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私が初恋をつらぬいた話
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161 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:52:56.40 ID:+beSXCVE0
辺りが完全に暗くなった所で、私は時間を見るために携帯の電源を入れた。

時間はもう6時過ぎ。

着信履歴は母からのもので埋まっていた。

ボーっとしながら履歴のページをめくっていく。

不思議な事に5時を過ぎた辺りで、母からの電話はピタッと止まっていた。

あーあ…やっちゃったー…なんか色々と大変な事になってるんだろうな…

そう思いつつも、まったく家に戻る気が起きない。

なんとなく そのまま無心で履歴をめくり続けていると、最後の方で堺先生の名前が出てきた。

それを見て、指が止まる。



先生とはあの日以来、連絡を取っていない。

メールが来ることも、こちらから送ることも無かった。

ふと、先生の言葉を思い出す。

ー 人って結局、いつかは自分から離れていくじゃないですか… ー


離れないと決めたはずなのに、私は簡単に先生から離れていった。

その時は本気で離れないと思ったはずなのに、結局は先生の言うとおりになっている。

先生の悲しそうな顔が、思い浮かんだ。

瞬間、離れるのが正しかった事なのだと、私は自分に言い聞かせた。

こんな自分の泥沼のような人生に、もう先生を巻き込んじゃいけない。

そう思いながらも心のどこかでは、先生に会いたくて、このまま離れたくなくて、ダダを捏ねてる自分が居る。


ダメ…でも…いや絶対にダメだ……私は久々に味わう心の痛みに、葛藤していた。


162 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:56:15.85 ID:+beSXCVE0
長い長い葛藤のあと、私は思いついた。

最後に一度だけ、先生に電話をしよう……それで心の踏ん切りをつけよう…と。

よくわからない緊張が、私を支配する。

コレが最後。と何度も自分に言い聞かせながら、私は思い切って携帯のボタンを押した。


「…………」

暫らく鳴らしても、先生は電話に出ない。

やっぱりそうだよな…出るわけ無いよな。でもかえってこれで踏ん切りがついた…。

そう思いながら電話を切ろうとしたその時、呼び出し音がブツっと急に止まる。

「……もしもし…」

先生の声がした。

「……もしもし…渚さん?」

久しぶりの柔らかい声に、胸が一杯になる。

「…お久しぶりです…先生。」

何とも言えない懐かしさで、私の心は一瞬で穏やかになっていった。




163 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:58:45.42 ID:+beSXCVE0
「お久しぶりです。元気にしてましたか?」

「はい。…先生こそ、元気でしたか?」

昔のように笑いあう。

「元気でしたよ。…渚さんは今日卒業式でしたよね?おめでとうございます。」

「…ありがとうございます。」

卒業という言葉に少しだけ現実を思い出して、胸が痛む。

「どうしたんですか?急に。」

先生はいつもと変わらぬ明るい声で、私にそう尋ねた。

先生の言葉に大きく一回深呼吸をして、私は勇気を出して話し始めた。

「…これが最後のつもりで、先生に電話をかけました。」

「……最後?」

「はい。…先生に電話を掛けるのも…今日で最後にします。」

電話の先で先生が黙り込む。

「…先生には沢山助けてもらいました。だから…今までありがとうございました。もう迷惑はかけません。」


165 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:01:06.93 ID:+beSXCVE0
先生からの返事は無い。

言い終えた私は、胸の痛みを必死で堪えていた。

自然と涙が溢れてくる。

「…今、どこにいますか?」

長い沈黙のあと、先生は私にそう尋ねた。

「…どうしてですか?」

私は泣いているのを悟られないように、明るく聞き返した。


またほんの少しの沈黙の後、先生は小さく「だって…」と言った。

「……これで最後にしますって言われて、しかもその連絡が電話だけ…っていうのは、なんか嫌じゃないですか。」

私は何も言えなかった。

「…これでもうサヨナラするのなら、最後に会って話をしましょう。僕はそうしたい。」

私は少しだけ考えて、「〇〇公園に居ます。」と応えた。

先生は場所にちょっと驚いたようだったが、「わかりました。すぐに行きますから。」といって電話を切った。



あの時のように、泣いてる顔なんて絶対に見せない。

私はそう決心をして、ひたすら何も考えないようにじっと夜景を眺めた。


166 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:03:51.89 ID:+beSXCVE0
案外すぐに涙も止まり、不思議と穏やかな気分になっていた。

これでもう大丈夫…あとは何があっても普通に接していればいい…

心の中でひたすら そんな事を繰り返していると、先生は本当にすぐにやってきた。

「おまたせしました。…やっぱりココ、なんだか怖いですね。」

そう言いながら、私の横にちょこんと腰をかけた。

ラフなスーツ姿の、小学校の時と何も変わらない先生を見ていたら、懐かしい気持ちがこみ上げてくる。

私は少し笑って、「そうですね。」と返事をした。


「…仕事、あれからどうなりました?結構色々と見て回ってましたよね?」

胸がズキッと痛んだ。

「全部、落ちちゃいました。」


私は努めて明るく答える。

先生は凄く驚いた顔をした。

「なんで?あんなに頑張ってたのに…」

「ちょっと色々ありまして…残念でしたけど。あ、でも もう仕事他に決まったんですよ。」

「そうなんですか?…ならよかった。どんなお仕事?」

胸がどんどん痛くなっていく。

「母から紹介されて…脱いで歌うお仕事だそうです。」

私が笑いながら言うと、先生は私を見ながら固まった。




169 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:05:31.78 ID:+beSXCVE0
「脱ぐ…って…」

「はい、歌いながら裸になるそうです。まいっちゃいますね。」

「…ストリップって事ですか?」

「多分、そうだと思います。結局私には そういう仕事しかなかったみたいです。」

私は先生の顔を見ないように前を向いて、アハハと笑った。

もう2度と会う事はない。

このまま嫌われてしまっても構わない。

いや、むしろ嫌われて軽蔑されてしまった方が、気が楽だ。


私は話しながら、そんな事を考えていた。

「そんな仕事を始めるし、私はどんどん先生達の世界から離れていきます。」

「……。」

「だからこれ以上、先生を巻き込みたくないし、迷惑かけたくないんです。私は先生に、幸せになって欲しいから。」


言い終わってホッと溜め息をつく。

先生が隣で固まっているのがわかった。

これでいいんだ…

昔のように痛くなる胸の締め付けを我慢しながら、私はただじっと夜景だけを眺めた。


170 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:07:27.12 ID:+beSXCVE0
そのまま暫らく、静かな時間が流れる。

先生は相変わらず固まっていて、私はじっと前だけを向いていた。

このままこうしていたら、私はきっとまた泣いてしまう…

そう思って、私はバッと立ち上がった。

固まっている先生に振り返る。

「もう行かないと。今日、卒業式が終わったらお店の人に電話する筈だったんですよ。…無視して今サボっちゃってますけど。」

私はニコニコしながらそう言った。

先生はニコリともする事無く、少しだけ下に俯いた。

「…最後に会えて嬉しかったです。…実はずっと会いたかったから。」

そういい鞄に手をかける。

「それじゃ、先生、お元気で…」

先生の顔を見ないようにしながら、私は先生に背を向ける。

ここから離れるのを拒否する気持ちを懸命に振り払いながら、私は歩き出そうとした。



その時、急にぐっと腕を引っ張られる。

驚いて振り返ると、先生は下を向いたまま、私の腕をしっかりと掴んでいた。



>>次のページへ続く
 
カテゴリー:人生・生活  |  タグ:すっきりした話, これはすごい, 胸キュン,
 


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