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私が初恋をつらぬいた話
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193 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:40:33.65 ID:+beSXCVE0
母がいやらしい声でマッタリと話し続ける。
「やっと人生やり直せると思ったらコイツに全部ぶち壊されたんだよ。コイツのせいで…」
下を向いていても、母が私を睨みつけているのがわかる。
好き放題言われて悔しいのに、訳のわからない喉の痛みが邪魔をして声が出せない。
「私は全部失ったんだ。コイツのせいなんだから、これから償っていくのは当然だろ?」
「償い…ですか。」
「そうだよ。たんまり稼いで楽させてもらわなきゃ、ねぇ?渚。」
甘ったるい声で名前を呼ばれて、私はビクっとした。
「大事な大事なお母さんだもんねぇ?自分のせいでお母さんこんなになっちゃったんだもんねぇ?」
語尾が段々と、いつもの母に戻っていく。
頭にガンガンと響いてくるその声に、私はまた考えるのが嫌になって来る。頷かなきゃいけない……だんだんとそう思えてくる。
「なぎはお母さんが可哀相だねぇ?お母さんを幸せにしてあげなきゃいけないよねぇ?」
母の声が本格的に猫撫で声になった時、先生はハァっと大きく溜め息をついた。
「…話は以上ですか?」
先ほどまでとは別人の様な、先生の冷たい声がした。
197 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:43:28.66 ID:+beSXCVE0
その声が凄く怖くて、私は そっと先生を見た。
先生はゾッとするような薄ら笑いで、母を見つめている。
「はぁ?」
「話は以上ですか?このまま不幸自慢をされ続けても困りますので。」
先生が鼻で笑う。
母はまた、般若のような顔に戻っていった。
「不幸自慢…?」
「ええ、そうですよ。聞いていたら全部自業自得じゃないですか。お嬢さんはアナタのせいで、もっと辛い思いをしていますよ。」
「はあああああああ!?」
「結局のところ、アナタは金づるが欲しいんですね。何だかんだ色々言っていますが、僕にはそうとしか聞こえません。」
「…わかった風なこと言ってんじゃねーぞ?」
母が今にも飛び掛りそうな勢いで、拳を握り締めている。
「わかりますよ。僕はアナタの様な人を、よく知っていますから。」
母の歯軋りが聞こえる。
「いくら欲しいですか?1億でも2億でも、好きなだけ差し上げますよ。アナタが彼女を解放してくれるなら。」
先生の冷たい声に、その場が凍りつく。
そんな大金をいとも簡単に口から出す先生に、私は少し恐怖を覚えた。
母がいやらしい声でマッタリと話し続ける。
「やっと人生やり直せると思ったらコイツに全部ぶち壊されたんだよ。コイツのせいで…」
下を向いていても、母が私を睨みつけているのがわかる。
好き放題言われて悔しいのに、訳のわからない喉の痛みが邪魔をして声が出せない。
「私は全部失ったんだ。コイツのせいなんだから、これから償っていくのは当然だろ?」
「償い…ですか。」
「そうだよ。たんまり稼いで楽させてもらわなきゃ、ねぇ?渚。」
甘ったるい声で名前を呼ばれて、私はビクっとした。
「大事な大事なお母さんだもんねぇ?自分のせいでお母さんこんなになっちゃったんだもんねぇ?」
語尾が段々と、いつもの母に戻っていく。
頭にガンガンと響いてくるその声に、私はまた考えるのが嫌になって来る。頷かなきゃいけない……だんだんとそう思えてくる。
「なぎはお母さんが可哀相だねぇ?お母さんを幸せにしてあげなきゃいけないよねぇ?」
母の声が本格的に猫撫で声になった時、先生はハァっと大きく溜め息をついた。
「…話は以上ですか?」
先ほどまでとは別人の様な、先生の冷たい声がした。
197 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:43:28.66 ID:+beSXCVE0
その声が凄く怖くて、私は そっと先生を見た。
先生はゾッとするような薄ら笑いで、母を見つめている。
「はぁ?」
「話は以上ですか?このまま不幸自慢をされ続けても困りますので。」
先生が鼻で笑う。
母はまた、般若のような顔に戻っていった。
「不幸自慢…?」
「ええ、そうですよ。聞いていたら全部自業自得じゃないですか。お嬢さんはアナタのせいで、もっと辛い思いをしていますよ。」
「はあああああああ!?」
「結局のところ、アナタは金づるが欲しいんですね。何だかんだ色々言っていますが、僕にはそうとしか聞こえません。」
「…わかった風なこと言ってんじゃねーぞ?」
母が今にも飛び掛りそうな勢いで、拳を握り締めている。
「わかりますよ。僕はアナタの様な人を、よく知っていますから。」
母の歯軋りが聞こえる。
「いくら欲しいですか?1億でも2億でも、好きなだけ差し上げますよ。アナタが彼女を解放してくれるなら。」
先生の冷たい声に、その場が凍りつく。
そんな大金をいとも簡単に口から出す先生に、私は少し恐怖を覚えた。
198 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:46:05.96 ID:+beSXCVE0
母は予想もしなかった言葉に、戸惑って固まっているようだった。
「借金もある…そうおっしゃっていましたよね?もしかして〇〇さんのお店にですか?」
固まっていた母は その名前を聞くと、一瞬だけビクッとした。
「彼女から仕事の話をされて まさかとは思いましたが…〇〇さんのお店ですよね?この辺りでストリップやってるのは そこくらいですから。」
「それは…」
母はさっきまでの威勢が嘘のように、急に大人しくなった。
「大方、前払いで幾らか貰ったんでしょう。彼女が居なくなって困るのは、そのせいじゃないんですか?」
〇〇さんって誰?あのお店のガラの悪い店長?
