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水遣り
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玄関に向かい外に出ます。
『今日は家に帰れない。妻の顔を見る事が出来ない』
自分が悪い事をした訳ではありません。しかし、妻に何を喋って良いのか解りません。
今更、戻って問い詰める訳にもいきません。問い詰めるのなら、見た時その現場でです。
自分にも黙って帰ってきた負い目がありました。
妻の気持ちも考えてしまいました。
優柔不断な自分が嫌になってしまいます。
これが妻と男が絡んでいたのなら、その場で飛び込み男をけり倒していたでしょう。
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何処をどう歩いたか覚えていません。
結局、向かった先は駅前のビジネスホテルです。
気力も何もありません。軽くシャワーを浴び、ベッドに寝転びます。
時間の早いせいもあるでしょうが眠れません。頭の中は真っ白です、何もありません。
浮かんでくるのは先ほどの妻の裸体、痴態ばかりです。
精液を舐めた妻。それもいつの物かは、知りませんが男から渡されたものに違いないものを皿から犬のように舐めた妻。
電話で男に指示され、女陰をクリトリスを男の精液塗れの指で擦り回した妻。
逝かせて下さい、舐めさせて下さいと男に懇願した妻。
あれは本当に私の妻だったのだろうか。もう一度帰って確認したい衝動に駆られます。
私と妻の20数年は何だったのだろう。ここ2,3ヶ月で妻のこの変貌振りは何なのだろう。
犬にも劣る妻の行為を見てしまった。何故、そこまで妻は落ちてしまったのか?
先程見た妻の痴態が振り払っても振り払っても出てきます。男との絡みを見た方がまだ楽だったかも知れません。自然と涙が出てきます。
どれ程泣いたでしょうか。我に返ると床に涙の水溜りが出来ていました。
これだけ変わった妻は もう私のもとへは、帰って来ないかも知れない。
否、これ程の痴態を見てしまった私は、例え妻が戻ってきても許す事ができるでしょうか。
どうしてもっと早く気がつかなかったのだろう。暫く終わってしまった事を悔やんでいました。
考えて居るうちに、嘆きが怒りに変わります。妻をこんな風にした男が憎い。
妻を憎むより、男に反撃しよう。怒りの矛先は先ず男に向けるべきなのです。
今は顔の無い男です。顔がない事には反撃のしようがありません。
誰だろうヒントを掴もうと考えます。
椅子に座り直します。
フロントにビール、ウィスキーと少々の摘みを注文します。
うじうじしても始まりません。考える環境を整えます。
『確か、トシオとか呼んでいたな』
トシオ、私は記憶を辿ります
私の仕事関係、交友関係の名前を思い浮かべます。名前まで覚えている人は僅かです。トシオと言う名前は浮かんできません。
『ふっ、まあ俺の関係でいる訳はないよな、そんな馬鹿な男は』
私は常にバッグの中に名刺ホルダーを持ち歩いています。仕事関係と交友関係に分けてあります。
交友関係と言っても、ただ一度しか会った事の無い人も含まれています。
無駄だと思いながらも一応見てみることにします。
あいうえを順に整理してあります。その名刺は直ぐ出てきます。
佐伯俊夫、妻が勤める会社の食品部部長、肩書きは常務。
妻に紹介され名刺交換した覚えがあります。
佐伯なら妻と接点が多い、しかも妻は彼のお陰で正社員になれたと思っています。佐伯なら妻の出張を自在に出来ます。
今、思えば妻は必ず夜10時にトイレにたっていました。佐伯との痴話なのでしょう。
例え私にばれても、仕事の連絡だと逃げる事が出来ます。
『佐伯か。こいつだな、間違いない』
私は部屋に備えつきのパソコンに向かいます。市内の興信所を検索する為です。
ウェブを見ても何処が良いのか解りません。トップページに”浮気の本質を見つめましょう”と言うような事を掲げている業者がいました。他所とは違うものを感じ、此処にきめます。
--------------------
朝一番でその興信所に飛び込みます。
「いらっしゃい、どうしました、鬼のような形相をしてますよ」
60半ばの温和な紳士が私を迎えてくれます。余程、酷い顔をしていたのでしょう。
入った瞬間、選ぶ所を間違えたと思います。この人じゃ調査出来ない、そう思ったのです。
「どうして、うちに来ました?」
「どうしてって、そのー」
「これは聞き方が悪かった。どうして、うちを選んだのですか」
『そんな事聞いてどうするんだ、この親父は。市場調査じゃあるまいし』
私は もうこの場を立ち去って、次の業者に行きたかったのです。
一応答えます。
「いや、御社のホームページが他とは雰囲気が違っていました。浮気の本質がどうとか書かれていたものですから」
「うちは御社と言われるほど立派ではないですよ。面白い方だ」
「面白いって?」
「これは失礼。普通誰もこんな時に浮気の本質なんて言葉に目もくれないものです」
「じゃあ、どうしてあんな言葉を?」
「大事な事だからです。妻の浮気は妻だけの責任だけで無いかも知れない」
「冗談じゃない。妻の浮気は私のせいじゃない」
