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田舎という環境での不倫連鎖
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「真紀さんは美人だし、性格も申し分ないと思っていたから、おまえは幸せに暮らしていると安心していた。そのような女だったとは。

それでお前はどうしたい?このまま尻尾を丸めてここにいるか?」

心配してくれている兄ですが、最後の言葉にはムッとしました。


「その顔なら、まだ戦う気力はあるようだな」


「でも何をしたらいいか」


「今回の事が知れれば、おまえは情けない男の烙印を押されると自分でも言っていたじゃないか。

確かにここに帰ってくれば、村の連中には会わないから、何を言われても関係ないかも知れない。

それでもお前のいないところで、あそこにいた養子はと、ずっと噂されるのだぞ。

本人がいなければ、余計におまえだけが悪者にされる。

もしも、裁判にでもなって親権をとられてみろ。

子供達はずっとあの子達の父親は情けない男だったと陰口を叩かれる」


しかし、私には、どのようにすれば良いかが分かりません。


「先ずは真希さんと離婚するのかしないのかを決める事だ。

離婚するのなら遠慮はいらないから、真希さんを含めて、そいつらも村にいられないぐらい徹底的に追い込んでやれ。

離婚しないのなら、真希さんの身も心もおまえから離れられなくする事だ。

それと他の連中にも償わせる事を忘れるな。目に目を。奴らを脅してでも」


今でこそ兄は、少しは名の通った会社の係長をしていますが、昔は文武両道とは、少し違って勉強と暴走族を両立させていた少し変わった男で、私には常に父親よりも怖い存在でした。

その兄のこのような言葉には迫力があり、私は思わず生唾を飲み込みます。

しかし、私の気持ちは兄の言葉で勇気付けられたのも確かで、子供達の事だけが気掛かりなだけで、全て捨てて婿養子になった私には何も失うものは無いと知ります。
妻との離婚については、少し考えただけで結論が出たので、私は逃げるのをやめて、子供達を車に乗せると妻のいる村に向かって車を走らせながら、実家を出る直前に兄が言った言葉を思い出していました。


「田舎の事はよく知らないが、おまえが言った通りだとすると、みんな弱い人間ばかりじゃないか。

そんなもの皆まとめて地獄行きだ。同じ穴の狢だから一蓮托生、話も早い。

お前が恐れている事を他の奴らも恐れているという事だ。

おまえがその事を恐れなくなった時、おまえの一人勝ちになる」


私が恐れていたのは人々の噂です。

そう考えるとおぼろげではありますが、5人の関係が見えてきたような気がしました。

最初、詩織が浮気した時、健二は今の私と同じ様に、妻に男を作られた情けない男だと噂されるのが怖かったはずです。

同じ立場の私だから分かるのですが、普通にしていても、頼りなく見られがちな婿養子では、その気持ちは普通の夫よりも強かったはずです。

しかし、私が思い違いしていたのと同じ様に、自分だけが馬鹿にされると思っているのは間違いで、浮気した詩織も世間に淫乱な女だという烙印を押されるのが怖く、詩織の両親も あそこの娘はふしだらな娘だと噂されるのが怖かった。

下手に大騒ぎして村の連中に知られては、家族全員ずっと人目を気にして暮らしていかなければならなくなります。

ましてや悔しくても、表沙汰に出来ない健二が、自棄になって家を出て行ってしまえば何れ噂になり、憶測も飛び交って村を捨てられない残された者には痛手でしょう。

それで詩織は何らかの方法で、妻や香澄を健二に抱かせたのかも知れません。

それは健二から出した条件だったのか、詩織がそのように仕向けたのかは分かりませんが、これで、健二の心も少しは癒され、男としての面子も保てて家を出て行かなくても済んだのだと思います。

