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戦い
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駅までは近く、普段タクシーを利用する事は有りません。

私は、慌てて喫茶店を出るとタクシーを拾いました。

妻の乗ったタクシーは、もう見えませんが、行き先は想像が付きます。


タクシーを降りてアパートに入ろうとした時、もう1台タクシーが着いたので、野田だと思った私は、急いで2階の踊り場に駆け上がり、身を隠しました。

ドアが開いて、閉まる音がしたので、野田の部屋に行こうとすると、足音が近付いて来ます。

2階から外を見ていると、野田が不機嫌そうな顔で、携帯で何やら話しながら、自分の車に乗り込むと出て行ってしまいました。

訳が分からない私は、部屋まで行くとチャイムを鳴らしてドアに耳を当てましたが、人の気配は有りません。


タクシーで我が家に急ぐと、家の前に野田の車が止まっていましたが、すでに野田の姿は無く、妻が我が家に野田を入れたかと思うと、怒りが込み上げて来ます。

少し通り過ぎた所で降り、どちらが嘘をついているのか確かめる為に怒りを静め、静かにドアを開けようとすると、どちらが閉めたのか鍵が掛かっていました。

合鍵で開けて入ったのですが、少し音をたててしまい、気付かれたかと思いましたが、中に入ると、客間の方で2人の言い争う声が聞こえました。

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5月28日(金)の2

私は、忍び足で客間のドアの前まで行き、聞き耳を立てていると。

「だから、どうしてアパートに来てくれなかったかと訊いているだろ。」


「もう許してください。もう嫌なんです。帰って下さい。」


「許して?それでは、私が脅している様に聞こえるじゃないか。

確かに最初は脅す様な形になってしまった。

そうでもしないと会ってくれないと思った。

しかし、それからは違うだろ?」
「いいえ。ずっと脅されて・・・・・・。」


「本当にそう思っていたのか?俺は遊びのつもりだった。

最初の日を覚えているか?口では嫌がっていたが、今迄に見た事も無い様な乱れ方だった。

美鈴は何回も達してしまい、私も2回出してしまったので、もう終わりにしようと思ったが、美鈴は

“もっとして。もっと頂戴。欲しい、これが欲しいの。お願い、入れて。入れて下さい。”

と言って私のを咥えて来た。何とか硬くしようと必死に口を使っていた。」


「・・・・・・私・・・・・・そんな事は・・・・・・・・。」


「覚えてないのか?その時 私は思った。

美鈴は“主人が有りながら、他の男に犯されている。嫌なのに無理やりされている”と思う事で、余計に感じているのだと。

だから私はゲームのつもりで、その役になり切った。美鈴も分かってくれていると思っていた。」


「違います。私は脅されて・・・・・・・。」


「本当にそうか?嫌がるのは最初だけで、自分から私の物を触ってきた事も有っただろ?

私が何も言っていないのに、後からされるのが好きな美鈴は、自分から四つん這いになった事も有っただろ?

それも覚えていないか?」


「私・・・・・そんな事は・・・・・して・・・・・・。」


「私は、最初から、写真なんて他の者に見せる気は無かった。美鈴に嫌われる様な事をするはずが無い。

真面目な美鈴は、その方が私の所に来易いと思った。

“行きたくないのに、脅されているから仕方なく行くんだ”と自分に言い訳が有った方が来易いと思った。

何より、その方が より感じている様子だったし。本当に脅すつもりなら、写真を処分なんかしない。

本当にもう1枚も持っていない。」


「だって、今日。」


「今日?今日は大事な話が有るから、アパートに来て欲しいと言っただけだ。写真なんて一言も言っていない。

会社の窓から見ていて、タクシーに乗ってくれたので、来てくれていると思っていたが、帰っても居なかったので、少し興奮してしまった。

でもタクシーに乗ったところを見ると、本当は迷っていたのだろ?」


「・・・・・・・・・・・。もう帰って下さい。ここには来ないで。早く帰って、帰って。帰って。・・・・・・いやー、離して。離して。」


おそらく、野田が妻に抱きついたか何かしたのでしょう。

私は、飛び込んで行きたい気持ちを我慢しました。


「美鈴、落着け。私の話を聞いてくれ。別れた妻が再婚する。」


「えっ。」


妻は、知らなかった様で、それを聞き、抵抗を止めたのか静かになりました。


「あいつが再婚する事になった。それも相手は以前不倫していた先生だ。

私は何もかも嫌になり、2人共殺してしまいたいと思った。

しかし出来なかった。何故だか分かるか?