「良く考えて下さい。貴方は他の女を抱きたいと思った事はありませんか?商売女や出会いの女ではないですよ。その時、貴方は女を抱きましたか、それとも」
「人生相談に来たのではない。失礼します」
踵を返し、ドアーへ向かいます。
その時、声が掛かるのです。
「貴方は まだ奥さんを愛していますね?」
その言葉が私を所長の方に振り向かせます。
興信所の良し悪しは私には解りません。どこに任せても結果は同じようなものかも知れません。
所長の人柄に商売以上のものを感じ、結局ここにお願いする事にします。
私の名刺を見て、妻の名前を聞いた時、一瞬表情が変わったような気がします。
妻の事、考えられる相手の男の事を話します。
相手の男が地元の名士でも所長は動じる風でもありません。
調査料金等聞いて この日は帰ります。
この興信所にお願いしたのは偶然でした。この偶然が信じられない程の更なる偶然を呼びます。まるで神が苦しんでいる私に与えた贈り物のように。
勿論、私はこの時点では気がついていません。
--------------------
まだ11時です。家に帰るには早すぎます。
映画で時間を潰します。見たかった映画ですが、スクリーンを目で追っているだけです。
映画館を出て1時半、まだ早い。取りあえず、妻に電話します。
「宮下です」
妻の声はいつもと変わりありません。
「僕だ。今、成田だ。2時間半くらいで家に着くと思う」
「お疲れ様でした。お待ちしています」
喫茶店で時間を潰します。
妻を見て平常心でいられるか、罵声を浴びせてしまうのでないか。考えてしまいます。調査の結果が出るまでは平静でいよう。
喫茶店を出て家へ向かいます。
『汚らわしい事をしてしまった』
皿に盛られた精液を、女陰を擦りながら犬のように舐めとった。
今、妻は恥じ入っています。自分を卑下しているのです。自分が今までしてきた事に気がつくのです。
『佐伯とはもう』
夫の電話で我に返ります。夫の声を聞くと申し訳ない思いで一杯になるのです。
昨日の行為で尚更、その思いは強くなります。
「ただいま」
「お帰りなさい。お疲れ様でした」
妻の顔は沈んでいるようです。しかし、いつも通りの受け答えに腹が立つのです。
『どうしてお前はそんな普通の態度でいられるんだ』
妻の髪を掴み引きずり回したい衝動に駆られます。押さえたものが顔に出たのでしょう。
「貴方、お疲れになったみたいですね?顔色が優れません」
妻の言葉にまた腹が立ちます。
>>次のページへ続く
「じゃあ、どうしてあんな言葉を?」
「大事な事だからです。妻の浮気は妻だけの責任だけで無いかも知れない」
「冗談じゃない。妻の浮気は私のせいじゃない」
「良く考えて下さい。貴方は他の女を抱きたいと思った事はありませんか?商売女や出会いの女ではないですよ。その時、貴方は女を抱きましたか、それとも」
「人生相談に来たのではない。失礼します」
踵を返し、ドアーへ向かいます。
その時、声が掛かるのです。
「貴方は まだ奥さんを愛していますね?」
その言葉が私を所長の方に振り向かせます。
興信所の良し悪しは私には解りません。どこに任せても結果は同じようなものかも知れません。
所長の人柄に商売以上のものを感じ、結局ここにお願いする事にします。
私の名刺を見て、妻の名前を聞いた時、一瞬表情が変わったような気がします。
妻の事、考えられる相手の男の事を話します。
相手の男が地元の名士でも所長は動じる風でもありません。
調査料金等聞いて この日は帰ります。
この興信所にお願いしたのは偶然でした。この偶然が信じられない程の更なる偶然を呼びます。まるで神が苦しんでいる私に与えた贈り物のように。
勿論、私はこの時点では気がついていません。
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まだ11時です。家に帰るには早すぎます。
映画で時間を潰します。見たかった映画ですが、スクリーンを目で追っているだけです。
映画館を出て1時半、まだ早い。取りあえず、妻に電話します。
「宮下です」
妻の声はいつもと変わりありません。
「僕だ。今、成田だ。2時間半くらいで家に着くと思う」
「お疲れ様でした。お待ちしています」
喫茶店で時間を潰します。
妻を見て平常心でいられるか、罵声を浴びせてしまうのでないか。考えてしまいます。調査の結果が出るまでは平静でいよう。
喫茶店を出て家へ向かいます。
『汚らわしい事をしてしまった』
皿に盛られた精液を、女陰を擦りながら犬のように舐めとった。
今、妻は恥じ入っています。自分を卑下しているのです。自分が今までしてきた事に気がつくのです。
『佐伯とはもう』
夫の電話で我に返ります。夫の声を聞くと申し訳ない思いで一杯になるのです。
昨日の行為で尚更、その思いは強くなります。
「ただいま」
「お帰りなさい。お疲れ様でした」
妻の顔は沈んでいるようです。しかし、いつも通りの受け答えに腹が立つのです。
『どうしてお前はそんな普通の態度でいられるんだ』
妻の髪を掴み引きずり回したい衝動に駆られます。押さえたものが顔に出たのでしょう。
「貴方、お疲れになったみたいですね?顔色が優れません」
妻の言葉にまた腹が立ちます。
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