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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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107 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 14:26:19.29 ID:MmTYItc1.net
「ここまでは前提よ」「問題解決のための」「算数で言えば、足し算や引き算の記号の解説をしただけ」

「記号の解説・・・・・・」

「そう」「あなたが理解できたかどうかは別として、私は説明したつもり」

「じゃ、これから本題ってこと?」

「まだよ」「一番大切なことを聞いてない」

「一番大切なこと?」

「そう」「これだけは、私も教えることはできない」

「あなたが出すべきもの」



108 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 14:35:50.55 ID:MmTYItc1.net
「俺が?」

何だか嫌な予感がした。

だいたい、俺は自分の意見を出すというやつが大の苦手なのだ。

班になっての話し合い、とか、学級会での発言、とか、読書感想文だって うまく書けたためしがない。

だって、一学期のクラス目標だなんて俺は何だっていいし、本の感想なんて、ほぼ面白いか つまらないの二択だ。

それを何でも良いから発言しろとか、何でも良いから書けとか言われても、困るだけだ。



109 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 14:47:39.98 ID:MmTYItc1.net
それに、その「何でも良いから」って教師の台詞がトリッキーだ。

そうだろ?

あれ、その言葉を鵜呑みにして本当に思ったことを言ったりなんかした日には、冷たい視線と最悪の待遇が待ってる。

小学校の頃、思ったことを素直に書けと言われた読書感想文で、

「蜘蛛の糸一本だけ地獄に垂らしてみせて、やっぱりムカついたから切るだなんて、お釈迦様はひどい人だと思いました」

って書いて、むちゃくちゃ怒られた俺が言うんだから間違いない。



110 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 14:56:20.36 ID:MmTYItc1.net
「そんなに身構える必要はないわ」

珍しく柔らかい口調でレイは言った。

「言ったはずよ」「私はあなたの手伝いはするけれど、それがあなたを助けることになるかはわからない」「だから、あなたは何も気にせず、自分の答えを出せば良い」

「・・・・・・それで、俺は何を答えれば良いの?」


「それは、あなたの答え」「あなたがこれからどう在りたいかの、答え」


「どう在りたいか?」「何になりたいとか、進路とか、そういうこと?」


「違う」

レイはきっぱりと言った。



111 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 15:05:19.70 ID:MmTYItc1.net
「あなたにもわからない、漠然とした遠い未来のことじゃない」

「つまり・・・・・・〈現実〉?」

そう聞き返すと、なぜかレイが微笑んだような気がした。


「そう。〈現実〉」「あなたの手が届くくらいの、近い未来」「そのとき、あなたは どういう状態で在りたいのか」「それを はっきりさせることが必要」


「なぜ?」

俺は聞いた。けど、レイは答えなかった。


「答えは本当に何でも良い」「引きこもりの生活をしていたい、でも構わない」「どうしても自殺したい、でも」「明日また私は ここに来る」「そのとき決まっていなかったら、またその明日」「考えてみて」「それじゃ」



112 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 15:10:49.62 ID:MmTYItc1.net
怒濤のようにそう言うと、レイの気配はなくなった。

窓の外には また朝が来ていた。

俺はレイの言葉を繰り返しながら、ベッドにもぐった。そうしながら、明日という日に期待している自分に気がついた。

〈明日、また私はここに来る〉

それは約束に違いなかった。そして、それは同時に俺が失ってしまった人とのつながりに違いなかった。



113 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 03:43:14.22 ID:vhmrIwJ8.net
とはいっても、その〈つながり〉は、細く頼りないものだった。

明日来る、レイはそう言ったけれど、本当に来る保証なんてどこにもない。

すべての主導権を握っているのは、レイだった。

彼女は ほんの気まぐれ一つで、俺の前から消えることもできるのだ。

俺を、この白い画面の前に放置したまま・・・・・・

眠った後の、ぼんやりとした頭で考えたのは そんなことだった。

「蜘蛛の糸」で例えるなら、レイはお釈迦様で、俺は地獄の亡者なんだ。



114 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 03:49:25.68 ID:vhmrIwJ8.net
だから亡者の俺は、遙か天上にいるお釈迦様が糸を切らないように、少しずつ少しずつ、その顔色をうかがいながら上っていくしかない。

