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私が初恋をつらぬいた話
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64 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:37:49.60 ID:+beSXCVE0
「もしもし!?」

受話器の向こうから、先生の声がする。

「せんせい…」

「どうしたの?なにがあったの?」

「せんせい…………」

涙が溢れて、上手く言葉がつなげない。

「わかった、落ち着いて……今家にいるの?」

「…家にいない…そとにいる」

「外ってどこ?一人で居るの?」

「〇〇病院の…所で……うん、ひとり」

「〇〇病院にいるのね?」

「…うん…」

「わかった、今から行くから絶対にそこで待ってて。いい?わかった?絶対に動かないでそこで待ってて!」

先生はそういうと電話を切った。


65 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:39:31.74 ID:+beSXCVE0
切れた電話を握りながら、深呼吸を繰り返す。

呼吸こそ乱れていたものの、涙は止まり、私はその場に座り込んだまま ぼーっとしていた。

風や草の音に耳を傾け、何も考えられずに座っていると、車の音が徐々に近づいてくる。

近くで停まったな…と思っていると、また携帯が鳴った。


「もしもし?今〇〇病院に着いたんだけど、どこにいるの?」

先生の声だ。

「…病院の影にいます」

「影…?……今、僕が見える?」

身を乗り出して病院の正面入り口辺りを見ると、堺先生がキョロキョロしながら立っていた。

「…見えます」

「よかった。じゃあこっちに出てこれるかな?」

私は携帯を耳に当てながら一生懸命立ち上がると、フラフラしながら先生の方に歩いていった。


私に気が付いた先生が、凄く驚いているのがわかった。


家から一目散に逃げた私の恰好は、引っ張られてヨレヨレになり所々破れたTシャツに、砂だらけになった短パン。

その上裸足で頭はボサボサ。

薄明かりの下の私は、幽霊の様だったことだろう。

先生はヨロヨロ歩く私に駆け寄ると、さっと肩を支えた。

そして次の瞬間、フワッとした感覚があったと思うと、私は先生に俗にいうお姫様抱っこをされていた。

先生は、完全に脱力した状態の私を器用に車の後部座席に乗せると、

「狭いけど、ちょっとだけ我慢してね」

と、車を走らせた。

泣き疲れたからか、それとも先生に会えた安心感からか、私は横になりながらウトウトしていた。




66 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:41:15.31 ID:+beSXCVE0
「渚さん、起きてる?」

声をかけられて、小さくハイと返事をする。


気がついたら車は停まっていた。

「ちょっと待っててね。」

そう言って先生は車から降りた。

ここはどこなんだろう…

横になったままボーっと考えていると、先生が後部座席のドアを開けた。

「起き上がれる?」

小さく頷いて起き上がった私の体を少しだけ引っ張ると、先生はヨイショっと言い、また私を抱っこした。

乱暴に体でドアを閉める音がする。

見慣れない場所に目を凝らすと、目の前に小さなマンションが見えた。

どうやらココは、このマンションの駐車場だったらしい。

先生は一階の一室の扉を空け、私を玄関に座らせると、玄関の鍵をそーっと閉めた。

「…鍵…」

先生がボソッと呟いたのが聞こえて、私は首をかしげた。

「…家の鍵閉めないで、出てっちゃってたみたい…」

先生が恥ずかしそうに頭をポリポリかいたのを見て、私はようやく少しだけ笑った。


67 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:42:30.54 ID:L9GcuA1Wi
先生かっこよすぎる



68 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:43:01.30 ID:+beSXCVE0
「あ…ちょ、ちょっと待ってね。」

先生は一瞬だけ私をじっと見ると、何か焦ったようにそう言って、奥の部屋にバタバタと入っていった。

しばらくガタガタと物音がしていたかと思うと、手に何枚かの服を持って戻ってきた。

玄関横の引き戸を開ける。

「サイズ合わないと思うけど…とりあえず着替えておいで。」


そう言われて初めて、私は自分の恰好が凄い事になっているのに気がついた。

ボロボロになったTシャツから、お腹やブラジャーが覗いている。

私は恥ずかしくなって、慌てて腕で上半身を隠した。

「あぁ!ごめんなさい!俺、あっちにいますから!」

先生は また慌てて奥の部屋に引っ込んで行った。

あれ?先生今、俺って言った?

少し驚きつつ、ヨロヨロしながら立ち上がると、私は開けられた引き戸の中に移動した。

物が異常に少ない、綺麗に整頓された洗面脱衣所だった。

先生に渡された服に着替える。

少し大きな長袖のTシャツに、少し長めのハーフパンツ。

何か少し不思議な気分になりながら、今まで来ていた洋服を畳むと、私は先生に声をかけた。

「あの…先生。」

廊下の奥、部屋を仕切る扉の向こうから、先生はハイと返事をした。

「足と…できれば、顔を洗いたいです…。」

「あぁ!そうですよね!…そっちに行っても大丈夫ですか?」

私がハイと返事を返すと、先生はそーっと扉を開けて入って来た。

何だか ちょっと気まずそうに私の横をすり抜けると、タオルタオル…と小さく呟きながら洗面所の棚をあさる。

「一枚で足りますか?」

「はい?」

「タオル…」

「あぁ、はい大丈夫です、足ります。」

私が慌ててうなずくと、先生はニコッと笑って今度は浴室の扉をあける。

蛇口を捻ってしばらく手を流水にさらし、ウンっと小さくうなずくと、

「どうぞ」

と言って、廊下に戻った。


71 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:46:23.02 ID:+beSXCVE0
「僕、またあっちにいますから。汚れ物はハジッコにでも置いといて下さい。」

私が頷くと、先生はまたニコっとして奥の部屋に戻っていった。


浴室で足と顔を洗うと、頭がシャッキリしていく。

冷静になってくると、ここがどこだか実感が沸いて来る。

ここ、先生の家だ…

私は色々と恥ずかしくなり、何故か慌ててお湯を止めると、急いで足と顔を拭いた。

使ったタオルを さっき畳んだ服の上に置き、洗面所の端に移す。

スイッチを探して電気を消すと、何故かそーっと奥の部屋の扉の前に移動した。

どうしていいか わからず、ノックをする。

すぐに扉が開いて、先生がどうぞ…と部屋に招きいれた。

「お邪魔します…」

小さく言って部屋に入る。

広いリビングダイニング。

小さな座卓、少しだけ大きなテレビ、二人がけの黒くて背の低いソファと、部屋の端に電子ピアノ。

広さの割りに物が少なく、綺麗というよりはガラガラと言った方がわかり易い部屋だった。


「あ、そこに座って。」

促されるまま、ソファに座る。

先生も私を向くように床に座ると、そこからしばらくの沈黙が流れた。


「…それで…一体何があったんですか?」

先生がゆっくりと口を開いた。私は黙ってうつむいた。

「…話せる範囲で構いませんから…」

そう言って先生は まっすぐ私を見た。

私は少しずつ、話し始めた。



>>次のページへ続く
 
カテゴリー:人生・生活  |  タグ:すっきりした話, これはすごい, 胸キュン,
 


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