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私が初恋をつらぬいた話
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185 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:21:46.60 ID:+beSXCVE0
その日から私は、また先生と一緒に暮らし始めた。

相変わらず先生はソファで、私はベッドで、前と変わりなく別々に眠る。

以前と同じように先生の家で過ごしていると、荒んでいた心が平常を取り戻してくる。

実家の事を考えると 憂鬱になったりもしたが、私は もうあそこには戻らないんだと自分に言い聞かせた。

先生は小学校の年度末で、忙しそうに過ごしていた。

卒業生の副担任になっていたようで、帰宅も夏休みの時より大幅に遅くなっていた。



そんなあんまり顔を合わさない生活をして5日後。

卒業式も無事に終わり、小学校は今日から春休み。

久々に少し早く帰ってきた先生と夕食を食べ終えて後片付けをしていると、先生はちょっと真剣な声で私を呼んだ。

返事をして、先生の前に座る。

「明日、渚さんのお母さんに会いに行きますよ。」

「え!?」



186 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:23:42.26 ID:+beSXCVE0
私は驚いて聞き返した。

「…母に…ですか?」

「はい。やっぱりこのまま、何も言わずにいるのはちょっと気が引けますし。」

体の奥底が、嫌悪感でゾワゾワする。

「でも…あの人には何も言わなくて、このままでもいいと思うんですけど…」

「やっぱり そういう訳にも行きませんよ。きっと渚さんの事を探してるでしょうし…」

私は首を振ると、それだけは絶対に無いと先生に言った。

「探してる訳がありません。多分家で飲んだくれてます。」

「まぁそうでしょうけど…ただ、違う意味では探してるかもしれませんし…」


違う意味で探している…私はその言葉にハッとした。

あそこまで執念深く自分を傍に置こうとした母だ。

確かに心配とは別の意味で、私を探しているかもしれない。


「……わかりました。」

私は暫らく黙りこんだ後、小さく頷いた。

「大丈夫、何があっても貴女には指一本触れさせませんよ。だから安心して。」

先生は私の手を両手で包むと、ニコッと笑ってそう言った。




187 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:26:19.28 ID:+beSXCVE0
翌朝。

前日に不安と緊張で なかなか寝付けなかったせいで、私は いつもより遅く目を覚ました。

時間は10時過ぎ。

慌てて飛び起きリビングを見ると、先生の姿はどこにもなかった。

あれ?っと不思議に思いつつ、顔を洗って出かける準備をしていると、先生は なにやら大きな紙袋を持って帰ってきた。

「あぁ、おはようございます。しっかり寝れたみたいですね。」

ちょっと恥ずかしくて「すみません…」と返事をすると、私は紙袋に目をやった。

視線に気がついて、先生がガサゴソと紙袋を漁る。

「渚さん制服しか持って無かったでしょう?とりあえず買ってきてみました。」

そういいながら、何枚かの女物の洋服を出す。
パーカーに何枚かのシャツにスカートとジーパン…

いずれも黒系統の服でお世辞にも可愛いとは言えなかったが、その選択が先生らしくって私はフフっと笑った。

「サイズがよく解らなかったから店員さんに身長とか大体で説明したんですけど…大丈夫かな?」

先生は恥ずかしそうに笑う。

私はその中からジーパンとパーカーを手に取って広げると、先生に向かって頷いた。

「あぁよかった。流石にその恰好で行かせる訳にはいきませんから。」

「じゃあ私、着替えてきます。」

立ち上がった時、まだ紙袋の中に もうひとつだけ小さな紙袋が入っているのに気がついて「それは?」と先生に質問する。

「あぁこれ?手土産です。会いに行くのに手ぶらって訳にもいかないでしょう?」

私は「そんなに気を使わなくても…」と言って苦笑いをした。



188 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:28:34.70 ID:+beSXCVE0
実家に向かう車の中で、私は不安と緊張で押しつぶされそうになっていた。

先生はラジオから聞こえる曲に合わせて、のん気に鼻歌を歌っている。

このまま家に誰も居ないとか…ないかなぁ…

そんな事を考えていると、車は あっという間に実家に到着した。

「さ、行きましょうか。」

そう言われてドキドキしながら車を降りる。

実家のドアに手を掛けると、私は暫らく固まってしまった。

先生がノブを握っている私の手の上に、後ろからスッと自分の手を乗せる。

「大丈夫だから。ね?」

私は頷くと、そっと静かに扉を開けた。


相変わらず、テレビの音だけが聞こえる。

私はゆっくり靴を脱ぐと、先生が入って来た事を確かめてからリビングに進んだ。

「…お母さん…」

私がそう声をかけると、相変わらず酒瓶に囲まれて横になっていた母は、かったるそうに こちらを見た。

そして私だと解ると、なにやらギャーギャー叫びながら物凄い速さで立ち上がり私に向かってくる。

ビクッとして身構えると、私は凄い力で後ろに引っ張られた。



189 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:30:12.42 ID:+beSXCVE0
驚いて硬直したまま、恐る恐る前を見る。

