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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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132 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 14:23:38.41 ID:vhmrIwJ8.net
俺はしばらく画面の前で ぼうっとしていた。そうして、彼女の後ろ姿を眺めていた。


それから、おもむろに立ち上がり、部屋の扉を薄く開けた。

そこには丁寧にラップのかけられたサンドイッチが置かれていた。

そこに誰もいないことを素早く確認すると、俺はサンドイッチをわしづかみし、再び部屋の中に引っ込んだ。

中身も見ずに一口ほおばると、たらこバターの味が広がった。

小さい頃、俺が好きだった たらこスパゲッティをそのままサンドイッチにしたような味だった。



133 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 14:29:34.55 ID:vhmrIwJ8.net
あの頃の味を食べれば、○○(俺)も部屋から出てくるかもしれない。

・・・・・・そんな母親の意図のこもった味だった。


レイが聞いたら、被害妄想だと言うだろうか。

けど、俺の母親に関しては、俺の方が正しい。

そんな ひとすくいの砂くらいじゃ、何も埋まらんだろ!そんな突っ込みをしたくなるくらい、遠回し遠回しに外堀を埋めてくる親なんだ。



134 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 14:34:51.03 ID:vhmrIwJ8.net
そんな意図を感じながらじゃ、サンドイッチも美味くはなかった。けど、腹が空いた俺はそれを飲み込む勢いで口に入れた。たらこバター臭のゲップが出た。

「〈みんな〉って誰なのよ」

同時に、レイの言葉が頭に浮かんだ。

少なくとも、母親は俺のことを見捨ててなんかない・・・・・・か。

俺は しぶしぶそれを認めた。



135 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 14:41:14.67 ID:vhmrIwJ8.net
「それなら、〈みんな〉って、誰?」

頭の中のレイがそう言った。それが文字よりもさらに冷たく聞こえるのは、俺の妄想だからだろうか。

「〈みんな〉は、〈みんな〉だろ」

相手が頭の中のレイだから、俺は強気にそう答えた。

「俺以外のやつらだよ。大勢の他人だよ」

「でも、あなたのお母さんは〈みんな〉に含まれてないんでしょう?」

「まあ、でもそれは親だから」

「親なら無条件で あなたの味方であるべき?」

「そりゃそうだろ。親の勝手で俺は生まれたわけだからさ」

「それって本気?」

「本気だよ。・・・・・・っていうか」

どうして俺は頭の中のレイにさえ、言い負かされようとしてるんだ?



136 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 14:53:47.69 ID:vhmrIwJ8.net
「親は子供を育てる責任があるんだ。そんなの当たり前だろ」

俺は さらに強気で言った。

「俺は産んでくれなんて頼んでない。ってか、こんな人生なら、生まれない方が断然よかった」

「おめでとう。また、自殺の理由が増えたわね」

レイのあの無表情に、微かな嘲笑が浮かんだ。


「生まれてこない方がよかったなら、いま死んで当然だものね?」

「何が可笑しいんだよ」

「何も。でも、あなたが生まれたのが完全なる親の意思なら、いま無価値なあなたを殺すのも、親の意思であるべきじゃないかって、ただそう思っただけ」

「親が、俺を殺す?」

「そう。あなたの論理で言えば、そういうことにならない? あなたの命は親のもの。それをクズなあなたが勝手にしていいのかしら」



137 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 15:00:11.81 ID:vhmrIwJ8.net
「うるさい! そんなことになるわけないだろ!」

俺は叫んだが、それは敗北を宣言したのと同じだった。

「クズはクズね。あなたに希望を託したご両親も、気の毒に」

頭の中のレイは狂ったように笑った。笑い声はぐるぐる渦を巻くようにこだまして、俺の気まで狂いそうになった。

「うるさい、うるさい、うるさい!」

頭から毛布をひっかぶって、俺は叫んだ。けど、高笑いは消えることがなかった。

〈頭の中の世界から、出て〉

小さく、本物のレイの声が聞こえたような気がしたが、そのときにはもう手遅れだった。

俺はその日一日を、頭の中の狂ったレイとのやりとりに費やした。



139 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/07(月) 03:32:29.02 ID:muQilJab.net
そんな一日を過ごした俺が、満足に眠って次の日を迎えられたわけもなかった。

