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私が初恋をつらぬいた話
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71 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:46:23.02 ID:+beSXCVE0
「僕、またあっちにいますから。汚れ物はハジッコにでも置いといて下さい。」

私が頷くと、先生はまたニコっとして奥の部屋に戻っていった。


浴室で足と顔を洗うと、頭がシャッキリしていく。

冷静になってくると、ここがどこだか実感が沸いて来る。

ここ、先生の家だ…

私は色々と恥ずかしくなり、何故か慌ててお湯を止めると、急いで足と顔を拭いた。

使ったタオルを さっき畳んだ服の上に置き、洗面所の端に移す。

スイッチを探して電気を消すと、何故かそーっと奥の部屋の扉の前に移動した。

どうしていいか わからず、ノックをする。

すぐに扉が開いて、先生がどうぞ…と部屋に招きいれた。

「お邪魔します…」

小さく言って部屋に入る。

広いリビングダイニング。

小さな座卓、少しだけ大きなテレビ、二人がけの黒くて背の低いソファと、部屋の端に電子ピアノ。

広さの割りに物が少なく、綺麗というよりはガラガラと言った方がわかり易い部屋だった。


「あ、そこに座って。」

促されるまま、ソファに座る。

先生も私を向くように床に座ると、そこからしばらくの沈黙が流れた。


「…それで…一体何があったんですか?」

先生がゆっくりと口を開いた。私は黙ってうつむいた。

「…話せる範囲で構いませんから…」

そう言って先生は まっすぐ私を見た。

私は少しずつ、話し始めた。



72 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:48:14.58 ID:+beSXCVE0
去年の冬、母が再婚すると言って25歳位のガラの悪い男を連れてきたこと。

春休みが始まってすぐ位の時、寝ていたところを男に体を弄られたこと。

それからは家で眠るのが怖くて、夜中は外で過ごしていたこと。

でも体調が悪くなり、仕方なく家に戻って眠っていると、男に襲われ、慌てて家を飛び出して来たこと。

気がついたら先生にメールを送っていたこと。



私は ただ淡々と、どこか他人事の様に話をした。

話している間、先生は真剣な顔をして下を向き、眉間にシワを寄せながら うんうんと頷いていた。

私が話すのをやめると、ふたたび沈黙が訪れた。

空気が重苦しく、心臓が締め付けられるように痛くなっていく。

チラッと先生を見ると、今まで見たことのない無表情な顔で、ただ目だけは何かを睨みつける様にじーっと床を見つめていた。

いつもニコニコと穏やかな表情をしていた先生の顔とのギャップに、私の背筋は少しだけゾクっとした。

何だか怖くなって、私も下を向いた。




73 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:49:39.57 ID:+beSXCVE0
しばらくの間、私達は黙って下を向いていた。

だんだんと、何故か自分が怒られているような、不思議な気分になってゆく。


色々な事が頭を駆け巡り また涙目になっていると、先生が大きくフー…っと溜め息をついた。

ビクッと驚いて先生を見る。

ゆっくりとこちらを向いた先生は、私と目が合うと、いつものようにニコっと笑った。

「目…腫れちゃってますね。」

先生はそう言って立ち上がるとキッチンに行き、冷凍庫から氷を取り出して袋に入れ、小さなハンドタオルと一緒に持ってきた。

そして私の横に腰掛けると、不思議そうに見ている私の顔を優しく押さえ、目にそっと氷袋を当てた。

「…今から冷やして、効果あるかな?」

先生がちょっと困ったように笑いながら言う。


その途端、胸につかえていたドロドロとした感情が溢れだし、私は堪えきれずに声を押し殺して泣いた。

先生は私の背中をずっとさすりながら、もう大丈夫だから…と何度も何度も繰り返した。



75 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:51:50.35 ID:+beSXCVE0
目を覚ますと私はソファの上で、妙に大きな毛布を掛けられていた。

