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突然の海外赴任
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しかし、私は このままでは駄目だと思い、男性のお客さんとも接する事が多い、銀行員を希望して就職したのですが、
働き出して半年を過ぎた頃に 姉が結婚をして、義理の兄が私達の所に転がり込む形で3人での生活が始まってしまい、
私はその義兄の私を見る目がどこか怖くて、慣れない仕事と家庭の両方が辛く、気の休まる場所は何処にも有りませんでした。
私は義兄と、決して2人だけにはならない様に気を付けていたのですが、
ある時 姉が私には何も言わずに買物に行き、義兄は鍵も掛けずに油断していた私の部屋に入って来て、私をベッドに押し倒しまいた。
幸い姉が忘れ物をして帰ってきた為に、事無を得ましたが、
その後、姉がとった行動は、義兄には怒らずに、私から誘ったと言う義兄の話だけを信じて、その話になる度に私を叩き、私を罵倒する事でした。
私は耐えられなくなって家を飛び出し、向かった先が彼のアパートです。」
妻は、姉が嫌いだと言って 全く付き合いが無かったので、それを不思議には思っていても、まさかその様な事が有ったとは考えた事も有りませんでした。
妻が辛い人生を送って来た事を知り、思わず抱きしめたくなりましたが出来ません。
何故なら、妻が向かった先は稲垣の所なのです。
妻の話に引き込まれていた私も、今の支店長という言葉で、妻に裏切られた現実に戻ってしまい、とても抱き締める事は出来ませんでした。
私が何も言わなくても、まるで他人事でも話しているかのように、淡々と話し続ける妻の話によると、
稲垣は、妻が仕事で分からない事が有ったりした時に、優しく教えてくれる頼りになる先輩で、
当時の支店長は 女性にも厳しく、ミスなどが有ると顔を真っ赤にして怒鳴ったそうですが、
ただでも男性に恐怖心をもっていた妻が泣きそうになっていると、稲垣は必ず助け舟を出してくれ、後で優しく慰めてくれたそうです。
妻は、稲垣だけは他の男とは違うと思い始め、やがて全幅の信頼を置く様に成っていたので、自然と足は稲垣のアパートに向かったのです。
何処にも行く所の無い妻は、その夜 稲垣のアパートに泊めてもらい、次の日からアパートが見つかるまでの一週間は、当時稲垣と婚約していた今の奥さんの所で世話になったそうです。
「その時、稲垣とキスをしたのか?婚約者がいながら、あいつは おまえに迫ったのか?おまえも その様な事をしておきながら、よく奥さんの世話になれたものだな。」
「違います。そんな嫌らしいキスでは有りません。
多少奥様には悪い気もしましたが、罪悪感を持ってしまうと私達の関係が、その様な関係だという事になってしまう。
上手く説明出来ませんが、その様な感情は お互いに無かったです。
父のようで父とも違う、兄のようで兄とも違う、やはり上手く説明出来ません。
ただ、恋愛感情は無かったです。」
満員電車で男と肌が触れてしまうのも嫌だった妻が、稲垣にベッドで抱き締められた時、不思議と男に対する嫌悪感は無く、逆に何故か安心感を強く感じたと言います。
抱き締めながら、
「ごめん。でも決して嫌らしい意味でしているのでは無い。ただ君を守りたくなってしまう。大事な妹の様な感覚で、抱き締めたくなってしまった。」
と言いながらキスをして来たそうですが、ただ上手い事を言っているだけで、本当は その気だったのでは無いかと思ってしまいます。
私には、婚約者の事や銀行の事を考えてしまい、その先に進む勇気が無かっただけだと思えるのですが。
妻は稲垣に対して良い印象、良い思い出だけを持ったまま、また同じ支店勤務となってしまいます。
「あなたと結婚してから、偶然 また一緒の支店になった時期、私は不妊に悩んでいて、その悩みも聞いてもらい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。他にも色んな相談に乗ってもらったりしました。」
妻が途中押し黙ってしまった事が少し気になり、
「どうして途中で黙ってしまった?その時も何か有ったのか?」
すると、今までとは違って妻の瞳に光が戻り、強い口調で、
「何も有りません。当時の事を思い出していただけです。周りの人から、会えば挨拶の様に子供は、まだかと言われ、辛かった時の事を思い出してしまっただけです。」
その時の事を言われると、私は何も言えなくなってしまいます。
若さのせいには出来ませんが、当時 気持ちに余裕も無く、この事で妻とは よく言い争いもしました。
私自身、友人や同僚に種無しの様な言い方をされたり、無神経な奴には、セックスが下手だからだとまで言われ、私も辛いのだと言って、妻への思い遣りが足りなかったと反省しています。
当時の事を思い出したからなのか、妻は正気に戻ってしまい、
「本当なら離婚されても仕方が無いです。それだけの事をしてしまいました。
愛しているのに、大事なあなたを裏切ってしまいました。私からは何も言えない立場だと分かっています。
でも離婚だけは許して下さい。あなたと別れるのは嫌です。」
「上手い事を言って、本当はその逆だろ?自分の歩が悪いままで離婚をしたく無いだけだろ?」
「違います。それだけは信じて。今でもあなたを愛している事だけは信じて。」
私だって信じたいのです。しかし、信じる事が出来ない事をしたのは妻なのです。
