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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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40 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 04:32:00.30 ID:1+Q4FLW+.net
それを目にした瞬間、心の均衡がぐわっと崩れた。

自殺ハイが一気に消え、別の衝動が胸を襲った。

なぜ死ぬの、なぜ俺は死ぬのか、聞いてくれる人がいる。

知って欲しい、知ってくれ、俺がなぜこんなにまで追い詰められているのか知ってくれ

自殺なんていつでもできる、いまは ただこの人に知って欲しい

俺の指はキーボードに伸びていた。

この顔も名前も知らない誰かが、悪魔だということも知らずに。



42 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 04:34:57.37 ID:1+Q4FLW+.net
「いじめ」

どんだけ急いてたのか、俺はそれだけ書いてエンターキーを押しちまった。

「いじめにあったから」

慌てて書き直して、もう一度エンターキーを叩いた。

口から心臓が飛び出るんじゃないかと思うくらいどきどきしてた。



43 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 04:43:49.42 ID:1+Q4FLW+.net
「へえ」

文字にしなくてもいいような言葉を、その人は表示させた。

俺は反射的にびくっとした。

これがいじめられっ子の性と言われれば そうかもしれないが、俺は相手が退屈そうだったり不満げだったりすると すぐにへりくだってしまう。

「いじめられて、不登校になって」

俺は頼まれてもない事情を打ち込んだ。とはいっても、こんなチャットじみたことなどしたことがないため入力速度は無茶苦茶遅い。

その上、文章をまとめるのもへたくそだ。

書いては消してを繰り返しているうちに、相手の文が表示された。



44 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 04:49:41.74 ID:1+Q4FLW+.net
〈COKT93245さんが個人メッセージを求めています〉

それは誰でも見られるオープンチャットじゃなくて、プライベートなチャットへの誘いらしかった。

俺はおっかなびっくり、リンクになってるそのメッセージを押した。

〈KBES20341さんが入室しました〉

そんなメッセージが画面に現れた。

このKBなんとかってやつが自分を表してるってことに、俺は今さら気づいた。



45 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 05:04:47.37 ID:1+Q4FLW+.net
「何で自殺したいの。教えて」

プライベートチャットに入ると、そんなメッセージが表示されていた。

メッセージの前にはアイコンがついていて、それはアンドロイドっぽい女の子の画像だった。

本当はアンドロイドじゃないのかもしれないけど、何て言うか無表情キャラ的な、綾波レイ的なって言えばいいかな。そんな感じの。

相手がそれを意識してるのかどうなのかは知らないし、ましてや相手の性別や年齢なんてわからなかったが、そのアイコンのせいで、台詞は抑揚のない例の感じで、俺の中で再生された。



46 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 05:13:50.27 ID:1+Q4FLW+.net
「打つのが、遅いですけど……」

小心者の性で俺はそう断った。

「時間はあるから」

相手は気にしてないふうだった。

そして、口調はやっぱり綾波レイっぽかった。

……というか、当時は綾波を知らなかったから、いま思い返してみると、なんだが。

(ちなみに、その後名乗られた名前はあるが、仮の名前として、これからこのチャット相手をレイと呼ぼうと思う)



48 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 05:23:07.70 ID:1+Q4FLW+.net
壊れた壁と、そこから垂れ下がった首つりのヒモをそっちのけに、俺はレイを相手に、夢中になって語った。

いじめが どんなにひどいものだったか。

それを見て見ぬふりする教師がどんなにクソなやつか。

遠巻きにするクラスのやつらも同罪だ、なんてぶちかましたりもした。


レイはそこにいることを示すように、時々「へえ」とか「そう」とか言うだけだった。

けど、俺はそれで十分だった。

この数時間だけでタイピングが目に見えて早くなるほど、俺はしゃべり続けた。



50 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 05:31:08.44 ID:1+Q4FLW+.net
気づけば、タイピングのしすぎで手がだるくなっていて、眠気にも襲われてた。

けど、話すことが同じことばかりになってきても、俺は話し続けた。

初めて俺の話を聞いてくれるレイから離れちゃいけないと思った。


「もういっぺん聞くね」

それでも俺が沈黙しがちになった頃だった。レイがそう言った。

「何で自殺するの?」

こいつは人の話を聞いてなかったのか?俺は少しむっとした。

けど、すぐにレイは言葉を継いだ。

「どうして、いじめられたあなたが死んで、いじめたあいつらが生き続けるの?」



52 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 05:38:05.38 ID:1+Q4FLW+.net
「え?」

「死は罰よ。そうでしょ、死刑は法律で一番重い刑罰なんだから」

「何だってそうでしょ。死ぬべきは悪いほうだって決まってる。なのに、どうしてあなたが死ぬの?あなたは悪いの?」

「いや、俺は悪くはないけど……」

「悪くないなら、どうして死ななくちゃならないの?」

「ほかに死ぬべき悪い人がいるっていうのに」



51 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 05:37:28.47 ID:iZ1vhbeg.net
めちゃくちゃ読みやすいね

臨場感たっぷり

身辺整理中なので体験談は、とても助かります

ありがとう


53 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 05:49:01.10 ID:1+Q4FLW+.net
>>51
身辺整理はとりあえず思いとどまって下さい。そんな思いで書いてます。



他に死ぬべき悪って誰だ、こいつは何を言ってるんだ。疑問が頭を駆け巡ったが、答えは分かり切っていた。

「ねえ、これはゲームみたいなものだと思わない?あなたの命は一つ、相手の命も一つ。そのどちらかが失われなきゃならないなら、どっちが残るべきだと思う?」

感情の読み取れない、無機質な文字が俺の前に並んだ。

やっぱりだ。レイは、俺にあいつらを殺せと そそのかしている……?



54 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 06:00:16.45 ID:1+Q4FLW+.net
「そんなこと、わからないよ」

「俺はただ自殺するって決めて……」

「それに、そんなの犯罪だろ」

俺は話を戻そうとした。このままチャットを閉じるなんてことは、自殺を決行するよりも難しく感じられた。

レイはただそこにいて、俺の話を聞いてくれればいい。自殺したい俺の話を。

「犯罪?」

けど、レイは たじろぐことなく言った。

「私は犯罪の話なんか、してない」



55 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 06:13:54.11 ID:1+Q4FLW+.net
ログに証拠を残さないための発言だろうか。回らない頭でそう思ったが、どうやらそれは違ったようだった。

それどころか、レイの思考は ぶっ飛んでいた。

「犯罪というのは、法律に触れる行為のこと」

「けど、法律というものは国が大人数を統制するためのものであって、個人の〈正しさ〉とは乖離がある」

「それなら、あなたの自殺は正しい? それとも彼らの死が正しい?」

正しさ。

それは俺の思考にはなかった言葉だった。



59 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/04(金) 11:29:10.74 ID:1+Q4FLW+.net
いじめっ子と、いじめられっ子。

そのどちらが正しく、どちらが正しくないのか。

死が正しくない者に与えられる処罰ならば、それを受けるべきはどちらなのか。

そんなの、決まってる。

「俺じゃない、あいつらだ」



>>次のページへ続く
 
カテゴリー:人生・生活  |  タグ:すっきりした話, 修羅場・人間関係, ためになる話, これはすごい, ためになる話, ちょっといい話,
 


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