私は はっきりと気が付いたからだ。

別れた妻に有るのは 未練だけで、本当に愛しているのは美鈴だけだと、気が付いたからだ。」


「そんな・・・・・・・一方的に・・・・・・・・・・。」

「みんなには黙っていたが、来月の初め海外に転勤する。

部長待遇にはなるが、小さな支店で、ほとんど左遷と同じだ。

今海外に飛ばされると、また転勤が有っても たぶん海外で、もう定年まで帰れないかも知れない。

会社も勝手な物で、私が独身になったから、遠い所にでも自由に移動させやすくなったのだろう。

先月の初めに打診が有り、別れた妻に その事を言いに行こうとした時、再婚する事を知った。」


私は、ただ言いに行ったのではなく、向こうで もう一度やり直す為に、一緒に行ってくれる様に、頼みに行ったのだと思いました。

野田はずっと、復縁を持ち掛ける機会を伺っていたのでしょう。

良い切欠が出来、今日こそ 言おうと張り切って出かけた。しかし、その時、楽しそうに食事をしている所を見てしまった。

野田にすれば天国から地獄だったでしょう。野田の悔しさは、私の想像以上で有った事を知りました。


「でも良かった。再婚話のお蔭で、自分の本当の気持ちに気付いた。

私は、どうしても美鈴と一緒に行きたくなったが、こればかりは1人で決められない。

それで美鈴を試してみたくなった。

美鈴が私の事を、どの様に思っているのか知りたかった。

美鈴と何回か会い、身体を重ねていて

“美鈴は付いて来てくれる。私からは離れる事は出来ない”

と確信し、一緒に来てくれと、いつ切り出そうか考えていた時、旦那に分かってしまった。

それでも 私は美鈴を信じていたが、私がずっと脅して関係を持っていたと聞かされた時、私とはセックスだけの関係で、本当に愛しているのは旦那だと思って諦めた。」


「勝手な事ばかり言わないで。私は脅されて・・・・・・・。」


「本当にそうか?そう言い切れるか?自分でそう思いたいだけでは無いのか?私はそんな女では無いと、自分に言い聞かせているだけでは無いのか?」


私は、妻が、野田の言う通りだったのでは無いのかと思いました。

自分では気付かなくても、気付きたく無くても、何処かに引け目が有り、訴えるとかいう、強い態度に出られなかったのでしょう。

もしも、その通りだとすると、2人共が私を騙していた事になります。


「一度は諦めたが、よく考えたら、美鈴は、以前の私と同じでは無いかと思えてきた。

旦那には未練が有るだけで、それを愛と勘違いしていないか?

本当に私と、もう会えなくなってもいいのか?今の生活を守りたいだけだろ?このまま旦那に責められながら、一生を終わってもいいのか?

そういう人生でいいのか?もう子供も大きくなった。これからは美鈴自身の事を考えてもいいのではないのか?」


妻の声は聞こえません。

私は心の中で

“どうして黙っている。違うとはっきり言ってやれ。脅されていただけで、お前は嫌いだと言ってやれ。”

と何回も叫んでいました。


「もう一度よく考えてくれ。確かに私と美鈴は、旦那に対して取り返しの付かない事をした。

だからと言って、一生責められるだけの人生でいいのか?

まだ人生、半分有るのだぞ。何もかも忘れて、私と向こうで楽しく暮らそう。

別れた妻や子供達の為に、ほとんどを渡してしまったから、財産と呼べる様な物は無いが、持っている物全て、旦那に慰謝料として渡す。

美鈴も全て置いて出て来い。向こうで1からやり直そう。」


私は固唾を飲んで、妻の返事を待ちました。

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5月18日(金)の3

妻の身体だけが私を裏切ったのか、気持ちまで裏切っていたのか知りたくて、耳に全身系を集中させていました。



>>次のページへ続く
 
 


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