後ろにいたはずの先生が、母の振り上げた両手をがっしりと掴んでいた。

先生の体越しに、先生を見つめている母のひどく驚いた顔が見えた。

「…お邪魔します。」

いつものようにニコニコしてるであろう先生の声がした。

腕を掴んだまま先生はジリジリと前に進み、ダイニングテーブルの椅子に母をドスッと座らせる。

母は よっぽど驚いたのか、抵抗する事無く大人しく椅子に座っていた。

先生は座っている母から2.3歩後ずさると、ゆっくりと板の間に正座をした。

「さて……渚さん、そこの紙袋持ってきて。」

そう言いながら私に振り返り、自分の隣の床をポンポンと叩く。

私は慌てて紙袋を取ると、先生の横におひざまを付いた。

何やらずっしり重たい紙袋を渡しながら、先生の顔をそっと見る。

相変わらずニコニコしている先生は、「ありがとう」と言うと真っ直ぐ母に向きなおした。




190 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:32:28.22 ID:+beSXCVE0
「初めまして、堺といいます。お嬢さんを戴きに参りました。」

母と私はビックリして先生を見る。

先生は動じる事無くニコニコしながら母を見つめている。

一瞬の間を置いて、母は「はぁぁぁあ!?」と大きな声を出した。

「ですから、お嬢さんを戴きに参りました。」

「あんた、なにいってんの?」

母が不機嫌そうに先生を睨みつける。

「お嬢さんは もう大人です。いい加減、開放して頂きたいと思いまして。」

「はああああああああ!?!?」

先ほどより大きく母が言い返した。

「大人だからどうしたって!?私はソイツのせいで人生台無しになったんだ!勝手に出て行かれたら困るんだよ!!」

青筋をビキビキと立てながら、母が絶叫する。

それでも先生はニコニコしながら話を続けた。

「困る?どうしてですか?お嬢さんが居ても居なくても、お母様の人生は変わらないでしょう。」

「私はソイツのせいで山ほど借金したんだよ!!!!それなのにノコノコ出て行くだぁ!!??」

「借金?借金があるからお嬢様が出て行かれると困るんですか???」

母の声が大きくなる度、私は今にも飛び掛られそうでビクビクしていた。

「お嬢さんはアナタの奴隷じゃありませんよ。それに…お嬢さんが自分で働いて生活していたのを、僕は知っています。」



191 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:35:57.81 ID:+beSXCVE0
母は何も言い返せないのか、ワナワナと唇を震わせながら先生を睨みつけている。

「母子家庭ですから、小中と学費は免除だったでしょう。それ以降の高校は、奨学金だったと伺っていますが。」

先生は わざとらしく首をかしげた。

「借金があったとすると、お嬢さんに関わっているのは その時の奨学金だけですよね?返していくのはお嬢さん本人です。お母様には関係ないですから安心なさってください。」

「それ以外でもかかってんだよ!!!!!!私は18年間ソイツ育ててきたんだ!!!!!」

「…生活費……という事ですか?」

「そうだよ!!!!!」

母は勝ち誇ったようにニヤリと笑う。

「それに今まで苦労してきたんだ。ソイツには私の面倒見る義務があるんだよ。」

「義務……ですか。…要するに、お嬢さんが家にお金を入れなければ生活が成り立たない…そういう事ですか?」

母はニヤニヤしながら頷き、先生の顔をじーっと見ている。

が、次の瞬間急に訝しげな顔をしたかと思うと、驚いたように先生を指差した。

「あんた…確か渚が小学校の時の……」

「え?あ、はいそうですよ。」

先生はニコニコしながら頷いた。

「ただのロリコン野郎じゃねーか!!!!!」

母は爆笑した。

何故か先生も一緒になって笑っている。

状況がカオス過ぎて、意味が解らない。

「ノコノコ出てきて首突っ込んでんなよ。さっさと出てけロリコン野郎。」

母はニヤニヤしながらそういった。




>>次のページへ続く
 
 


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