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水遣り
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「ご覧の通りです。
月曜日 二人はラブホテルで何をしたか歴然です。
まさか仕事の打ち合わせでは無いでしょう。
火曜日のシティーホテル、金曜日の旅館の中での事は解りません。
しかし佐伯も馬鹿ですな、わざわざ北新地のラブホテルまで出向いている。いい証拠をくれた」
何と二人は火曜日まで待てず、月曜日にも関係をもっているのです。
私は所長の話を聞いていません。数枚の写真が私を打ちのめします。
北新地のラブホテルから二人が出てくる写真。
妻は佐伯の左腕に両手を絡め全身を預けるようにぶら下っています。
その頭は佐伯の左肩に預けています。顔に至福の表情を浮かべて。
預けているのは体だけではありません、心までも預けているのです。
ひかり、しらさぎの車中の写真。
妻の手から妻の箸から食べる佐伯、一つのコップで二人で飲むお茶。
妻はもう私の妻ではありません、佐伯の妻のようです。
私の顔が余りにも深刻だったのでしょう。
「宮下さん、お気の毒です。女は皆、こんな顔をします。喜びをくれた男には、夫にでも そうではなくても。
ただ他の写真も見て下さい。奥さんを観察していても、沈んでいた時の方が多い気がしました」
「・・・・・」
「今日帰りに一杯どうですか?」
私に否やはありません。このまま家には帰れません。
--------------------
居酒屋の暖簾をくぐります。
「宮下さん、今日帰って報告書を奥さんに見せますか?」
「勿論です」
「少し待ってもらえませんか?」
「出来ません。しかし、どうして?」
「今まで話せなかったが、実は以前から佐伯の身辺調査をしています」
「・・・・・」
「身辺調査は水曜日の午前中に一件終わり、それで完了です」
「それが私に何の関係が?」
「佐伯の全貌が解ります。宮下さんにとっても重要な事です」
「しかし・・・」
「経済問題も含め 全て宮下さんにお見せします。これは依頼元からも了承を得てあります」
「経済問題?依頼元?」
「今は詳しく言えませんが他から依頼が先発していました」
「そうすると身辺調査も そこからですね」
「そうです」
「何処の依頼ですか?」
「今は話せません」
「そうですか。水曜日まで待たなくてはいけない訳ですね」
「申し訳ないが、そうしてくれれば助かります」
「仕方無いですね、そうします」
今日は妻に言えない。後2日我慢しなければいけない、その思いとは別にまだ言わなくてもいいと、ほっとしたのも事実です。
後2日待てば、より強力な武器が手に入るのです。我慢する事にします。
「その代わりと言っては何だが、佐伯の別れた奥さんに君の事を話した。何時でも会ってくれるそうです」
普通の興信所の親父では無いとは思っていましたが、どうして そこまで手が届くのか不思議です。
「何を怪訝な顔してる。人生相談所にもなり得ると言ったがな」
私も別れた奥さんに会いたい、会って離婚の原因を知りたい、そうは思っていました。
帰りがけ、別れた奥さん旧姓 中条佳子さんの住所と電話のメモを渡されます。
「宮下さん、余り考えないほうがいい。体に毒だ」
--------------------
家に帰ります。
「お帰りなさい。食事は?」
「済ませた」
仕事部屋に入り、報告書を見ます。
殆どの事は先程、所長から聞いたものです。
写真を眺めています。
一つの事に気が付きます。
ホテルに入る時と出る時の妻の表情の違いです。
入る時のそれは曇っているように見えます。
出る時は佐伯に任せきった顔です。
違和感があります。
思い出しました。
妻が出張するようになり、暫くしてから時折見せる顔です。
ソファーに座っている時、あるいは台所仕事をしている時手を休め物思いに沈んでいる時があります。
そんな時、私がが声を掛けても ”疲れているの、何でもないわ。”と返ってくるだけだったのです。
あの時もっと突っ込んで聞けば良かった、そうすれば此処までにはなっていなかった。
しかし、もう遅いのです。
--------------------
火曜日の夜、明日大阪へ一泊の出張である事を知らされます。
これ以上もう耐えられそうもありません。
翌朝一番で興信所に行きます。
「山岡さん、もう無理です」
「どうしました」
「今日、妻が又大阪に出張です。明日まで耐えられない」
「佐伯の別件は午前中に片がつく、それ以降なら大丈夫だ」
一旦、事務所に戻ります。
「松下さん、今日は休む。携帯にも電話しないで欲しい」
「何かあったのですか?」
「いや、私用だ」
大阪に向かいます。
新幹線の車中、どうしたものか考えます。
泊まるホテルは解っています。ホテルに聞いても妻のルームナンバーを教えてくれる訳はありません。
佐伯が妻の部屋に居るとも限りません。
妻に携帯で聞けば教えてくれるでしょう。しかし、それでは、妻は警戒し事を起こさないでしょう。
『浮気の現場を押さえる為に来たわけじゃないよな。洋子の部屋へ行けばいい』
妻の携帯にコールします。妻の出張中に電話した事はありません、心臓の鼓動が早くなるのが解ります。
数回のコールの後、”電源が切られているか、電波の届かない所に居ます”の案内が空しく響きます。
>>次のページへ続く
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家に帰ります。
「お帰りなさい。食事は?」
「済ませた」
仕事部屋に入り、報告書を見ます。
殆どの事は先程、所長から聞いたものです。
写真を眺めています。
一つの事に気が付きます。
ホテルに入る時と出る時の妻の表情の違いです。
入る時のそれは曇っているように見えます。
出る時は佐伯に任せきった顔です。
違和感があります。
思い出しました。
妻が出張するようになり、暫くしてから時折見せる顔です。
ソファーに座っている時、あるいは台所仕事をしている時手を休め物思いに沈んでいる時があります。
そんな時、私がが声を掛けても ”疲れているの、何でもないわ。”と返ってくるだけだったのです。
あの時もっと突っ込んで聞けば良かった、そうすれば此処までにはなっていなかった。
しかし、もう遅いのです。
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火曜日の夜、明日大阪へ一泊の出張である事を知らされます。
これ以上もう耐えられそうもありません。
翌朝一番で興信所に行きます。
「山岡さん、もう無理です」
「どうしました」
「今日、妻が又大阪に出張です。明日まで耐えられない」
「佐伯の別件は午前中に片がつく、それ以降なら大丈夫だ」
一旦、事務所に戻ります。
「松下さん、今日は休む。携帯にも電話しないで欲しい」
「何かあったのですか?」
「いや、私用だ」
大阪に向かいます。
新幹線の車中、どうしたものか考えます。
泊まるホテルは解っています。ホテルに聞いても妻のルームナンバーを教えてくれる訳はありません。
佐伯が妻の部屋に居るとも限りません。
妻に携帯で聞けば教えてくれるでしょう。しかし、それでは、妻は警戒し事を起こさないでしょう。
『浮気の現場を押さえる為に来たわけじゃないよな。洋子の部屋へ行けばいい』
妻の携帯にコールします。妻の出張中に電話した事はありません、心臓の鼓動が早くなるのが解ります。
数回のコールの後、”電源が切られているか、電波の届かない所に居ます”の案内が空しく響きます。
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