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僕とオタと姫様の物語
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360 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   投稿日:04/09/10(金) 00:36
お互い迷ってしまわないように東海道新幹線改札の前と指定しておいたのがよかった。

姫様が広いタイル張りのプラットホーム連絡通路を走ってくるのを すぐに捕まえることができたから。

ふたりで とりあえずコーヒーを飲み それから横須賀へと向かう電車ホームを目指した。

お互いあまり口をきかなかった。

姫様は ぼくに寄り添うようにして、ぼくの腕をしっかりつかんで歩いた。


ぼくらが目指すのは かの地。

過去の時の中で永遠に凍りついて、絶対に溶け出すことのない場所。

彼女が過去に ごっそり失った何かが、そこに散らばっているんだろうかと考えてみるけど、それはたぶん現実的じゃない。

彼女は ただ そこを訪れることを望んでる。

自分の傷ついた気持ちがそこにある何かで あがなえると、本気で信じてるわけじゃないだろう。


単純に考えよう。

彼女は弟に会いたがってる。

だから ぼくも同行する。


ぼくはウーロン茶と途中来るときに買ったベーコンサンドの包みを彼女に渡して ホームに滑りこんできた電車に飛び乗り 彼女のために窓際の席を確保した。

ぼくは彼女がよく見えるようにと、対面の席に腰掛けたけど彼女が小声で「手を握ってて」とささやいたので、彼女の隣に座った。

客は まばらだった。

ぼくはCDウォークマンのイヤリングみたいなスピーカのRを彼女に渡した。

バッハの無伴奏チェロソナタ。

気分じゃなかったら聴かなくていい。でもさ、こういうときは気分が落ち着く。と姫様に勧めた。


電車が ゆっくりと動きはじめると彼女は ぼくの手をぎゅと握った。

頭をお互いにくっつけると、頭蓋骨が振動してボーンフォンみたく聴こえないかな。

ぼくの耳にあるのはL。

聴こえてきたのは小さな風の音だった。

車内を循環する空気の流れが、ぼくと姫様の頬をすり抜ける音だった。



539 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/01(金) 21:06:24
間違いなく忘れ去られてるだろうな。と思ってたので ひっそりアップしとこうと考えてましたが。レスが しっかりついてたのを読んで正直驚いてます。

驚くのと同時に なんだか嬉しい気分でした。わざわざ保守してくれた人もいたようで…ありがとう。

続きを はじめたいと思います。



その前にレスにくっついてた質問とか ちょっと気になったことを先に。

このスレを最初に立てた1は まだいるのでしょうか?

途中からひっそりいい加減に てきとうに書き始めた頃は まさかこんなにレスがつくようになるとは、ぼくだって想像してなかったので実は ちょっと気にしてたりします。

風俗嬢について2ちゃんらしい世間話を毎晩アップしたり読んだりすることを楽しみにしてる人だっていると思うからです。

じゃあスレッドを自立したほうがいいかというと、ぼく自身そうは考えてはいません。

つまり、いままでのとおり風俗嬢について書き込む人がいて そのあいだに埋没するみたいに、ぼくのくだらない文章の塊が挟まる。ってふうにしたいのです。いままでと変わらないように。


理由は

ひとつには、スレを自立するような大袈裟なものじゃないってことと ぼく自身 このスレタイがとても気に入ってるからです。

70ウザイ!って人もいると思いますけど できれば このまま続けたいのです。

ぼくを読書家だとか、そんなふうに考えてくれっちゃったりした人達。残念でした。

ぼくは普段、小説とか文学なんてものからは ほど遠い人間です。村上龍も春樹も読んだことありません。

ぼくが書いてアップし続けてる文章は、およそ小説なんて呼べるものじゃないです。

時間軸に沿って話を、ただ「説明」しているだけだからです。

もちろん ここには主人公の視点となるべきテーマもありません。

夜、就寝する前の、「すべての喪のためのデタラメな子守歌」と受けとめていただけると助かります。w

お互い喪同士。脛の傷の痛みは分かってますってば。


これから書きます。

が、残務あり。アップの時間は約束できそうにありません。



548 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/02(土) 01:53:50
横浜を過ぎたあたりから電車は闇の中へ。

小さく区切られた田んぼに突き刺さった地方企業の看板やガソリンスタンドのオレンジ色のライトが窓ガラスに反射した彼女の顔に重なって、視界の隅へと流れて消えてゆく。

まばらに見える民家の灯りは どこか淋しくて たぶん彼女も同じように感じてたんじゃないかな。

ぼくの手を握る細くて長い指が彼女の気分にリンクして弱く開かれたり強く閉じられたりした。

寒くないかと訊くと、彼女は平気と答えてからバッグを ごそごそかき回し、それからピンクのクマをひっぱり出して窓ガラスに立てかけた。

クマにも外が見えるように、頭のジンジャエルのキャップを少しひねって自立するように置いた。

クマは足が短くて、胴体が異様に長い。 そのバランスの悪さが愛らしくもあって 見ていると切なくなってきた。

ずっと昔、このクマはこの風景を見たことがあると彼女は言った。ただ風景の流れは今とは逆で、東京駅へむかう電車だった。

そのとき、クマのご主人様は もうこの世界にはいなかったんだと言った。

ぼくはヘッドフォンのLを外して彼女にかけてやり、ボリュームを少し大きくした。

悲しい気分とかつらい気分を、音楽は押し流す力がある。即効性はないかもしれないけど 音楽には傷を癒す力がある。ぼくはそう信じて疑わないタイプだ。


「ウ ル サ ク ナ イ カ ナ?」

口パクと身振りで彼女に聞いてみた。たぶんボリュームサイズから ぼくの声は聞こえない。

彼女はすぐに理解して「ヘ イ キ」と答えてくれた。

ぼくの耳から音楽がなくなって、電車の規則正しい振動音だけになった。乗客の話し声もしない。

電車は横須賀を目指していて、それはそんなに遠い場所ではないのに ぼくには長い時間に感じられた。

それは彼女の痛みが ぼくに伝染したせいだった。

彼女のぼくの手を握るその爪が白くなっているせいだった。



549 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/02(土) 01:56:25
横須賀駅に到着すると ぼくはキオスクの自販機に走った。

