戦い
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「起こしてしまって、ごめんなさい。」
「もうこんな時間か。随分と長くレストランにいたのだな?店の人に嫌な顔をされなかったか?」
「遅くまで、ごめんなさい。レストランでは落ち着いて話が出来なかったので、その後 喫茶店に行ったのですが、そこも人が多く、すぐ隣にも人がいて話せませんでした。
課長は呑むつもりで車は置いて来ていたので、私の車の中で話をしていました。
でも本当に話だけで、課長を送って行った時も、アパートの中には入りませんでした。本当です。」
私は
“ホテルにでも行って、抱き合いながら話していたのでは無いのか?仮に車にいたのが本当でも、車の中で何もしなかったのか?”
と言いたいのを我慢して、
「そうか。それで、気持ちの整理は出来たか?」
「はい。今迄ごめんなさい。
これで私も、身も心も あなただけを見ていく事が出来ます。本当にありがとう。
こんな事をしてしまい、汚れた身体は元に戻らないし、あなたを裏切り続けた事は消せませんが、私の気持ちは、昔の私に戻れると思いました。
あなたが許してくれれば、これから一生懸命に償い、あなただけを見て生きて行きたいと思いました。」
この言葉は以前にも聞いた事が有り、素直に喜べない私がいます。
もし本当に踏ん切りを付ける事が出来たとしても、今夜2人の間に どんな会話が有って、そう思える様になったのか気掛かりでした。
もしかしたら、これで最後だと思い、激しく抱かれた後なので、今はスッキリとしているだけかも知れません。
「良かったな。それじゃあ。」
「えっ、それだけですか?」
「ああ。それとも他に、俺に話さなければ成らない様な事が有るのか?」
「・・・・・・・いいえ。今日はありがとう。」
聞きたい事が山ほど有るのに、素っ気無く電話を切ってしまいました。
野田と会った事や、帰りが遅すぎる事への怒りが そうさせたと思いましたが、2人の間に何が有ったのか、聞くのが怖かったのかも知れません。
2人に また関係を持たれる事が そんなに怖いのなら、最初から、2人を会わさなければ良かったのです。
自分の馬鹿さ加減に呆れてしまいます。
--------------------
6月5日(土)の1
妻が野田の誘いに乗り、会ってしまった事が分かり、後は身体の関係を持ったかどうかですが、気の小さい私は、悪い方へしか考えられなくなっていました。
火曜日から昨日まで、妻は毎日必ず電話をくれましたが
“今迄会っていたのではないだろうか?”とか“電話をしておいて、今から会うのでは?”とか思い、
週末が近付くに連れ、“野田が毎日家に来ていて、野田の隣で、裸で電話をしているかも?”とさえ思う様になっていて、自分で仕組んでおきながら、妻を信用出来なくなっていきました。
待ちきれない私は、朝早くに赴任先を出て、昼前には我が家に着きましたが、妻の顔を見ると何故か聞けません。
また、何か疚しい事が有れば、聞いても本当の事は言えないでしょう。
最近は、あまり肉を食べなくなっていたので、買い置きは無いと思い。
「焼肉が食べたくなった。外に出るのは億劫だから、家で焼こう。悪いが買ってきてくれないか?少しでいいぞ。」
「昼から焼肉なんて、珍しいですね。」
そう言いながらも、仕掛けていた昼食の準備を止めて、エプロンを外すと車で出て行きました。
妻がいなくなると、寝室、お風呂、居間からキッチンまで、何か痕跡が無いか探しましたが、何も変わった事は有りません。
もう一度 寝室に戻り、妻の下着が入っている引き出しを開けて隅々まで探し、パンティーを手に取った時、背後に人の気配を感じて振り向くと、スーパーの袋を手に持った妻が、目に涙を溜めて立っていました。
--------------------
6月5日(土)の2
私は何か痕跡が無いか探すのに一生懸命で、妻が帰って来た事に気付かず、不意を突かれた格好になってしまい、凄く悪い事をしている気持ちになり、妻に掛ける言葉が見つかりません。
妻は、涙を一筋流すと、何も言わずにキッチンへ行ったので、私はベッドに座り、まだ手に握られていた白いパンティーをぼんやりと眺めながら、妻を問い詰めることよりも、何故か、今私がしていた事の言い訳を考えていました。
暫らくすると妻が寝室の入り口まで来て、
「あなた、遅くなってごめんなさい。仕度が出来ましたから、召し上がって下さい。」
キッチンへ行くとホットプレートの上に、少しの野菜と肉が乗っていて、ご飯やお箸、タレの入ったお皿は1人分しか有りません。
妻は食べないのか聞こうとした時、妻は寝室へ行ってしまいました。
本当に焼肉が食べたかった訳では無く、キャベツを1切れ摘み、気になって寝室の前まで行くと、妻のすすり泣きが聞こえます。
自分を信じてもらえなかった事が悲しいのか、私のそんな姿が哀れに思えたのか、又は他に理由が有るのか分からず、キッチンへ戻って考えていると、その時 電話が鳴り、それは野田からでした。
「ご主人が帰って来ていると思い、電話させてもらいました。
今夜7時頃にお邪魔させてもらえないでしょうか?
