変わり果ててしまった妻
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私は初めて浮気をして朝帰りをしたが、妻を裏切った思いは全く無かった。
言わないだけで、妻が私に何か不満があって青山とこのような関係になったとしたら、妻が浮気したから私も浮気したでは同じ種類の人間になってしまう。
しかし、この時の私は、罪悪感など全く無かった。
それどころか、妻の裏切りを考えれば、このぐらいの事は大した事はないとさえ思っていた。
妻を捜すとカーテンが閉められた薄暗い寝室で泣いている。
「まだいたのか。早く出て行けよ」
一晩泣きながら考えたのか、私を見る妻の目が縋る様な目に変わっている。
いくら証拠を突きつけられたとしても、このように早く変わるのは青山が どのような人間か理解出来たのでは無くて、青山の人間性を初めから分かっていたのかも知れない。
自分を誤魔化して認めたくなかっただけだったのが、これで認めざるを得なくなっただけなのかも知れない。
「出て行く所がありません」
「青山は離婚して一人身だから、奴の所に行けば喜んで受け入れてくれるだろ?」
今までは そうなってしまうのを一番恐れていて言えなかったが、妻が青山の正体を認めつつある今なら言える。妻はそこまで馬鹿ではないと思ったのだ。
「バスの始発まではいてもいいから、取りあえずこの部屋からは出て行ってくれよ。この部屋に俺と二人だけで居るのが嫌で、千里から寝室を別にしたのだぞ」
いくら皮肉を言っても、気持ちが納まる事は無い。
「子供達とも最後になるから、少しの間でも子供達と一緒にいたらどうだ?」
「子供達をおいて出て行けません」
「高校生と中学生だから善悪は分かる歳だ。子供達も分かってくれるさ。俺が全て話すから」
更に妻に追い討ちを掛けると、妻の赤く硬直していた顔が、今度は一気に青ざめていく。
「いや!そんなのいや!」
「いやでも仕方が無い。全て千里がしてきた事だ」
仮に妻も騙されていたとしても、それと青山に抱かれていた事は話が別だ。
18年も連れ添った私を信用せずに、青山の話を信用したのには きっと何か訳がある。
私の身の潔白が証明されて、青山の非道さが分かっても、その事について一度も謝らないのはなぜだ。
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その日、私は会社を休んだが、妻も仕事には行かないようで、子供達が出掛けると初めて私に土下座した。
しかし、それは、私を裏切った事への謝罪ではない。
「この家において下さい。お願いします」
「それは出来ない。それよりも仕事に行かなくてもいいのか?
会社を首になったら、ここを出てからどのように食べていく?
そんな心配はないか。青山の愛人になって、お手当てを貰えば。
ただし その金は、青山が借金した金だが」
私は妻を泣かせたいのに、妻は必死に泣かないように我慢していた。
「青山のチンポを散々舐め回していたような、汚れた女の顔など見たくない。それに」
私は わざと汚い言葉で罵ったが、二人の男のなぶり者になった事までは、妻が不憫で言えなかった。
このような事をされても、妻を不憫に思う気持ちが残っている。やはり私は まだ妻を愛しているのか。
「子供達と離れられません」
「離れられないと言っても、本当の事を知れば子供達から離れていってくれるさ」
「子供達には・・・・・・」
「それに、子供達と暮らしたいだけで、俺とは どうでもいいのだろ?そんな奴と一緒に暮らせると思うか?」
私は謝って欲しかった。どんなに謝ってもらっても許す事など出来そうもないが、それでも私と離れられないと言って欲しかった。
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私は苛立ち、役所が開くのを待って離婚届を貰いに行くと、私が先に署名して妻に渡す。
「どうした。書けよ」
妻はペンを握ったが、離婚届けを目の前にして、離婚が現実のものとなる事をようやく理解したのか、手が震えて書く事が出来無い。
「ここに居させて下さい」
それでも妻は謝らなかった。この家に居たいと土下座までする妻が、私を裏切って青山と関係を持った事は謝らない。
「ここにいたら奴隷と変わらないぞ。俺は千里に優しくは出来ない。
それでも良ければ、家政婦の代わりと俺の性欲処理をするだけの女としておいてやる。
ただし それも暫らくの間だけだから、その間に身の振り方を考えろ」