ミネラルウォータとコーラを買い コーラのキャップを外してミネラルウォータで洗い残りをボトルごとゴミ箱に捨てた。クマの新しい帽子だ。

姫様の口元にかすかに笑みが戻ってきて そいつが消えてしまわないうちに、タクを捕まえた。

話では車で5分くらいの距離らしいから、一気にあの場所を目指そうと考えた。

タクの運転手は陽気な中年で駅前の美味いラーメン屋とか安く飲める居酒屋の話を ひたすら喋り続けてくれた。

願ってもないことだった。余計なことを考えなくて済む。

ぼくは帰りに そこへ寄っていこうと彼女に言い、運転手の喋りに いちいち相槌をうち たいして面白くもない冗談に声を出して笑った。


運転手が ほんとうにここでいいのか?と言った場所は確かに公園だったけど 想像していた雰囲気とは随分違っていた。

そこは公園ではなくて神社だった。

まわりの空き地を盛り土で円形に持ち上げた感じの神社には滑り台とブランコと模型のような背の低い木が数本あるだけだった。

鳥居は朽ちて色が ほぼなくなっていたし、ひどいことに傾いて いつ倒れてもおかしくない状態。

滑り台に砂場はなく、ブランコにはブランコが下がってなかった。

「ここでいいのかな?」

と訊いた。

彼女はこくりと頷いた。

ぼくは彼女に手を引かれて歩いた。


足下は暗くて木ぎれとかプラスチックのゴミが散乱しているようで ここが人の記憶から置き去りにされている場所なんだとわかった。明かりも音もなかった。

澄んだ空気のせいで星と月がやけにくっきりと見える。

はき出した息が白い雲のように月に重なって、姫様は流れる影。


ずっとずっと長いこと、彼女は渋谷の夜の闇の中で出口を失って苦しんでた。

だから ここにある暗がりなんて ちっとも怖がってない。

彼女の気配まで闇に溶けこんでしまったとき、ぼくは なぜかちょっと安心した気分になった。

上手くいえないけど、彼女がここへ戻ってきたことを後悔してるようには思えなかったからかもしれない。

彼女が溶けこんだ暗がりを、ぼくも怖いとは感じなかったからかもしれない。



551 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/02(土) 01:58:14
苔に覆われてしまった水道の蛇口。

風が砂をどこかへ持ち去ったあとに残った砂場だった場所の窪み。

首のなくなった狛犬。

高さの半分から下のすべての樹皮を失った樹。

そのぜんぶに思い出があると彼女は言った。


缶蹴りをやるときの陣地があの樹の生えてる場所で、子供達が つかまって回転するものだから、あの樹は樹皮を失ってしまった。

でも、こうやってまだ生きてるんだと、春には しっかり芽吹くための準備をしているんだとm感心したように言った。


あの夏。

彼女の弟も ここで鬼ごっこやら、缶蹴りをやって走りまわったんだろうな。

彼女だって きっと同じことをやったんだ。

ぼくらは お互いの距離を狭めるでも拡げるでもなく闇の中で等間隔を守りながら狭い境内を彷徨った。


やしろの崩壊もひどいものだった。

子供達の遊び場所としての機能もとっくに失われていて いまでは幽霊の噂を提供するくらいしか使い道がなさそうに見えた。


歩くと不気味な音を立てる床板に気をとられていたけど 何かのはずみで見上げた天井は ちょっとした驚きだった。見事に彩色された古い絵の数々。

そのほとんどは間仕切りの格子だけ残して滅茶滅茶に破壊されている。

でも、それが新ピカだった頃の派手さは容易に想像できた。

欠落した部分は、目を閉じた彼女の唇が魔法のように正確に復元してくれた。

黒い牛。

神官と黒い袈裟のたくさんの僧侶。

たくさんの雲。

荒れる海面。

龍。

そして太陽。


彼女は太陽が描かれた天井板の一枚を指さして、はあっと白い息を吐き出した。

あの太陽。

朱に塗られた一枚の板。


ぼくは彼女の顔を見た。頬につたって流れるきらきら光る水滴を見た。

きっと何かを思い出したんだろう。

あの板には何かがあるんだろう。


ぼくはあちこちに散らばるガラクタとゴミの山の中から、物干し竿を探しだしてきて力任せにその天井板を打ち抜いた。

大量の埃といっしょに、あっさりと板は やしろの床に落下した。

古いデザインの缶コーヒーの空き缶といっしょに。


彼女は その空き缶を拾い、指先でつまんで くるくるまわして確認したあと ゆっくりと声を立てずに泣きはじめた。

「やっと帰ってこれたよ。ヒロ」

彼女はそう呟いたけど、ヒロがぼくのことなのか弟のことなのかは分からなかった。

彼女は ぼくの手を握って静かに震えるように細かく、白い息を吐き続けた。





>>次のページへ続く
 
カテゴリー:男女・恋愛  |  タグ:純愛, 泣ける話, 胸キュン, 青春, これはすごい, 相手の過去,
 


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