戦い
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「違います。それだけは、はっきり違うと言えます。」
「気持ちが身体に負けてしまうのか?本能がそうさせるのか?」
「よく分からないのですが、何となく思うのは、あなた以外、私にとって始めての男の人だったからかなと・・・・・・。
あなたしか知らなかった私が、課長という男の人を、知ってしまったからかも知れません。」
今まで敵から命を掛けて群れを守り、食べ物を調達し、交尾の時期を迎えた時、自分より強い雄が現れて群れを追われ、その雄と今まで妻だった雌の交尾を、横目で見ながら群れを出て行く、はぐれ猿の姿が頭に浮かびました。
私には、負け犬根性のような物が、染み付いてしまった様です。
「俺しか知らなかったのが、野田に抱かれて、もっと気持ちの良い世界を知ったと言う訳か?俺より野田の方が、気持ちが良かったという訳か?」
「そんな事有りません。あなたと課長を比べた事など、1度も有りません。私の言い方が悪かったです。ごめんなさい。」
私は、妻を責める為に、質問をしたのでは有りませんでしたが、また妻を責めている事に気付き、
「悪い、悪い、そんな事を聞くつもりでは無かった。元へ戻るが、それなら野田に、情が移ってしまったと言う事か?野田の身体に愛着が有ると言う事か?」
「それとも違う様な気がします。誤魔化している訳では無くて、上手く説明出来ません。ごめんなさい。・・・・・・・ごめんなさい。」
「そうか、謝らなくてもいい。美鈴、コーヒーをもう1杯もらえないか?やはり何処の喫茶店より、お前の煎れてくれたコーヒーが1番美味い。」
妻は、やっと笑顔を見せ、コーヒーを注いでくれましたが、この時 私は、妻と別れようと思っていました。
それは妻の答えを聞いたからでは有りません。その前から考えていた事でした。
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5月30日(日)の2
2日間休んだので、早く戻って月曜からの仕事の準備をすると言って、早い昼食にしてもらい、赴任先へ戻る準備を始めると、妻も大きなバッグを出してきて、暗い表情で自分の衣類を詰め出しました。
「美鈴、何をしている?」
「あなたと一緒に・・・・・・・・・。」
「そんなに休んでも大丈夫なのか?」
「えっ、仕事を続けてもいいのですか?」
「ああ。今の仕事が好きなんだろ?」
「ありがとう。ありがとう。続けさせて下さい。」
目には、涙が溜まっているのですが、表情は少し明るくなりました。
「でも、流石に明日1日ぐらいは休みたいのですが、電話をしてみないと分かりません。」
「そうだな。1日ゆっくりしろ。野田が お前を探してくれている時、会社関係らしい人に、親戚で不幸が出来たと嘘を言ってくれていたから、そう言えば休み易いだろ?」
「そうします。ありがとう。」
そして玄関を出る時に。
「来週は、また俺が帰ってくるから、来なくてもいいぞ。それと、野田と2人で会ってもいいぞ。話も有るだろ?」
「いいえ、もう課長とは・・・・・・・・・。」
「自棄に成って言っているのでは無い。
もう野田は日本にいなくなる。このままモヤモヤした気持ちを持っていられるよりは、俺もその方がいい。
そうは言っても、美鈴からは誘えないだろうから、野田が誘って来たらの話だがな。」
「・・・・・・・・・・・・・でも・・・・・・・。」
「美鈴から誘って、勘違いされても嫌だから、野田から誘われたらの話だ。
その時は会ってスッキリとして来い。本当に俺は構わないから。」
「ありがとう。あなた、ありがとう。」
私は、その足で、野田のアパートに向かうと、野田は すぐにドアを開けて、中に入れてくれました。
「課長、昨日は連絡が遅れて悪かったな。」
「課長?」
「ああ。まだ怨みは消えないから、野田さんとは呼び難い。美鈴がそう呼んでいるから、俺もそうした。」
野田は何回も頷いてから。
「私を訴えないのか?」
「いいや、微妙だからな。第一、美鈴が被害届けを出すかどうかも分からん。それより課長も、警察に行かなかったのか?」
「こちらも微妙だったから・・・。私の方の非が大きいし・・・・・・。それなら慰謝料は前の口座でいいのか?」
「どうでもいい。・・・・・・・・・・そうだな。けじめだから貰っておくか。金額は任せる。そこから治療費を引いておいてくれ。」
私は、本題に入りました。
「今日お邪魔したのは、課長と会えなくなる前に、聞きたい事が有って来た。俺にとって敵の、課長に聞くのも変な話しだが、課長なら、俺の気持ちを分かってくれると思った。」
「あなたと一緒に・・・・・・・・・。」
「そんなに休んでも大丈夫なのか?」
「えっ、仕事を続けてもいいのですか?」
「ああ。今の仕事が好きなんだろ?」
「ありがとう。ありがとう。続けさせて下さい。」
目には、涙が溜まっているのですが、表情は少し明るくなりました。
「でも、流石に明日1日ぐらいは休みたいのですが、電話をしてみないと分かりません。」
「そうだな。1日ゆっくりしろ。野田が お前を探してくれている時、会社関係らしい人に、親戚で不幸が出来たと嘘を言ってくれていたから、そう言えば休み易いだろ?」
「そうします。ありがとう。」
そして玄関を出る時に。
