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私が初恋をつらぬいた話
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110 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 16:33:28.56 ID:+beSXCVE0
そのまま黙って二人でコーヒーを飲み終えた頃、先生は「渚さん」と私を呼んだ。

なんですか?っという視線で先生を見る。

「……………しばらくの間、このままココに居座っちゃいなさい。」

驚いて聞き返す。

「え!?」

「居座っちゃいなさい。」

先生は相変わらずニコニコしていた。

「でもそんな事バレたら先生が…ダメです、絶対にダメです!」

「大丈夫大丈夫。」

「大丈夫じゃありません!ダメです!私、先生の人生まで壊したくありません!」

「壊れる?僕の人生が?どうして??」

先生はわざとらしくキョトンとした顔をした。

私は一呼吸ついて、話を続けた。

「もしバレたら、先生は学校を辞めさせられるかもしれません。もしかしたら逮捕とかされちゃうかも知れないし…」

「逮捕?大丈夫大丈夫。仮にされたとしても、容疑がかかるだけです。すぐに釈放されますよ、現に何もやましい事はして無いんだから。」


先生はアハハと笑うと、そのまま続けた。


「それに………学校をクビになっても、別に人生終わりませんよ。それだけが僕の全てじゃ無いです。」

「でも…」

「稼ぐ方法なんていくらだってありますしね。僕、こう見えてもピアノが得意なんですよ。」


先生は自慢気にそう言うと、私を見つめてニコっと笑う。

私は思わずプッと吹き出した。


111 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 16:35:18.59 ID:rcECls8h0
先生イケメン・・・



112 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 16:35:59.99 ID:lhtOiEzIi
男だが…こんな先生だったら惚れてまう笑


114 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 16:36:54.38 ID:+beSXCVE0
「……でも私…やっかいになれる位のお金、持ってません。」

「お金?ハハハッ、気にしないで。部屋はこんなだけど僕、実はかなーーーりお金持ちですから。」

「でもそんな訳には…。」

「子供はそんな事、気にしなくていいの。」

先生はそう言って笑うと立ち上がり、寝室に入っていった。


本当にいいのだろうか…大丈夫なんだろうか…そんな事を考えていると、先生は すぐに戻ってきた。

テーブルの上に、何も付いていない鍵を置く。

「はいこれ、渚さんの分。」

驚いて先生の顔を見る。

「しばらく居るんだから、無いと不便でしょう?」

「でもっ」

「いいからいいから。無くさない様に、大事に持ってて下さいね。」

先生は そう言って時計を見ると、大きく背伸びをした。

「あーもう朝だ。仕事に行く準備しなきゃ。」

時計は6時を回っていた。



先生との短い同居生活が始まった。


115 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 16:39:33.77 ID:+beSXCVE0
その日の朝。

先生が出掛けて少し経ってから、私は周囲に人の気配が無い事を確認すると、そーっと先生の家を出た。

夏休みで学校は休みといえど、高校3年になった私は就職活動をしなければならない。

その為に必要な物と、あとは生活に必要な物を少しだけ取りに、私は一旦家に戻った。


家に着き、緊張しながらドアノブを回す。鍵は掛かっていなかった。

「………」

注意深く家の様子を探る。

テレビの音だけが、かすかに聞こえた。

私はそっと足を踏み入れると、なるべく足音を立てないようにリビングに入った。

荒れ果てたリビングではボロボロになった母が、ぼーっとテレビを見つめていた。

母に動く気配は無い。

男と弟の姿も、どこにも無かった。


そんな母を無視するように二階に上ると、私は急いで荷物を詰め、またそーっと一階に降りた。

母は変わらず、テレビを眺めていた。

「………暫く戻らないから。」

私は何となく母に言った。

母はテレビを見つめたまま小さくコクっと頷いた。


なんともいえない胸の痛みが、気持ち悪かった。




117 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 16:41:59.05 ID:+beSXCVE0
それからしばらくの間、私は本当に先生の家で過ごした。

バイトは休みを入れ、就職活動に必要な時のみ外に出た。

私は先生のベッドを宛がわれ、先生はソファで寝た。

洗濯物は3日に一回、先生と別々にして回した。

私が水道代の心配をすると、先生は「僕はお金持ちですから。」と言って笑った。

夕飯は先生が買ってきたものを食べた。

一応、朝昼分も用意しておいてくれたのだが、なんだか申し訳なくて食べられなかった。

お風呂は先生の居ない間に入る決まりになった。

理由は、先生が恥ずかしいからだそうだ。

少しずつ、ルールが出来ていった。


普段、先生と私は同じ空間に居ても、特にお話をしたりテレビを見たり遊んだり…という事は無かった。

先生は先生、私は私で好きに過ごし、夜中の一時位になると「寝ましょうか。」といって布団に入る。

先生は本を読んでいる事が多く、私は邪魔にならないようにイヤホンで音楽を聴いていた。

そんな不思議な生活を、送っていた。


118 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 16:44:30.12 ID:+beSXCVE0
先生の家に来て2週間ほど経ったある日。

夏休みは もうすぐ終わり。

いつものように先生が買ってきた夕飯を二人で食べると、私はイヤホンを耳に付けた。

先生は本を…と思ったが、その日は珍しくピアノの前に座ると、なにやら黒い点が一杯書いてある楽譜を広げた。

そのまま小一時間くらい何か弾いている後姿を眺めていると、先生はふいにこちらに振り返った。


首をかしげながら、イヤホンを外す。

「いつも、何聴いてるんですか?」

「え?」

私はMDプレーヤーを見た。

私には当時好きな映画があって、その劇中の曲をよく聴いていた。

その映画のサウンドトラックにはピアノ曲が数曲入っていて、私は特に好んで それを聴いていた。

「〇〇って映画の〇〇って曲です。」

「ふーん……ちょっと聞かせて貰ってもいいかな?」

私は立ち上がって先生に近寄ると、イヤホンを渡した。

先生が耳に付けたのを見て、当時よく聴いていた曲に巻き戻すと、再生ボタンを押した。


先生はじーっと、丸々一曲分の時間くらい聴き入っていた。

曲が終わった頃にイヤホンを外すと、鍵盤の上に手を乗せる。

不思議に思っていると先生はその曲のサビのフレーズを、まったく同じように弾き始めた。


119 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 16:46:31.05 ID:+beSXCVE0
「…聴いたこと、あるんですか?」

ビックリして質問すると、先生は指を止める事無くニコニコしながら言った。

「いいえ、初めて聴きました。素敵な曲ですね。」

「…初めて聴いたのに、弾けちゃうんですか………。」

私がそう言うと、先生は手を止めて少し恥ずかしそうに笑った。

「言ったでしょう?僕、ピアノは得意なんです。」

私はプッと吹き出した。

「……ピアノの曲、好きなんですか?」

「はい。」

「…じゃあ一緒に弾いてみます?」

先生はニコっと笑う。

私は慌てて首を振った。

「出来ません!私、ピアニカ以外の鍵盤には触った事ないです!」

「大丈夫。簡単ですよ。」

先生は立ち上がり、私をなかば無理やりピアノの椅子に座らせた。

そして隣に立つと、私のちょうど まん前辺りにある鍵盤を指差した。

「渚さんは ここから右半分、好きな音を指一本で鳴らしてくれればいいです。そうですね……大体同じテンポで弾いてください。」

「は…ハイ。」

「あ、白い鍵盤だけでお願いしますね。」

私が頷くと、先生は「じゃあどうぞ。」と言った。



>>次のページへ続く
 
カテゴリー:人生・生活  |  タグ:すっきりした話, これはすごい, 胸キュン,
 


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