「答えを聞かせて」

夜中、再びレイが現れたときには、俺の精神状態は最悪で、彼女の言う〈答え〉なんて、まるで頭になかった。

「俺はクズだ。クソだ。おまえだって本当はそう思ってんだろ!」


頭の中のレイに狂わされた俺は、本当に狂いかけてたんだと思う。レイのことを「おまえ」呼ばわりするほどに。



140 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/07(月) 03:40:38.42 ID:muQilJab.net
「他人の〈本当〉なんてどうだっていい」

「前にもそう言ったはずよ」

それが〈答え〉じゃなかったにも関わらず、レイはなぜかそう答えた。

おまえ呼ばわりしたことにも、俺が昨日とまったく変わってないことにも触れもせず。

けど、攻撃的になっていた俺は、そんなことに気づきもしなかった。

「どうだっていいわけないだろ!」

「俺を笑って、おちょくって、馬鹿にして!!!」


そして、ネットでは当たり前の、けれど現実では吐いちゃいけない言葉を吐いた。

「死ねよ!」「おまえなんか死んじまえ!」「俺を馬鹿にする奴らは、全員死ね!」



141 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/07(月) 03:44:31.39 ID:muQilJab.net
それが熱の塊のような言葉だったからだと思う。

エンターキーに指を叩きつけたその瞬間、俺の頭はサッと冷えた。

やばい。

そう思った。

俺は頭の中のレイじゃなく、〈現実〉のレイを相手にしていることに気づいたんだ。



142 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/07(月) 03:49:57.08 ID:muQilJab.net
「あの、ごめん、」「そんなつもりじゃ」

次の瞬間、俺は二重人格かってくらい気弱な言葉を吐いた。

「その、君にまで そんなことを言うつもりは」「っていうか、そうじゃなくて」

俺は謝罪の言葉っぽいものを並べ立てた。

けど、そのときは気づいてなかったけど、これは謝罪なんかじゃなかった。

なぜなら、俺は「死ね」と言われたレイの気持ちなんか、これっぽっちも考えてなかったから。

俺は俺が演じた失態を馬鹿みたいに取り繕ってるだけだった。



143 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/07(月) 04:01:55.51 ID:muQilJab.net
当たり前のことかもしれないが、きっと、レイはそれがわかっていたと思う。

わかっていて、それでいて見て見ぬふりをしてくれたんだと思う。

・・・・・・もちろん、いい方にとれば、かもしれないけど。

とにかく、レイは「死ね」って言葉には それほど動じなかった。

代わりに、彼女はこう言った。

「あなたにそう言われても、私に死ぬ義理はないわ」

「言葉なんて そんなもの」

「他人の本心なんて それ以上に どうでもいいこと」

「見えないし、聞こえもしないのだから」


それから、一呼吸置いて続けた。

「〈現実〉に手を出されない限り」



144 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/07(月) 04:14:25.76 ID:muQilJab.net
「〈現実〉に手を出されるって・・・・・・」

得体の知れない予感に、背中に寒気が走った。

俺は なんとはなしに、後ろを振り返った。けど、もちろんそこにはドアがあるだけで、誰の気配もない。

それでも しばらくドアを見つめてから、もう一度画面に目を戻すと、そこには新しい文字が並んでいた。


「あなたがその〈本心〉とやらで何を思っていようと、私は痛くもかゆくもない」

「〈現実〉に危害を加えられるわけじゃないから」

「あなたに私は殺せないから」

殺す。

自殺も、「死ね」も、命が失われるという意味では同じだというのに、俺は画面の前で固まった。



>>次のページへ続く
 
カテゴリー:人生・生活  |  タグ:すっきりした話, 修羅場・人間関係, ためになる話, これはすごい, ためになる話, ちょっといい話,
 


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