話しておきたい事が有ります。お願いします。」
「ああ。俺は構わない。」
「ありがとう。では7時に。」
電話を切ってから嫌な予感がし、悪い方へしか考えが行かず、
「美鈴さんを私に譲って下さい。」
「あなた、お願いですから、私と離婚して下さい。」
2人が私の前に正座して、そう言いながら頭を下げている光景が浮かびます。
「ああ。それとも他に、俺に話さなければ成らない様な事が有るのか?」
「・・・・・・・いいえ。今日はありがとう。」
聞きたい事が山ほど有るのに、素っ気無く電話を切ってしまいました。
野田と会った事や、帰りが遅すぎる事への怒りが そうさせたと思いましたが、2人の間に何が有ったのか、聞くのが怖かったのかも知れません。
2人に また関係を持たれる事が そんなに怖いのなら、最初から、2人を会わさなければ良かったのです。
自分の馬鹿さ加減に呆れてしまいます。
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6月5日(土)の1
妻が野田の誘いに乗り、会ってしまった事が分かり、後は身体の関係を持ったかどうかですが、気の小さい私は、悪い方へしか考えられなくなっていました。
火曜日から昨日まで、妻は毎日必ず電話をくれましたが
“今迄会っていたのではないだろうか?”とか“電話をしておいて、今から会うのでは?”とか思い、
週末が近付くに連れ、“野田が毎日家に来ていて、野田の隣で、裸で電話をしているかも?”とさえ思う様になっていて、自分で仕組んでおきながら、妻を信用出来なくなっていきました。
待ちきれない私は、朝早くに赴任先を出て、昼前には我が家に着きましたが、妻の顔を見ると何故か聞けません。
また、何か疚しい事が有れば、聞いても本当の事は言えないでしょう。
最近は、あまり肉を食べなくなっていたので、買い置きは無いと思い。
「焼肉が食べたくなった。外に出るのは億劫だから、家で焼こう。悪いが買ってきてくれないか?少しでいいぞ。」
「昼から焼肉なんて、珍しいですね。」
そう言いながらも、仕掛けていた昼食の準備を止めて、エプロンを外すと車で出て行きました。
妻がいなくなると、寝室、お風呂、居間からキッチンまで、何か痕跡が無いか探しましたが、何も変わった事は有りません。
もう一度 寝室に戻り、妻の下着が入っている引き出しを開けて隅々まで探し、パンティーを手に取った時、背後に人の気配を感じて振り向くと、スーパーの袋を手に持った妻が、目に涙を溜めて立っていました。
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6月5日(土)の2
私は何か痕跡が無いか探すのに一生懸命で、妻が帰って来た事に気付かず、不意を突かれた格好になってしまい、凄く悪い事をしている気持ちになり、妻に掛ける言葉が見つかりません。
妻は、涙を一筋流すと、何も言わずにキッチンへ行ったので、私はベッドに座り、まだ手に握られていた白いパンティーをぼんやりと眺めながら、妻を問い詰めることよりも、何故か、今私がしていた事の言い訳を考えていました。
暫らくすると妻が寝室の入り口まで来て、
「あなた、遅くなってごめんなさい。仕度が出来ましたから、召し上がって下さい。」
キッチンへ行くとホットプレートの上に、少しの野菜と肉が乗っていて、ご飯やお箸、タレの入ったお皿は1人分しか有りません。
妻は食べないのか聞こうとした時、妻は寝室へ行ってしまいました。
本当に焼肉が食べたかった訳では無く、キャベツを1切れ摘み、気になって寝室の前まで行くと、妻のすすり泣きが聞こえます。
自分を信じてもらえなかった事が悲しいのか、私のそんな姿が哀れに思えたのか、又は他に理由が有るのか分からず、キッチンへ戻って考えていると、その時 電話が鳴り、それは野田からでした。
「ご主人が帰って来ていると思い、電話させてもらいました。
今夜7時頃にお邪魔させてもらえないでしょうか?