二人の間では淡々と話が進んでいく。
私は一人だけついていけなくて、混乱していた。
「〇〇さん、怖いですからね。このまま彼女が居なくなってしまったら、何をされるかわからない。」
母は怯えた顔をして床を眺めている。
「…幾ら、頂いたんですか?それさえ返せば、もうアナタが困る理由は何処にも無くなります。」
だが、母は黙ったまま答えない。
先生はまた大きく溜め息をつくと、持ってきた紙袋を母の前に差し出した。
「2千万入っています。お嬢さんを戴きに来た手前、結納金だと思って持って来ました。」
2千万!?
私と母は驚いて先生を見た。
先生は相変わらず冷ややかに微笑みながら、母だけをじっと見つめていた。
200 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:48:24.32 ID:+beSXCVE0
「いくらなんでも、それだけあれば借金返せますよね?」
母は呆然としながら、小さくコクリと頷いた。
「日取りの取り決めも無く、勝手に持ってきてしまい恐縮ですが、どうぞお納めください。」
先生が頭を下げる。
私は慌てて止めに入った。
「先生ダメです!そんな大金…」
「ダメじゃありません。これは結納金なんですから、普通の事ですよ。」
私を遮るように強く言うと、先生はニコッと微笑んだ。
でも すぐ冷ややかな笑顔になって、また母をじっと見つめる。
「それに これだけあれば、当面は生活していけますね?アナタは僕とさほど歳も変わらない。まだいくらだってやり直しがきくでしょう。」
母は何も答えない。
202 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:50:36.01 ID:+beSXCVE0
「正直、僕はアナタが許せません。
でも渚さんにとっては大事な母親のようです。
このまま捨てるように逃げても、彼女はずっと後悔し続けるでしょう。
だから僕はアナタが憎くても憎みきれないし、捨てたくても見捨てられないんですよ。」
自分でも気がつかない振りをしていた本心を見透かされて、私の胸は何故だかグッと痛んだ。
黙り込んでいる母に目をやると、母も複雑な表情で私を見つめていた。
「…それで身の回りを整理して…やっていけますね?」
先生が言い聞かせるように言うと、母は微かにコクリと頷いた。
母が頷くと、先生は やっといつもの顔に戻った。
「じゃあ、これでもう大丈夫ですね。……渚さん。」
急に名前を呼ばれて、私は慌てて返事をした。
「自分の荷物をまとめなさい。それから…」
先生は正座のまま、辺りをぐるりと見渡す。
「少しだけ、ココを片付けてあげなさい。このままじゃ、いくらなんでも酷い有様ですから。」
え?っと思って先生を見る。
相変わらず穏やかにニコニコ笑っている先生の顔を見ていたら、私の心も不思議と穏やかになっていく。
私は呆けている母をチラリと見ると、ハイと微笑み返した。
204 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:53:38.69 ID:+beSXCVE0
「それじゃあ僕は ちょっとだけ出掛けて来ます。すぐに戻りますから、その間にやっておいてくださいね。」
そういうと先生は、床に置いてある紙袋から見た事の無い大きい札束を取り出し、そそくさと玄関の方に歩いてく。
「ちょ!ちょっと先生!」
私は慌てて先生を追いかけた。
「どこにいくんですか?」
「借金、返してきます。お母さんは もう何もしてこないでしょうし、一人でも大丈夫でしょう。」
「返しに行くって…先生がですか?」
私は驚いて聞き返した。
「はい。だってさっさと返しちゃったほうがいいじゃないですか。」
「でも…」
「大丈夫、〇〇さんとは知り合いですから。心配しないで。」
「知り合い!?」
あのガラの悪い店長と、人の良さそうな先生が知り合い…!?
私は さっきよりもっと驚いて聞き返した。
「そうですよ。僕、こう見えて顔が広いんですよ。まぁ詳しいことは後で話しますから。あとは宜しく頼みます。」
先生は驚きの余り固まっている私の頭を撫でると、そそくさと外に出て行った。
206 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:55:21.73 ID:+beSXCVE0
玄関の閉まる音で我に返り、そーっとリビングに戻ると、母はまだ椅子にじっと座っていた。
どうしていいのかわからず、私は部屋を片付け始めた。
酒瓶を拾うたびに、むせ返るような臭いで吐き気がする。
私は我慢できなくなって、台所の窓を開けた。
ふとシンクの中を見る。
私が出て行ってから何も食べていなかったのか、シンクの中は意外と綺麗だった。
あらかた片付け終わったところで、私は床に雑巾をかけ始めた。
「……なぎ…」
一心不乱に雑巾をかけていると、母が私を小さく呼んだ。
手を止めて、ゆっくりと母を見る。
母は泣きそうな顔でぼーっと私を見ていた。
「…なに?」
私が聞き返しても、母は「…なぎ…」としか答えない。
私は立ち上がって手を軽く叩くと、そっと母の前にしゃがみこんだ。
「…なぁに?」
母を見上げながら、優しく聞く。
途端、母の顔がクシャッと歪んで、涙をポロポロと流し始めた。
私は何故か急に切なくなって、母の手をそっと握った。
「なぎ…なぎ…」
母はそう言いながら、泣き続けている。
いつの間にか、母に対する怒りも嫌悪感も消えていた。
私は泣いている母をそっと抱きしめた。
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