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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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92 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 11:36:47.93 ID:MmTYItc1.net
「全然、どうでもよくないよ」

「そう」「わかった」

すると、意外とあっさりレイは答えた。

「じゃ、言い方を変えるわ」



93 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 11:49:11.41 ID:MmTYItc1.net
「確かに、他人はいろんなことを考えてる」「あなたを傷つけるようなことや、決して口にできないようなことまで」「他人はあなたを攻撃する」「たとえ、顔に笑みを浮かべていたって、心じゃ何を考えてるかわからない」


その通りだ。俺の気持ちを完璧に表現して見せたレイに、俺は驚いた。


「そうだろ? そうなんだよ! みんな思ってても言わないだけで、俺をいじめる奴らと変わんないんだよ!」「学校の奴らだけじゃない。ここの近所の人たちだって、引きこもりになった俺をクソだって思ってるんだ」「俺は好きで引きこもってるわけじゃないのに!」



94 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 11:55:17.09 ID:MmTYItc1.net
「あなたは、他人の気持ちに敏感なのね」

レイは言った。

俺は少し嬉しくなった。褒められた、そう思ったのだ。

けど、それは勘違いみたいだった。なぜなら、レイは続けて こう言ったのだ。

「でも、世界中の人があなたに関心を抱いてるとでも思ってるの?」



95 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 11:58:42.22 ID:MmTYItc1.net
「世界中の人って、そんなこと俺は・・・・・・」

「言ってない?」「なら、〈あなたに会う人すべて〉とでも言い方を変える?」

「そういうことじゃ・・・・・・」

「あなた、誰かと偶然目が合ったとしても、その人が自分のこと考えてると思ってない?」「教えてあげるわね。それって、自意識過剰って言うのよ」



97 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 12:04:13.82 ID:MmTYItc1.net
「そこまで言わなくても・・・・・・」

俺は うなだれた。けど、それくらいでレイは攻撃の手を緩めなかった。

「私は、あなたの感じていることが嘘だなんて言ってない」「すべてが被害妄想だとも言ってない」「けど、その誰かが あなたのことを考えてる時間なんて、ほんの一瞬」「アリを一匹潰すくらいの時間だけ」



98 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 12:11:57.68 ID:MmTYItc1.net
「あなたは自分の創り上げた世界の中で生きている」「逆を言えば、現実を生きていない」「だから、他人の一瞬の攻撃を、永遠の拒絶に感じる」「想像の中で永遠に苦しみ続ける」


「・・・・・・それは俺が引きこもってるってこと?」


自分の創り上げた世界。

この誰の干渉もない、安全な部屋の中。

レイは そこから出ろと言ってるのだろうか。



99 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 12:22:54.17 ID:MmTYItc1.net
「そこから出ても出なくても同じ」

しかし、レイはそっけなかった。

「あなたは自分の世界に引きこもってる」「頭の中の世界」「そこであなたを攻撃している他人は、現実には存在しない」「その他人は あなたが創り出した幽霊にすぎない」


一気に言うと、レイは少し黙った。

それから、ぽつり、と言った。

「本物を、現実だけを、見てみて」



100 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 12:31:55.89 ID:MmTYItc1.net
〈現実を見ろ〉

夢見がちな人間にこそ言われる言葉を、俺は反芻した。

俺は夢なんか見ていない。第一、夢ってのは、もっと楽しくて明るい未来のことだ。

こんな苦しくて暗い夢なんか、見ろと言われてもお断りだ。

こんな、辛い夢なんか・・・・・・


そう思ってから、俺はふと部屋を見渡した。

現実。本物。俺の頭の中以外の、確かなもの。

窓にかかった、古くさい柄のカーテン。

床に散らばった漫画本。

ほこりの積もった教科書に、ゴミために埋もれた学生鞄。

まっすぐに垂れ下がった首つりヒモ。



101 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 12:39:13.20 ID:MmTYItc1.net
しんと静まりかえった夜からは、俺を罵倒する声も聞こえないし、いじめっ子たちが家の前で騒いでるわけでもない。

もっと言えば、俺が不登校になったその瞬間から、あいつらとの縁は切れている。

クソ教師は家に電話もして来やしないし、クラスメイトが訪ねてくるわけでもない。

この部屋に俺は一人きりで、それを邪魔する人間は誰もいない。


あれ、どうして俺はそこまで追い詰められてたんだ?

一瞬、俺は心底不思議にそう思った。

どうして壁に穴を開けてまで、ヒモをつるしたのかさえ、わからなくなった。



102 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 12:43:21.56 ID:MmTYItc1.net
けど、それは〈現実〉から目をそらせば、すぐに思い出せることだった。


だって、俺はいじめられている。

不登校をしている。引きこもっている。

不当な扱いを受けている。

だから、自殺を考えて当然だ。俺は自殺して、あいつらに復讐したいんだ。


自分だけに焦点を当てれば、それは当たり前の成り行きだった。



103 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 12:54:21.78 ID:MmTYItc1.net
それは気づいてみれば、簡単なことだった。

自己憐憫から抜け出して、自分以外に目を向ける。

そうすると、いまの状況は そんなに悪いものでもないようにも思える。

だって、親がどう思ってるにしろ、俺は結果的には引きこもることが許され、嫌な環境から逃げていられるんだから。


・・・・・・ということを、レイは言いたいんだろう。



104 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 13:02:29.55 ID:MmTYItc1.net
「わかった?」

見計らったかのように、レイは短く訊いた。


「それとも、理解しても まだその世界の中で生きていたい?」

嫌な質問だった。理屈ではなく、感覚的に、俺は逆らおうとした。

「俺は引きこもりを満喫してるわけじゃない」「いまは こうしていられたって、いつまでも してるわけにはいかないし」

言い訳みたいにそう言ううちに、引きこもりの高齢化みたいなニュースを連想した。

「このまま ずっと引きこもってるより、自殺した方が親だって楽だし」「俺だって、おっさんになってまで引きこもりたくないし」

しゃべり続けるうちに、自殺の理由も曖昧になった。



105 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 13:14:38.96 ID:MmTYItc1.net
「許されれば、あなたは一生引きこもっていたいの?」

ふと、レイが言った。

「そうじゃないけど・・・・・・」

話を引きこもりをした挙げ句の孤独死まで進めていた俺は、どきりとした。

「あなたは どうでもいいことばっかり考えるくせがあるのね」

これも なんとなくの気配だが、呆れたようにレイが言った。

「いまから老後を心配? むしろ、そこまで健康で長生きできるつもりなの?」

「いや、それは・・・・・・」

「自分の価値との引き合いに、アメリカ大統領まで出してくるし」「身の程をわきまえたほうがいいと思う」

「・・・・・・」



106 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 14:18:01.39 ID:MmTYItc1.net
「でも、それも現実が見えていない証拠ね」

「頭の中だけで生きてるから、そんな見当違いの心配ばかりするのよ」

レイは なかなか辛辣だった。

「脳みそで考えられることなんか、限られてるのに」

「じゃあさ」

あんまりな言われように、俺は考えるのを放棄したくなった。

「俺は どうすればいいの? 考えるのをやめたって、俺の〈現実〉は変わらないだろ」


「当たり前でしょ」「そこまで馬鹿なの?」


強烈なカウンターパンチを食らってしまった。



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