か言っておられましたか?」
やはり気になるのか、入って来ての一言目がそれでした。
「うん。それなりに君との事は知っていた。」
「そうですか。それで次長、お認めになったのですか?」
「いや、曖昧に誤魔化して於いたけれど、知っていると思うよ。君と一緒に居る所を見た様だしね。何かまずい事でも有るのかい?」
「いいえ。そんな事は有りませんが、次長はそれで良いのですか?まだ奥様の事を思っていらしゃるのでは無いですか?それなら、はっきりと言って下さい。」
「・・・・すまない。何の感情も無いと言ったら嘘になる。でも、元に戻ろうとは思っていない。今は、君だけを見るようにしている。」
「それは、努力していると言う事ですか?」
私は、次に出す言葉に詰まりました。
彼女の不安が痛いほど伝わって来ました。
--------------------
『それは、努力していると言う事ですか?』
彼女の言葉は、私が先程、妻に
『俺が何を努力する?何故努力しなければならない?』
そう言った気持ちと同じ辛い言葉な筈です。
何て可哀想な事を言ってしまったのか、思いやりの無さを物凄く後悔しました。
「深い意味は無いんだ。それより今度、友達に紹介するよ。僕の気持ちは決まっているつもりだ。」
何とか気持ちを伝えたく、前から考えていた事を言いました。
「無理しなくても良いんですよ。
私はこう見えても結構タフなんです。
奥様との事がそんなに簡単なものだとは思っていませんから。」
少し前に妻を抱き締めた腕で、今度は、彼女を抱き締めてしまいました。
私は佐野に連絡を取り、彼女に会わせる日時を設定しましたが、当日、彼女の部下がトラブルを起こしてしまい、やや遅れて来る事になってしまいました。
「色々大変だったな。あの時、余計な事をしてしまったと後悔していたんだ。
でも、まさか志保ちゃんが、あれからもお前を裏切り続けるとは思わなかった。
悪い事をした。でもショックだったよ。」
「気にするな。俺が決めた事だ。」
二人でそんな話しをしている所へ彼女が来ました。
「遅くなって申し訳有りませんでした。」
走って来たのか、息が上がっています。
「どうだった?先方は納得してくれたか?大変だったろう?」
「いいえ、それ程でも有りませんでした。先方も納得してくれましたし。」
「流石だな。ご苦労様。ああ、こいつが大学時代からの友達で佐野だ。」
「よろしく佐野です。噂には聞いてました。これかもよろしくお願いします。」
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