しかし、今度は幸三が、何らかの形で香澄が健二と関係を持った事を知って香澄を責めた。

しかし、幸三もまた表沙汰には出来なくて、我慢しようと思ったがプライドが許さない。

それで責められた香澄がとった方法は、詩織の事で前例があったように、自分の親友を幸三に宛がう事でした。

私の推理が当たっているとすれば、これは負の連鎖で、家族を含めた全員が見て見ぬ振りをしなければなりません。

それで健二は離れで あのような事が出来、詩織や詩織の親に聞こえても平気だったのでしょう。

むしろ香澄の厭らしい声を聞かせて、悔しい想いをさせたかったのかも知れません。

子供達さえいなければ、詩織や親の目の前でして見せたいぐらいの気持ちだと思います。

私の推理が当たっているとすれば、兄の言う通り奴らは一蓮托生、同じ穴の狢です。

その時私は、私が最も恐れている事に気付きました。

それは子供達の事で、子供達と別れるのが一番辛いのです。

それがあって私は離婚しない道を選んだのかも知れません。

それは家を出て無職になっては、親権など取れるはずがないと思ったからです。

兄の言う通りなら私が噂や陰口を怖がらず、最悪子供達との別れも辞さない覚悟を持つ事が出来れば、奴らに勝てる事になります。

しかし、子供達とは何があっても別れられません。

その時、私の脳裏に、兄の言った言葉が浮かんで来ます。

「奴らを脅してでも」

人を脅す時には、必ずしも真実が必要な訳ではありません。

それは、実際に子供達と別れる覚悟が出来なくても、そのような素振りを見せて脅せば良いと言う事です。

私は世間の噂と子供達という、奴らの弱点を突いて、有利に事を進める方法を考えていましたが、それは案外簡単に思い付きました。

何故なら、それは私の弱点でもあるので私がされて困る事を、私がされて嫌な事をすれば良いのです。



流石に途中で仮眠をとって、帰ったので、着いたら既に朝になっていて、まだ眠っている子供達を車に残して玄関から入って行きましたが、“ただいま”では可笑しいので声が掛けられません。

すると奥の方から妻と義父の言い合う声が聞こえてきたので、私は何も言わずに入っていきました。


「私は行かないなんて、どうするつもりだ!」

「私ばかりが悪いんじゃない。浮気された方にだって責任はある」

「そんな事を言っていても仕方がないだろ。とにかくここは頭だけでも下げに行くんだ」

「謝りに行ってこのまま元に戻ったら、私は一生この事を責められながら・・・・」


妻はこの期に及んでも。自分の立場しか考えられないようです。
「その時はその時で考えればいい。とにかくここは形だけでも」

私に対して良くしてくれた義理の両親の、腹の中も見てしまった思いです。

それは、仕方の無い事かも知れませんが、やはり娘が一番可愛いのです。


私が いきなり戸を開けると妻は一瞬驚いた顔をしましたが、すぐに口元が弛みます。

それは、結局私には行く所がなく、やはり帰って来たという思いの現われだったのでしょう。


「帰って来てくれたのか。子供達はどこにいる?」

「車の中で眠っています。しばらく真希と二人で話させてもらえませんか?」

両親は少し安心した顔で、子供達を連れに行くと自分達の部屋に行きました。

「私・・・・謝らないから」

「謝らなくてもいい。反省もしていないのに、口先だけの謝罪なんかいらない」


「ううん。悪い事をしたとは思ってる。でも謝らないから」

「謝らなくてもいいから、それよりも健二を呼べ」


このまま済むとは思っていなかったようで、素直に健二に電話しました。

「幸三もだ」

「どうして?どうして香澄のご主人まで」

「それは真希が一番知っているだろ。俺は全てを知っているんだぞ」


健二の時とは違って今度は不安な顔をしたので、健二とは打ち合わせが出来ているのだと思いました。


「マス夫君、悪かった。ほんの出来心だったんだ」

健二は入って来るなり そう言って土下座しましたが、表情にはどこか余裕があります。


「どうか穏便に済ませて欲しい。

俺はこのような事をしてしまったから、世間から何を言われても構わない。

しかし、こんな事が噂になると、何も悪くないマス夫君まで何を言われるか分からないから、どうかここは穏便に」


いかにも私を心配しての言葉のようですが、やはり噂になっては、私が不利になる事を知っていて、健二はそこを責めてきたのです。

おそらく、あの後に妻と話し合い、私が大事には出来ない事で意見が一致したのが、二人の余裕に繋がっているのでしょう。

私は何も答えずに、ただ黙っていると、しばらくして幸三がやって来て、やはり健二と同じ事を言います。


健二や幸三が浮気された時にも同じ様な話し合いがあり、二人は噂を恐れて ここで引き下がったのかも知れません。

「私も事を荒だけたくはないので、話し合いで穏便に済ませたいと思います」

すると3人に安堵の表情が浮かびましたが、次の言葉で一瞬にして険しい表情に変わりました。


「お二人に対して、それぞれ慰謝料として一千万。それで忘れる事にします」


「一千万?無茶な事を言うな。マス夫君も少なからず、今の農家の状態は知っているだろ。そんな金が払えるはずが無い」


「それなら最初からこのような事をしなければ良かったですね。

やる事をやって金が無い。

それじゃあ無銭飲食と変わらない。

では裁判と言う事で。

心底謝罪しているとは思えないので、いくら謝ってもらっても気持ちは晴れない。

他に話しは無いので、どうぞお引取り下さい」


すると年長者の幸三が、私を説得に掛かろうとします。

「マス夫君は若いから分からないかも知れないが、裁判なんかして こんな事が村の連中に知れたら」


>>次のページへ続く
 
 


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