妻がすんなり離婚届に署名してしまわないかと不安だった。
しかし、妻は、それでも良いから ここに居たいと言って離婚届には署名しなかったので、私は怪訝そうな顔をしながらも内心安堵していた。
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「やはり離婚は・・・・・娘も受験なもので・・・・」
「そうですか。こればかりは強制出来ませんから。あの時は私も興奮してしまって、すみませんでした」
請求金額は かなり下がったが、所長の知り合いの行政書士に頼んで、内容証明郵便で青山と今中に交際禁止と共に慰謝料を請求した。
すると、二日後には、今中本人から謝罪の電話が掛かり、このような事は早く処理したいとばかりに全て認めて、翌日には多い目に書いた請求額の満額を振り込んできたが、青山からは何の連絡もない。
「今中から100万も振り込んできたぞ。千里は余程いい仕事をしたのだな。いくら金持ちでも一晩で100万なんて、いったいどのように喜ばせたんだ?」
私は妻を詰り、妻が泣くのを待ったが妻は泣かない。
私が朝帰りをした日、朝まで泣いて涙が枯れたのか、その後は どのように詰っても、悲しそうな顔はしても泣く事はない。
人一倍涙もろくて泣き虫の妻が、泣かないように唇を噛んで堪える。しかし、それが私には面白くない。
「今中は すぐに払ってきたと言うのに、青山はどうなっているんだ?一度 電話して聞いてみろ」
妻がそのような事を言えるはずが無かった。不法行為をした仲間なので、美人局でも無い限り聞けるはずがない。
それが分かっていたから、逆に私は妻に言わせようとした。
「早くしろよ!早く振り込めと千里が催促しろ!」
正座している妻の肩を足で蹴り、倒れた妻の髪を掴んで頭を揺する。
私も受話器に耳を近付け、チラシの裏に書いた妻の台詞を妻に言わせる。
「千里か?旦那はどうしている?早く離婚して出て来い」
「主人への慰謝料は いつ振り込んでくれるのですか?」
「何を言っている!そんなものは、破綻した後の事だから払う義務は無いと言って、無視すればいいと言っただろ」
「お金が無いのですか?」
「金などいくらでも有る。俺を誰だと思っているんだ!・・・・・・・おかしいぞ。近くに旦那がいるのか?」
流石に妻の台詞が棒読みでは気付いたようだ。
「俺だが、慰謝料は いつ払う気だ。今中は振り込んできたぞ」
「人助けをして、どうして慰謝料を払わなければならない。それに離婚もしていないのに、500万なんて法外な金額を請求しやがって」
「金がないなら、正直にそう言えよ。今中は一回だけなのに100万振り込んできた。それが一ヶ月以上楽しんだお前が500万でガタガタ言うとは、人間落ちぶれたくないな」
「誰が落ちぶれた!500万なんて屁でもない。ただ不当な請求には答えられないだけだ」
「じゃあ調停を申し立てるから、その後 裁判で決めよう。
裁判になれば500万なんて金額はとれない事は分かっている。
でも裁判に なれば弁護士もいるだろ。
俺は金なんかマイナスになっても構わない。
とことん戦ってやる。弁護士料に慰謝料。
せいぜい頑張って働いて下さい。社長さん」
勢いよく受話器を置くと、10分後に青山から掛かってきた。
「裁判なんかにしたら、弁護士を儲けさせるだけでお互いに損だ。ここは示談にしようじゃないか」
「しようじゃないか?勘違いしていないか?俺は金なんかどうでもいい」
「いや・・・・示談でお願い出来ませんか」
青山の提示してきた金額は、今中と同じ100万だった。
「話にならん。じゃあ・・・」
「待て。150万でどうだ?」
「だから、今中が100万払ってきたと言っただろ」
当然、青山には、私を慰謝しようという気など無い。ただ裁判との損得を計算しているのだ。どちらが要らぬ労力を使わず、安く上がるのかだけを考えているのだ。
結局、それ以上だと裁判の方が得だと思ったのか、電話では決まらずに翌日、青山と会うことになった。
「申し訳なかった。200万払いますから、これで気を静めてもらえないだろうか」
何があったのか、今までと違って青山は終始下手に出る。
心から詫びているはずはないので返事を渋ると、以外にも すぐに金額を引き上げてきた。
「つい面子を気にして意地を張ってしまったが、本当は悪い事をしたと反省している。
ご主人のお怒りも最もだから、300万払わせてもらう。
>>次のページへ続く
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