話しておきたい事が有ります。お願いします。」
「ああ。俺は構わない。」
「ありがとう。では7時に。」
電話を切ってから嫌な予感がし、悪い方へしか考えが行かず、
「美鈴さんを私に譲って下さい。」
「あなた、お願いですから、私と離婚して下さい。」
2人が私の前に正座して、そう言いながら頭を下げている光景が浮かびます。
勝手に その様な事を想像して、怒りよりも無性に寂しくなり、泣けて来そうになります。
今から問い詰めなければ成らない事が沢山有るのに、可也弱気になっていましたが、そんな素振りは妻には見せず。
「おい、今夜 野田が来るそうだ。何を言いに来るんだ?」
妻は何回も首を横に振っています。
「野田が来る前に、何か俺に言っておく事は無いのか?」
やはり妻は何回も首を横に振りました。
無言で首を振る妻を見ていると、婚約したての時を思い出します。
2人で家具を見に行こうと待ち合わせをした時、待ち合わせ場所に行くと、妻は見知らぬ男と2人でいました。
少し離れた所に車を止めて暫らく様子を見ていると、妻は、私に気付かずに凄く楽しそうにしていたので、嫉妬深い私は腹が立ち、男が去ると すぐに妻を乗せ、矢継ぎ早に質問の嵐です。
その男と妻が、疚しい関係で無い事は分かっていても、疑っている様な言葉が口を突き、その時の妻は今と同じで、無言で何回も首を横に振っていました。
結局、学生時代の同級生に偶然会い、もうすぐ結婚する事を楽しそうに話していたと分かったのですが、私は それからも時々嫌味を言い、悲しそうな顔をする妻に申し訳ないと思いながらも、妻に対して貸しを作った様な、下らない優越感を感じた事を思い出しました。
今思えば その頃から、自分に自信の無い、小さな男だったのです。
妻を疑っていても無性に愛しくなり、力一杯抱き締めたく成りましたが、素直にそれが出来ません。
妻を抱き締めて、一緒に泣きたく成りましたが、それが出来ません。
妻をまだ愛していると再確認しましたが、これは、まだ昔の妻を追いかけていて、昔の妻を愛しているだけなのでしょうか?
惚れたが負けで、今の自分の気持ちをぶつければいいのに、それが出来ないのです。
これも私のちっぽけなプライドなのでしょうか?
--------------------
6月5日(土)の3
妻の泣いている訳が知りたくて、少し落ち着くのを待ってから、
「どうして泣いている?疑われた事が悲しかったのか?」
「・・・・・いいえ・・・・・嬉しくて・・・・・。」
「嬉しかった?」
私に考えられるのは、泥棒の様に こそこそと探し回っている私を見て、私を軽蔑し、どうしようかまだ迷っていた気持ちに、踏ん切りをつける事が出来て嬉しかったという事ぐらいです。
妻が私を馬鹿にしているのかと思うと、妻に手を上げそうになりましたが、ぐっと我慢してキッチンへ戻り、冷蔵庫からビールを出して呑み始めると、妻が来て、私がつまみの中で1番好きな、チンゲン菜と油揚げのゴマ油炒めを作り、ビールの横に置いてくれました。
ゴマ油の香ばしい良い香りに、ついお箸を持ちそうになりましたが、子供の様なつまらない意地を張り、ただビールだけを次から次と胃に流し込んでいると、ペースが速かったのか、2本空になった時、眠くなってしまい、ソフアーまで行って眠ってしまいました。
「あなた、起きて下さい。車が止まりました。多分課長だと思います。あなた、お願いですから起きて下さい。」
「野田が来た?」
何時間寝たのか、酔いは殆ど醒めていましたが、すぐには状況が掴めず、ぼんやりと座っているとインターホンが鳴り、妻は寝室の方へ引っ込んでしまったので、仕方なく出ると野田の声が聞こえました。
野田を待たせて水を一杯飲むと、ようやく頭がはっきりとしてきたので玄関へ行き、野田を迎え入れ、
「ここでは何だから、上がってくれ。」
「いや、電話でもいいかと迷ったが、やはり会って一言お礼を言いたいと思い、来てしまった。すぐに失礼するから ここで充分です。」
「お礼?今 美鈴を呼ぶ。おーい、美鈴。」
「呼ばないでくれ。美鈴さんはいい。ご主人にお礼が言いたかっただけだ。
・・・・・・最後にチャンスをくれてありがとう。