「離婚する事に成ったとしても、このままでは気が収まらない。全てを知らないと、一生 俺は立ち直れない気がする。全て聞かせてくれ。」
「はい、必ず話します。話せるようになったら必ず話しますからり、今日はもう許して下さい。」
そう言うと、妻は走って寝室に行ってしまったので後を追うと、妻はベッドにうつ伏せになって泣いていました。
娘の所に行ってから、何処か様子がおかしい事が気になっていた私は、
「どうした?実家で何か有ったのか?」
妻は、すぐには答えずに、暫らく声を出して激しく泣いてから、
「理香に会いたくて行きました。暫らく会えないと言ったら、理香は泣いて愚図るかも知れないと思い、その時の言い訳まで考えながら行きました。それなのに理香は・・・・・・・・。」
「理香がどうした?何が有った?」
「理香は『いいよ。』と一言だけ言って、笑いながらお義父さんの所に走って行ってしまいました。
いったい私は、何をしていたのだろう?理香は もう私を必要とはしていない。母親を必要とはしていない。
理香が生まれた時、この子さえいれば もう何もいらないと思ったのに、この子だけは、私の様な辛い思いは絶対にさせないと思っていたのに、結局辛い思いをさせてしまう。
でもこれは全て私がしてしまった事。私はとんでもない事をしてしまった。私は今迄、何をしていたのだろう?」
妻は、多少は罪悪感に目覚めたのだと思いましたが、それは娘に対してだけで、私に対しての罪悪感が本当に有るのかどうか、未だに信じきれていない私の怒りは収まっておらず、苦しむ妻に追い討ちを掛ける様に、
「今頃気付いても遅い。おまえは父親を憎んでいるが、同じ事をしたのだぞ。
暴力ではないが、それ以上に俺は傷付いた。
理香もこの事を知れば、一生おまえを怨むぐらい傷付くだろう。
母親に対してもそうだ。色々言っていたが、おまえに言える資格など無い。
おまえの母親は色んな男と付き合ったそうだが、離婚していたから独身だったのだろ?
それに引き換え、おまえは夫が有りながら、他の男に跨って腰を振っていたのだろ?
おまえの両親の事を悪く言いたくは無いが、人を傷つける事が平気な父親と、例え寂しかったとは言っても相手も選ばずに、オチ○チンさえ付いていれば、誰にでも跨って腰を触れる母親。
おまえのしていた事は両親と同じだ。
いや、それ以下だ。」
ここまで酷く言いたくは無かったのですが、話している内に自分で自分を抑える事が出来なくなってしまいます。自分の言葉に反応しては、段々とエスカレートして行ってしまいます。
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妻は、その後一言も話す事無く、泣き疲れて眠ってしまいました。
翌朝 目覚めると、妻は朝食の仕度をしていて、味噌汁の良い香りがして来ます。
日本に帰って来てからはホテルの食事以外、店屋物かコンビニの弁当しか食べていなかったので、久し振りの妻の手料理に一瞬喜びましたが、今の妻との関係を考えれば食べる気になれません。
「俺のはいらないぞ。おまえの汚れた手で作られた物など、口に入れる気になれない。そこのコンビニに行ってパンを買って来い。パンは1個でいいが牛乳も忘れるな。」
妻は、慌ててエプロンを外すと、財布を持って走って出て行きました。
「何だこのパンは?奴はこんなパンが好きなのか?俺の好みも忘れたのか?俺が好きなのは干しぶどうの入ったパンだ。」
別に何のパンでも良かったのですが、一言でも文句を言ってやらないと気が収まりません。
この様な事を続けていては駄目だと思いながらも、止める事が出来ないのです。
この様な事を続けていては、妻が狂ってしまうかも知れないという思いも有りましたが、私の方が既に、精神的におかしくなって来ているのかも知れません。
干しぶどうパンを買って、走って戻ってきた妻に、
「悪い、悪い。タバコを頼むのを忘れた。」
妻は、銘柄も聞かずにまた小走りで出て行くと、私が以前吸っていたタバコを覚えていたので、それを買って来たのですが、私は赴任中に向こうで軽いタバコに変えた為に、日本に帰って来てからも、以前とは違う銘柄の軽い物を吸っていました。
今の状態では、妻はそこまで気付く筈が無いと思っていても、私は嫌味ったらしく残り少ないタバコを持って来て、妻の目の前に置き、
「それも稲垣が吸っていた銘柄か?俺が今吸っているのはこれだ。見ていて知っていると思っていたが、俺の事などもう眼中に無いか?」
「ごめんなさい、気が付きませんでした。すぐに交換して来ます。」
「それでいい。おまえの好きな男と同じタバコを吸ってやる。」
「支店長はタバコを吸いません。」
流石の妻も私の嫌がらせに怒れて来たのか、少し語気を強めて言いました。
しかし私は、それがまた面白く有りません。
「そうか。タバコを吸わない男が おまえのお気に入りか。それは悪かったな。
今時タバコを吸う人間なんて最低だと言っていなかったか?
さすが40代で支店長になれる様なエリート様は、俺の様な人間とは違うな。
おまえが俺を裏切ってでも、一緒になりたい訳だ。」
「そんな事は思っていません。それに支店長と一緒になりたいなんて思っていないです。」
「どうかな?どうせ2人で俺を馬鹿にしていたのだろ?今時タバコを吸っている駄目人間と笑っていたのだろ?」
>>次のページへ続く
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