ぼーっとした頭で、ここが何処だか思い出す。

ハッとして部屋を見渡すが、先生の姿はなかった。

どこに行ったんだろう…そう思いながらテーブルに目をやると、何やら色々と置かれていることに気がついた。

缶コーヒーとペットボトルのお茶、フェイスタオルに小さなメモ用紙。


ー 今日は土曜日ですが、少し仕事があるので学校に行ってきます。

午前中だけなので お昼頃には帰ると思います。

目が覚めたら顔を洗って、お茶でも飲んで待っていてください。 ー



メモには癖のある綺麗な文字で、そう書かれていた。

ふと壁に掛けてある時計をみると、大体11時半。

私は書かれた通りに顔を洗うと、ソファに戻ってお茶を一口だけ飲む。

ホッと一息つくと、昨日の出来事が思い出され、何とも言えない複雑な気分になった。

振り払うように大きく首を振り、ギュッと体育座りをする。

顔を埋めたシャツの袖から、洗濯物のいい香りがした。

少しだけ気持ちが軽くなったような気がして、私はその体制のまま先生の帰りを待った。



じっと座って暫くウトウトしていると、玄関の方からガチャっと音がした。ビクッとして顔を上げる。

部屋の扉がそーっと開いて、先生が入って来た。

目が合うと先生はニッコリ笑う。

「あぁ、起きてましたか。よく眠れました?」

私が小さく頷くと、先生は「よかった。」とだけ言い、リビングの隣にある部屋に入っていく。

チラリと見えた部屋の中はカーテンが閉めっぱなしなのか薄暗く、ど真ん中に置かれているであろうベッドの陰が何となく見えた。

少しだけ開いた扉の向こうから、先生の着替える音が聞こえる。

私は急に恥ずかしくなって下を向いた。



74 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:51:24.89 ID:L9GcuA1Wi
おい髪切りに行く予定なんだよ

どうしよう




76 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:54:10.17 ID:+beSXCVE0
>>74
まだまだ長く話が続くと思います。どうかお気になさらずに、さっぱりしていらして下さい。


Tシャツとジーパンに着替えた先生は欠伸をしながらテーブルの脇に座ると、ハハっと笑った。

「昨日あんまり寝てないから。失礼しました。」

慌てて私は首を振る。

「ごめんなさい、私のせいです。先生に迷惑かけちゃいました…本当にごめんなさい。」

「いえいえ、お気になさらず。元はといえば勝手に連れて来た僕が悪いんですよ。………さて…」

先生はちょっとだけ真剣な顔をして、話し始めた。

「とりあえず、この状況を誰かに見られたらとってもマズイです。やましい事は何もありませんが、きっと誤解を招くでしょう。」

「はい…」

「なので、暗くなるまではちょっとだけココに居てもらいますね。大丈夫そうになったら、ちゃんと送りますから。」

「はい…」

「でも……失礼ですが、あの家に帰すのだけは僕も不安です。どこか代わりに帰れる所ってありませんか?」

「…………無いです」

私がそういうと、先生は困った様に笑いながら「ですよねー。」っと言った。

「困ったなぁ…どうしましょうか。」

先生が頭をポリポリとかいた。


返事ができずに俯いていると、先生はまた真剣な声になって話しを続けた。

「あの…非常に言い辛いのですが……」

私は黙って頷く。

「…児童相談所に連絡してみるのはどうでしょうか?



79 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:56:45.96 ID:+beSXCVE0
児童相談所…その言葉を聞くと、頭がグラグラした。

「ハッキリ言います。貴女がされたことはレ○プ未遂です。どう考えても貴女の新しいお父さんは異常です。」

ずっと頭の中で否定し続けていた言葉を言われ、私は堪らず うつむいた。

「明らかに虐待…いや、それ以上の酷い事です。渚さんは もうすぐ18歳ですが まだ高校生なので、きっと助けてくれるはずです。」

「……」

「他に身内も、頼る所も無いとなると、そうするのが一番最良だと思うのですが…」

私はブンブンと首を振った。

「…嫌です。」

「でも、このままじゃ貴女が…」

私は遮るように話し続けた。

「嫌です、絶対に嫌です!あの男に何をされたか話さなきゃいけなくなりますよね?私が保護されたら、地元の人たちにも何をされたかバレますよね?」

「でも…」

「嫌です、そんな事私には耐えられません!やっと友達も出来て、やっと普通に過ごせているんです!それを壊してしまうような事、私には出来ません!」


堪えきれず涙が溢れてくる。

あの家は確かに怖かった。

けれども それ以上に、小さな田舎の噂話の方が怖ろしい事を、私は知っていた。

この件が表沙汰になれば、実際は未遂で終わった事でも、私は義父にヤラレチャッタ女として周りから見られてしまう。

そうなると もうこの町には居られなくなる。友達にも一生会えなくなる。

私にはそれが耐えられなかった。




>>次のページへ続く
 
 


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