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水遣り
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「これは失礼な事を言ってしまった。早速これから行動開始といきますか。これは簡単な調査になりそうだ、これだけ頻繁に会ってるとね」
こんな切り口で言われますと、何だか深刻な事を頼んでいる気がしないのです。かえって、所長に親近感を抱かせます。
「おっと失礼。また変な事を言ってしまった」
所長の目の前に現金を置きます。
「所長、これ調査費用です」
土曜日に言われた調査費用の3倍の金額です。家を建てる時の足しにと自分名義でも貯めています。
今はそれどころではありません。少しも惜しくはありません。
「こんな小さな興信所だ。山岡でいい。それにしても多すぎませんか?」
「いえ、浮気の調査だけではなく、佐伯の身辺調査も徹底的にお願いしたのです」
「ふむ」
「女関係とか、離婚の理由とか」
「どうしてだね?」
「佐伯は独身です」
「ばれても奥さんを佐伯の元へ行かせたく無い。そう言うことだね?」
所長はもう佐伯と断定した口ぶりです。
「そうです。それと佐伯を徹底的に叩きたい」
「奥さんとは離婚するのかね、それとも受け入れるのかな?」
「解りません。山岡さん、ここは人生相談所ですか」
「ご免、ご免。しかし、人によっては相談所にもなりうる」
『全く惚けた親父だ。何が人生相談所にもなりうるだ』
しかし、不思議な信頼感があります。
「あ、そうか身辺調査は無理ですね。ここにはスタッフが居ませんね」
「いやそんな事は無い。この業界にも横の繋がりがある。浮気調査の得意な所、身辺調査が得意な所。経済問題が得意な所。任せておきなさい」
所長に言われると妙に納得してしまいます。
「そう言うもんですか」
「金は先日言った金額でいい。後は実費精算だ。余ればお返しする」
「しかし、身辺調査を追加している」
結局、所長は持っていった額の1/3しか受け取りません。
「浮気調査は来週月曜日、身辺調査はもう少し掛かると思う」
所長の言葉を聞いて、興信所を後にします。
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会社でも妻の事が頭をよぎります。処理すべき仕事があるのが幸いです。仕事している間は忘れています。
夜、外食し、スイミングクラブに寄って11時頃、帰宅します。
「お帰りなさい。貴方、今日急に出張が決まってしまったの。明日、大阪で一泊、金曜日、金沢で一泊なの。行っていいてすか?」
「行っていいですかって、業務だろ。行くしかないじゃないか」
妻は今まで通り、宿泊するホテルも私に教えます。
『何が行っていいですかだ。勝手に行け』
私は心の中で毒づきます。
顔には出しません 私の心の中には二人に対する怒り、憎しみしかありません。湧いてくる他の気持ちをそれで押さえているのです。
妻と交わした言葉はそれだけです。風呂に入り寝ます。
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翌朝一番で、所長に電話して、妻の予定、宿泊先を伝えます。
今日は人と会う予定はありません。
昼前、松下さんに話しかけられます。
「社長」
「もう社長はいいよ。こんな小さな会社だ。君と僕しか居ない。宮下でいいよ」
興信所の所長と同じ事を言っています。
「でも私にとっては社長です。社長以外には呼べません」
「そうか、仕方ないか。それで?」
「お弁当作りすぎちゃったんです。良ければ半分食べて下さい」
「それは嬉しいね。勿論頂く」
松下さんが来てくれて3ヶ月余りです。こんな事は初めてです。
それは作りすぎたと言う量ではありません、完全に二人分です。
私がそうさせなかった事もありますが、妻の手弁当を食べた事はありません。
実に美味い弁当です。
「美味い」
「やったー。作り甲斐があったと言うものね」
「何だ。わざわざ作ってくれたのか?」
「ばれちゃいましたね」
良く気が付く女性です。食後にコーヒーを淹れてくれます。
「社長の奥さん奇麗な方ですね」
「そうか」
松下さんは妻に一度会っています。
入社して間もなくの頃、私の忘れものを妻が届けてくれた時に話をしています。
「奥さん、社長の事愛してらっしゃるんですね」
「・・・・・、おっ、もうこんな時間か、ちょっと出かけてくる。お弁当ご馳走さま」
私は返事が出来ません。返事の変わりに用事も無いのに出掛ける事にします。
金曜日も、もう退社時間近くになります。
この一週間は酷かった。
妻が家に居る時は、妻の姿が目に入りません、いや見れなかったのです。
妻が出張で居ない火曜日の夜、妻は そこかしこに居ます。
打ち消しても打ち消しても、妻と佐伯が絡んだ姿態が目に浮かびます。
佐伯の男根を咥えている妻、佐伯に尻を掴まれ後ろから貫かれている妻、
互いの性器を舐め合っている妻と佐伯、
佐伯の背中にに腕を回し爪を立てている妻
家で一人で居ますと妻と佐伯がいたる所に出てきます。
打ち消すには酒しかありません。浴びるように飲み、気絶するようにベッドに倒れこみます。
今日の夜はもう、そう言う思いをしたくありません。
5時、私は松下さんを誘います。
「松下さん、用事が無ければ晩飯一緒にどうだ。僕も一人でつまらない」
「うわっ、嬉しい。連れてって下さい」
松下さんが焼き鳥を食べたいと言う事で、焼き鳥屋に行きます。接待で時々使う店です。
隣の席とは衝立で区切られていて、焼き鳥屋独特の喧噪さは感じません。
「社長に晩御飯をご馳走になるのは初めてですね」
「弁当のお礼と言っては何だが、たまにはと思ってね」
「お弁当のお返しで晩御飯をご馳走して頂けるのでしたら、これから毎日持って来ます」
松下さんと話してると気持ちが和むのが解ります。
酒が進むにれ、食が進むにつれ心が軽くなるのが解ります。
松下さんの口も軽くなります。
「社長、言っていいですか?」
「何でも」
>>次のページへ続く
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