「来週は、また俺が帰ってくるから、来なくてもいいぞ。それと、野田と2人で会ってもいいぞ。話も有るだろ?」
「いいえ、もう課長とは・・・・・・・・・。」
「自棄に成って言っているのでは無い。
もう野田は日本にいなくなる。このままモヤモヤした気持ちを持っていられるよりは、俺もその方がいい。
そうは言っても、美鈴からは誘えないだろうから、野田が誘って来たらの話だがな。」
「・・・・・・・・・・・・・でも・・・・・・・。」
「美鈴から誘って、勘違いされても嫌だから、野田から誘われたらの話だ。
その時は会ってスッキリとして来い。本当に俺は構わないから。」
「ありがとう。あなた、ありがとう。」
私は、その足で、野田のアパートに向かうと、野田は すぐにドアを開けて、中に入れてくれました。
「課長、昨日は連絡が遅れて悪かったな。」
「課長?」
「ああ。まだ怨みは消えないから、野田さんとは呼び難い。美鈴がそう呼んでいるから、俺もそうした。」
野田は何回も頷いてから。
「私を訴えないのか?」
「いいや、微妙だからな。第一、美鈴が被害届けを出すかどうかも分からん。それより課長も、警察に行かなかったのか?」
「こちらも微妙だったから・・・。私の方の非が大きいし・・・・・・。それなら慰謝料は前の口座でいいのか?」
「どうでもいい。・・・・・・・・・・そうだな。けじめだから貰っておくか。金額は任せる。そこから治療費を引いておいてくれ。」
私は、本題に入りました。
「今日お邪魔したのは、課長と会えなくなる前に、聞きたい事が有って来た。俺にとって敵の、課長に聞くのも変な話しだが、課長なら、俺の気持ちを分かってくれると思った。」
“俺と同じ様に、妻に不倫された。” と言う言葉は飲み込みました。
「知りたい事の想像はつく。知りたい気持ちも分かる。しかし聞けば、普通ではいられないのと違うのか?」
「もう大丈夫だ。また怒り出して、暴力を振るう事は絶対に無い。何にでも誓う。」
「・・・・・・そうか。あの時は本当に殺されると思った。」
“今更聞いて何になる。” という気持ちも有りましたが、知っておきたい欲望に勝てませんでした。
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5月30日(日)の3
野田は、黙って席を立つと、コーヒーを煎れて来てくれたのですが、妻の煎れてくれたコーヒーを飲んだ後の私には、正直あまり美味しく有りません。
「何から話せばいい?何でも聞いてくれ。」
「ああ。知ったところで、どうにも成らない事は分かっているのに、どうして知りたいのだろうな?
正直に言うと、もう関係を持たれるのは何より嫌な筈なのに、課長と美鈴の行為をこの目で見てみたかった。
しかし、私がいては、本当の姿は見られないと思い、思い直した。
男らしく過去の事として忘れれば楽になるのに、それが俺には出来ない。女々しいと思うだろ?」
「ああ、確かに女々しい。しかし 私もそうだった。
2人の会話は勿論の事、その時の反応、ちょっとした指の動きまで、全て知りたかった。
別れた今でも知りたい気持ちは有る。
気になると言う事は、美鈴さんを愛している証拠では無いのか?」
野田の“今でも知りたい”と言う言葉の中に、別れた奥さんへの、未だに断ち切れない思いを感じました。
「最初、美鈴とそうなった切欠から話してくれるか?」
そう言うと野田は、ぽつりぽつりと話し出し、
「私は、妻の浮気を知り、目の前が真っ暗になった。晴天の霹靂とは正にこの事だった。
妻を責め、相手を罵り、いくら2人が謝っても心は晴れない。
誰かに聞いて欲しいと思っても誰にも話せず、おかしく成ってしまいそうだった時、目の前にいたのが美鈴さんだった。
以前から、可愛くて真面目で素敵な人だと思っていて、気になる存在では有ったが、それ以上の感情は無かった。
しかし、妻との事から一時でも逃げ出したい私は、いつしか美鈴さんを目で追い、色々空想する様になっていた。
そう思って見ていると、美鈴さんの仕草は可愛く、次第に“もしも美鈴さんが私の妻だったら”とまで思い描く様になってしまい、
1度でいいから2人だけでお茶でも飲みたいと思っても、気の小さな私は、どの様に声を掛ければ良いのかも、分からなかった。」
「気が小さい?」
「こんな大それた事をしておいてと思うだろうが、私は、気が小さくて臆病な人間だ。
会社で威張っていたのも、その事を知られたく無いからなんだ。
小さなミスでも、舐められない様に厳しく叱った。しかし、怨まれるのは怖いから、仕事以外では優しく接した。
それがいつの間にか、普段は優しいが仕事には厳しいと、部下から慕われる様に成っていた。」
「美鈴も、女子社員から人気が有ると言っていた。」
「妻の方が、積極的に不倫していたと知り、誰かに私の胸の内を、知ってもらいたいと思った時、もう美鈴さんしか考えられなかった。
優しい美鈴さんなら癒してもらえると思ったし、ただお茶に誘うのと違い、相談なら誘い易かった。
何回か話を聞いてもらい、今まで妻にも見せた事の無い、弱い私を見られてしまい“しまった”と思ったが、美鈴さんの反応は、逆で、より 私に優しく接してくれる様に成った。
>>次のページへ続く
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