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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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121 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 04:37:06.40 ID:vhmrIwJ8.net
「俺、反省したんだ」

まず、殊勝なところを見せてみた。

「君の言うとおり、自殺なんかしちゃだめなんだ」

「俺だけじゃなくて、みんな」「生きる価値があるんだからさ」

これはレイの話への迎合。指が震えるから、文章は変に切れ切れになった。



122 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 04:45:11.12 ID:vhmrIwJ8.net
話を全部聞いてくれるつもりなのか、レイは一言もしゃべらなかった。

「っていうか、君が気づかせてくれたんだ」

エンターキーを押してから、クサかったかと心配になる。ってか、「君」って呼び方がクサいんだと思ったが、いまさら変えられないし、ほかの言い方もわからない。

名前を呼ぶのも なんとなく、だし。

「君が話しかけてくれたとき、俺、まさにヒモの輪っかに首を入れたとこでさ」

ここは少し話を盛った。そのほうが運命っぽいだろ?

「君に命を救われたんだなって」

「ありがとう」

「こんな俺を救ってくれて」


レイは沈黙を続けている。



123 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 04:55:15.42 ID:vhmrIwJ8.net
「どうして俺を助けてくれたの?」

「いや、前にも聞いたけど、そういう意味じゃなくて」

この二行は、タイムラグができないように、あらかじめ書いてからコピって入れた。

「なんて言うか、生きる価値があるとか、誰にも言えることじゃないなって思って」「すごいなって思っただけなんだけど」


レイの答えはない。

タイピングの遅さもあって、ここまで夢中で書き込んでいた俺も、ようやく おかしいと気がついた。

「君も俺と同じだったのかな なんて思ったりしたんだ」の、「君も俺と」までを打ち込んでいた指が、ぴたりと止まった。



124 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 04:58:17.75 ID:vhmrIwJ8.net
まさか。

そう思った瞬間、体中から血の気が引いた。

まさか、レイはいない? 去ってしまった?

慌てた指が、エンターキーを押した。

「君も俺と」

中途半端な言葉のかけらが飛び出して、俺のパニックに拍車をかけた。



125 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 05:04:33.18 ID:vhmrIwJ8.net
「レイ、いる?」

俺は初めて彼女の名を呼んだ。

「あれ、なんか回線おかしい? 俺逃しかみえないんだけお」

確かめずにエンターキーを押すと、無様な言葉が表示されてた。

「俺のしか、見えないよ」

打ち直す間、みじめな気持ちに襲われた。



126 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 05:10:39.54 ID:vhmrIwJ8.net
「どこ行ったんだよ・・・・・・」

打って変わって どん底の気分で、俺はつぶやいた。

この期に及んで、自分の何が悪かったのかなんて考えることもなかった。

レイの気持ちも考えず、気分よく自分語りした結果だってのに。


「君も俺を見捨てるんだ」

まだレイがいないと決まったわけじゃない。

ちょっと席を外してるだけなのかもしれない。

それなのに、自分のことしか考えられない俺は、被害妄想に陥った。


「君もみんなと同じじゃないか!」

「みんな俺を見捨てるんだ!!」



127 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 05:16:59.18 ID:vhmrIwJ8.net
「みんな俺を見下してるんだ!」

「みんな俺なんか死ねって思ってるんだ!」

「うざくてキモくいクズなんか死ねって!」

「俺なんか死んだ方が世界のためなんだ!」

我ながら、醜いわめき方だと思う。けど、あのときの俺はレイに捨てられたって感覚でいっぱいで、ほかのことなんか何も考えられなかった。

〈生きる価値がある〉

そう言ってくれたのは何だったんだ、それとも、それは全部嘘で、天上から俺をおちょくって笑ってたのか!

惨めさと、怒りと、悲しみとで、おれはぐちゃぐちゃになった。



128 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 05:23:14.95 ID:vhmrIwJ8.net
いま、俺はこれを書くに当たって、あのときのログを見返している。

そうすると、驚くべきことに永遠にも感じたあのレイの沈黙は、時間にしてたったの三十分ほどのことだった。

たったの三十分だ。


俺はその間、死ぬほど罵倒と卑下を繰り返した。

そうしながら、このまま狂い死にするんじゃないかと思った。

いや、そうなればいいと思った。

そして、俺が死んだことをレイは一生後悔すればいいと思った。

画面の向こうの彼女が、俺の死を知ることができるかどうかは置いておいて。



129 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 05:38:22.24 ID:vhmrIwJ8.net
狂った俺を、レイが何を思いながら見つめていたのかは、いまも知る由がない。

俺に想像できるのは、あのキャラと同じく冷静なレイの表情だけだ。

ロボットのように感情がなく、設定されたプログラムだけを確実に遂行するような・・・・・・。


だから、レイが俺を見捨てなかったのは、「俺を見捨てないこと」

それがレイに組み込まれたプログラムだったんじゃないかとさえ思えるほどだ。

それくらい俺はひどかったし、だというのにレイはそこに居続けた。


「私は、答えを聞くためにここへ来たの」

俺の罵倒に埋もれるように、たった一行、レイが言葉を放った。

それに気づいた瞬間、書きかけのクソみたいな文字を連ねる手が止まった。

その一言だけで、ヘドロと化していた俺は浄化された。



130 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 13:56:48.38 ID:vhmrIwJ8.net
「よかった、いなくなったんだとおもっt」

恥も外聞もなくすがった俺を遮って、レイの冷たい言葉が並んだ。

「聞きたいのは、それだけ」「けど、答えが出ていないのなら、また明日来る」


「え、でも・・・・・・」

俺は焦った。せっかく会えたんだから、少しでも話がしたかった。俺の話を聞いてほしかったし、レイのことが知りたかった。

でも、レイは一度言った言葉を覆したりはしなかった。

「また明日」

レイは言った。


それから、去り際に捨て台詞のように言った。

「あなたはすぐに、みんなが、みんなが、って言うけど、その〈みんな〉って誰?」

「何度でも言うわ」

「頭の中で生きるのをやめて」


その言葉を最後に、画面はぴたりと動かなくなった。俺は今度こそ、レイが去ったことを知った。

けど、さっきのようにパニックにはならなかった。レイはまた約束を残してくれたから。



131 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 14:14:53.40 ID:vhmrIwJ8.net
俺の胸には、大波が去ったあとの凪が広がった。

蜘蛛の糸が切れなかったことに、大げさじゃなく俺は感謝した。

今日は去ってしまったけれど、レイは明日も来てくれる。

それは もはや、俺の生きる意味だった。

それがたった一日二日の出来事であっても。


それは俺がレイの言うとおり、〈頭の中の世界〉で生きていたからにほかならないだろう。

〈頭の中の世界〉では、時間の経過や常識的な尺度なんかは通用しない。

だって、そこは俺が創り出した世界だ。

優先順位は、世界の主である俺が決める。

そして、いま、そのトップに輝いているのがレイの存在ということなのだ。



>>次のページへ続く
 
カテゴリー:人生・生活  |  タグ:すっきりした話, 修羅場・人間関係, ためになる話, これはすごい, ためになる話, ちょっといい話,
 


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