会って、一緒に行ってくれないか頼むつもりだった。断られるのは分かっていたが、それはそれでいいと思っていた。
気持ちに区切りがつくと思っていた。
>>次のページへ続く
今から問い詰めなければ成らない事が沢山有るのに、可也弱気になっていましたが、そんな素振りは妻には見せず。
「おい、今夜 野田が来るそうだ。何を言いに来るんだ?」
妻は何回も首を横に振っています。
「野田が来る前に、何か俺に言っておく事は無いのか?」
やはり妻は何回も首を横に振りました。
無言で首を振る妻を見ていると、婚約したての時を思い出します。
2人で家具を見に行こうと待ち合わせをした時、待ち合わせ場所に行くと、妻は見知らぬ男と2人でいました。
少し離れた所に車を止めて暫らく様子を見ていると、妻は、私に気付かずに凄く楽しそうにしていたので、嫉妬深い私は腹が立ち、男が去ると すぐに妻を乗せ、矢継ぎ早に質問の嵐です。
その男と妻が、疚しい関係で無い事は分かっていても、疑っている様な言葉が口を突き、その時の妻は今と同じで、無言で何回も首を横に振っていました。
結局、学生時代の同級生に偶然会い、もうすぐ結婚する事を楽しそうに話していたと分かったのですが、私は それからも時々嫌味を言い、悲しそうな顔をする妻に申し訳ないと思いながらも、妻に対して貸しを作った様な、下らない優越感を感じた事を思い出しました。
今思えば その頃から、自分に自信の無い、小さな男だったのです。
妻を疑っていても無性に愛しくなり、力一杯抱き締めたく成りましたが、素直にそれが出来ません。
妻を抱き締めて、一緒に泣きたく成りましたが、それが出来ません。
妻をまだ愛していると再確認しましたが、これは、まだ昔の妻を追いかけていて、昔の妻を愛しているだけなのでしょうか?
惚れたが負けで、今の自分の気持ちをぶつければいいのに、それが出来ないのです。
これも私のちっぽけなプライドなのでしょうか?
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6月5日(土)の3
妻の泣いている訳が知りたくて、少し落ち着くのを待ってから、
「どうして泣いている?疑われた事が悲しかったのか?」
「・・・・・いいえ・・・・・嬉しくて・・・・・。」
「嬉しかった?」
私に考えられるのは、泥棒の様に こそこそと探し回っている私を見て、私を軽蔑し、どうしようかまだ迷っていた気持ちに、踏ん切りをつける事が出来て嬉しかったという事ぐらいです。
妻が私を馬鹿にしているのかと思うと、妻に手を上げそうになりましたが、ぐっと我慢してキッチンへ戻り、冷蔵庫からビールを出して呑み始めると、妻が来て、私がつまみの中で1番好きな、チンゲン菜と油揚げのゴマ油炒めを作り、ビールの横に置いてくれました。
ゴマ油の香ばしい良い香りに、ついお箸を持ちそうになりましたが、子供の様なつまらない意地を張り、ただビールだけを次から次と胃に流し込んでいると、ペースが速かったのか、2本空になった時、眠くなってしまい、ソフアーまで行って眠ってしまいました。
「あなた、起きて下さい。車が止まりました。多分課長だと思います。あなた、お願いですから起きて下さい。」
「野田が来た?」
何時間寝たのか、酔いは殆ど醒めていましたが、すぐには状況が掴めず、ぼんやりと座っているとインターホンが鳴り、妻は寝室の方へ引っ込んでしまったので、仕方なく出ると野田の声が聞こえました。
野田を待たせて水を一杯飲むと、ようやく頭がはっきりとしてきたので玄関へ行き、野田を迎え入れ、
「ここでは何だから、上がってくれ。」
「いや、電話でもいいかと迷ったが、やはり会って一言お礼を言いたいと思い、来てしまった。すぐに失礼するから ここで充分です。」
「お礼?今 美鈴を呼ぶ。おーい、美鈴。」
「呼ばないでくれ。美鈴さんはいい。ご主人にお礼が言いたかっただけだ。
・・・・・・最後にチャンスをくれてありがとう。
会って、一緒に行ってくれないか頼むつもりだった。断られるのは分かっていたが、それはそれでいいと思っていた。
気持ちに区切りがつくと思っていた。
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