〈あなたの本当の答えなら、何でも良い〉

レイは昨夜、消える前に確かにそう言った。

だというのに、俺はもう それを忘れかけていたんだ。



115 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 03:55:50.81 ID:vhmrIwJ8.net
俺はそれからレイが現れるまでの時間、〈答え〉を探すことに夢中になった。

レイが気に入りそうな〈答え〉。

レイを満足させる〈答え〉。

レイをあっと驚かせるような〈答え〉。


それは簡単なことじゃなかった。

だって、俺はレイを知らない。

・・・・・・いや、この二日間で、俺は今までできた友達の誰よりレイと話しているから、知らない、というのは間違ってる。

けど、あの無表情キャラの向こう側にいる〈本当のレイ〉は、あれだけ話したというのに見えてこなかった。



116 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 04:02:04.29 ID:vhmrIwJ8.net
もしかしたら、レイは本当にあのままの女の子なのかもしれない。

俺は自分でも知らないうちに、半分くらいは そう信じていたと思う。

だって、昔の自分を こう言うのも何だが、俺は周りの現実が見えていない、頭でっかちの厨二だった。

だから・・・・・・ぶっちゃけて言えば、・・・・・・しょうがなくね?

不幸どん底の自分に手を差し伸べてくれる美少女の存在を信じちゃって、それに恋心っぽいのを抱いちゃっても、仕方なくね?



117 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 04:08:16.83 ID:vhmrIwJ8.net
レイからのつながりが細い蜘蛛の糸だってのに、俺からレイへの矢印は、妄想に任せて ぐんぐん大きくなっていた。

・・・・・・こういうところが、レイの言う〈自意識過剰〉の〈頭の中の世界の住人〉で、それを何度も注意されてるというのに、浮かれた俺は気づかなかった。

〈あなたには生きる価値がある〉

そう言ってくれたレイが、俺のことを悪く思ってるはずもない。



118 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 04:19:43.34 ID:vhmrIwJ8.net
〈あなたは どう在りたいのか〉

レイの質問そっちのけで、俺は彼女が現れるのを待った。

俺の自殺を止めたんだ。きっと、レイは俺に生きていてほしいに決まってる。

けど、もう俺は大丈夫だ、なんてことは例え嘘でも言えない。

なぜなら、そう言ったら最後、レイは俺の前から姿を消すかもしれないから。



それなら なんて言ったら良いだろう。まだ自殺したいって言ってみるか?

それから、さりげなくレイ自身のことについて聞き出してみるか?

彼女の写真が見てみたい。けど、さすがにそれは引かれるか?



119 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 04:27:19.96 ID:vhmrIwJ8.net
俺は本当に立派な〈頭の中の世界〉の住人だった。

そして、その世界の中で、俺とレイは相思相愛のカップルだった。

・・・・・・少しでも現実が見えてちゃできないことだ。

ほんとに、できることなら あの頃の俺を殴り倒したい。

けど、この数年間でタイムマシンは開発されなかったし、俺もタイムリープの能力を身につけることができなかったので、あのころの俺は、馬鹿面さらしながら、思いっきり甘美な妄想に身を浸していた。


こんな俺に美少女の彼女ができたって知ったら、学校の奴らは どんな顔するだろう。

これで俺は俺を馬鹿にした奴ら全員を見返すことができるんだ! ・・・・・・・ってな。

レイは真面目に聞いてくれてたってのに、俺は最低だ。



120 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 04:31:37.55 ID:vhmrIwJ8.net
「答えは出た?」

ふいに画面が一行分、スクロールした。レイだ。

俺は馬鹿みたいに顔を赤くしながら、キーボードに触れた。

「うん」

心臓は ばくばくだった。

「出たよ」

さあ、ここからが勝負だ



>>次のページへ続く
 
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